ep128:安眠グッズ
「いっしゃい、ウォルくん。そちらの女の子が貴方のお姫様かしら?」
「こんにちは、エウェル様、彼女が僕の主となったリュンヌ様です」
妖精たちが舞う王宮の中、歓迎の花弁を浴びながら、僕は右手を胸に添えて一礼した。
僕の左側ににるリュンヌ様は、王族らしく洗練されたカーテシーを見せていた。
「彼女を連れて来たということは、今日の御用は彼女に関わることね」
「はい。エウェルさまが安眠グッズを作るのがお上手と聞いて、お願いに来ました」
エルフの女王エウェル様は、なんだか面白がっているようなまなざしで、僕たちを見つめる。
リュンヌ様は世界樹と一体化したお城に興味津々で、水色の瞳をきらきらさせている。
一方ベルさんは、死んだ魚のような目になっていた。
どうした、ベルさん?
ベルさんは見た目は若い娘だが、魚屋のおばちゃんよりも年上らしいから、リュンヌ様やマリーヌみたいな感情を抱くことは無い……と思う。
だから多分お怒りの理由は嫉妬などではない……筈。
しかしオッサンの勘は、ベルさんがウォルクリスを気に入っているらしいことを告げている。
弟か、息子か、まさか孫として可愛がってるなんてことはないだろうけど。
「どんな安眠グッズがいいかしら?」
「ウォルが隣に寝ているみたいな安心感があるものがいいです」
「それなら、ブレーガーン・ボグ(ぬいぐるみ)か、クアサン・バローガ(抱き枕)が良さそうね」
「ウォルに似せたぬいぐるみがあったら最高です」
エウェル様とリュンヌ様は、二人で話に盛り上がっている。
……周りの視線が微妙に僕に集まるんだが。
「では、ウォルくんの魔力を使って、ぬいぐるみを作りましょう」
「ありがとうございます!」
話が、少々問題ありそうな形にまとまってしまった。
ぬいぐるみはいいが、ウォルクリスに似せるのはちょっと……
クマとかウサギにしてくれないかな?
「ウォルくん、こっちにいらっしゃい」
「はい」
エウェル様に呼ばれて、僕は王座に歩み寄る。
リュンヌ様はその場に残り、期待に満ちた視線を送っていた。
「利き手で、この綿を握ってみて」
「はい」
言われるままに、片手に収まるほどの綿を握る。
綿は僕の魔力を吸って、緑と金の燐光を放ち始める。
エウェル様は何かに気づいたのか、その光を見てハッとした。
「……やっぱりね。この魔力なら、良い御守りにもなるわ」
何に気づいたのかは、分からない。
エウェル様は僕の魔力を吸った綿を受け取り、製造魔法を起動した。
光る繊維のようなものが、綿を包んでいく。
綿と繊維は膨らんで、ぬいぐるみの形を作り上げた。
「良い物ができたわ。彼女に渡してあげて」
ぬいぐるみは、ウォルクリスの容姿をデフォルメしたようなデザインになっている。
アニメのキャラクターのフェルト人形みたいに、可愛い見た目に仕上がっていた。
布地は肌に吸いつくようなモッチリ感があり、大きさも程よくて、リュンヌ様が抱いて眠るのに良さそうだ。
「素敵! エウェル様、ありがとうございます!」
リュンヌ様は至福の笑みを浮かべて、ぬいぐるみをギュッと抱き締める。
これなら、今夜から安心して眠れるだろう。
「エウェル様、お礼は何にしましょうか」
「じゃあ、鴨と白葱でスープを作ってもらおうかしら」
「畏まりました」
「ベルも手伝ってあげて」
「……はい」
「リュンヌ姫は、私と一緒にサロンで待ちましょうね」
「はぁい」
僕はエルフ城の厨房へ向かい、ベルさんが後からついてくる。
厨房で二人っきりになるのは、エウェル様の配慮だろうか?




