ep170:護衛とは一体……
里帰り期間が終わりに近づく頃。
ヴィオレット様とリュンヌ様は、エクランの街へ遊びに出かけた。
「出かけるのはいいが、護衛をまく……ことは無さそうだな」
送り出す侯爵様が、苦笑して言う。
リュンヌ様は僕の左腕に手を添えて、エスコートされる気満々だ。
僕は彼女の専属護衛だから、それはアリなのかもしれない。
先輩騎士のイムパスさんは、無表情で後方にいる。
しかし、何故ヴィオレット様が右側に?
両手に花はいいけれど、利き手を塞がれてるよ。
護衛のエフォールさんとアバンドンさんも、無表情で後方にいる。
「あの、これじゃあ何かあったときに利き手が使えませんが……」
「問題ありませんわ。ウォルは魔法が使えますもの」
「ほら、これをポケットに入れておけばいいわ」
苦笑して言う僕に、右側を歩くヴィオレット様が涼しい顔で答える。
左側を歩くリュンヌ様が、庭園のアーチを飾る棘無し蔓薔薇を一輪手折り、僕の胸ポケットに挿した。
土系統の植物魔法が得意なことは、既に知れ渡っている。
キュリユーズ様を見つけたときにも植物を動かしてたからね。
しかし騎士なのに剣を使えないこの状況は、ちょっと落ち着かない。
でも、全然問題なかったよ。
むしろ、僕が魔法を使うまでもなかった。
「おうおう兄ちゃん二股かよ。そっちの銀髪美女を分けてくんねぇか」
街を歩いてたら、ガラの悪い男が絡んできたんだけど。
僕は相手を見ただけで何もしないうちに、厄介事は片付いてしまった。
エフォールさんとアバンドンさんも、剣の柄に手をかけただけで終わった。
「お断りしますわ」
「?!」
僕の代わりにヴィオレット様が言った直後、男の両足が凍る。
男はギョッとして自分の両足を見つめる。
「私、下品な男は好みではありませんの」
「ま、待ってくれ!」
「氷が融けるまで、しばらくそこで置物になってればよいですわ」
ヴィオレット様が、冷ややかな笑みを浮かべて言う。
男は青ざめて、引き留めようとする。
動けなくなった男をその場に残して、僕たちは歩き出した。
しばらく街を散策していると、今度はおかっぱ頭で変態っぽい目つきの男が近付いてくる。
男は血走った目をリュンヌ様に向けた。
「グフフ、お嬢ちゃん可愛いね。オジサンといいことしない?」
「あら大変、オークが街にいるわ」
「グギョッ!」
しかし、リュンヌ様は平然としている。
彼女が呟いた直後、男の脳天に光の玉が降ってくる。
男は感電したように奇声を発して白目を剥き、立ったまま気絶した。
僕の植物魔法、無くても平気だよね。
むしろ、剣もいらないよね。
護衛って何だろう。
邪魔者を自力で排除する姫君たちを見て、僕は苦笑するしかなかった。
背後を無言で歩く先輩たちも、同じことを思っていたかもしれない。




