ep109:果実たっぷりパウンドケーキ
ラ・テール様が帰ってきた異世界。
彼女の祝福を受ける多くの土地が大豊作となった。
「すげえ、アガベが花をつけてるぞ」
リシュ領の森の中、食材となる植物を採集していたアウラウダが珍しいものを発見した。
プランテ・デュ・シエクル(百年の植物)とも呼ばれる多肉植物は、滅多に花をつけないことで有名だ。
ガリア王国では、アガベの花が咲くことは吉兆とされていた。
「花をつけたアガベのシロップは、良い香りがするね」
僕はアロエに似た形をしたアガベの茎にナイフで傷をつけ、枯らさない程度に樹液を採集した。
上品な花の香りがするシロップは、お茶に入れてもいいし、お菓子作りにも使える。
「世界中で大豊作だし、アガベも咲くよな」
バスチアン先輩が、たわわに実った果実をもぎ取りながら笑って言う。
彼が採集している果実はポワール・ルージュと呼ばれる実で、赤い色をした洋ナシ形をしており、リンゴと洋ナシの中間みたいな味がする。
そのまま食べても美味しいし、パイやタルトにも合う。
「おおっ! 見ろ! こいつ童貞だ!」
シャスール先輩が大声を上げて、両手で後ろ足を掴んだうさぎ(ラパン)か高々と掲げる。
そんな大股おっぴろげて見せびらかすの、やめてあげて。
既にお亡くなりになっている筈のラパンが、心なしか恥ずかしがってるように見えるよ。
シヤスール先輩の相変わらずの童貞こだわりに、僕たちは苦笑した。
「凄いな! やつぱり今年は大豊作だぞ」
「それ豊作関係ないから!」
興奮するシャスール先輩に、バスチアン先輩がツッコミを入れる。
確かに、童貞に豊作は関係ない。
リシュ領の森は、今日も平和だ。
◇◆◇◆◇
ポワール・ルージュがたくさん採れたので、今日のオヤツは果実たっぷりケーキを作ろう。
材料はポワール・ルージュ、アガベシロップ、果肉と同量の薄力粉、卵、バター。
まずはポワール・ルージュをアガベシロップで煮る。
煮えたら熱いうちにバターを混ぜ込んで溶かしておく。
室温程度まで冷まして、しっかり泡立てた卵を入れる。
薄力粉をふるい入れ、木ベラで切るように混ぜる。
ダマが無くなったら型に入れ、トッピングとしてスライスした生のポワール・ルージュを乗せ、石窯で焼き上げたら出来上がり。
この世界にはベーキングパウダーが無いので、卵をしっかり泡立てて膨らみを出すのがコツだ。
甘さを出すための甘味料は、砂糖は使わずアガベシロップを使っている。
アガベシロップの代わりに、蜂蜜を使っても美味しいよ。




