ep160:チーズのびーるロールカツ
明日はいよいよ試験の日。
オッサンは日本式の験担ぎで前日メニューをカツにしてみた。
カツの中にはチーズを入れて、「勝つ・伸びる」という願いを込めた。
材料はサングリエ(猪)の肉、加熱するとよく伸びる「モザレラ」という種類のチーズ、バゲット、ファリーヌ・モル(薄力粉)、ウフ・ドゥ・プル(鶏卵)。
揚げ油にはユイル・ドゥ・トゥルヌソル(向日葵油)を使う。
肉は「コート・プルミエール」と呼ばれる第1から第5肋骨周辺の背肉。
適度にのっている脂に旨味があり、非常に柔らかく、トンカツに最適な部位だ。
猪はガリア王国で一番美味いといわれるリシュ領産を使う。
チーズはウォルクリスに強い母性愛を抱く乳牛たちの搾りたてミルクで作られた物。
実家にいたときに作り立てをマジックバッグに入れて保存している。
ミルキーな甘みのある味、モチモチした弾力、生食でも加熱しても美味い。
ヴァッシュの乳は絞る人間への母性愛の強さで品質が高まるので、実家の二頭に溺愛されるウォルクリスが絞ったミルクは最高級レベルの品になっている。
バゲットはリシュの街のパン屋で買った。
1本買ったらサービスだと言って3本もオマケしてくれたけど。
買った品物よりもオマケの方が多くなるのは、僕のいきつけの店ではよくあることだった。
薄力粉、鶏卵、向日葵油はウォルクリスの実家から分けてもらった自家製だ。
オッサンは試験前夜にカツを作る気でいたので、今日までマジックバッグに入れて保管していた。
作り方は、こんな感じ。
カッティングの魔法で薄切りにした肉の上にチーズを乗せて、クルクル巻く。
ロール状に巻いたら、薄力粉、とき卵、パン粉の順にまぶす。
中温(衣を少し落としたとき、底まで沈まずにすぐに浮き上がってくる温度)の油で五分ほど揚げる。
「外はサクサクで、中のチーズがトローッと伸びて、お肉も柔らかくて美味しいわ」
チーズ入りロールカツは、リュンヌ様の昼食に出したらお気に召して頂けた。
ロールカツは他にもバリエーションがあるから、今後もいろいろ作ってみよう。
◇◆◇◆◇
僕はチーズ入りロールカツのレシピを、ベルさんにも伝えに行った。
彼女には新たに何か作った際に、レシピを教えるようにしている。
ベルさんにはいろいろとお世話になってるし、リシュ領へ買い出しに行くときは領主様の執務室を通るから、新メニューの伝授は今後も続けるつもりだ。
「これ、ペリアの葉っぱも一緒に巻いたら、違った美味しさが楽しめるかも」
ベルさんがそう言って、葉っぱの束をくれた。
緑のものと紫のものがあり、見た目も香りも味も紫蘇によく似た葉っぱだ。
「この葉っぱ、どこで手に入れたんですか?」
「エルフの森に生えてるわよ」
エルフの森で採れる葉っぱが、ただの食材の筈がない。
僕は貰った葉っぱに鑑定スキルを使ってみた。
ペリアの葉。
緑の葉の品種と、紫の葉の品種がある。
夏から秋に採れるのが緑の葉、初夏に採れるのが紫の葉。
防腐作用や殺菌作用をもつ植物の葉。
紫の葉を煎じて飲ませれば、食中毒で死にかけた人間を回復させる効果もある。
ペリアは若芽、花穂、実も食用になる。
β-カロテン、ビタミンB群、ビタミンC、食物繊維や、カルシウム、鉄、カリウムなどのミネラルを多く含む植物。
臭覚神経を刺激して胃液の分泌を促し、食欲を増進させる。
健胃作用や強い殺菌作用により、食中毒の予防にも効果がある。
……やっぱり、ただの食材じゃなかった。




