2-18話 弱者と強者
プランという存在は良くも悪くも劇薬であった。
それは彼女が異常だからというわけではないのだが……冒険者という環境においては、間違いなくプランは異質な存在であった。
ただの田舎村でなら、彼女はそこそこ人気の出る村娘で生涯を終えただろう。
貧困に苦しむ場所で生まれたのなら、彼女は持ち前の器用さと明るさ、挫けぬ心で救世主となっていただろう。
もし、裕福な場所で生まれたなら彼女は凡人として生涯を終えただろう。
つまり、少々有能で、善良なただの少女というのが彼女の本質である。
そんな普通の少女が、領主としての教育を受け『目的の為に己の感情を配慮しない』大切さを学んだが故に、その行動は多くの者から異質なものと映るようになった。
平民からは貴族の教育部分が、貴族からは平民らしい彼女の凡庸さが、異質に映っていた。
『敵以外の誰かの為に、己の感情を排除し最短の道で多数の幸福を求める』
それが本来の性格と学んだ経験から誕生したプランの今現在の本質であった。
何かを切り捨てる事がどうしても出来ず、常に下のみをすくい上げようとするプランは、確かに領主としての才能が欠けている。
それでも未来領主生活を行い何とかなっていたのは、信頼出来る仲間と部下、民がいたからだ。
だからプランの行動が異質に映る部分が多いのだが、彼女は決して異常者ではない。
異常で突拍子もない行動こそ行うものの、それは全て効率的に多くの人を助けるという目的があっての事である。
プランという人物はごく一般的で善良な少女で、凡庸な一般人と言っても問題はなかった。
だが、それでも彼女は冒険者から見れば異常者にしか映らず、特に底辺に位置するアウトローにとってそれは劇薬を通り越し天敵に近かった。
全く理解出来ない行動。
裏を一切感じない、邪気のないおぞましい笑顔。
入ってきて欲しくない懐に入ってくるその身軽さ。
更に不味かったのは、プランは悪人と呼ばれる人達と触れ合う機会が少なかった為彼らに対する理解度が足りず、ちょっと悪さするけど中身は大差ないくらいにしか思っていなかった。
彼らは皆、何かしら心に闇を抱えているともしわかっていたら、プランはもう少し慎重に行動しただろう。
その結果、プラン本来の目的は三割も達成出来ず……。
それどころか彼ら四人の内三人に未知から来る不安と恐怖、そしてストレスを与えてしまっていた。
プラン、サリス、エージュの三人は食堂に来ていた。
久方ぶりの三人集合、時間帯は昼三時。
目的は当然――おやつである。
「いやさ、確かに無料の食事も美味しいけど、せっかくならねぇー」
プランはニコニコした様子でそう言葉にし、何時もの食堂のおばちゃんに格安有料デザートコースを三つ注文した。
「あいよ。ま、お金を使うのも冒険者の勉強みたいなもんよ。使いすぎないように身の丈を知り、上手に贅沢する。それが出来たら冒険者の卵卒業ね」
そう言った後、おばちゃんは戻って調理の準備に取り掛かった。
「あー何が来るかなー。この時間は待つのが辛くもあるけど同時にまたワクワクして楽しいよね……ってサリス? どしたの難しい顔して」
顔を顰めているサリスは、すっと遠くのテーブルを指差した。
そこにいたのはギャリシー達の仲間であるアフロとスキンヘッド、それとクコの三人だった。
「プラン。いつもみたいに行かなくても良いのか? いや俺としてはかかわって欲しくないのだが……だが、あれはあれで相手への威圧にもなってるみたいだから何も言えん」
そんなサリスの言葉にプランは微笑み首を横に振った。
「行かないよ」
その言葉にサリスとエージュはほっと安堵の息を吐いた。
「そうか。んで、どうしてだ? お前なら獲物を見つけた狼のように、または怒り狂ったイノシシのように特攻すると信じていたのだが」
「私は獣か。だってさ、お友達とお話してるじゃん。邪魔したら悪いよ。一人になったところでゆっくりお話していけば良いんだから。ま、それも上手く行ってないけどね」
そう言ってプランは小さく溜息を吐いた。
「……獣というよりは、獲物が一人になってから狙う辺り暗殺者みたいですわね」
エージュはぽつりとそう呟き、サリスは納得したような顔を浮かべた。
「ほいお待たせ。いつも美味しそうに食べてくれるからちょっとおまけしといたよ」
そう言った後、おばちゃんは三つの皿と三つのグラス、そして大量の普通のパンが入ったカゴをテーブルに置いた。
皿には小さなケーキが二つ乗っており、グラスにはグレープフルーツのような色のジュースが入っている。
パンはほぼ間違いなくサリス専用だろう。
「わーい。ありがとおばちゃん。いただきます」
プランの言葉にサリスとエージュも慌てていただきますと言葉にし、三人は手元にある皿に乗ったケーキにフォークを差した。
柔らかいクリームの感触の後に残る固いビスケット生地の手応え。
もうフォークを差す感触だけで美味しいとわかるそれを、プランは口に運んだ。
…………ぱー。
雲の隙間から出てきた太陽のように、心の底から嬉しそうな顔をプランは浮かべた。
「……これはレアチーズケーキですね。しかも随分手の込んでいる……。よくこの値段でこれだけの物を用意出来ましたわね」
エージュは感心したように気どった言葉を紡ぐ。
ただしその口元はにやけたままだった。
「この学園はね、食材や調味料なんかはめちゃくちゃ安く手に入るのよ。ついでに言えば国から結構なお金も降りるし学費が凄まじいからねここ。だからあんたらもしっかり食べて元取りなさい」
そう言っておばちゃんはその場を立ち去った。
「あのさ、あのおばちゃん俺達が三か月経ってないから大して金払わず生活してるって知ってるよな」
サリスの言葉に二人は頷いた。
「じゃあさ、元取りなさいって何で言ったんだ?」
その言葉にプランは微笑んだ。
「そりゃ、私達が三か月経ってもここに残るって信じてるからでしょ」
そう言われ、サリスは納得したような顔をした後にやりと笑った。
誰であっても、期待されるというのは嬉しい事だった。
「……んじゃ、しっかり食ってしっかり稼いで……。期待に応えないとな」
「そうねー。学費が幾らかまだわからないけど……私達ならきっと出来るよ」
プランの言葉にサリスとエージュは頷き、笑い合った。
「んーやみやみ。この食感が何よりも素敵だわー」
プランは残ったもう一つのケーキであるイチゴのババロアケーキを口に入れながらそう呟いた。
「……何だそのやみやみって言葉」
サリスが聞いた事もない言葉にそう尋ねた。
「良くわかんにゃい。旅行に来た人が美味しいって意味だって言ってたから語感可愛くて時々使ってる。やみやみー」
「そうか……お前は本当に自由だな」
サリスはプランの頭をぐりぐりと撫でながらそう呟いた。
プランはそれにされるがままとなり、嬉しそうに目を閉じる。
エージュは嬉しいような怒ってるような、プラスマイナスの混ざり合った困惑するような笑みを浮かべていた。
比較的人の少ない時間帯の食堂。
そのゆったりとした平穏な時間は突如として終わりを見せた。
テーブルが倒れ、グラスが割れる音が鳴り、怒声の叫び声が響き渡った。
サリスはその音の方角から動くと思われるプランを止めようとしたが……既にプランは立ちあがりその方角に走ろうとしていた。
その騒動の方角は、さきほどのギャリシーの部下達がいた方角だった。
「おい! 止まれ!」
「ごめん。すぐ戻るから」
サリスの声にプランはそんな信用出来ない事を叫び、走り去っていった。
「……どうしますの? なんて聞く必要もないですわね」
エージュはそう呟き、サリスと共にプランを追いかけた。
プランが見たのは、グルディとゲーナが二人がかりでクコをぶん殴っている姿だった。
二人の目には、仲間に向けるとは思えないほどの怒りが込められていた。
――助けないと!
そう思いプランがその騒ぎに介入しようとすると、どこからともなく手が出てきてその動きを阻まれた。
その手の主はプランのサークル先輩であるヴェルキスだった。
「喧嘩の邪魔をするのは駄目だぞ後輩」
ヴェルキスはそう言ってにこっと微笑んだ。
周囲を見ると、グルディとゲーナ、クコを中心に円形の空間が生まれ見物客に溢れていた。
「ヴェル先輩!? 喧嘩って……いえまあ酒場で働いてた時もこういう事もありましたけど、店側は毎回止めてましたよ?」
「だろうな。だがな、この学園は冒険者の学園だ。わかるか? つまりだ、喧嘩程度なら校則違反にならない」
「え、ええ……」
「ちなみに無料で食えるこういった食堂は客が混んでいる時間以外なら喧嘩が許可されているぞ」
柄の悪い人間の多い冒険者だからこそ学園が教えない暗黙のルールを学ばないといけない。
それがこの喧嘩が許可された理由の一つだった。
「……でも、二対一ですよ?」
「ああ。一方的なら介入するつもりだった」
「一方的じゃないですか。体格に負けて、人数で負けて、一回も反撃出来てないじゃないですか!」
ずっとボコボコにされ続けるクコを見てプランはヴェルキスにそう叫んだ。
「そうか? 俺から見れば……負けてるのはあいつらの方だぞ」
「え?」
「目を見ろよ。一人の男のあの目を。あれが虐げられている奴の目か」
そう言われ、プランは三人の目を見た。
グルディ、ゲーナの目は怒りと困惑が見えるのに対し、クコの目は真っすぐで、怒りも恨みもない真剣な眼差しで二人を見つめていた。
「……なんで? どうして……」
「殴るだけが戦いじゃない。倒れるまで自分であり続ける事も戦いだ。ま、何がどうしてこんな事になっているかわからないけど、それでもこれは間違いなく喧嘩だ。力対意地のな」
ヴェルキスがそう言うと、プランは少しだけ悩み、そして――その喧嘩に介入しようとした。
「おいおい。あの少年の誇り高い姿を台無しにする気か? 確かにあの子はきっと倒れるだろう。だが、だからこそそれまでは見守っててやろうぜ?」
「ヴェル先輩。誇りある姿に、喧嘩に男とか女とか関係あります?」
「――いや、ないな」
「でしたら、私も混ざってきます。クコ君の考えは私には良くわかりません。でも……私は彼らと無関係ではないですし、私にも誇りがありますので」
「ほぅ。どんな誇りだ?」
「たとえ仲違いしていても、友人じゃなくても、手を差し出し続ける誇りです!」
その言葉を聞き、ヴェルキスは手を除けプランの背をとんと押した。
「良くわからんが、まあ……意地張って来い」
「はい!」
プランはそのまま、三人の所に走って行った。
きっかけは、些細な事だった。
プランという存在に対しての恐怖により皆のストレスが溜まり続けた。
またギャリシーがプランに対して何らアクションを取らずとにかく逃げの一手を繰り返した事により求心力が下がっていった。
その結果彼ら全体にフラストレーションが溜まっていき……グルディとゲーナの二人はプランを排除する作戦を実行する事に決めた。
グルディはギャリシーに近い地位を得る為に。
ゲーナはプランに手を出すという下劣な目的の為に。
そんなわけで二人は何時ものように子分であるクコを呼び付け、作戦の手伝いを命令した。
クコは拒絶した。
命令を拒絶したのは、これが初めてだった。
クコは命じた事をしないとはっきり宣言し、それどころかギャリシー達の仲間である事も止めると宣言した。
この時クコは、その理由を丁寧に説明した。
ただし、二人はそれに一切耳を傾けていなかったので何を言っていたのかすら聞いていなかった。
わかる事は二つ。
手下がいう事を聞かなかった事。
それと、クコを勝手に手下代わりにこき使っていた事がギャリシーにバレるかもしれないという事。
そう思った二人は力と恐怖でクコを縛り付けようとしたが、クコはそれすらも平然と拒絶した。
その時のクコの目は真っすぐで、そんな目をするクコを見た事がなかった。
言葉で脅した以上、それを実行しなければならないのがアウトローであり力を生業にして生きてきた者の宿命である。
脅しただけで実行しないと今度は自分がクコの立場になる。
だから二人は……その怒りに身を任せクコを殴りつけた。
「このっ! 弱い癖に逆らってんじゃねーよ!」
そう言いながらグルディがクコをに拳を振りかざし、思いっきりぶん殴った。
もう何度目か忘れたくらい殴られた。
二人がかりでボコボコにされた。
それでも、クコは折れるわけにはいかなかった。
「糞が! その目だ。何でそんな目で俺達を見てやがる!? 雑魚の癖に俺らを見下したつもりか!」
そう言ってゲーナはクコを蹴り飛ばした。
怒り任せの一撃に、クコの体は吹き飛び他所のテーブルに激突する。
ぶつかった背中に折れたような痛みが広がる。
それでも、息は出来るしまだ立てる。
クコは立ち上がり二人の元にゆっくりと歩いた。
グルディのように戦いが得意なわけではない。
ゲーナのように体格と力が恵まれているわけでもない。
だからこの殴り合いは絶対に勝てない。
それでも、気持ちだけは負けるわけにはいかなかった。
クコは別に見下しているような目で見ているつもりはない。
クコが見ているのは、幼き頃の自分と祖母の約束だった。
その約束を思い出し、ただまっすぐ前を向いているだけである。
だが、その真っすぐは目は二人にとっては気に食わないとしか言えない目だった。
再度、今までと同じようにゲーナはクコに拳を構え――殴りつける。
ただし、その痛みがクコに現れる事はなかった。
ゲーナとクコの間に、プランが立っていたからだ。
「お前……何してんだ?」
代わりに殴られたプランに対しクコはそう呟いた。
「今までと同じように、皆と仲良くなる為に意地を張りに」
その言葉にグルディとゲーナはぞっとした恐怖を覚え、クコは呆れ顔で苦笑いを浮かべた。
「お前本当に馬鹿だよな」
「うん。知ってる」
クコの言葉にプランは自分の事ながらそう返すと、クコは笑みを浮かべた。
「……お前の所為か! クコのその目はお前の所為だったか!?」
グルディはそう叫び、プランをぶん殴った。
プランはその拳をまっすぐ見つめ、避ける事なく素直に殴られた。
頭を、肩を、腹を殴られ……それでもプランは全く立ち、微笑んだ。
「おい! 俺は勝てないから殴り返さないだけだぞ。お前何で殴られたままになってるんだ?」
クコの言葉にプランは微笑んだ。
「一つ! 私はクコ君だけでなくグルディ君ともゲーナ君とも仲良くなりたい。だから殴らない。二つ。私もクコ君と同じで戦いが苦手! だから戦わない!」
「……馬鹿じゃねぇの?」
クコはそういう事しか出来なかった。
意味がわからなかった。
グルディとゲーナの二人にとって、プランという存在は人かどうか疑うほどで、それほどまで感性が剥離していた。
「……どうせ全員俺らに怯えて見ているだけなんだ。それならこの場で――」
ゲーナは周囲が手を出さない事を誤解しそう呟いた後、下卑た目でプランを捕まえようと手を伸ばした。
「……それは駄目!」
そう言ってプランはゲーナの手をさっと綺麗に躱した。
「……お前、戦えないんじゃなかったのか?」
クコの言葉にプランは頷いた。
「うん。でも、避けるだけなら何とかなるよ。んでゲーナ君! 君がどういう事を考えて手を伸ばしたか何となくわかるよ? 女性ってそういう視線けっこう過敏だからね? でもさ、それをされたら仲良くなる事もできなくなるし説教じゃすまない。だから駄目だよ?」
「あん? 俺が今までそういう事した事がなかったとでも――」
「ないでしょ? そもそも、そういう経験自体一度もないでしょ?」
ゲーナはその言葉にぴたっと止まり……そしてプランの目を見た。
その目はクコと同じようにまっすぐだった。
「……お前も、お前も俺を馬鹿にするのか!」
ゲーナはまるで発狂したかのように怒り狂い、プランを全力で蹴り飛ばした。
避けるのはたやすいわかりやすい攻撃だったが、プランは避けなかった。
丸太のように太い足がプランの腹に直撃し、プランはまるで矢のように吹き飛び壁に激突する。
たった一撃で、プランの服はボロボロとなり左腕に木片が刺さり少なくない出血を起こしていた。
それでも、プランはゆっくりと、まっすぐゲーナの方に歩いて行った。
「……おい。お前何してんだよ? 本当に死ぬぞ? さっきの避けられただろ?」
グルディがプランの状態を見て怯えながらそう言葉にした。
そんなグルディにプランは微笑みを向け、ゲーナの傍に移動し――血に染まった手を差し出した。
「たとえ腕が折れても、私はこの手を差し伸ばす事を、諦めないよ?」
その目は人を馬鹿にしたような目ではなく、同情も哀れみも含まれていない。
どこまでも真っすぐで、シンプルな目だった。
だからこそ、二人はその目が何よりも怖かった――。
グルディは持っていた短剣を鞘から取り出し、ゲーナは怯えた表情で転がっていたテーブルを持ち上げた。
「プラン逃げろ!」
クコはそう叫ぶが、プランは首を横に振った。
ただし、その顔は今にも泣きそうなほど悲しみに包まれていた。
プランは知っていた。
冒険者にもルールがあり、今までは喧嘩の範囲だからスルーされていたと。
ここに居る人達は喧嘩程度で怯えるような人でない。
そして、一度助けてもらったからこそ、次も絶対に助けてくれるとプランは知っていた――。
だからこそ、もう手遅れであるとわかりプランは諦めた。
「このっ!」
そう言いながらグルディは刃をプランに向けて襲い掛かり、そんなグルディごとゲーナはプランにテーブルを叩きつけようする。
クコはプランの前に出て庇おう手を伸ばすが、今までのダメージで思うように体が動かずその場で足を滑らせた。
そして……間に合わないと悟ったクコは、目を閉じ現実から目を反らす。
ガラガラと何かが崩れるような音の直後、地面に人が倒れる音が二度繰り返された。
クコが目を開けると、プランの前に一人の冒険者が立っており、逆にグルディとゲーナが地面に突っ伏していた。
「喧嘩には介入しない。だがな、食堂では料理以外で刃物出すのはルール違反だ。その時点で喧嘩でも何でもなくなりただの殺し合いとなる。流石に殺し合いなら許容できん。お前らの反則負け……。いや、信念を貫いたこいつらの勝ちだ」
そうプランを助けたヴェルキスが言葉にすると、食堂内で歓声と拍手が沸き上がった。
ただしその状態は一瞬で終わり、集まっていた人達は興味を失いさーっとどこかに去っていった。
どうやら良くある娯楽の一種程度にしか思われていなかったらしい。
「……プラン。どうしてそんな泣きそうな顔をしているんだ? 痛いからか?」
ヴェルキスの言葉にプランは首を横に振った。
「ううん。ヴェル先輩。私はね、あの二人にも手を取って欲しかったんです。もう、間に合いませんよね?」
その言葉にヴェルキスは何も答えなかった。
沈黙と、こちらに近づいてくる教師らしき中年男性。
それが何よりの答えだった。
「……おい。何の騒ぎだこれは」
そう声を出したのは、ここにいなかった中心人物であるギャリシーだった。
ギャリシーは倒れている二人とボロボロになっているクコとプランを見て、何となく事情は予想付くがそう尋ねた。
「喧嘩中に武器持ち出して殺そうとしたからぶちのめした。そんで、二人には軽くない処罰が下るだろう」
ヴェルキスがそう答えた後、ギャリシーはプランを無視しクコの傍に寄った。
その顔は、プランが見た事がないほど優しい顔をしていた。
「クコ。何があった?」
「……俺がギャリシーさんの仲間止めたいって言ったら……」
「そうか……。寂しいけど……止めたいって事は、こいつらに虐められていたのか。すまん。気づいてやれなくて」
「それは否定しないけど。止めたい原因はそれじゃないんです」
「ふむ。それを教えてくれないか?」
「俺、真っ当な冒険者になりたいんです」
「……良いじゃないか」
「昔大切な人と、誰にでも優しくなれる冒険者になるって決めたんです。俺、心からギャリシーさんの事を尊敬しています。でも……俺が優しくなりたいのは女性も含めてなんで……。その……」
そう言葉にした瞬間、ギャリシーは手を上げた。
殴られると思ったクコは目を閉じる。
だが、何時までも痛みはなく、そっと優しく頭を撫でられるだけだった。
「最高じゃないか。俺みたいな出来損ないよりよほどすげーよお前。本当、良い夢だ。ま、確かに真っ当になるなら俺らみたいなロクデナシ共の傍にはいられないな。……行ってこい。そして立派になって、大切な人に誇れるお前になれ」
ギャリシーの言葉に、クコは唇を噛み、泣くのを堪えながら頷いた。
「さて、……先輩? 先生?」
ギャリシーはヴェルキスにそう尋ねると、ヴェルキスは「先輩だ」と答えた。
「そか。んじゃ先輩。あいつらに命令したのは俺だ。だから俺も同じ罰を与えてくれ」
ヴェルキスは倒れている二人を指差しながらそう言葉にした。
「……分かった。それなら一緒に拘束させてもらう」
最初にギャリシーが縄を付けられ、続いてグルディ、ゲーナが無理やり起こされ両腕に縄を付けられた。
「……それでは先生、後をお願いします」
ヴェルキスは近寄ってきた先生に三人を引き渡すとそう言葉にして頭を下げた。
茫然としていて何も言えなかったプランは我に返り、食堂を出ようとする三人の背に、ギャリシーの背に叫んだ。
「ねぇ! どうして無理するの!? 私が貴方に何か出来る事はないの!?」
何故かわからないが、ギャリシーの世界に自分がいないような気がした。
そう感じたプランは縋るようにそう叫ぶが、ギャリシーは何の返事もせず、そのまま食堂を出て行った。
ありがとうございました。




