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2-17話 魔法使いというよりも、妖精使いと呼んで欲しい女の子


「ハワードさん。プランさんのあの行動……一体何と表現にすれば良いのでしょうかね?」

 相も変わらずギャリシー達に突撃を繰り返し無理やり友好を結ぼうとするプランの行動に対し、エージュはそう言葉を漏らした。

「友情の押し売り……。いやそんな生易しいものじゃないな。まるで散歩に行くまで頑なに引っ張り続ける俺んちの犬のようで……そうだな。強制仲直り装置とでもいうべきか」

 四人に対しフレンドリーファイア(隠語)を繰り返し恐れと呆れを増幅させ続ける危険な友に二人は妙な感動を覚え、同時にギャリシー達にわずかばかりの同情を覚えた。


「だけどさ……この短期間で効果出てるからなぁ……」

 もうギャリシー達は誰にも嫌がらせをしてこない。

 というよりも、突撃プランミサイルの所為で嫌がらせをする余裕など彼らは持てなくなっていた。

 それだけでなく、ギャリシー達一味の一人であるクコに至ってはどんな考えの変化があったのか非常に真面目となり、席は違えどサリス達とよくよく一緒の授業を受けていた。

「ハワードさんはあの人を見習うべきですね」

 執念すら感じるほど真面目に授業を受けるクコの事を考え、エージュがそう言葉を紡ぐとサリスは苦々しい顔を浮かべた。

「俺だって真面目にやってるぞ。……すぐに成果が出る勉強は」

 そんないつものサリスにエージュは苦笑いを浮かべた。


「……こんにちは」

 サリスとエージュの間に小さな黒い姿の女の子、ミグが現れ、二人にぺこりと頭を下げた。

「おう。どした? 今プランは何時もの恒例行事に行ってるぞ」

 そうサリスが言うと、その奥からヴェインハットが姿を見せた。

 壁に寄りかかりやけに恰好付けた姿で。

「いいや。今日はお前ら二人に用があってきた。プランちゃんは戦闘力には期待しない方が良いんだよな?」

 その言葉にサリスとエージュはしっかりと頷いた。

 本人も臆病で戦いが苦手であり、立ち振る舞いも武術を学んだ痕跡がない。

 どう考えてもただの素人でしかないだろう。


「ならプランちゃんは護衛対象として見るから二人に用事だ。依頼の為にお互いの実力を把握しておきたい」

 恰好以外だが珍しく真面目なヴェインに何も言えず、二人はそっと頷く事しか出来なかった。




 移動した先は小屋だった。

 壁は金属で補強され、固い木で出来た床は新旧問わず無数の傷が出来ている。

 そこは、生徒が模擬戦を行う為だけに作られた部屋だった。

「……こんな部屋良く借りられましたわね。これも無料で借りられますの?」

「んー。ああ。無料ではある。だが……ここは主に少人数での授業や部屋の使えないサークルの活動用に使う部屋だから普通は借りられん」

「え? ではヴェインハットさん。どうしてここを借りられたんですの?」

「ミグちゃんだよ。どうもミグちゃんがいればここを借りる事が出来るらしい。理由はわからん。口数も少ないし秘密主義でもあるみたいだしな」

「そんな事ない。ただ……ヴェインと無駄話すると妙に疲れるし、何かうざい」

 ミグは端的にかつ鋭い本音をヴェインに叩き込み、そして部屋の中央にとことこと歩いて移動した。


「ん。どっちでも良いし二人がかりでも良いよ」

 そう言ってミグはサリスとエージュの方をじっと見つめた。


「おいおい急だな。まあその方が楽で良いが。だがまだ条件とか使う武器とかそもそもヴェインをどうするとかそういうの何も決めてないだろ」

「……んじゃ決めて。私は何でも良いから」

 そう言ってミグは欠伸をかみ殺しながら待つ姿勢に入った。


「んでヴェイン。どうするんだ?」

「……俺は狩人だから不意打ちとか罠専門だ。実力を測るという意味ならミグちゃん一人の方が良い。んで条件だが、ここにある武器なら好きに使って良いと思う」

 そう言ってヴェインは周囲に散らばった武器を指差した。

 斧、剣、槍と何でも武器は置いているがどれも質はあまり良くない。

 ただ、しっかり補強され壊れにくくはなっている。

 そんな武器がゴロゴロと乱雑に投げ捨てられていた。


「……いや武器使えば流石に死ぬだろミグ。せめて刃を潰すか出来たら木製の武器の方が……」

「大丈夫。二人が全力出してもミグちゃんが大怪我するような事態にはならないから」

「――あ?」

 サリスはヴェインのその言葉を挑発を受け取り、露骨なまでに不機嫌な顔を浮かべた。


「怖ひ……。だが……だがそれが事実だ。試しに戦ってみると良い。ミグちゃんはマジでやばい」

「……ああわぁったよ。言われた通り行ってやるよ。そんで魔法使いが万能なわけじゃないって見せてやる。俺が勝ったら……そうだな、終わった後のご褒美であるデートはなしだ」

 その言葉にヴェインは否定も肯定もせず、肩をすくめるだけだった。


「おう。悪いけど舐められるってのは気に食わねぇんだ。お前が悪いわけじゃないんだが……思いっきり行くぜ!」

 そう言いながらサリスはその拳をミグに叩き込んだ。

 喧嘩殺法に近い我流の拳ではあるが、その拳は恐ろしく鋭い。

 渾身の一撃としか思えない重たい拳の連続攻撃。

 それは女性という非力な身から出たとは思えないほど力強く、当たればタダでは済まないと思うに十分な威力を放っていた。

 ただし……当たればだが。


「おお……凄い。本当に強いんだね」

 そう言葉にするミグにサリスの拳はかすってすらいない。

 大して早く動いているようには見えず、上体はほとんど動かさずただ適当にゆっくり歩いているようにしか見えないのだが、それでもサリスの拳は空しか切っていなかった。

「……ちっ。無理か」

 そう言いながらサリスはミグから大きく飛び退く。

 それをミグは追いもせず、次にサリスが何をするのかじっと見つめていた。


「ああ俺が間違ってたよ。偉そうなこと言って悪かった。めっちゃ腹立つがヴェインの言う通り想像以上に格上だわ」

 そう言いながらもサリスの精神は、一切波紋の立っていない水面のように冷静そのものだった。




 魔法使いにもタイプがある。

 剣や槍などを交えて使う近接攻撃併用型。

 弓などを交えて使う遠隔攻撃併用型。

 それとそれらを一切絡めない純粋な魔法使い特化型。


 ミグはそのローブ姿を見るに、どう見ても魔法使い特化型である。


 魔法使い特化型には一つ大きな特徴があった。

 それは、戦い方が仲間に強く依存するという特徴である。

 防御は仲間に任せて自分は目的の為の大型魔法を準備し、相手に致命的な一撃を与える。

 それが魔法使い特化型立ち回りとなる為、どうしても味方に頼らざるを得ない。

 だからこそ、魔法使い特化型は近接戦闘に弱い。


 例え魔法が使えたとしても、近くに敵がいる時に魔法を行使すれば自分を巻き込むおそれがある為魔法の制限を受け、更に目の前の攻撃を避けながら魔法を行使するというのは必要以上に精神力と集中力を使う為非常に難しい。

 それを想定して、サリスは拳でミグを殴りにいっていた。


 そしてわかった事は、目の前のミグは小娘の見た目ではあるがその強さは規格外であるという事である。

 まさか一切魔法を使わずに対処されるとは思ってもみなかった。

 サリスは冷静に、ミグの事を恐怖し戦い方を模索した。




「おい。武器は使っても良いんだよな?」

 サリスの言葉にミグは頷いた。

「うん……。得意な事は、全部見せて?」

「ああそうかい。……せめて一矢報いにゃやってられねぇわ!」

 そう吼えながらサリスは両手持ち用の巨大な片刃の斧を構え、全力で水平にぶん投げた。

 ブンブンと横回転をしながら斧はミグの方に襲い掛かる。

 更にサリスは傍にあった剣を持ち、斧の後ろからミグに向かい全力でダッシュした。


「……なるほどなるほど」

 ミグは納得したようなそぶりを見せつつ、その場を一切動こうとはしなかった。


 横に高速回転する斧を避けるなら左右に大きく移動するかジャンプしなければならない。

 だが、そのすぐ後ろにサリスが居る為大きく避けて隙を作る行動は好ましいと言えないだろう。


 かと言ってジャンプをして避けるのは確実に読まれている行動な上に最も隙の多い行動である。

 それは勝負を捨てるのと同等と言えるだろう。

 とっさの行動ではあるが、サリスはそこまで考え動いていた。


「面白い事するね……」

「まあお前なら死にゃしないだろう。魔法使えばなんとかなるだろうからな」

 そう言いながら、一切の油断なくミグを見続けるサリス。

 そんなミグの取った行動は、半歩後ろに下がるだけだった。

 ただそれだけで、斧はミグに当たらず後ろをすりぬけていった。


 サリスはその目で、ミグの動きをしっかりと見ていた。

 回転する斧を完全に見切り、刃のない反対側位置に体が当たるよう調整し、更に斧の回転を止めないように受け流したのを――。

 斧に触れた瞬間かるく受け流し斧の速度を戻した為、その飛んでいく斧はまるで何にも当たっていないかのような動きをしていた。

「本当うちのクラスは優秀な奴ばっかだな全く」

 そう言いながらサリスは当たる気がしない気持ちのままミグに勢いを乗せ全力で突きを放つ――。

 ミグはそれを一歩横に歩き軽々と避けた。




 剣、斧、槍、槌、弓矢、ブーメラン……。

 とにかくありったけの使える武器を使ってミグに攻撃し続けるサリス。

 ただし、そうであってもミグの体に触れる事すら敵わなかった。

「うん。……本当に強いね。ちょっと感動した」

 無表情でそう言うミグにサリスは何とも言えない気持ちを覚える。

 おそらくその言葉に嘘はないだろう。

 それでも、触れることすら出来なかったというのはサリスのプライドに棘のような小さな傷を与えていた。


「……うん。いっぱい武器使えて凄いね。次はこっちから攻撃してみて良い?」

「……おう。だけどちょっと待てや」

 そう言った後サリスは恥も外聞も捨ててミグに背を向け転がっている道具をガサガサと漁りだす。


 そして、置かれている物の中で最も頑丈そうな盾と木製のクラブを手に持ち、ミグに向けしっかりと盾を構えた。

「おう。待たせたな。良いぞ」

 そう答えると、ミグは少しだけ笑い、唐突に蹴りを放って来た。

 サリスは一切の油断なくその攻撃を受け止め、そして驚いた。

「……軽い。お前攻撃は苦手なのか」

「うん」

 ミグがそう答えるとサリスは苦笑いを浮かべた。


「いや、そりゃそうか。魔法使いだもんな」

「ん……。流石に魔法なしだとその防御抜くのしんどいから、魔法使って良い?」

 その言葉にサリスはニヤリと笑った。

「おう。いっちょ相手してくれや」

 その言葉にミグは頷いて、そっと妖精を召喚した。


「……レディ」

 そう言葉を発した瞬間、ミグの動きは今までの緩やかな動きではなくなり、嵐のような激しい動きに変貌した。

「セット」

 そう言葉を発し、ミグは小突くように拳を振るってきた。

 それをサリスは全力で、一切の油断なく盾で受け流す。


 完璧なタイミングで受け流しに成功した盾に、巨大なハンマーが叩きつけられたような衝撃が流れた。

 もし受け流すよう盾を斜めにしていなければ、盾どころか自分自身も吹き飛んでいたであろう。

 サリスがそう思えるほどにミグの拳は圧倒的な破壊力を持っていた。


「どんどん行くね」

「おう! 来いや!」

 サリスは自分に活を入れるようそう叫び、しっかりと盾を構える。


「チェンジ」

 そうミグが言葉を紡いだ瞬間、サリスは足に小さな違和感を覚え、そしてその正体に気づき戦慄を覚えた。

 足元に疾風のような風が流れていたからだ。

 傷が出来るような強い風ではないものの、逆らおうとすれば足がもつれそうになる程度には風に力があり、逆にその風の流れに身を任せて動けばミグの思うように動かされる。

 そんな、やっかいな妨害技だった。


 サリスは舌打ちをした後、風に逆らわず、それでいて従う事なくその場に足を強く固定し踏ん張った。

「セット」

 そう言って、ミグはさきほどのように恐ろしく思い拳を振るい……サリスは盾で殴るように受け流した。


「……お見事」

 傷一つ負わずそう答えるミグ。

 それに対しサリスは再度舌打ちをし、睨むようにしながら盾を構えた。


「セット……セット。ディレイセット」

 呪文のような言葉を繰り返した後、ミグはまるで瞬間移動のような速度でサリスの傍に接近した。

 咄嗟の事にサリスは驚きつつも必死に盾を構える。

 ……が、それは一手分ほど遅く盾を斜めに構えはしたが力を込めきれずミグに殴られた盾はサリスの手から離れ吹き飛ばされた。

 そんなサリスに無表情のまま、ミグは瞬時に二撃目を叩きこもうとする。

 それに対し――サリスは服の背中辺りを破りながら、隠していたもう一つの盾を取り出し攻撃を受け止めた。


 少し驚いた顔をしつつ、ミグは攻撃を止める事なくラッシュを重ねていく。

 一撃、二撃、三撃。

 盾を持つ右手が痺れながらもサリスは攻撃を必死に受け止め、そしてそのわずかな隙を見計らいウッドクラブでミグの足を掬うように殴りつける。

 ミグはひょいとクラブの上に乗った後、クラブを蹴ってサリスから距離を取った。


「……驚いた。受け切った上に反撃するなんて」

「そうかい。俺的にはさっきのでせめて一撃くらい攻撃を当てたかったがね」

 もう手の痺れも限界に近いのに不敵に笑いながらサリスはそう言葉にする。

「……まだ、やる?」

「あ? 当然だろ? それとも俺の事をここまでの奴だって思ってるのか?」

 その言葉にサリスは驚いた後、今までと同じように拳に力を入れパンチを繰り出した。




 それから五分ほど、ミグの連撃は続いた。

 その全てを受け切ってはいるが盾を持つ手は震え、肩で息をするサリス。

 誰が見ても限界な様子である。


 ゴン!


 鈍い音を立てながら、それでもサリスは盾でミグのパンチを凌ぎ、サリスは左手に持ったクラブで力なく反撃を重ねる。

 誰が見ても限界である。

 それなのに……サリスは戦い続けていた。


「……本当に凄い」

「うるせぇ! 良いからかかってこい!」

 体力も気力もとうに限界で尽きているにもかかわらず、サリスは叫びながら戦いを強制する。


 そんな恐ろしいサリスを見るミグは、自分の方が格上だと決して思っていなかった。

 最初は自分の方が上であると思っていたが、今はそんな事思えない。


 何故ならば、ミグは今のサリスのようにここまで格上相手に食らいつける自信がないからだ。

 絶対的な戦力差で、一撃でも当てれば勝てるはずなのに……それでも未だ弱ったサリスにすら一撃を当てられていない。


 背後に回り込んだ。

 弱った体を転ばせようと妨害もした。

 拳にはフェイントも混ぜたしミスディレクションで攻撃タイミングもずらした。

 圧倒的強者であるミグがそれだけ技術を使っても、サリスは倒れていない。


 それは非常識という言葉以外では考えられない事だった。


「……うん。ごめんなさい。勝てる気がしない」

「はぁ? お前の方が有利だろうが」

「うん。そうだよ? そうなのに、勝てる気がしないの。――このままだと」

「あ? ……お前、何を――」

 そう言った瞬間、サリスの周りに眩く金色に光るロープが現れサリスを武具ごとぐるぐる巻きにして完全に拘束した。


「ごめんなさい。近接で勝てる気がしなかったらずるい手を使わせてもらったよ……」

 芋虫のように転がりながら、それでいてサリスは息切れを起こしながらニヤリと笑った。

「ああ……そうだったな。お前純魔法使いだったわ……。あんまり近接がつえーから忘れてたわ……」

「ん。本当に強かったよ、サリス」

「そうかい。……次は必ず一回は殴るからな」

 そう言った後、サリスは全身の力を抜き、ぐでーと地面に体を委ねた。




「お疲れ」

 そう言いながらヴェインはロープの拘束が解けてもなお地面とお友達になっているサリスに飲み物の入ったグラスを差し出した。

「おう。あんがとさん」

 サリスは上体を起こした後グラスを受け取り一気に胃の中にその液体を流し込んだ。

「……うっま!何だこれ水じゃないのねーのか」

 やけにただ甘いながらも喉ごしの良かった飲み物に驚きサリスはそう叫んだ。

「ライチのジュースだってさ」

「へー。お代わりはあるか?」

 そう尋ねるとヴェインは申し訳なさそうな雰囲気を出し首を横に振った。

「すまん。普通のリンゴジュースで勘弁してくれ」

「いや、文句はないさ。むしろ欲張ってすまん」

「いや、女の子のわがままなら聞きたい。だから言ってくれた方が嬉しい。それと、……戦う前はすまなかった。言い方が悪く君の誇りを傷つけた」

 そう言った後、ヴェインは深く頭を下げた。


「あん? ……ああ、あの事か。いや、別に気にすんなよ。ぶっちゃけ事実だったんだし俺の方が威圧的な態度取って悪かったと思うぞ? 意地はって強がっただけなのにな」

「だが、それがサリスの冒険者としての生き様だったからだろ」

「まあな。ただでさえ女というハンデを背負って舐められやすいんだ。このくらいしないと渡り歩けねぇ」

「……そして、その成果がさっきの戦いか。いや、本当に凄かった」

「凄いのは俺じゃなくてミグだろ。あそこまで強いとは思わなかった」


「……えへん」

 唐突に、そして自然とミグは二人の間に入りない胸を張った。

「……お、おう。いやまじで凄いんだが、こうしているとちんまりして大した事なさそうなのになぁ……」

「ん。……でも、サリスも凄かった。本当に強いんだね」

「おう。あんがとな」

「ん。具体的に言えば二・五ヴェインくらい強かった」


「……どうして俺が基準になってるんだ」

「……何となく?」

 ミグは誰に対してでなく首を横に傾げた。




「さて、次はエージュだけど、行ける?」

 その言葉にエージュは頷き木製の剣を持った。

「行けます。ですがそちらの方こそ大丈夫でしょうか? さきほどハワードさんと死闘と繰り広げてましたが」

「大丈夫。全く疲れてないから」

 その言葉にエージュとサリスは同時に大きく溜息を吐いた。


「……、では、胸をお借りします」

「ん。好きな魔法使ってね」

 そうミグが答えるが、エージュは少し困った顔をした。

「そうですね……使いたいのですが……あいにく私の魔法は建築物に被害が……」

「ああそうだったね。ちょっと待ってて……」

 そう言った後ミグは妖精を召喚し、そして小さく呟いた。


「時よ、止まれ」


 その言葉と同時に、部屋内全ての床、壁、天井に光を反射する薄い透明な膜が貼られた。

「これで氷の魔法なら何をしても建物に被害を与えないよ。あ、水も大丈夫」

 そうミグはエージュに言葉を投げた。


「……どうして、私の魔法が氷であると」

「何が得意かなんて、見ればわかるよ」

 恐れおののくエージュに平然とそう言葉を返すミグ。

 エージュは理解した。

 さきほどの死闘はミグの苦手分野であるからこそ起きた事で、ミグの得意分野で戦う自分はきっとわずかばかりでも拮抗する事は出来ないだろう。

 さきほどのサリスと戦った時ですら、ミグがどんな魔法を使ってどうやって戦ったかすらサリスには理解出来ていなかったからだ。


「ええ。きっと酷い事になるでしょう。だけど、例えそうであっても……私はただ負けるわけにはいきませんの」

 貴族として人の前に立つ者の誇りとして、そして、大切な友の奮闘を見て心が震えた者として、決して恥ずかしい戦いは出来ないとエージュは心の奥に宿った青い炎を強く燃やした。


「まずは……Blizzard!」

 エージュは手をミグの方に向け、強大で視界が白に潰されるほどの暴風雪を生み出した。

 駆け抜ける風は自分も冷たいが、直接雪と風に襲われるミグほどのダメージはない。


 訓練場から雪山のような景色に一瞬で様変わりするほどの強力な魔法。

 それに加えてエージュは手に持つ軽い木製の剣を凍らせて氷の剣とし、ミグに襲い掛かった。


「なるほど」

 そう答えた後ミグはパチンと指を鳴らし、エージュの作り出したブリザードを全て、その寒さすら含めて消し去った。

「は?」

 エージュは驚き茫然としながらも剣での攻撃を止めミグから距離を取った。


「うん。なるほど。広範囲で強力な魔法だね。面白い」

「いやいや……詠唱もなしに魔法を消すって……え、ええ」

「詠唱したよ?」

 そう言いながらミグは指を鳴らす仕草をしてみせた。


「ああはい。そうですわよね。いちいち気にしてたら話が進みませんね! Ice thorns!」

 そうエージュが叫ぶと、ミグに対し細長い棒のような氷が三本ほど襲い掛かった。

 延々と自身の長さ伸ばしてミグに近づいて行く氷の棒。

 それははいきなり左右に何度も枝分かれを繰り返し、無数の氷の棘となり、茨は鳥かごようにミグを囲みその体を突き刺そうと内側に棘を伸ばす。

 ただし、氷はミグの傍に近寄った瞬間溶けて水となった。


「うん。これも面白い魔法だね」

 嫌味ではないだろうが、それでもやはり少し悔しい。

 エージュは貴族的な笑みを張りつけつつ内心で悔しがり、そして次の行動を考察した。


 相手より一手先を、相手の行動を読み事前に対応策を用意する。

 それがエージュの戦い方だった。


「Freezing rock!」

 エージュの叫び声と同時に、空中に無数の氷が生まれる。

 全ての氷が水晶のような結晶体の形状で、限りなく透明に近く透き通っていた。

 それらの氷はミグを中心にして四方八方を囲うように配置され、そして全ての氷は鋭くとがった部分をミグに向けていた。


「……おおー。綺麗」

 そう言った後ミグは後ろに歩こうとして――足を止めた。

 そこには氷で出来た鎖のようなものがあり、ミグを地面と結び付け歩けなくしていた。


「……いつのまに」

「さきほど魔法を溶かされて水になった時にですわ」

 そうエージュが言った直後、氷は一斉にミグに襲い掛かった。


 きっとミグなら何かするだろうという信頼からの全力攻撃。


 それをミグは楽しそうに見つめ、うんうんと頷き納得したような反応をした後小さな声で呟いた。

『ふりーじんぐ……ろーっく』

 その言葉と同時にミグの周囲に紅い氷の結晶が生まれた。

 襲い掛かってくる氷と全く同数の紅い氷は水晶のような氷にぶつかって行き、全てを破壊した。


「――素晴らしい物を見せてくれた事に感謝します。私の負けですわ」

 もう悔しいとかそういう次元でない事をされたエージュはそう呟く事しか出来なかった。


 妖精の魔力も心もとなく、自身にも疲労が残っている。

 それでいて、紅い氷はまだ宙に残りエージュの方を向いている。

 これは負け以外の何でもなかった。


「うん。エージュも凄かったよ」

「そう言っていただけたら幸いです……」

 若干蔭のある笑みでエージュはミグに返事をした。


 自分の作った魔法を完全にコピーされ、しかも氷の魔法に相反する炎の属性まで取り入れて燃える氷を作り、正確に氷を打ち砕くという離れ業をされた以上、エージュは何も言い返す事が出来なかった。


 悔しくはある。

 それでも、それ以上に自分がまだまだ強くなれるという事がわかり、エージュは戦う前より更に強く心の炎を燃やした。






「……それでハワードさん。私が戦っている間に貴女は何をしていらっしゃったのでしょうか?」

 戦いが終わりサリスの元に戻ったエージュはこめかみをぴくぴくさせながらそう言葉にした。

「え? かき氷食べてたし、今も食べてる」

 椅子に座って思いっきりくつろぎながらそう答えるサリスにエージュは更に怒りを覚えた。

「……それは見てわかりますわ。そうでなく、どうして、今ここで、そんなくつろいでいらっしゃるのかと問い尋ねておりますの」

「どうしてって言ったって……砕けた氷が沢山ここに有って、転がってて。んでヴェインが氷をかき氷にする機械とシロップ持ってきて……そりゃこうなるだろ。な?」

 そう言葉にするサリスの横で、ヴェインハットはエージュにもそっと赤いシロップのついたかき氷を差し出した。

「味が気に入らなかったら変えるから言ってくれ」

「あ、ありがとうございますわ」

 あまりにも堂々とかき氷を渡されたエージュは怒るタイミングを失い、すごすごとサリスの横の席に座りかき氷をそっと口に運んだ。

 そのベリーのような味のシロップは想像よりもかなり酸味が強く、それでいて確かに甘みがあった。


「……ヴェイン、私のは?」

 ずごごごごごと何か魔物が出そうなオーラを放ちながらヴェインハットを睨みつけるミグ。

 そのプレッシャーに負けてか、それとも事前に用意していたのかヴェインハットは驚くべき速度でミグにかき氷を手渡した。

 その瞬間にミグから威圧感はなくなりテーブルに座って幸せそうにかき氷を食べ始めた。


「……あれ? 可愛い女の子三人に囲まれてお世話してる今の俺って……これ幸せの絶頂じゃね?」

 そんな頭の悪い発言に三人は無視し、ゆっくりかき氷を食べながら戦いの事と依頼の事についてまったりと話し合った。


ありがとうございました。


遅くなり申し訳ありません。

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