23.『聖なる灯り』
瑠璃が懸命に話すのを、立花はうんうんと頷きながら聞いてやった。
たしかに清宮はなかなかの卑劣漢のようだ。
気に入らないことがあるとすぐ殴られ、店の稼ぎもずいぶんと渡していたというのに、堕ろす金もだしてくれなかった、とのことだ。
さらに、同時期に堕胎手術をしていたことをきっかけに、姉にも手をだしていたことが判明した。それを問いつめると、清宮はへらへら笑いながら、「新しい女ができたから、お前らは用済みだ」といわれ、復讐を誓ったという。
「これが新しい女」瑠璃がコンソール画面をこちらに向けた。
瑠璃には似ても似つかぬ、色白で黒髪の女だ。しかも、めったにお目にかかれないレベルの美人だった。
「ふざけんなって感じでしょ! でもさぁ、刑事さん。セイナルアカリに書いたのは、ただの悪ふざけなんだよぉ」
「セイナルアカリ?」立花が眉をよせると、瑠璃は無駄に手足を動かしながら説明した。
『聖なる灯り』は、マイナーなオカルト専門SNSで、そこにあるタレコミ掲示板に対象者と悪事を書くと、その対象者に天罰がくだるというのだ。
警察どころか一般人でも、ただのお遊びと一笑するような噂だが、どうにも本当に天罰があるらしいとの、都市伝説が流れていた。
立花はそのSNSにアクセスした。
ざっと眼を通していくと、確かに清宮正義という名があった。日付は三日前で、名前と住所、そして悪事の説明には、「ありえないくらい最低の二股DV男」と表示されている。
ガックリくるような内容だ。他の書き込みも、タレコミといえるようなものは見当たらない。不満をぶちまけて、ストレスの捌け口としているだけのようだ。
うんざりしながらスクロールを繰り返していた立花の手が止まる。
『コウベ署マフィア対策課三班 井川海斗 悪徳刑事』、との書き込みが目に入ったのだ。日付は井川が亡くなる三日前だ。
立花は課長の石倉に電話をかけた。ワンコールで電話にでた石倉は怒鳴り声をあげる。無断で小茂田を連れだしたのを怒っているのだ。
なんとかなだめすかしてから、『聖なる灯り』を調査するように依頼した。それからは小茂田など放置して、コウベ署へと急いだ。
その小茂田だが、一応は役に立ったので、制裁などないように、神谷に電話しておいた。
コウベ署に戻ると、さっそくマ対の課長室に向かう。
石倉は口煩いが、仕事は早い。IT調査室に緊急事案として割りこませて、何かしらの調査結果を引きだしているはずだ。
「小言はあとで聞きますから、まずは結果を!」立花は課長室に入ると同時に言う。
腕組したままの石倉がギロリと立花を睨み、やがてため息を落とす。不穏な空気を感じとりながらも、「課長!」と促す。
「お前のいってたSNSは削除された」
「消された!? ……でも、IT調査室なら復元できるでしょう」
「復元するなと、上からのお達しがあった。今日、立ちあがるはずだった帳場も吹き飛んだ」
「どこの横やりですかっ!」
「海軍だ」
テロが絡めば、陸軍がまるごとかっさらうことはある。たが今回はテロには関係ないはずだし、たとえテロ絡みでも海軍が国内案件で動くことはない。
だから警察と海軍が角を突き合わせることはないのだ。
その海軍が干渉してきたということは、よっぽどの理由があるのだろう。
立花は背中が寒くなるのを自覚したが、それを怒りで吹き飛ばした。
「こっちは刑事が一人殺されてるんだ! まさか、呑む気じゃないでしょうね!」
石倉はしばらく無言で宙に視線をやり、やがて妙なことを口にした。
「お前、勝手に有本の件に絡んでただろ」
「だったら、なんだっていうんですか!」
「科学捜査室にいる後輩から、銃痕の分析結果をこっそり仕入れた。有本、そして井川と清宮も、同じ機関銃で殺られている。いや、威力でいうと機関砲と呼ぶべきか……。それはともかく、その機関砲は海軍が開発したものだ」
なるほど、確かにかなりやばいヤマとなりそうだ。だが、雫との約束を反故にするつもりなどない。
「事情はわかりました。けど俺は引きません。帳場が立たなくたって、一人でやります」
「お前一人でなにができるっていうんだ! マフィアをつついたところで、どうにもならんぞ!」石倉は拳で机を叩いた。
「確かにいつもと勝手は違います。だが、策がないわけじゃない」立花は踵を返した。
「軍の機密事項かもしれんのだ! ヘタに近づいたら消されるぞ! 聞いてんのか、立花ぁ!」
石倉がヒステリックな声をあげたが、立花は応じずに部屋から出た。歩きながらコンソールを取りだして、京子に電話をかける。
なりふりかまわず、使える手は全て使う。
立花の決意は固かった。




