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4-8話 二か月過ぎてようやく自己紹介出来た先輩達


「……おー。何か……壮観だな。……全員揃うのは本当久しぶりだなぁ」

 ホームルームが始まり、担任であるグライブル・ラスカディはそう言葉にした。

 一月目前半は三か月突破組として編入された先輩四人が忙しく、後半から二か月目頭はプラン達新入生組が忙しかった為、全員揃ってのホームルームは初回の一度目以来だった。


「と言っても、ぶっちゃけ言う事ないし……いや……何かあった様な……」

 いつもの濁り切って死んだ魚の様な無気力な目のままグライブルは少し考え込み、そしてどうでも良い事として脳内で処理し話を切り替えた。

「今日は特に報告も説明もなし。何か質問とかあるかー?」

 帰り支度をしながらグライブルがそう尋ねると、プランは勢いよく手を上げた。

「おーしプラン。ちょくちょく飯くれるから贔屓してやろう。それで何が聞きたいんだ?」

「はい。クラス変えの時期っていつです?」

 現在プランのクラスには出来た当初の時に新入生だった人が八人、三か月在籍していた先輩が四人、そして一年在籍していた先輩が二人である。

 最初から三か月迎えた先輩がいたという事はつまり、頻繁にクラス変えが行われる事に違いないとプランは考えてそう尋ねた。


「んー。最初に言ったよな? 言い忘れてないなら。ここが特別扱いのエリートクラスだって」

「はい。言ってましたね。三か月突破しても学園を抜けそうにない人達で組んだって」

「だからこのクラスはしばらく変更はない予定です。ただ、別のクラスに行きたいなら事前に言ってくれたら配慮はするぞ。特にクコ」

 教師の名指しにクコは露骨なまでに顔を顰めた。


「……なしてクコ君?」

「ああ。俺は良くわからない世界だが、文官になれっていうスカウトがぱねぇんだわ。量も質も。クコが文官になってくれたら先生にもそれなりにマージンが入るしぶっちゃけ文官やるのが一番幸せじゃね? って考えるんだが、行く気はあるか?」

「ない」

「あいよ。んじゃしばらくは断り入れとくわ。他に質問あるかー」

 グライブルはあっさりと引きさがり、周囲をきょろきょと見つめた。

「よーし。特にないみたいだからこれで解散。んじゃお疲れー。先生は生徒に集って甘い物食べる仕事あるからこれで帰るなー」

 そう言ってグライブルは風の様に早く教室を出ていった。


「……やる気が……微塵も感じられませんわ……」

 エージュは目を細め無表情になりながらぽつりと呟いた。




「帰ろうとしているところすまない。ちょっと良いだろうか」

 そう言ってプラン達に話しかけてきたのはクラスメイトで、確かガラティアと名乗っていた男性だった。

 その後ろには男性二人、女性一人が付いている。

 どうやら三か月突破組の先輩四人で何か用があるらしい。


「ああはい。先輩何か御用でしょうか?」

 プランはおそるおそるそう尋ねてみた。

「いや。用というよりはアレだ。お互い忙しくて自己紹介が出来なかったから今少しばかり時間を貰えないかと思ってね」

 その言葉に、プランはぱーっと満面の笑みを浮かべた。

「はい! 是非是非」

 そうプランが答えると、帰ろうとしていた新入生組全員と、ついでに一年突破組の先輩二人も椅子に座り四人の話を聞く姿勢に移った。

「うん。君に話しかけて良かったよ。というわけで、まずは俺から自己紹介をさせてもらおう。俺の名前はガラティア。仲間達からはガラと呼ばれているからそう呼んでくれたら嬉しい。一応四人のリーダーを務めている。使用武器は軽めの長剣と大きめの盾の事が多いかな。あらゆる意味で並の冒険者で、特に特徴もない凡庸な男だが、これからよろしく頼む」

 そう言ってガラはぺこりと頭を下げた。


「……先輩が並って言われると俺の立場ないんですけど」

 自他共に認める器用なテオはジト目でガラの方を見つめた。

「そうか?」

 自分の実力に自信がなく、むしろテオと同じタイプだと自分を想っている為ガラは首を傾げた。

 ただ、テオの言いたい事は多くの者が同意するだろう。

 ガラが普通の冒険者とは思えないからだ。


 実力という意味で凄いという意味ではない。

 そもそも、プラン達新入生が目視で冒険者としての実力を測る事は難しい。

 ただし、少なくとも一点だけ普通ではない部分がある。

 それは容姿である。


 ブロンドを更に黄色に近づけた、まるで黄金の様な美しい短髪はサラサラと風になびき、中肉中背ながら細身でスタイルの良い姿。

 全体的に整った顔立ちの中でもその青い瞳は髪と同様に美しく、彼が愛を囁ければ、間違いなく多くの女性を虜にしてしまうだろう。

 その見た目は誰もが憧れる高潔な騎士の姿そのものだった。


「なあ言いたい事はわかる。だが許してやってくれ。こいつこの見た目コレなのにガチで能力並だから。逆に言えばすげー努力してもその程度って思われる可哀想な奴なんだ」

 ガラの後ろからそんな声が聞こえ、新入生達は「あー」と納得した様な声を出した。

 テオはガラに同情的な視線を向けた。

「……はは」

 物悲しそうに呟くガラの表情は、悲しいほどに様になっていた。


 その後、ガラと入れ替わりにさきほどガラのフォローになっていないフォローを入れた男が前に出た。

「さて、次は俺の番だ。俺の名前はセーブル。ガラと違って顔も良くない、正真正銘の凡人だ。とは言え、槍の腕だけならそれなりに自信はあるぞ。実力ないからこその一点強化。盾すら持たず槍だけを鍛え続けているからな」

 そう言って細身で長身の男はにっこりと笑った。

「……そして娼館通いが趣味と」

 そう背後の女性に言われ、セーブルは顔を真っ赤に染め恨めしそうに後ろの女性を見た。


「どうせすぐバレるんだし良いじゃない。というわけで、私はルージュ。それなりに器用だけど力が足りないからサポート寄りの動き方をするわ。後衛や援護に不安な時に言って頂戴。手を貸すわよ」

 そう言ってルージュと名乗った赤いロングヘア―の女性は柔らかい表情で微笑を浮かべた。


 彼女の印象を一言で言うなら『出来る女性』という感じである。

 美しくはあるが色気が漂うというわけでなく、その分有能そうな雰囲気が醸し出され同時に頼れそうな雰囲気を持った、そんな頼れるお姉さんという印象のルージュ。

 だが、プランにはルージュが大分無理をしている様に映っていた。


「……ちなみに通称でかつ偽名である」

 セーブルがぽつりとそう呟くと、ルージュは名前の様に顔を真っ赤にしガラを睨みつけた。

「ちょっと!? この前の賭けでそれはばらさないって約束したじゃない!」

 さっきまでの雰囲気を全てぶち壊し、サリスを更に煩くした様な雰囲気をしているルージュはそう叫んだ。

「は? 俺達はお前の本名がバレるまで言わないって約束しただけだ。偽りを正すなとは言われていないぞ」

「ぐ……ぐぬぬ」

 そう口に出してからセーブルを睨みつけ、そして元のお姉さんモードに戻ってルージュはにっこりと微笑んだ。

「ごめんなさい。ちょっと本名は色々あって言えないの。まあ、そういう謎めいた部分もあるって――」

「あれ? チョコ先輩って本名隠してたんです?」

 そんなプランの言葉と同時に、ピシリと空気がひび割れ……そしてルージュが笑顔のまま、一ミリたりとも動かなくなった。

 同時に……後ろにいる男先輩三人組は我慢出来ずゲラゲラと大爆笑をしてみせていた。

「バ、バレテやんの……こいつ……ぷっ。……くく……」

 笑いすぎて辛そうな様子で、セーブルはそう囁き、そして再度爆笑を始めた。


「……プラン……ちゃん。どして……知ってるの?」

「え? 入学時机に名札付いてましたし。あー可愛い名前だなーって思って覚えていました」

 その言葉を聞き……ルージュ改めチョコは「あ」に濁点が付いた様な汚い声で叫び、頭を抱えてぐねぐねと頭を振り気持ち悪い動きをしだした。

 後ろの三人は地面にごろ下回り、床をどんどんと握りこぶしで叩くほど笑い転げていた。


「えっと……あの……何か……悪った……です?」

 おずおずとプランがそう尋ねると、チョコは真っ赤になって涙目でプランの肩を掴んだ。

「君は! 何も! 悪くないわ! ただね! 名前が! 悪いの!」

 そう言ってチョコはプランの肩を前後にゆすった。

「そう! 別に嫌じゃないわよ! でもね、名前が可愛すぎるの! 名乗るの恥ずかしいじゃない! わかる!? ねえこの気持ちわかる!?」

 ぐーらぐーらと頭を揺すられながら、プランは薄れゆく意識の中思った。

 ――ああ。名前の通りこの人可愛い人なんだ。

 そう思いながら、プランの意識は闇に――。


「……そろそろ揺するの止めてあげようか。その子ふらふらしてるぞ」

 ガラの言葉にチョコは慌ててプランを揺するのを止めた。

「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」

 何とか意識の残ったプランは苦笑いを浮かべながら頷いた。


「本当ごめんなさい。私テンパるとつい体が動いちゃって……」

 おろおろとしるチョコの様子は年上とは思えなくて、本当に可愛らしかった。

「……先輩。四人の中でたぶん一番面白いっすよね?」

 サリスがそう言葉にするとチョコは全力で首を横に振り、後ろの三人は同時に首を縦に振った。


「……私は、その名前……好き。美味しいそう……」

 ミグはぽつりとそう呟いた。

「あ、ありが……とう?」

 チョコは反応に困りながらそう呟き返した。

 ミグはむふーと満足げに頷いた。


「あーはいはい。話進まないからこれからはルージュ先輩と呼ぶという事で。良いな?」

 クコが話に入りそう言葉にすると、プラン達は頷いた。

「はい。というわけでこれからよろしくですルージュ先輩」

 そう言ってプランがにっこりと笑うと、チョコ改めルージュは泣きそうな顔でプランを抱きしめた。

「揺すってごめんねー! これから良い先輩になるからー!」

 そう言ってぎゅーっと抱きしめるルージュ。

 ただ、どうも力が強いらしくプランは再度意識を失いそうになった。




「……オチを先に言われた気分で気分的に辛いが……ディーだ。四人の中では一番ガタイがでかくて力があるから主に打撃武器を使っている。だから叩き潰すのが得意だな」

 ディーのガタイは他の先輩達よりも一回りほど大きく、そして目に見てわかるほど筋肉が溢れ力強い様子である。

 失礼な話だがあまり速そうには見えない。

 その代わり、力は間違いなく強いだろう。

 そう思えるだけの鍛え上げられた肉体をしていた。


「まあ……先の三人と同様変人ではあるが……正直三人ほどのインパクトは期待しないでくれ。はっきり言って俺は地味なんだ」

 そんなディーの困った笑顔に、テオは自分と同じタイプであると気づき何度もうんうんと同意する様に頷いた。

「ちなみに俺は自分の武器を固定するタイプじゃなくてパーティーによってある程度使い分ける主義だ。『一点集中が一番強いが、それでも得意な武器は最低二つ、出来たら三つは作っておけ――」

「――良き冒険者になりたければな』」

 ディーの言葉に乗っかる様に、プランは男声の真似をした様な気取った声でそう言葉にした。

 それを聞き、ディーはプランの方をじっと見つめた。

「『浪漫に生きる奴は長く生きられない――」

 ディーはぽつりとそう呟いた。

「――だけど浪漫に興味がない奴は冒険者じゃない』」

 プランはそう言葉を返した。

 その瞬間ディーは無言のまま、プランの傍に移動した。

 プランもまた無言で、ディーをじっと見上げた。


 そして二人は無言のまま長い時間見つめ合い、そして……固い握手を結んだ。

 プランは遥か遠方にて同胞に巡り合えた様な、そんな暖かい気持ちとなった。


「……こいつ、古き良き冒険者オタクなんだよ……これ除いたら性格普通でそこそこ有能という奴なんだが」

 セーブルは困った顔でそう呟いた。

「ああうん。ウチのプランもどうやらお仲間らしいから……うん。まあ仲良くなれそうで良かったかな」

 サリスは良いのか悪いのかわからないままそう答えた。

 そう答える事しか出来なかった。


 二人は未だキリッとした顔のまま握手を続けていた。

 その様子はまるで二人だけで交信しているようであった。




 数分後、一緒に軽食でも食べてもう少し詳しくお互いの事を知ろうかという話をしているその時、のろのろした動作でグライブルが扉を開けて戻って来た。

「良かった良かった全員揃っているな。すまん、言い忘れた事があったんだ」

 グライブルはそう言いながらいつもの雛壇に移動し、皆の注目を集める。

「まー、あれだ。定期連絡みたいな物なんだが……不審者が出たらしいから出来るだけ単独行動するなよー。じゃ、そゆことで」

 そう言って教室を去ろうとするグライブルを、プランとサリスは慌てて引き留めた。

「ちょっとちょっと。もう少し詳しく。つーか大事だろ完全に! 定期連絡でも何でもなくてガチの緊急連絡じゃねーか!」

 サリスは掴みながらそう叫んだ。

「いや。この学園入るの容易いからしょっちゅう入り込むぞ」

「……まじで?」

「まじで。大体月に三から五人位くるぞ。と言っても大抵は報告前に捕まるか捕まるよりもひどい目に遭うからあんま新規クラスにまで報告が来ないんだが……それでも数か月に一度ペースでうまく逃げる奴がいてなぁ」

「……俺らはどうすれば良いんだ?」

「別にお好きに。ただ出来るだけ三人以上で行動する事をオススメするぞ。他に聞きたい事は?」

 そう言われ、サリスはプランの方を見つめた。


「捕まえなくても良いの?」

 プランの言葉にグライブルは答えたくないのか、困った様な表情を浮かべた。 

「あー。……賞金も出る。だが、オススメはしない」

「どうしてです?」

「相手が未知である事もそうだが、何より他の学園生も動いているからだ。数年在籍している生徒とトラブルになるのはちょっと先生の保身的にな」

「あ、了解です。どっちにしてもそういう捕縛とか怖いので避けたいですし」

「なら良かった。それじゃ先生は日課の残り物を集りに行く仕事があるからこれで」

 そう言ってグライブルは風となり、まっすぐ食堂に向かって走っていった。


「……んでプラン。本音は?」

「え?」

「いや、お前の事だから誰かの為に捕まえるーとか言い出しそうだなと思って」

 その言葉にプランは首を横に振った。

「ううん。誰もやってないなら少し考えるけど誰かがやってるなら別に。それに怖いのは本当だし」

「そか」

 サリスは少しだけ残念そうにして、それだけ答えた。

 後ろにいるエージュとクコが二人揃ってプランの言葉に同意する様頷いている為、サリスはそれ以上何も言えなかった。


ありがとうございました。

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