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4-7話 儲けの少ない依頼


 ノスガルド王国は貴族制度を導入してはいるが王を頂点とした完全なる君主制であり、その権力は王に集中している。

 それ故に、王都の発展具合はあり得ないほどに一線を画している。

 例外として一分野のみが特化している都市も幾つかありはするが、総合力と経済規模で考えれば、王都とその他全ての都市を合わせて比べてもまだ王都に分があるくらいである。


 だからと言って、王都全てが完璧なまでに発展しているわけではない。

 スラム街だけは極力出さない様にしてはいるが、それでもあまり質の高くない区画も王都には残っている。


 それは金銭が足りないといった理由や規模が広すぎて目が届かないという理由もあるにはあるが、一番の理由はもっと別で、そして単純な理由である。

 この世界は、煌びやかで清楚な空気にずっといられる……そんな上等は人間ばかりではなかった。


 理由は千差万別で一言では片づけられない。

 単にソリが合わないというだけの者から犯罪を犯して逃げている者、金銭に余裕のない者やあまり干渉されず生きたい者。

 ただ、そんな彼らにとっては豪華絢爛な王都の表通りよりにある豪勢な住宅街ではなく、外れたオンボロ小屋が帰るべき場所であった。


 そんな王都の端にあるあまり発展していない地区の古ぼけた酒場、そこで今……一つの勝負が繰り広げられていた。


 それは殺し合いと比べれば大した事はなく、所詮はただの娯楽でしかない。

 殴り合ってもいないし武器も手に持ってはいない。

 手に持っているのはお互い五枚のトランプカードのみ。

 険呑な空気もなければ血なまぐささすらない。


 ただし、その張り詰めた空気だけは実戦さながらであった。

 別にこの勝負は()()()()()()()()というわけではない。

 こちらの失う物も少々高くはあるがそれでも挽回が幾らでも可能な金銭のみであり、相手も悪質ではないただの冒険者である為こちらがよほどの粗相をしない限りもめごとには発展しない。

 この緊張感は、単純に勝負なれしている相手が生み出しているものである。


 対戦相手である中年のさえない男は酒を片手にニヤニヤした笑みを浮かべていた。

 筋肉質ではあるが食事情の問題か酒の所為か、たるんだ脂肪も多く付いている様に見え、無精髭にまみれた完全に自堕落で自己管理が出来ないといった様子なのだが……ことカードゲームの賭け事となればどうやら超が付くほどの一流らしく、その空気は実戦さながらとなっていた。


「……サリス。大丈夫?」

 プランは不安な様子で勝負をしているサリスの肩に後ろから手を振れた。

「……ああ。まだ大丈夫なんだが……勝てるかどうかはわからねー。すまん。何とか予算内には勝てる様にするから」

 そう言葉にするサリスの顔には不安が色濃く映っていた。


 ルール事体は単純でベット金を払った後にディーラーが二人にカードを五枚配り、一度だけ好きに変えてその札で追加でベットして勝負するか降りるか決められるという物だ。

 ただしそれに追加ルールとして、イカサマの罰則が決められている。

【イカサマを相手に見抜かれた場合相手に掛け金以上の酒を驕りノーゲームとする事】

 それがこの酒場のルールだそうだ。


 そして現在、サリスは四回連続で負けている。

 こちらの勝利条件は二つ。

 相手が下りずに勝負して勝った場合。

 相手が下りた時にそれなり以上の手札を用意していた場合。

 プランはルールが良くわからないが、『フルハウスよりも更に上の手札なら合格』だそうだ。


 このルールは相当以上にこちらに有利である。

 何故ならば一度でも勝てば良いからだ。


 だが、それだけ有利なルールであっても、外目から見たプランには決して好ましい状況であるとは言えなかった。


「嬢ちゃん。二枚くれ」

 相手の男はディーラーであるエージュにそう声をかけ、クローバーの三とスペードのジャックを手札から捨てる。

「は、はい」

 こういう事に不慣れなエージュは慌てた様子で上から二枚男に手渡した。


「おう。……さて、サリス。おめーはどうする?」

 ニヤついた笑みで男はそう言葉にした。


 当然の話だが、男はイカサマを使っている。

 イカサマの罰則が決まっているギャンブルなど、当然イカサマを使う事が前提であるに決まっていた。


 相手はズブの素人でありイカサマを見抜く事など出来るわけがない。

 だから流石に無一文にするつもりはないが、それでも鴨がネギをしょってきて放置する道理もない。

 それなりに儲けさせてもらろう。

 男はそういう考えで勝負に挑んでいた。


 ただし、相手を見くびるつもりもなければギャンブルそのものに手を抜くつもりはない。

 男にとって賭け事とは神聖なる戦いであるからだ。


「……三……いや、二枚チェンジだ」

 そう言ってサリスはスペードの三と五を捨て、エージュから二枚受け取った。


「……降りる」

 サリスはそう呟き、ベット金を相手に渡した。

「あいよ。さて、次だ次。嬢ちゃん。綺麗にくってくれよ?」

 そう言って男は楽しそうに笑い、安酒を喉に流し込んだ。


 重苦しい空気は続き、息苦しさすら感じるほどだった。

 昼間という時間帯にもかかわらずうだつの上がらない冒険者達は十人以上いて、この勝負を肴として酒を楽しんでいる。

 自分達が外部の人間だからかそんな野次馬すら全員が敵に見え、サリスは酷く辛い気持ちとなっていた。


「サリス。無理しないで良いからね。気楽に気楽に」

 そう言って肩をぽんぽんと叩き、プランはニコニコ顔を作った。

 少しだけ、勝負を自分に任せているプランに八つ当たりしようかと思ったサリスだが――それは止めた。

 そもそも、この苦しい空気を人の機敏に聡いプランが感じていないわけがない。

 プランも同様この苦しい空気を味わい、その上で自分を励ます為に笑っているのだ。

 ならばここは八つ当たりをする場面ではない。

 そう考え、サリスはニヤッと、無理にでも笑ってみせた。


「おう。無理だったら再挑戦する為の金稼ぎ、付き合ってくれや」

「もちろん! だから無理せず気楽にね」

 その言葉にサリスは頷いた。


「あれがそこまで重要かねぇ。いや、少々珍しくはあるが別に二日三日頑張れば手に入るしそもそも買えるだろ」

 男がそう答えるとプランは微笑んだ。

「ま、事情って奴だよ。つき合わせて悪いんだけどさ」

「いいや構わねぇ。俺としちゃコイツが出来たら何の文句もねーよ」

 そう言って男は新しく配られた五枚の手札を持って嗤った。

 その笑顔は昼間っぱらから酒を飲むうだつのあがらない男ではなく、勝負師のソレだった。


「エージュもごめんね? 私だけ何もしないで」

 そう言ってプランはエージュの傍に行きエージュの肩に手を置いた。

「いえ。(わたくし)も賭け事は苦手でハワードさんに任せてしまってもうしわけがないです」

 そう言ってディーラー代わりのエージュは困った顔で笑った。


 ちなみにプランがディーラーでない理由は単純で、カードという物事体触った事がないからである。

 一応娯楽として嗜んだ事のあるエージュと違い、田舎者であるプランはこの手の物がある事すら知らなかった。

 とはいえそれも仕方がない。

 カードゲームという物は質の良い紙を極力均一に作らなければならない為決して安い物ではなく、王都以外では貴族の娯楽である。

 むしろこのような寂れかけた酒場にすらカードが置かれている王都の方が異常な事だった。

 エージュがディーラーをしている理由は単純で、相手のイカサマ対策である。


「サリス。早く取りな」

 その言葉を聞きサリスは苦虫を噛みしめた様な顔で五枚のカードを手に取り……そして眉を顰めた。

「一枚チェンジだ」

 そう言って男は手札を一枚変え、調子が良さそうにニヤリと笑った。


「……サリス。早くしな。何なら降りても良いぞ?」

 挑発する様にそう言葉をかける男にサリスは少し考え込み、そして手札をテーブルに伏せた。

「お? 降りか?」

 その言葉にサリスは挑発的な笑みを浮かべた。

「いいや。勝負だ。ただ、手札は変えなくて良い。このままだ」

「――ほぅ」

 男は興味深そうに声を発し、楽しげな笑みを浮かべた。


「降りても良いぜ?」

 ニヤニヤしてそう声をかけるサリスの様子を男は注意深く観察した。

 ――これブラフじゃねーな。つまりここは降りるべき……なんだが……。

 男は自分の勘とこれまでの勝負経験、そして幾ばくかの好奇心を考慮して――勝負に出た。


「面白い。ならば勝負だ」

 そう言って男は自分の手札を晒した。

 エース二枚とキング三枚、フルハウスである。


 それを見てサリスはにやりと笑った。

「勝負の女神様は俺に付いていたらしいな」

 そう言ってサリスが見せた手札は……。


 スペード、クローバー、ダイヤ、ハートのクイーン、そしてジョーカー。

 つまり、ファイブカードである。


 男は目を丸くして驚いた一瞬後に周囲の空気が一変し、歓声まじりのどよめきが沸き起こった。


「くはは……。この場面でそんな大それたサマ使うたぁやるじゃねーか。良いぜ。俺の負けだ」

 男は自分の手札をその辺に捨てて楽しそうに、そして悔しそうに笑い顔に手を当てた。




「ほれ。どうしてこれが必要だったか知らんが持ってけ。檻代はサービスだ」

 そう言って男は今朝がた捕まえた兎をサリスに檻ごと手渡した。

「おう。……よし、無事だな」

 サリスは檻の中から手を入れて兎の様子を確かめ安堵の息を漏らした。


「いや、まじでどうしてそんな兎が必要だったんだ? 別に返せとか言わねーから教えてくれないか?」

 そう男が尋ねるとプランは檻の間に指を突っ込み、兎の首あたりをかき分け赤いリボンと鈴を見せた。

「……どこぞのお貴族様が飼ってたってわけか」

「ううん。普通のお家だよ。普通のお家の、普通の女の子。ただ、その子にとってこの兎ちゃんは家族同然なだけ」

「……それを先に言ってくれよ。それなら俺だってさっさと手渡すわ」

 そう男が答えて溜息を吐いた。

「でもさ、それしてしまったら貴方一人が割を食うじゃん。せっかく朝から狩りに出たのに。私例えそれが正論だったとしても、誰か一人を犠牲に苦しめる事するの嫌いなの」

 プランがそう答えると男は少し驚いた表情を浮かべた。

「……そうかい。何と言うか……冒険者らしくないなあんたら」

「見習いだからね」

 そう答えた後、プランはそっと男のテーブルに赤い液体の入ったグラスを差し出した。


「あん? なんだこれは? 確かにあんま儲けられなかったけどそれでも多少は勝ってるから俺の方に損は出てないぞ?」

 むしろ小銀貨数枚程度は得をしている男は不思議そうな顔でそう答えた。

「……いや、罪悪感というか……そんな感じ」

 そのプランの言葉で、男は理解した。

「そうか! お前か! お前がアレをやったのか! どうやった――いや、それは聞いちゃいけないな。まあ良い。良く俺の目から逃れてあんな大きな事やったな。最高だよあんた」

 男は怒るどころか楽しそうにプランを褒めたたえ、同時に十数人からプランに対し歓声が巻き起こった。

「ああうん。そっかー。誰も怒らないのかー。そういう場かー。まあそっちもやってたしルール的にそんな気はしてたけどそうなのかー。何か凄いなイカサマありありルールって。まあ良いや。それじゃ、兎ありがとね? 私達は依頼人のとこ行くよ。サリス、エージュ。いこー」

 そう言って女性三人はその酒場を後にした。


 三人が立ち去った後、男は渡されたワインを一気に飲み欲し、悔しそうに呟いた。

「……ああミスった。俺のかっこいいとこ見せた後サリスをお誘いするつもりだったんだがなぁ……」

 男のそんな言葉に周囲の酒のみ達はゲラゲラと笑い男を嘲笑した。




 兎を抱きしめこちらに全力で手を振る女の子を背にし、三人は満足げな表情で歩いた。

「うん。生きてて良かったな本当」

 サリスはしみじみとそう呟いた。

 今回の依頼は飼っていた兎が逃げ出したからその探索である。

 事前に生きている可能性が限りなく低く、また見分けがつきにくい為見つからない可能性も高かった。

 その上、依頼人が女の子で金額も安いと依頼としてみたら最悪に等しい全てが揃っている。


 それでも、プラン達にとっても課題の達成というメリットがあったし……何より泣いている女の子を放置できない。

 そんなわけで情報を探してみると何故か伝言ゲームの様に王都のあっちこっちに移動し、そして生きている状態の兎を手にする事が出来た。

 それは本当に運が良かったとしか言いようがなかった。


「良かった良かった。しかもこれで遅れていた課題も全部終わった事になるし残ったのは月末の課題だけだね」

 そうプランは言葉にした。

 次の月課題は三か月目、つまり学園生の過半数が強制卒業となる難関課題がプラン達を待ち構えていた。


「ま、何とかなるだろうよ。真面目にやってたらさ。それとは話変わるけどさ、プラン、さっきのどうやったんだ?」

 サリスはいそいそとした様子でプランにそう尋ねた。

「さっきのって?」

「またまた誤魔化して。ほれ。ポーカーの時の」

「……ああ。はいはい。あれはねーエージュ」

 プランはそう言ってエージュの方を見て、そしてエージュはサリスの方を鋭い目線で見つめた。

「先に言っておきますが、私は当然ですがプランさんも、ギャンブルの為に利用しようとする事は許しませんよハワードさん?」

 かなりきつめな口調で図星を突かれ、サリスは顔を顰めた。

「ちぇー。まあしゃあない。エージュも知ってるって事は、二人で何かしたのか?」

 その言葉にプランは頷いた。


「私はそこまで凄い事はしておりませんよ。ただプランさんが合図を出したタイミングで数度他の方の目を引いただけです」

「例えば?」

「わざと落としたり声を荒げたりですわね」

「ほー。んでプランは?」

「エージュの手から良さげなカードをぶっこ抜いた。

「……は?」

「だからさ、エージュの手の上で重なっている状態になるじゃん? その時にそれっぽいのをひょいと。んでタイミングあわせてひょいと戻した」

 その言葉にサリスは目を丸くする事しか出来なかった。


 対戦相手は超一流のギャンブラーである事は雰囲気から間違いなかった。

 だからこそ、二人は魔法やら何やらで乗り切ったと思ったのだが、まさかのごり押しである。

 当然の話だが対戦相手はプランもエージュも同様に警戒していた。

 一番可能性が高いのは三人グルでのイカサマだからだ。

 その上で、凄腕に見張られながらプランはあっさりと何のトリックも使わずにソレを成し遂げたという事になる。

 むしろ種がない分防ぐ手段もない上に道具も使わない為、ある意味究極のイカサマと言っても良いだろう。


「……良くクイーン四枚とジョーカーを集められたな」

 その言葉にプランは目を丸くした。

「え? 私抜いたの三枚だけだよ? 何か鎌持った怖い絵柄と女の人二枚。鎌持ったのが強いってエージュ言ってたから」

「……え?」

 二人は顔を見合わせた。


「どうやら、運も味方をしてくれたらしいですわね」

 エージュが困った顔でそう呟くと、サリスとプランはお互い指を差して笑い合った。


「行き当たりばったりばっかだな俺達」

「だね! エージュもごめんねいつもこんな事に付き合わせて」

「いえいえ。楽しくて嬉しいです。それに、ハワードさんもプランさんといる時は下品さも抑えてくれるのでもう私としましても万々歳ですから」

 そうエージュが言葉にすると、サリスは「ちぇー」とぼやき、今度は三人で笑い出した。


 全然バラバラの三人ではあるのだが、それでも三人は何故か馬が合っていた。



ありがとうございました。

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