ep110:女神たちが授けるもの
「今年は本当に驚くほどの豊作だな。ラ・テール様の恵みに感謝を捧げよう」
焼きたてのパウンドケーキを祭壇に供え、領主様が胸の前で両手を交差して祈りを捧げる。
すると、パウンドケーキはスーッと消えて、代わりに淡紅色の花をつけた小枝が現れた。
領主様は驚いて両目を見開いた後、深々と頭を下げる。
何かお告げがあったようだ。
「ラ・テール様より神託を頂いた。この枝を、城の中庭に植えるようにとのことだ」
「神の庭に咲くと言い伝えられる花ですね。もしも授かったなら、その地域は百年間豊作が続くそうですよ」
ベルさんが嬉しそうに微笑む。
リシュ領での豊作は、ガリア王国の繁栄にも繋がる。
エルフの里にも恩恵があるので、女王様が聞いたらきっと喜ぶだろう。
領主様は城の中庭にある池のほとりに、ラ・テール様から授かった小枝を植えた。
土に挿した途端に小枝はぐんぐん大きくなり、あっという間に満開の花をつけた木に変わる。
ひらひらと舞い落ちる花弁が池の水面に浮かび、絵画のように美しい風景を作り出した。
◇◆◇◆◇
一方、食堂の奥に祀られたイリキーヤ様への供物も、同じようにスーッと消えていく。
代わりに現れたのは、火起こしの道具とその制作方法を書いた羊皮紙だった。
『ウォルクリスが欲しがっていたから。これは御褒美よ』
それは、どう見ても日本のキャンプ地などで使われる着火用の道具だ。
よく知られる名称があるが、あれは登録商標なので、ここでは【着火棒】と呼ぶことにしよう。
まさか異世界に持ち込むとは思わなかったよ。
見習い期間が終わって里帰りするときに、村の人たちへのお土産にしよう。
イリキーヤ様はこの世界の人類に火の使い方を教えた神様だから、異世界の火起こし道具を授けるのはアリなんだろう。
僕はマジックバッグに着火棒と羊皮紙を収納した。
◇◆◇◆◇
日本の付喪神であるオハナは、異世界では祀られていない。
僕はオハナにもケーキを届けたかったので、ラ・テール様に願う。
『ラ・テール様、お庭に入れて下さい』
『いいわよ』
すぐに返事があり、僕は神の庭へ転移した。
翔太郎としては何度も来ている場所だけど、ウォルクリスとして来るのは初めてだ。
「ショウだけど、ショウじゃない?」
「初めてだけど、はじめましてじゃない?」
桜の妖精たちが、不思議そうな顔で周囲を舞う。
「これは借り物の身体だから、変えちゃ駄目だよ」
僕は一応、若返らせないように釘を刺しておいた。
オッサンならともかく、十二歳で若返る必要無いからね。
「ショウ? それが入れ替わりの姿かい?」
「うん」
「抱っこしてみてもいい?」
「いいけど、重いよ?」
「大丈夫」
オハナは子供を抱っこするのが好きなんだろうか?
ウォルクリスの身体は十五歳くらいの体格なんだが、膝に乗せて抱き締めている。
中身がオッサンなのは……気にしない方向で。




