52話
清の呼び掛けと共に部屋が光輝くと共に花天照が翼を広げ現れる。祈りを捧げるように両手を組み、翼をゆっくり折り畳み清の元へ寄る。すべてが美しく、演技を忘れ、魅入られそうになる花識。高揚感が心を揺るがす。『智』への想いが募るほどこの光景を書き綴りたい衝動に駆られる。
──書き記したい、綴っていきたい。しかし……だめだ……ここで取り乱しては、魅入られては……。しっかと目に焼き付けるのみ。これは、また静殿とは違う光を感じる舞……姉妹の舞がなぜにここまで見事に対比される……清殿の舞は光、静殿の舞は闇。私は永遠に堕ちたが、後悔という言葉が消えていく──
花天照はふっと線香花火に吹きかけると火が灯った。その仄かな明かりが花識を包み込む。心の中で花びらがゆっくり散り舞うように様々な感情が浮き沈みする。
「花灯の籠の番人右手、此を──」
一体の花護人が床を突き破るように地中から現れる、清が持つ線香花火を預かる。
「右手よ、しっかとその灯火護れたもれ」
花天照は再び翼を広げ、光輝く。同時に清は花霊々の舞いを披露する。花天照の身体から五つの弦が地中に刺さると枝分かれするように蕾が五つ実る。
──私が心奪われていく──
花識は震え出す。
──そなたは清の舞に心を奪われるはず……それは魂が共鳴するからであり、しごく当然。しかしながらそなたはすでに半死。心が惹かれそうになっても身体は動かぬ。それでも安らかな表情を浮かべ心身共に導かれるよう演技せよ。決して悟られるな──
静の言葉が花識の脳裏を掠める。
──演技だ……演技をするのだ……──
花識は演技に徹する。見事なまでに心身を清の舞に委ねるような仕草。すべてが疑われることなきようにと。清が疑わず舞いながら花告を花識に向かい詠みあげた。
──さとしは風にあり、声なき問いに、答えるように舞う──
蕾が花開くと鏡一面の舞台が幕を開ける。そこに現れるは花水鏡。そして次に花翅が蝶の翅を広げ舞う。言葉を奪われた時、第肆の花護人、花根孖が姿を見せる。
「そなたたちは……」
花識は唖然とした。そこに舞う姿はあどけない顔を見せていた根音と根子。あの茶菓子を頬張っていた姿はすでにない。根子は花識に寄り添い、根音は影に寄り添いながら舞う。根子はそっと花識に耳打ちをした。
「な、なぜそれを!?」
花識は根子を見る。根子は言葉を返すことなく舞続ける。根子の言葉に動揺し、静の言葉が重くのしかかってきた。
──何があっても演技を続けよ。そなたを試す。その試練に耐え抜けぬならば半死を解く──
花識は未だ試されていると思った。
──なぜ、こうも静殿の言葉通りことが運ぶ……──
花識は得体の知れぬ汗が滴らせながらまるで命がけの綱を渡っている気がした。




