99話
「そして、お前のこと……真実は伝えていないのだろう? 死の間際だというのに……」
「それは……今、言うことは幸吉殿にとって……あまりにも……」
「あまりにもなんだ? 痣はいかなる時も消えない……いくら成熟しようとも、幸福感に満たされようとも……限りがある……知れ! 仕舞師が感情に流される時……それは悲劇ということを忘れるな! 行くぞ、花化従。刻が満ちるその時まで……舞し時、感情を持てばそれは半死を作る一歩だということを……」
静は背を向け去っていく。
「待たれよ……姉さま……なんだ……それは? 私が幸吉殿を半死にするとでも……」
清の無情の叫びが木霊する。
引戸がガタッと音を立てる。幸吉が出てくる。
「幸吉殿……お朱鷺さまは?」
「疲れたのだろう、今、少し眠りについた。それより、誰かお出でで? 何か叫んでいたような気がしましたが……」
幸吉が聞いてくる。
「……はい……手前の姉君が……」
「姉君?」
「手前の憎むべき相手でございます……私どもの父母を手にかけました……」
「手にかけた? それこそ殺めたと?」
突然の告白に固まる幸吉。
「なぜかはわかりません。ただ残るのは手前に花仕舞師の称号を受け継がせたことが逆鱗に触れたようです……もちろん恥ずべき行為ですし、手前は一生許す気にはなりませんが……」
「では……何を話されていた? 一生許せぬ相手と……」
「それは……」
清は言葉が詰まった。
「清殿……確認いたしたいことがある。なぜ、清殿はまことならぬことをついてまで、儂らと旅路を共にすることを望まれた? お雪婆の真を伝えるため? 否、でござらんか? もっと他に何かあるのではないか?」
「……」
清がさらに口を噤む。
「申しとうなければそれでもよい。ただ、もし良いことでなかった時、それを癒す時間があるものぞ? どうなのか……清殿……」
「それは……それは……」
清は唇を噛む。
「清殿……儂は後悔しとうない……なぜならこの日を持って知った……儂はのぉ、逃げとった。独り立ちし、それを見せとうして身を粉にした。しかしのぉ、新山升やが居心地よぉなった。お館さま、お朱鷺、町のみんな……。しかしながら、お雪婆のことは忘れたことはない……いつか、いつか、いつか会いに行けばよいと逃げた。会いたいと思いつつ、後刻にて躊躇った。儂は刻を拒んだ。拒んだ報いがこの日じゃ……」
「今はその後悔を繰り返しとうない。清殿が何も言わずのは良からぬこと。ならば……答えられよ、清殿。清殿が黙っていることは癒す刻があるのか、否か?」




