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お嬢様はお転婆


「しかし、サルラ・シャングラリ…彼女の評価が不透明すぎる。シャングラリ家を調査しようにも、出入りする人間がこうも限られているとわかることも限りがある」

「あの方、自分のことを名無しの長女って言ってませんでしたか?」


トランは今更だなぁと思いながらも会話を続ける。自分の主人はこうして信頼できる者と会話しながら思考を整理するのだ。その証拠に、夕食を食べながらも会話は続けている。


「そうだ。というかダメ元だったんだ、ここまで隠されているなら外に出したくないか余程存在が厄介かだろう?」

「まあそうですね」

「まさか自ら外に飛び出してくるとは思わないじゃないか…!」

「まあそうですけど、逸れてますよ。名無しの長女ってなんですか?俺そっちの報告聞いてないからわかんないんですけど」

「あぁ…いや、唯一流れている噂というか…誰もよく知らない上に、シャングラリ家にはもう一人令嬢がいる。あの家のご令嬢、と言ったら二人が対象になってしまうだろう?」

「はぁ。それで名無しの長女、ですか」

「それ以外なにも噂がなかった。それすら噂とも言えないようなものだがな。確かに当時も親についていくでもなくずっと壁際にいた気がするが」

「それで覚えてるの流石ですね」

「別に顔をはっきりと覚えられるわけじゃない。具体性に欠けるなら使い所はない」


バッサリと切り捨て、フォークを口に運ぶ。咀嚼しながら考え事をしているのか、わずかに眉根が寄っていた。


「シャングラリ家は元々目立たない家だ。目立った盛りも無ければ特筆する落ち目もない。伝統が長い以外に本当に目立つことがないからこそ選んだんだが…金で売られたように見えなくもない」

「確かに、馬車二つじゃありませんでしたか?しかも片方は帰りましたし」

「なら片方は私有、片方はシャングラリ家のものと見ていいな。とはいえ」


すっと食器を置いて口元を拭き、考えも片付いたのか立ち上がった。


「明日、その辺りも聞いてみなければいけないな」

「そうですね、謎すぎて扱いが難しいですし」

「ああ」

「素直に教えてくれると思います?」

「……私はお前のそういうところが好ましくもあり憎らしくもあるな」

「お褒めに預かり光栄です」


飄々と言ってのけたトランは、主人を見送った後に化けの皮を被っていそうな護衛に話しかけてみるか考えていた。


ランザックは基本的に多忙であるので、イレギュラーが起きても基本的な生活習慣を崩すことはあまりない。今日もそうで、食事が終わると少しの執務を挟んだもののすぐに就寝した。







月が高々と空の真ん中で輝いている頃。

トランは本当に偶然にも、ノヴァと遭遇していた。


「おや。まだ寝ていらっしゃらなかったんですか?メイドから部屋は割り当てたと聞いたんですが」

「お嬢の護衛として、探索を少しね。貴方だって分かってるでしょ。こっちはこっちで色々あるんですよ」

「そうですか。別に止める気もありませんが…そうですね、着いてきてください」


トランは返事を待たずに振り返り、来た道を戻り出した。ノヴァが向かおうとしていた方向に進み出す。


「なんだ?見せたいものでもある?」

「いいえ?…あそこの部屋、当主の部屋です。あそこだけは魔法結界が張ってあるので、勝手に入ると死にますから気を付けて」

「……物騒だな」

「昔からここが国防の要ですから、当主が暗殺されるなんて洒落にならないんじゃないですか?当主様が心の中で認めている人だけがなにも起きずに入れるんですよ」

「へぇ。脅しか?」

「そんなに警戒しないでくださいよ。部屋の中までは不用意に見れないでしょう、案内しますよ」

「そりゃありがたいが…」


依然怪しむように言葉少ななノヴァに、トランは仕方ないかと笑う。


「そちらからしたら今回の話は見え透いた嘘で固められていますから仕方ありませんが、こちらとしては賭けだったんですよ」

「……賭け?」

「わかりません?社交界に出たこと、一度しかないじゃないですか。ご本人は自分がなんて呼ばれてるか分かってたみたいですけど」

「あぁ、名無しの長女か。それは本人が流したからな」

「え?自分で?」

「その一度だけの社交界で、お嬢は名乗ったのも一度きりだ。適度ってもんが分からないお人だからな、もしかしたら今頃社交界の華だったかもしれないのに」

「……はい?」

「探らせても何も出てこなかったんだろ?お嬢自身が望んだことで、かつ継母も義妹も父もお嬢が社交界で目立つことを望んでない。むしろ正妻の影があるお嬢は邪魔者だ。だから出入りする業者もお嬢の姿は見れないし、はたから見たら隠されているように感じる」

「え、あなたそれ言っていいんですか?」

「案内の礼ってとこかな。どうせお嬢が変な説明の仕方するから正しく伝えとくに越したことはないだろ」

「そうですか……」


話しながらも足は止めず、あそこがあれだここはあっちに繋がっていると説明しておいた。特にやましいものがあるわけでもないのに礼として情報が得られるのなら安いものだ。


「で、お嬢は結構お転婆だからほっとくとこの家の騎士全員叩きのめすぞ」


今あり得ない言葉が聞こえた気がした。思わず立ち止まり、振り返る。


「……はい?」

「お転婆なんだ」

「…騎士を叩きのめせるのが?」

「お転婆」

「……………………………」

「そんなに黙らなくても…」

「…黙りもするでしょう。誰がご令嬢が騎士叩きのめせると思うんですか?!」

「まぁでも、この家の騎士は強いみたいだから勝ち負け半々ってところじゃないか?最初は舐めてかかられるだろうから全勝すると思うけど」

「なんだか急に寒気が………」

「おっとまずいな。体調不良か?」


ケラケラ笑っているノヴァを睨みつけるも、すぐに意味がないと視線を外してため息をついた。


「…まぁ、わかりました。ですが私は当主の命令に従うのみですので特に止めませんよ」

「お、今から楽しみだな」

「楽しむんですか……まぁいいです。それと」


くるりとノヴァに背を向け、一室を指差す。


「あそこ、私の私室です。何かあったら来てください」

「分かった。ありがとうな」

「あと当主様はこれまでの散々な経験から女性不信の気があるのであまり疑わないでやってください」

「最後に言うのかそれ……ま、考えとくよ」


ノヴァもトランに背を向けてひらりと一度手を振って去っていく。その背を見届けきる前にトランは私室に入っていった。


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