表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第二話 金銭金銭六文銭! ①

 

 日当たりのいい自習室は、清々しいほど人気がない。

 理由は簡単、日当たりが良すぎるせいだ。


 地下一階、地上四階の学校ビルの、最上階。その半分を占める自習室の、そのまた半分の屋根と壁はガラス張りになっている。


 比喩抜きで、ほぼ温室。まだ五月なのに旧式のやたらでっかい空調が、ガーガーうるさくフル稼働している。


 当然、環境保護に関心のある子には目の敵にされてるし、秋穂は見学の時「紫外線!」と小さく叫んでからは近づこうとすらしない......


 そんな訳で、私と荻原さん改め七乃果が使ってるテーブル以外は空っぽだった。

 他の子は多分、自習となると空いてる教室を借りたり、ファミレスに行ったりしてるんだろう。


 好都合と言えばそうだった。

 事情は聞いてないけれど、七乃果は同級生と何かあったみたいだし。二人で勉強するのも悪くない。


 テキストを読むのを止めて、対面でシャーペンを走らせている七乃果を見た。


 縁の細いメガネに、肩につかない明るい茶髪。水色のレトロなワンピースがすごく似合っている。


 いつものTシャツにジャージの私がここにいると、ガラス張りがジムか市民プールのソレに見えるのに、七乃果は全っ然違う。

 年季の入った自習室のはずが、昔ながらの喫茶店とか、図書館にいるみたいで......


 なんて言うんだっけ、こういうの......

 そう、とっても——静謐だ。


......七乃果の邪魔をするのはよくない。視線を外すと外に向けた。


 快晴中の快晴。雲一つ無い空——そのはずが、何かが飛んでいる。窓のすぐ側を、ヒラヒラ通るそれは——


 バン! と机を叩いて、立ち上がる。


「お金が飛んでるっ!」

「へぇえあっ!?」


「ほら、あそこにも!」

 私が指差した先にも、お札がふわふわ舞っていた。五千円札っぽい物が、さっきと同じ方向に向かって——


「......私には、見えないけど......」


......七乃果の言葉を聞いて、私はゆっくり席に着いた。


「ごめん、大騒ぎして......」


 確かに、私には見えた......十中八九【セクト】絡みだろう。


「......多分葉っぱとか、ゴミを見間違えたんだと思う! 余計なこと考えてないで、勉強しないと......」

「しおちゃん......」


 少し困ったような表情を浮かべた七乃果は——引くどころか、前屈みになって机の上で手を組んだ。


「あのね、しおちゃん」

「う、うん......」


 私が返事をすると、七乃果は頷いた。よろしい、といった様子で。


「もしもお金のこととか、バイトのことで困ってたらね、子供でも相談出来る場所はたくさんあるよ。法テラスとか、他にも......よかったら調べてみてね」


「あ......ありがとう......」


◇◇◇


「へぇ......随分としっかりしたお友達だね」


 公園の東屋の中。おじさんはベンチの端に座って、野球をしてる子供達を見ている。


 テーブルに肘もついてるし、聞いてるんだか聞いてないんだか分からないと思ってたけど......まあまあ真剣に聞いてたみたいだ。


「しっかりしてる子、周りに結構多いかも......秋穂はちゃっかりって自分で言ってたけど......」


 一応、テーブルに置いたスマホに向けて喋ってたら、おじさんは視線だけこっちに投げ掛けてきた。


「......しっかりしないといけなかったんじゃ、ないといいんだけどね」


「それ......普通にしっかりしてるのとどう違うワケ?」


「何処のご家庭にも、頼れるハジメちゃんがいるとは限らないってことさ」


 言い終えるとおじさんは銀色の目を瞑って、ウィンクを寄越してきた。

 スッと体をずらして避けたついでに、トートバッグから白いリボンを引っ張り出した。 


「見て、じゃーん!」


「......リボン? 髪でも結ぶの?」


「これをお札に結んで、飛んでいくのを追っていけば《セクト》の場所が分かるんじゃないか、と思って!」


「なるほど、なるほど......」


 頷くおじさんは、本当に感心した顔をしてる。忌々しいことに、とても珍しく......


「前に蜂の巣を特定する動画見たの思い出したんだよねー」


「インターネットって、本当に何でもあるんだねぇ......」


 お爺さんみたいなことを言ってるおじさんを無視して、またゴソゴソ財布を取り出した。

 乱暴に広げて、ひっくり返すと音がした。コロン、とだけ。


 木製のテーブルに載っているのは、五百円。のみ。


「......栞ちゃん、紙幣の方は......?」


「無い......朝、もなポルド買っちゃったから......」


「そう言えば食べてたね、ちょっと高いアイス......あぁ! リボンも買ったからお金が無くなっちゃったんだね!」


「......」


「......栞ちゃん?」


 黙っているとおじさんは首を少しだけ傾けた。亜麻色の髪がサラサラ、風に揺られている。


「......リボン、学校の作業準備室から、ちょーっとだけ貰ってきちゃった」


「おや、まあ......用途としては、うん......」


 私は敢えて顔を上げて、おじさんの目を見た。これ以上なく、真面目な顔で。


「ハジメちゃんこういう時はね、ちゃんと聞くまで! 問題じゃ、ないの!」


 おじさんは死神とは思えないくらい自然に肩を竦めると、目は一切逸らさずに話し出した。


「......確信犯って、こういう時に使えるんだっけ? それとも誤用の方かな?」


「さあね!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ