sideウォルクリス17
里帰りを終えて帰る頃。
王妃様の要望で、僕たちはエクランの街から更に東の辺境へ向かった。
「ウォルは東の辺境へ行くのは初めてかしら?」
「はい」
街道を進む馬車の窓から顔を出して、王妃様が問う。
クルールの背に乗って周囲を警戒しながら進む僕は、馬車の方に視線を向けて頷いた。
僕が見習い期間を過ごしたリシュ領は、ガリア王国北部の辺境。
今向かっている東部の辺境とは、かなり離れている。
僕の故郷の村も北部地域にあるから、東部地域に来るのは今回が初めてだ。
「なら、エストルヴに着いたら驚く筈よ」
王妃様はそう言って、悪戯っぽく微笑む。
それは公の場で見せる高貴な女性の微笑みではなく、家族に向ける親し気な笑顔だった。
エストルヴに何があるんだろう?
もしかして、父さんに関係することかな?
父さんがエクラン侯爵令嬢時代の王妃様に仕えていたことは、国王陛下が以前教えて下さった。
村では、父さんは辺境で騎士隊長を務めた人だと言われているけれど、王妃様の元護衛騎士だなんて誰も知らない。
◇◆◇◆◇
辺境の街エストルヴ。
様々な金属を産出する鉱山がある街。
リシュ領が食材の宝庫と言われるように、エストルヴは鉱石の宝庫と言われていた。
その街の門前には、大きな銅像があった。
僕は銅像を見て驚き、思わず二度見してしまったよ。
(……え?! 父さん?)
無造作にのびた髪を後ろで一つに束ね、切れ長の一重瞼をもつ双眸で遠くを見据える青年。
その銅像は、父さんにソックリだった。
見た目の年齢でいえば、兄さんの方が近いけれど。
長さが異なる二本の剣を持つ姿は、間違いなく父さんだと思う。
でもなんで銅像が立ってるの?!
「驚いた? シェルは、この街の英雄なのよ」
王妃様が、再び馬車の窓から話しかけてくる。
シェルというのは、父さんの愛称だ。
親しい者だけが呼ぶその名を、王妃様も呼んでいたんだね。
「台座にある石板に、彼の偉業が書いてあるから読んでみて」
王妃様に言われて、僕はクルールの背から降りて銅像に近づいてみた。
台座に嵌め込まれた石板には、こう書いてある。
極東の英雄カシェルパセ。
東部地域を拠点にしていた盗賊たちの天敵。
剣を振るえば疾風の如し。
たった一人で千の敵を斬る。
彼に壊滅させられた盗賊団は数知れず。
その偉業により、エクラン侯爵家に召し上げられた。
「エクランに来る途中にあった丸木小屋、あれは彼が壊滅させた盗賊団のアジトだったのよ」
王妃様が教えてくれた。
旅人たちの休憩所になっている小屋にいた盗賊たちは、父さんが捕まえたのか。
壊滅させたってことは、捕まった盗賊たちはボロボロになってたかもしれないね。
父さんは僕が思ってた以上に凄い人だった。
僕は父さんのように強い騎士になりたくて、三歳からずっと稽古をつけてもらってきたけれど。
まだ全然追い付けてないんだなって改めて思う。
もっと強くなれるように頑張ろう。




