プロローグ
まくら元の、オレンジ色の光。
この色にそまったハジメちゃんが、一番すき。
ふわふわ、サラサラしたうす茶色の髪と、雨のつぶみたいな銀色の目が、一番キレイに見えるから。
それに——ハジメちゃんの半分とうめいな体も、暗くてあんまり目立たなくなるし。
ちょっぴりしわっとしたシャツも、ベッドにひじをついてると、ちっとも気にならない。わたしがねる前のハジメちゃんは、人間みたいで、ふつうのおじさんみたいだ。
ハジメちゃんはお化けっぽいけど、けっこういろんな物をさわったり、動かしたりできる。
だから、ママとパパがいそがしい時はこうやって、ふとんをポンポンしたり、本を読んだりしてくれる。
たまに、夜ごはんの前にやった音読の中身をおぼえてるとか言って、そのお話をするけど全ぜんちがう。
アリが広いベランダつきのりっぱなおしろを作ったり、おじいさんの病気がすっかりなおってりく上の大会に出たりする。
ハジメちゃんはすごく、てきとうだ。
でも、おまじないをする時はちがう。
「栞ちゃん、手を出して」
もうねむいけど言う通りに、右手をスポッとふとんから出す。
ありがとう、って小さな声で言うとハジメちゃんは手をつつんで、自分のおでこの方に持っていく。
「君が——誰かの夢の中で、鬼や悪魔になりませんように」
ハジメちゃんの目は真っ直ぐ、しんけんだ。けどひっそり、わらってもいる。わたしを起こさない、ちょっとふしぎな顔......
それから手をふとんに置いて、おしまい。その前に今日は、ハジメちゃんの手をぎゅっ、とにぎった。
一つだけ、聞きたいことがあったから。
「じゃあ......死神になるのは?」
くすっと、ハジメちゃんは口をほとんど動かさないでわらった。
「大抵の死神には、良いも悪いも無いからね......難しいなぁ......」
「ふーん......?」
どっちなんだろう......?
ぼんやり考える前に、ハジメちゃんは親指だけで、わたしの手の上をすうっとなでた。
「今日はもうおやすみ」
いつも通りに、ふとんに手をおいた。ハジメちゃんは、自由になった手を顔の横で、パクッと、とじた。
それで明かりは消えたのに、わたしはパチン! と目がさめて起き上がった。
「その消し方、やーめーてー! ライトがこわれそう!」
「あらら......」
わたしが言う前から、ハジメちゃんはもうドアを開けてた。それもヘンで、ろう下の光が顔と体の半分だけにかかってるのも、けっこうブキミ。
「『ポルターで、ガイストだ〜!』って、ジュンくんと響子さんはいつも大喜びするのに......栞ちゃんは、しっかり者のおじさんに似ちゃったのかなぁ?」
「似ちゃってない! しっかりさんはちゃんとスイッチで消すの!」
「それもそうだね」
ハジメちゃんはにっこり笑うと、手を小さくふった。
「おやすみ、小さなしっかりさん」
ふん! ってわたしが返事をすると、ハジメちゃんはにこにこしながら部屋を出て、階だんを下りていった。
ドアの小さいまどから見えるハジメちゃんのかげが、だんだん小さくなっていく。
わたしがふとんにもどるとちょうど、フッ、とろう下の明かりが消えた。ハジメちゃんは今度もぜったい、スイッチで消してない......
......真っ暗な部屋で少し待っていると、とんじゃったねむ気が帰ってきた。
この、間。
ねてるような、起きてるような、真ん中。
ここに来るといつも、おまじないのことを思い出す。ハジメちゃんがかけた日じゃなくても、暗くなくても、バスや車の中でも......
『君が——誰かの夢の中で、鬼や悪魔になりませんように』
わたしはおまじないがすき。おまじないをする時のハジメちゃんもすき。
でもときどき、こわくなる。
ハジメちゃんが『わすれないで』って言ってるみたいだから......ひなみちゃんのことを。
——ひなみちゃんは、おにとか、あくまになったの?




