5-3話 考えすぎと悩みすぎのお茶会(後編)
「ささ! これ本当に美味しいから食べてみて!」
そう言いながらメリア王妃は手の平大の四角く中央が膨らんだパイ生地のお菓子を山の様に積んだお皿をプランの前に用意した。
「……さ、流石に私でもこの量を食べるのはちょっと……無理かなぁ」
そう言葉にするプランにメリア王妃は苦笑いを浮かべた。
手の平大で中にたっぷりとクリームのつまったそのお菓子は普通の女性なら一つ食べきるだけでも苦労するレベルであり、一つすら残す事があるメリア王妃には食べきるなんて発想すらなかった。
「さっきも言ったけど持って帰っても良いわよ。お友達と食べて頂戴。プランちゃんはお友達も多いし……それに沢山食べるお友達もいるし余裕でしょ?」
「ええ、そうですね」
そう言ってプランは微笑んだ。
ちなみに、プランはサリスの事を話しはしたがサリスが度を越えた大食漢だという事は話していない。
つまりメリア王妃は最初から知っていたという事である。
――私こういう探り合い苦手なんだよなぁ……。でも、うーん。何かあるんだろうなぁ……。
前の世界の事はわからないはずである。
そしてそれを除けば、プランは特に探られて困る部分はない。
強いて言えば、動物禁止の寮で猫を隠して飼っている事と、町長シュウに隠し子がいる事を知っている位である。
「さて、もう少し貴女の事を聞かせてもらって良いかしら?」
そう言葉にしてメリア王妃はニコニコと微笑んだ。
何か意味があるのだろうが、その笑みの裏で何を考えているのかなんてプランにもわかるわけがなかった。
王妃という立場に恥ずかしくない振舞いをし続けなければならない為、礼儀作法は当然完璧。
それだけでなく人を見る目だけは自信があるプランですら、ほんの一瞬の違和感という形でしかメリア王妃のネガティブ的な感情に気が付けないほど完璧に偽装している。
優しいという評判を持ったまま王妃という立場を守り、一切評判を落とさず誰からも愛され、ここまで生き残ってこれているメリア王妃と、貴族的行為自体が苦手なプラン。
それは比べる事すら烏滸がましいほど器が違っていた。
ニコニコとしているだけなのに、プランはさっきまで隠していた冷や汗と顔が強張るのを実感した。
引きつった笑みを浮かべるプランに対し、それでも王妃はニコニコとしつつ、脅す様にそっとプランに近づいていく。
弱みを見せた瞬間、全てが喰らわれる。
それは通常の戦場でなくとも、貴族同士の社交という戦場でも同じ事であった。
こん、こん、こん。
そんなギリギリのタイミングで――ノックの音が響いた。
お互いが無表情となり、静寂の中目を向け合う。
「……どうぞ」
王妃はプランに近づいていたのを止め、普通にソファに座り直してからそう言葉にした。
どことなく、少しだけ残念そうだった。
「失礼します」
そう言って入って来た人物を見て、プランは目を丸くして驚きを見せた。
その人物をプランは知らない。
見知った顔でもなければ有名な人というわけでもない。
だが、誰が見てもその入って来た男性を見れば間違いなく驚くだろう――悪い意味で。
まず印象に残ったのは、恐ろしいまでに四肢が細い事。
女性の憧れとかそれはそういう次元ではない。
頬もこけ、肉は見えず皮膚と骨しか確認出来ない位であり、もはや枯れ木としか言いようがなかった。
その上でしんどそうに震えている。
杖に体を支えてすら出来ないらしく、プルプルとして非常に見ていて心が痛くなる。
髪もボサボサ、肌の色も悪い。
どこからどう見ても不健康な病人そのものである。
「だ、大丈夫ですか?」
プランはそっと立ち上がり、エスコートするようにその男性の体を支え、そっと自分が座っていたソファに座らせた。
「あ、ありがとう……」
その男性は茫然とした様子でプランの方を見ていた。
メリア王妃も同じ様に、プランの様子を驚いた表情で見つめていた。
「あ、あの……私が何か?」
二人から見られている事に居心地悪そうにしながら、か細い声で囁いた。
さきほどのメリア王妃の対応も含め、プランは普段しない気苦労で少々以上に疲れていた。
「いえ。あまりに見事な手際でしたので……。ねぇ姉上」
その言葉にメリア王妃は頷いた。
「はい。弟に付けた専属医ですらここまでスムーズには……」
その言葉にプランは苦笑いを浮かべた。
「そうです? 誰でも出来る事をしただけですが?」
大怪我で今にも死にそうなわけでもない。
体が欠損しているわけでもない。
それなら人の体なんて皆同じなんだから病人に対してやる事など皆そう変わらないだろう。
そんな見当違いの事を考えながらプランはそう呟いた。
「それよりも……さきほどメリア様が弟と呼んでいらっしゃいましたが貴方はまさか……」
その言葉にその男性は微笑んだ。
「すいません名乗るのが遅れましたね。私の名前はジルウィール・コンラート。アルストロメリア姉上の実の弟です」
「……お、弟君でしたか。初めましてジルウィール……様? えと、王様の義理の弟は何と呼べば……」
あたふたとしながらそう言葉にするプランを見てメリア王妃は微笑んだ。
「正しくなら王弟殿下だろうけど……別に名前で良いわよねジル」
そう呼ばれ、ジルは優しく微笑みながら頷いた。
「もちろんです。どうかジルとお呼び下さい」
その言葉と、ジルの穏やかな雰囲気に少し落ち着きを取り戻しプランは頷いた。
「はい。わかりましたジル様。メリア様と同様そう呼ばせて頂きますね」
そう言ってプランはにっこりと微笑んだ。
「……さて、姉上とのご歓談を邪魔して悪いんだけど、私は君に言いたい事があってここまで来た」
ジルの言葉にプランは真剣な表情となり、頷いた。
「はい。何でしょうか?」
「正確には君達になんだが……ありがとう。その言葉を、どうしても私の口から伝えたかったんだ」
そう言ってジルは深々と頭を下げた。
「……ふ、ふぇ?」
プランは予想外の事に目を丸くした。
そう簡単に頭を下げたらいけない方であるにも関わらず、それはもう深々とジルは頭を下げていたからだ。
「あ、頭を上げてください。そんな恐れ多い」
「いいや。命を救ってもらったんだ。これくらいはしなければ……」
「……命……ですか。申し訳ありませんが私には覚えが……」
プランの言葉を聞き、ジルは懐から指輪を取り出した。
大きな宝石のついたその指輪に、プランは見覚えがあった。
「ああ。確か魔法が使える指輪でしたっけ?」
「うん。他の人にとってどうでも良い物かもしれないけど、私にとってはこれは生きる為に必要な物であり、それこそ……心臓そのものと言っても良い位なんだ」
「心臓……という事はそれがない時は……」
ジルは頭を縦に動かした。
「私は今まで生きていなかった。強引に延命処置を受けていただけなんだ。今はこんななりだが……これでも良くなっているんだよ」
そう言ってジルは自分の悲惨な体を見せる様に両手を広げた。
プランはようやく、クリア神がプランに伝えたあの過酷な依頼の本当の理由を知る事が出来た。
「……はい。私の目から見てもとてもよろしく見えます。しっかりと笑えていますし、目に活力もあります。本来その状態から体を動かしてのリハビリなんて笑う余裕がないほどに苦しむはずなのに……。その意思の強さに私は心の底から尊敬を覚えずにはいられません」
そう言ってプランは嬉しそうに、笑った。
リハビリの過酷さ、苦しさ、挫折の凄まじさ。
それこそ、兵士という過酷な訓練をした者であっても心が挫けそうになる位である事を、それを励まし手伝った経験のあるプランは良く知っていた。
だからこそ、ジルの事情を知らずともその心の強さならばプランは良く理解出来ていた。
そんな誰かの為に笑えるプランを見て、ジルは頷いた。
「……私が今、ここに来たのは間違いではなかった。姉上、申し訳ないですが今回私は姉上ではなく彼女に付きます」
そう言って微笑むジルを見て、メリア王妃は苦笑いを浮かべた。
「理由は?」
「指輪を命がけで届けてくれた事が一つ。私の元に届く可能性は零でした。それを、理由はわかりませんが彼女達が動いてくれた。おかげで私はここにいます。自分の力で歩けています。もう一つは……姉上と兄上以外で私を褒めてくれた人だからですね。それに、悪い人には見えませんから」
「……はぁ。弟が独り立ちして嬉しい様な悲しい様な……。いえ、悪い事じゃないから喜びましょう」
溜息の後苦笑いを浮かべ、メリア王妃はそう言葉をもらした。
「というわけで、レディ。一応名前は知っていますが、私はまだ聞けていませんので。是非貴方の名前を呼ぶ機会を私に与えて下さいませんか?」
そう若干気障ったらしくジルは言葉にし、プランは自分が名乗っていない事に気が付いた。
「失礼しました。平民のプラン。ただのプランとお呼び下さい」
「はい。プランさん。姉上同様よろしくお願いします。そしてプランさん。一応尋ねますが……貴族かそれに準ずる立場ではありませんか?」
その言葉に少しだけ驚いた後、プランは首を横に振った。
「いいえ! めっそうもない。ただの平民で畑仕事が得意な村娘ですよ」
「……うーん。姉上ではないですが……確かにこれは……」
そう言葉にし、ジルは困った顔を浮かべた。
「とりあえずプランさん。姉上は貴方に疑いを覚えています。それについて、少しだけ説明させていただきますね」
そうジルが言葉にした瞬間、メリア王妃はジルとプランの為に紅茶を淹れに部屋を出た。
非常にあいまいであやふやだが、貴族の諸法、作法の影がプランの動作から薄らと見える。
隠しているというよりは見習いで身に付いていない程度の作法なのだが、それでも間違いなく貴族としての立ち振る舞いを学んだ事に外ならない。
作法をマスターしている者は決して少なくない。
それこそちょっと良い商人や上昇志向の強い兵士、武官などは覚えている事もざらであり、何なら冒険者学園でもそれ用の授業もある。
ただ、中途半端に覚えているというのは非常に珍しい。
学ぶ機会がある者は普通しっかりと覚えて帰るからだ。
だからこそ、プランの中途半端かつ下手くそな貴族作法は怪しく映っていた。
それとあの教会の出したクーデター鎮圧の依頼。
シュウという卓抜した交渉術と話術を持つ逸材がいたにしても、それでも元兵士、武官候補のあの依頼を少人数で受け、更には完璧なまでに制圧したというのは異常としか言いようがない。
そしてそれ以上に王妃が猜疑心を持つにいたる最大の問題点、それはプランが前会った時パーティーで会ったと言葉にした事だった。
メリア王妃は記憶力に自信がある。
そのメリア王妃は、プランとどのパーティー会場でも見た記憶がなかった。
とは言え、人の記憶は曖昧な物であり、忘れたり間違いを起こしたりというのは自分に自信のあるメリア王妃であっても当たり前に起きる事である。
だからメリアは――自分の参加したパーティー全ての記録を調べ尽くした。
そしてその結果プランという名前は当然見かけず、名前が違ってもそれに準ずる人物は一人たりとも発見する事が出来なかった。
「と言う訳で正体が怪しいと感じた姉上は依頼の達成者という名目を使いプランさんをこの場に呼びました。ご理解いただけたでしょうか?」
ジルの言葉にプランは真剣な顔で頷いた。
「そう。どれだけ調べても、貴女の過去は見えなかったの。……貴女、一体何者なのかしら?」
表情を隠しもせず、疑いの気持ちを見せながらメリア王妃はプランにそう尋ねた。
ジルもメリア王妃も、プランに対し絡め手を取らず正面から質問をぶつけた。
逆に言えばそれは紛れもなく、二人からのプランという人柄への信頼の証であった。
そしてプランは……感謝した。
他の誰にでもなく、自分の友達に――。
この様な状況を既に予想していた大切な親友に……プランは安堵の息を吐きつつ心の底から感謝した。
「えっと……私に何があったのか、誰なのかを私は語る事が出来ません」
そうプランが言葉にすると、二人の顔に驚愕が浮かび、同時にメリア王妃の方から何やら恐ろしい気配が漂いだした。
それは獣の様であり、また戦う人の様な、そんな気配だった。
危険を察知したプランは慌てて言葉を続けた。
「でで、でも! 私の身形なり状況なりを証明してくれる人がいます!」
そう言葉にし、プランは慌てた様子で手紙を一通、テーブルの上に置いた。
蝋印で封をされた立派なその手紙。
それはクリア教の物だった。
「……この蝋印は……枢機卿の手紙ですね」
メリア王妃の言葉にプランは頷いた。
「はい。フィーネ・クリアフィール・アクトライン枢機卿が、私の友が用意してくれました」
そうプランが言葉にすると、メリア王妃から溢れていた恐ろし気な気配は霧の様に霧散していった。
「ああ……。そっか……あっち側の関係者かー。プランちゃん。悪いんだけど真偽確認の為一応中見て良い?」
その言葉にプランは頷いた。
メリア王妃は蝋印を破り、その手紙を確認した。
そこにはクリア神がプランという人物はやるべき使命を多く抱えてはいるが、特にこれと言った裏のないノスガルド王国の臣下の一人であると認めていると書かれていた。
「……ええ。事情は察したわ。その上でプランちゃん。一つ良いかしら」
「あ、はい。何でしょうか?」
「……ごめんなさい。今回は王妃として、一臣下である貴女を疑ってしまった事を謝罪させて下さい」
そう言葉にし、本当に申し訳なさそうにメリア王妃とジルはプランに深く頭を下げた。
「や、止めて下さい! 特にジル様。お体に障ります」
「いえ。姉上と私は同罪です。不用意に疑い苦しめた事、どの様に謝罪すれば良いか私にはわかりかねますので、せめてこれ位……」
そう言葉にしながらだが、ようやく歩ける様になったばかりのジルにとって深く頭を下げたままの姿勢でいるというのは相当きつい事に変わりはなかった。
「疑った事、脅す様に取り調べを行った事。それに対し王妃である自分は償わなければなりません。とは言え……あくまで王妃としての範疇でしかその償いを行う事は出来ませんが……。ですから、城を下さいとか貴族にしろとかは出来ません。その上で……償いに足る何かを支払う義務が私にはあります。ですので……何が欲しいか教えて貰えませんか?」
非常に真摯な態度で、メリア王妃はそうプランに尋ねた。
「……とりあえず、そういう話の前に無礼なのですが言葉を崩しても宜しいでしょうか? 見ての通り敬語すら苦手な一般市民ですので」
「ええ。もちろんです。好きな様に発言して下さって構いません。特に……今回非があるのは私です。この場ではどの様な暴言を私に吐こうと私は貴女を罰しないと誓いましょう」
「じゃあそうさせてもらいます。そして……もう良いですよ」
「そんな諦めた事を言わないで……私に償う機会を……」
「いや。そうじゃなくて……ごめんなさいって言ったらもうそれで終わりで良くないです? 今回は国としてでなくてメリア様個人の行動です。個人でなら悪い事をしましたー。だからごめんなさいー。もう良いですー。はいそれで終わり! で良いじゃないですか」
「……は、はい?」
「それに私、相手がお金持ってるから沢山賠償しないといけないっておかしい話だと思うんですよね。そりゃ、私が貴族様なら話は変わりますよ? 領民の為に色々もぎ取らないといけない訳ですし。でも、私は見ての通りただの平民ですので。だからごめんなさいで終わりというのが一番良いんですよ」
そう言ってプランは微笑んだ。
「君に尋ねたいんだ……。王妃という立場にある姉上はそれ相応の物を持っているし色々と便宜が図れる。それこそ、金という話なら平民と一生呼ばれなくなる位にね。それでも、君は同じ事を――」
「言いますよ? それに言ったじゃないですか。沢山持っているとか持っていないとか、そんなの私には関係ない話です。そもそも、沢山あるから沢山上げないといけないって変ですし。欲しかったのは一つだけです」
「それは何か、聞いても?」
「悪いと思ったら『ごめんなさい』です。それだけ貰えたら、別にそんな気にしなくても。私損してませんし。……あ、このパイ菓子は貰って帰って良いです? 賠償と関係なくですそれは食べたいですね。さっきまでは緊張して喉を通らなかったので」
そう言ってプランは自分の掌よりも大きなパイ菓子を取って、嬉しそうに頬張った。
「……本気……で言っているのよねぇ。ええ。見てわかるわ」
メリア王妃はジルと共に苦笑いを浮かべた。
そのプランの行動は見る人が見れば幼稚に映るだろう。
だが、幼稚である事は否定しないが今回の選択はプランが幼稚であるからと言う訳ではない。
プランは金銭の価値も、同時に王妃が謝罪する意味も、ましてやこの国が正しい事に憑りつかれている事も知っている。
その上で何も要求しなかった。
それこそが最も価値のある事だと、それこそも最も対等な関係でいられる、そして貴族に取って最も必要な物であるとプランは良く知っていたからだ。
「プランちゃん――いえ、我が誇り高き民である貴女に感謝と敬意を」
そう言葉にし、メリア王妃とその弟ジルは立ち上がって、プランの方に深く頭を下げた。
それはさっきまでの謝罪とは違い、言葉通り敬意と感謝を示す行為で、そして貴族同士で行われる正式な作法での動きだった。
「え?」
口の端にクリームを付けながら、もう話は終わっていると思い気楽にパイ菓子を食べているプランは間抜け面を晒していた。
メリア王妃は今までと違い心の底からのニコニコ顔となりプランの唇に付いたクリームをハンカチで拭った。
「それはそれとして、せっかくの機会ですから何か困った事はないからしら? プランちゃんと友達になりたいなって下心での言葉だけど。もし私が本当に許して貰えているならだけどね」
「……メリア様が許してくれるなら私は今からでも友達と思いますよ」
「じゃ、そうしましょうプランちゃん」
「はい。メリアさん。……さん付けで良いです? 友達だけどお姉さんですし」
「ええ。良いわよ。でも正式な場では様を付けてね。面倒だけど」
「はい。もちろんです!」
そう言葉にして、二人は握手をした。
プランにとってメリア王妃がただのメリアになった瞬間だった。
その直後、突然ジルが酷い咳で咽始め、二人は慌ててジルの傍に駆け寄った。
「プランちゃん。吐くかもしれないから離れて良いですよ?」
事情を知り、また嘔吐しても一切気にしないメリアはプランにそう言った。
「吐くなら尚の事傍にいないと。誤飲も避けられますし人手もいるでしょ?」
「いや、汚れが……」
「洗えば良いんですよそんなの」
そう言葉にし、プランはジルの背中を優しくさすった。
「……貴女軍医の経験でもあるの?」
戸惑いも迷いなく、吐瀉物で汚れる事すら厭わないプランの行動を見てメリアは呆れた様な顔でそう言葉にした。
見るからに病人であるジルを嫌がり離れる女性は決して少なくない。
事情を知っている人ですら不気味に思う位にはジルの容姿が酷いからだ。
だが、それでもプランは迷わずジルに近づき、そして今嘔吐しそうというのに一切怯みはしない。
一般市民にしては覚悟が決まり切っているプランはメリアから見ても少々以上に凄まじかった。
「そんな経験はないですよ。でも、平民の女性って皆強いですよ?」
そう言いながらプランはそっと紅茶をジルに手渡し、ジルはそれを舐める様に飲んだ。
「……すいません。少々話しすぎた様です。途中ですがこれで失礼を……」
ガラガラ声な上に明らかに苦しそうな様子でそう言葉にし、ジルは杖を付き一人で部屋を退出していった。
「……メリアさん付いていかなくても良いんですか?」
「良いのよ。専属医が何人も待機しているから。それに、もう命の心配もないしね」
そう言ってメリアは微笑んだ。
「それはそれとして貴女の事よ。友達として、何か助けになる事は出来ないかしら?」
「あー。それなら……一つだけ非常にあやふやで誰かに頼る様な内容ではないですがお願いが」
「何何? 出来る事なら頑張るわよ?」
そう言ってメリア王妃はぐっとガッツポーズを取って見せた。
「では、私冒険者学園に通ってるじゃないですか?」
「ええ、そうね」
「私強くなりたいんですよ」
「まああそこに行く位だしそうよねぇ。それでどの位?」
「ずっと先まで……。弱い心を、弱い体を、その全てを私は変えて……強くならないといけないんです」
そう言葉にするプランは明るく話していた今までとはまるで様子が異なっていた。
「……理由を教えてくれる?」
「私の未来を護る為にです」
はっきりと、プランはそう言い切った。
確かに、さっきまでは誇り高くはあったがプランという名の少女はただの少女だった。
どこにでもいる、優しくて元気なただの……。
だが、その言葉を告げた時だけは、その眼差しは確かにメリア王妃と同類のもの、正しく為政者のそれになっていた。
ありがとうございました。




