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辺境都市の隠れ宿〜星明かり亭(うち)は、そういうお店じゃありません!〜  作者: 汐の音
4章 時喰い

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5 似た手応え


 一般的に、遭難者の生存率は三日を過ぎれば格段に下がるという。

 ――もし、目の前の幼児が消えた陶芸家のウィル本人だったとして。


 その言を信じるなら、彼の弟のエリオットは、行方不明ではなく“消失”しているはずなのだが。


 考えあぐねたサラは、膝下にしがみつくウィルのつむじを慎重に撫でてからアズリオを見た。


「村長殿? この子は」

「おお、申し訳ない。これ! やめぬか。ええと、ウィル坊」

 

 アズリオは恐縮しきりに頭を下げ、サラから幼児を引き剥がす。

 サラはまじまじとちいさなウィルを見つめた。


「……失礼。報告では、陶芸家の兄と同じ名を名乗る子がいたと。彼が?」

「そうだよ! おれがウィル!」

「ぬう。黙らぬか。まったく、どこから紛れたかわからん小童(こわっぱ)が」


 苦虫を噛み潰したような顔で、渋々とアズリオが幼児の肩に手を添える。

 サラは、こてんと首を傾げた。


「つまり、村では彼を『ウィル』さんではないと」

「そりゃあそうでしょう。兄弟はどちらも収穫前の小麦みたいな髪でしたし、よしんば、わけのわからぬ力のせいで子どもになったとして、そこは――……たしかに、顔立ちや目の色なんかは似とりますが」

「そうですか」


 肩を押さえつけられた幼児は、不服そうに口の端を下げている。

 それでも放り出すわけにいかず、結局は村長の家で面倒をみているという。


(黒髪……)

 ある種の確信を得たサラは、急いで気になることを尋ねた。


「失礼。兄弟が行方をくらますとしたら、当然こちらの山ですよね。どの程度探索を?」

「二日間は自分らで、麓付近をくまなく探しました。三日目には兵士さんが大勢来てくだすって、もっと山奥を」

「痕跡のようなものは?」

「残念ながら……。山奥は魔物が妙に多く、落ち着いて調べられんのです。それで、冒険者ギルドから討伐員を派遣していただけると。その知らせを受けて、兵士さんは全員帰りました」

「わかりました。――ディエル?」

「! はい」


 元気に返事をした茶髪の青年剣士に、サラはひとつ頷いた。


「ひとまず、泊まれる場所まで案内してもらいましょう。荷を下ろしたらすぐ山に入ります。日没まで」




   ◆◇◆




「ひー! 多い!」

「泣き言は無しよ、ほら、来た!」

「泣いてなんか、いないッスけど!?」


 (げき)を飛ばしたとたんにサラの斜め後ろに斬撃が走る。

 ディエルの剣筋は騒ぐわりに正確で、苦もなく影狼(カゲオオカミ)の喉笛をとらえた。

 ギャイン! という鳴き声のあと、草むらにドサリ。無造作に個体が落ちる。


 ――飛びかかられたのだ。なんならじりじりと距離を詰める複数個体に取り囲まれている。その数七。うち、三体は切り伏せた。残るは四体。


 自然物の影に溶け込み、神出鬼没。獲物に対する獰猛さと連携で有名な影狼の群れは厄介だ。個体の討伐ランクはCだが、群れの推奨ランクはA、あるいは四人以上のパーティと定められる。


 あーあ、とディエルは嘆息した。


「討っても討ってもきりがない。ねえ、さっきも、その前もこういう奴らでしたよね。実体化しないと斬れないタイプ」

影蝙蝠(カゲコウモリ)は羽音がしないし、偽蔦ニセヅタは植物に擬態して襲ってくる……たしかに、同一系統が多いかもしれないわね」

「何かこう、ありませんか。スカッと一網打尽にできるやつ」

「なくはないけど」

「〜〜やったぁ!」

「……」


 まだ『やる』とは言っていないのに、この喜びっぷり。

 仕方ないな、と眉尻を下げたサラは、勝ち誇って笑むように見える魔物の狼を前に、すぅと深呼吸をした。

 呼気を整え、集中する。瞬時に必要なぶんだけ魔力を練り上げる。


(こいねが)う。大神の恩恵よ、至天の光輝よ。(くら)き闇にあまねく慈愛を――照らせ。“聖光(ホーリーライト)”」

「!!」


 サラが詠唱を終えたとたん、ドン……! と、地鳴りがした。目を射る光と圧を感じるほどのエネルギーの招来。ディエルはとっさに身構えた。


 ――こんなにあからさまに隙を見せては、魔狼に襲いかかられるのではないか。


 そんな危惧すらあっという間に消え去る。まばゆい光が片手を挙げたサラを中心に(ほとばし)り、円状に広がる。

 影狼たちはそれに触れるや否や順に灼かれていった。断末魔すらない。


「え……えぇっ!?」


 剣を構えたままで目を泳がせたディエルは、どうやら光の爆発が周囲を『浄化』したのだと見当をつけた。


(いやこれ、トップクラスの神官しか使えないんじゃ??)


 “聖光(ホーリーライト)”は、極小でもかなり高位の神聖魔法だ。

 しかもここまで広範囲とあれば、その難易度は推して知るべし。むしろわけがわからない。


 究極のぽかん顔で立ち尽くすディエルに、サラは事もなげに話しかけた。


「お待たせ。終わったわよ」

「あ、ハイ」


 息も乱さず、くるりと振り返ったサラは目を閉じ、何かを探るように眉間を押さえた。

 その睫毛の長さに、ディエルが思わず見入るあいだに集中を解く。


 ふ、と空気が軽くなったのを感じ、ディエルはきょろきょろと頭上や木立を見回した。

 驚くべきことに、周囲から魔物の気配が消えていた。何の変哲もない鳥の羽ばたきや鳴き声が戻っている。

 剣身を布で拭いてから鞘に収めたサラに、ディエルも倣った。


「あの……ひょっとして、今ので討伐完了ですか」

「いいえ。まだよ」

「?」


 サラは金色の瞳をひたと山奥に向けた。


()()()は付けた。でも、大元までは遠い……明日にしましょう」





〜魔法蘊蓄(うんちく)


【聖光/広範囲】


浄化=攻撃型神聖魔法は効きやすい魔物と、そうでない魔物がいます。

今回は影を媒介に生き物を屠るタイプが多かったため、サラが使用に踏み切りました。


かわいそうですね。難点は魔石も素材も残らないことです(※ディエルの副収入にならない)


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