ep91:過去の夢
熱でボンヤリしながら三度寝した僕は、また夢を見た。
夢は更に過去へ遡る。
「ほれ翔太郎、欲しがってた物を買ってきたぞ」
五歳の誕生日。
僕は祖父に子供向けの調理器具を買ってもらった。
クッキング・トーイと呼ばれる玩具の一種で、実際に調理できる。
家庭用電源を使った電熱器式で、付属のフライパンを使ってホットケーキが焼けるというものだ。
女の子向けの玩具だが、僕が調理に興味を示す子だったので買い与えられたらしい。
僕はすぐにそれを使いこなし、ホットケーキ以外の物も作った。
うずらの卵を使って目玉焼きを作ったこともあったな。
ホットケーキは色々試してバリエーションを増やしていたっけ。
不思議な女の子と出会ったのは、六歳になる少し前のことだった。
「あぶないよ!」
用水路の近くに立っていた女の子を、僕は慌てて引き寄せた。
桜色の着物に緑の帯、お人形みたいに可愛い女の子は、キョトンとして僕を見る。
綺麗な栗色の髪に紅茶色の瞳で、肌が白くて顔立ちはハーフっぽい子だった。
「おなかすいた」
「お家どこ?」
「……」
「迷子? とりあえず僕ん家に行こう」
当時の僕と同じくらいの年頃の少女は、「おなかすいた」と言っただけで後はボーッとしている。
家を聞いても黙っている。
子供心に、何かワケありかなぁと思う。
ほっとけなくて、僕は彼女の手を引いて家に帰った。
「みんな仕事でいないから、僕がオヤツを作ってあげる」
僕は女の子を応接間のソファに座らせて、クッキング・トーイを使ってホットケーキを焼いた。
材料はホットケーキミックス粉と卵と牛乳、ごく普通のホットケーキだが、焼くときにサラダ油ではなくバターを多めに使い、表面をカリッとさせている。
生地にバターが染み込んで、噛むとバターの風味が口の中に広がる。
それは何度も作っているうちに、なんとなく試したら美味しくできたというものだった。
焼き上げたらホットケーキの袋に入っている粉末のシロップを水で溶いて、上からかけて出来上がり。
「はいどうぞ」
「食べても、いいの?」
「いいよ」
「……おいしい」
焼き上げたホットケーキにナイフとフォークを添えて差し出すと、女の子はやっと喋ってくれた。
女の子はナイフとフォークを慣れた手つきで使い、ホットケーキを上品に食べ始める。
一口食べた後、彼女は花が開くように綺麗で幸せそうな笑みを浮かべた。
◇◆◇◆◇
(……また夢か……)
僕は熱でボーッとしながら、部屋の天井を眺める。
枕元の置時計を見ると、午前11時を過ぎたところだった。
ウォルクリスの昼寝時刻はまだ先だから、眠っても入れ替わらなかったんだろう。
それはともかく。
どうしてあんな昔の夢を見たんだろう?
あのときの女の子って、あの後どうしたんだっけ?
ホットケーキを食べて幸せそうに笑ったところまでしか思い出せない。
(ま、いっか)
昔のことだし、忘れてるんだろう。
僕は考えるのをやめて、再び眠りに落ちていった。




