ep100:謎の美女
日本で目覚める朝。
毎日温泉に入るおかげで、身体はもう軋まない。
少年が腹筋を続けるおかげで、腹はもう出ていない。
筋肉痛も無いし、今までで一番快適な目覚めだった。
……が。
(ん? 左腕に何か乗ってる……?)
身体の左側に違和感。
左腕に視線を向けた直後、僕は固まった。
(え?! なんで?! どっから湧いた?!)
ここは社員寮の僕の部屋だ。
それは間違いない。
見える範囲にあるのは僕の私物だ。
但し、僕の隣にあるものを除く。
僕の隣に若い女性が寝ている。
顔立ちは整っていて、寝顔さえも美しい。
艶やかな栗色の髪、キメ細かくて滑らかな白い肌の、ハーフっぽい女性だ。
混乱しかかる心に、昨日の【僕】の記憶が流れ込んでくる。
昨日は休日だったので登山道でジョギングしていた【僕】は、崖っぷちに佇む女性を見つけた。
女性はボーッとしている様子で、崖から身を乗り出そうとしたので、慌てて腕を掴んで引き寄せたらしい。
(で、ほっとけなくて連れ帰ったのか)
事情は分かった。
だが何故同じ布団で寝ている?
予備の布団を居間に敷いて、そこで寝るように言ってたよな?
社員寮は2DKで、身内や友人などを泊めたときに使えるように、予備の布団がある。
女性はボーッとしていてほとんど喋らなかったが、手を引いて歩くと無抵抗でついてきて、部屋に入れてあげたら居間のソファに大人しく座っていたようだ。
(ハーフっぽいし、言葉が通じなくて無言だったのかもしれない。しかし何故こっちの布団に入る?)
おかげでオッサンは朝チュンしたかと焦ったじゃないか。
僕はパジャマを着てるし、女性は民宿の浴衣を着ているので、すぐにそれはないと気付いたけど。
(とりあえず添い寝状態はまずい。彼女が目を覚ます前に離れて居間で新聞でも読んでいよう)
僕は女性を起こさないようにソーッと頭の下から左腕を抜き、コッソリと布団から抜け出した。
足音を立てないように隣の居間へ行き、ソファに座るとホッと息を吐く。
女性のために敷いてあげた布団は、そのままになっている。
つまり彼女は夢遊病などではなく、起きているときに僕のところまで来たというわけだ。
何故、そんなことを?
まさか美人局じゃないよな?
翌朝こっちで目覚めたのがウォルクリスじゃなくてよかった。
あの子はそういうことに疎いから、美人局だとしたら餌食になるだけだ。
さて、どう対処しようか。
部屋に無理やり連れ込まれたとか言い出されたときの対処方法も考えておかないと。
いざとなったら、弁護士やってる友人を頼ろう。
僕は警戒しながら、女性が目を覚ますのを待った。




