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2-16話 ありきたりな冒険者の話


 クラスメイトの中にいるギャリシーとその一味の数は合計四人。

 その最後の一人、クコはアンニュイとしか言えない暗い表情でベンチに座り、ちびちびと飲み物を飲んでいた。

 背が低いからか幼い印象のあるクコなのだが、その骨格は成人男性でありつつ冒険者特有の身体つきである為決して子供というわけではない。

 おそらく十八か二十。

 どれだけ低くてもプランよりは三才以上は上だろう。


「あれが最後の一人か。今度こそ仲良くなれると良いんだけど……」

 プランの呟きにミグはぐっと両こぶしを握った。

「……がんば」

「ん。頑張ってくるよ。ありがとね。もう戻って良いから」

 そう言ってプランはミグの元から離れ元気良くクコの傍にかけよる。

 それを見たクコは――脱兎のごとく逃げ出した。

 あまりに当たり前のように逃げる為プランは茫然とする事しか出来なかった。

「……あ、あれー」

 流石に一切話す前に逃げられるとは思っていなかったプランは困り果て、ミグの方を向く。

 ミグは少し考え、そして答えを出した。


 正直ミグはプランと違い彼らの事などどうでも良いと思っている。

 そんなミグが考えぬいたプランの為の答えは……。

「追い掛けて……ハントしないと……」

「そうか! わかった行ってくる!」

 特に考えもなかったプランは深く考えずクコに向かって全力で走り抜けた。

 サリスという例外的運動神経の持ち主には勝てないがプランの足は少女とは思えないほどに早い。

 成人男性ですら大半はプランよりも足も遅く持久力もないだろう。

 そんなプランが追いかけている上に、クコの走る速度はそれほど早くない為どう考えても捕まるのは時間の問題と言えた。

 そうプランもミグも思っていたのだが……何故かその日はクコの姿を見つける事が出来なかった。




 翌日、プランはミグから聞いたクコの行きそうな場所を片っ端から探り、クコの姿を見つけた。

 そしてクコもそんなプランを見つけ――鬼ごっこが開始された。

「どうして逃げるのよ!? 私達一言も話してないじゃない!」

 プランは叫びながらクコを追いかけた。

 逃げるクコはそれに返事すらせず、ただ全力で、本気で足を動かし続ける。


 足では圧倒的に勝っているのに、プランはクコに追いつけないどころか距離を開けられていた。

 それは学園内の地形を覚えた差であった。

 学園内なら多少の道は覚えたプランだがクコはそんなのと比較にならないほど道に精通しており、裏道抜け道と道なき道を当然のように走りプランを翻弄しながら逃げていた。

「待ってよ! せめてどうして逃げるかだけでも教えてよ!」

 プランは手を伸ばし限界まで追いかけながらも逃げられそうになりそう声をかけた。

 いつの間にか建物の中に入っていたクコはちらっとプランの方を見て、勝ち誇った顔で答えた。

「皆お前に怯えてるじゃねーか! あのギャリシーさんすら怯えるとかお前やばい感じしかしねーよ!」

 そう言ってクコは建物の中に入って行き、探す事が困難となった。

 今から同じ建物に入ってももうどこかに行ってるだろう。


「……話に行く順番間違えたな。最後にギャリシー君にすれば良かった」

 そんな斜め上な発想をしつつ、プランはクコを追いかける為、手段を選ばない事に決めた。




 更に翌日、予想通り今日も自分を探すプランを見かけ、クコは全力で逃げ出した。

 それに気づいたプランも昨日と同じようにクコを追いかけた。

 ただし今日は昨日までと異なり、プランの足の早さが異常なまでに早くなっていた。

 今まででも恐ろしいほどに早かったのに、今の足の速度は馬かなにかかと思えるくらいに早くみるみる距離を詰められていた。

「やべぇ!」

 何があったのかわからないがこのままだと逃げ切る事など不可能である。

 そう考えたクコは塔のような建造物の十メートルはあるであろう位置にある窓に鍵縄を引っ掛け、するすると壁を登り窓に入った。


 これならしばらく距離を稼げるだろう。

 そう考えていたクコはプランがどう回り道をするか次の行先を決めるまで、じっと見守った。

 プランは壁を右にも左にも回らず、まっすぐ窓の下まで走り……そして跳んだ。

 十メートルはあろうクコのいるところまでプランはまるで羽が生えたかのようにジャンプをし……そして窓の中に当然のように入ってきた。

「つーかまえーた!」

 そう言ってプランは楽しそうにクコの両肩に手を置いた。




 ようやくまともに顔合わせ出来たプランはクコの目に強い感情が込められている事に気が付いた。

 その感情はプランにとってあまりなじみのあるものではないが、決して向けられた事がないというものでもなかった。

 その感情は、羨望と呼ばれるもの。

 理由はわからないがクコはプランに対し強い嫉妬を覚えているようだった。


 沢山言いたい事があった、聞きたい事があった。

 困ってたら助けたいし友達にもなりたい。

 そんなプランだが、最初に尋ねたのは……。


「……私の何が羨ましいか教えて?」

 嫌味でも何でもなく、相手の事を知る為、プランはそう尋ねた。

 出来たらポジティブな事で相手を知りたかったが、クコの瞳に籠った嫉妬は放置して良いほど軽いものとはとても思えなかったからだ。

 そう思えるほど、プランはその嫉妬の感情を強く感じていた。


「……全部だよ。何でも出来て知り合いが多くてコネまで持ってて。今だって軽々とここまで跳んできやがって……」

 その言葉に、プランは少し困った顔で微笑んだ。

「あはは。借り物の力だけどね」

 そう言葉にした瞬間、窓に何かが飛び込み光が遮られた。 


 その窓に映っていたのは妖精だった。

 小さな白い体をふわふわされた妖精。

 ただし、その羽の大きさは通常の十倍はあろう大きさとなって強く羽ばたいていた。

 そしてその妖精に引っ張られるように、下からミグが現れた。


「大丈夫だった……みたいだね」

 そんなミグの言葉にプランは頷いた。

「うん。魔法かけてくれてありがとね。凄く走りやすかったよ」

 そう言葉にすると、ミグはブイサインをプランにしてみせた。


 今回した事は単純で、ミグに風の魔法をかけてもらっただけである。

 風の魔法で移動速度を向上させられる事を知っていたプランはミグに頼み、プランの靴に風の魔法を使用してもらった。

 ただ、その効果はプランどころかミグすら想定外なほど高出力なものとなっていた。

 少なくともミグは十メートルジャンプ出来るような強力な魔法はかけたつもりがなかった。

 その理由は良くわかっていないが、ミグはプランと自分の相性が良いからだと思う事にした。


「……ちっ。どっちにしてもそんな優秀な仲間が多くいて羨ましい事この上ないですよと」

 若干はぶてたような口調で、憎しみを込めクコはそう言葉にした。

「……貴方だってギャリシー君の仲間じゃん。うちのクラスで四人。他にも沢山仲間がいるでしょ」

 その言葉に、クコは鼻で笑った。

「はっ! 仲間、仲間ね! ああ、確かにギャリシーさんは俺の事を仲間に入れてくれるって言ったしあの人だけは俺の事を仲間だと思ってくれているだろうな! だけどさ……他の奴はそうは思ってねーよ。俺はギャリシーさんの手下の、その更に下に位置する下っ端。使い走りに過ぎん。……俺には仲間も、力も、……何もないんだよ」

 そう言って、外の誰でもなく自分を馬鹿にするような笑みを浮かべその場に座り込んだ。

 何もかもどうでも良くなってきたクコの顔には、嫉妬の感情と諦めの感情が混じり絶望を覚えているような顔となっていた。




 ギャリシーは確かに、クコの事を仲間だと思い、仲良くなって共に良くなろうと考えクコを身内に引き込んだ。

 しかし、そう思っているのは本当にギャリシー一人で、クコは彼らにとって仲間ではなかった。

 アウトローが群がっている為どうしても必要以上に実力主義の縦社会となり、そしてクコの戦闘力はその中ではぶっちぎりの最下位。

 クコの存在がパシリになるのに当然の結果だった。

 ギャリシーの前だけでは皆仲間みたいになっているが……実情はそんなもので、クコには何もその手に抱えられていなかった。


「俺には何もない。だから何でも持っているお前が憎い。他の誰でもなく、俺はお前が一番憎い」

 使い走りであるからこそ情報収集が仕事のクコはプラン達の事も調べ、そして知った時には嫉妬にかられた。

 色々な場所からスカウトが来るほど優秀な能力を持ち、当たり前のように自然と貴族階級と仲良くなり、有能な冒険者達が傍に寄ってくる。

 それでいて当然のように商会のコネまで持っているプランという存在が、クコはとにかく気に入らなかった。


「……貴方だって色々持ってるじゃない」

「ほほー。じゃあ言ってみろよ。大して詳しくもない俺に何か俺らしい何かが、人より優れた何かがあるのかよ?」

 答えられないのを確信しクコが小ばかにしたような口調でそう言葉にすると、プランは真剣な表情でクコの顔を見つめた。

「……まず、情報収集能力が高いじゃない。身軽で、隠密に長け、しかも学園内の道だけでなく抜け道まで覚えられるほど調べものが得意。それを合わせて使えるなんて、それだけで十分凄いじゃない。私には出来ない事だよ」

 まるで見てきたかのように言い切るプランに、クコは目を丸くした。


「それと度胸と判断力も素晴らしかったわ。私これでも足に自信あるの。だから最初にあった時、貴方が私を見つけてすぐに逃げなかったら、一秒でも迷っていたら私は貴方を初日で捕まえられていたと思うわ。逃げられたのは不服だけど……逃げると決めてすぐ実行に移したその能力は確かなものよ。才能と言っても良いわ。……逃げたのは不服だけどね!」

 少し怒った口調でそう繰り返すプランを、クコは茫然とした顔で見た。


「それに貴方、とても綺麗な顔してるじゃない。確かに幼い顔立ちって辛いわよね。気持ちはよくわかるわ。でも貴方は私と違ってちんちくりんじゃなくて、幼いながらも端正でぶっちゃけイケメンな部類じゃん。本当綺麗な――」

「わかった。わかったからもう止めてくれ!」

 容姿を女性から褒められた経験などないクコは慌てた様子で困った顔でそう叫んだ。

「そう? 後二つ三つくらいは良いとこ言えそうなのに……」

 そう言ってしょんぼりするプランを見て、どうして他の人があんなにプランから怯えて逃げたのかクコは少しだけ理解した。

 この少女は、天性の人誑しだからだ。

 現に、クコの中にあったプランへの憎しみは既になく、クコは何故かプランの事を恨めなくなっていた。


「……すげー奴だって思ってたけど……本当はやべー奴だったんだな……本当に怖い……。魔物よりお前が怖い」

「……私そんな皆にやばいって言われるほど変かな……」

 プランはしょんぼりしながらそう呟いた。

 その言葉にクコは当然として、ミグすら何も言わず無言になる事しか出来なかった。




 気まずい空気のままではあるが幾分態度が軟化したのを感じプランはおずおずと言葉を切り出し話を始めた。

「ねぇ。ギャリシー君達が追い出されそうだって話したら信じる?」

 プランがそう言葉にするとクコは顔をしかめた。

「何言ってるんだ。知らないわけがないだろう」

「え?」

「真面目が多いクラスに一部生まれの悪い輩を入れて争わせるってのはこの学園の良くある手口らしいぞ。過去例も何件か聞いた」

「そか。知ってたのか……。じゃあ……どうすれば良いの? どうしたら貴方達はクラスに残れる?」

「さあな? ぶっちゃけどうもしようがない。ギャリシーさんはなるようになれば良いって言ってるし放置だ放置。……ま、このままで行くなら追い出されない可能性の方が高いがな」

「どして?」

「……お前に嫌がらせしようって思ってる奴がもういないからだよ。他の奴のちょっかいだってギャリシーさんあまりする気がないし。つーかお前にかかわるのを本気で避けてる」

「ねね。どうして私に嫌がらせのターゲットが集中したの? いや文句を言いたいわけではなくて単純に気になって」

「……別にお前は文句くらい言って良いだろ。んで、悪いが何でかまでは知らん。ギャリシーさんが決めた事だからな。ま、ぶっちゃけお前が目立ってたとかその程度の理由だと思うぞ」

「そか。……うん。皆と友達になるのは難しそうだけど、ギャリシー君達が追い出されるのが何とかなりそうなのはわかったから、それだけでも良かったよ」

「……なあ。お前は本気で、俺達と友達になる為にあんな怪我しても俺達に話しかけ続けたのか? 恨みや仕返しの為ではなく」

 その言葉にプランは満面の笑みで頷いた。

「当たり前じゃない。本気も本気の超本気よ。別にクラスメイトなんだしそうでなくてもせっかく出会ったんだから仲良くして損はないでしょ。まあ……流石に友達はちょっと無理かなーって思ってきたとこだけどね。私はウェルカムなんだけどさー。うん、難しいよね……」

 そう言って困った顔をするプランを見て、クコは溜息を吐いた。


「同じ人間とは思えん」

「私もその言葉良く思うわ。サリスとかエージュのスタイル見てると」

「知るか」

 クコにそう言われプランはしょんぼりとした顔をし、ミグは「仲間」と言ってプランの肩を叩き慰めるような動作を取った。


「ま、確かに俺達はお前に嫌がらせをしようとは思わないが、それはそれとしてあまり仲良くしたいとも思わん。外の奴は知らんが俺は少なくともお前が嫌いだ」

 その言葉にプランは何故か嬉しそうに笑った。

「どうして?」

「結局のとこ初に戻る。羨ましいからだよ。俺は才能がなくて俺は苦しみ続けたからな」

「情報収集とか得意じゃん」

「肉体が優れないから冒険者になる為にはその系統を伸ばすしか道がないんだよ。それですら俺はひぃひぃ言いながら覚えて何とか出来てる程度だ。身内に下っ端扱いされてるって言っただろ」

「……ね、どうしてそんな状況なのに、冒険者になろうって思ったの?」

「あん?」

「他に道はあったでしょ。才能関係なく出来る仕事もこの世には沢山ある。それでも、貴方が冒険者を選んだのはどうして?」

「どうしてって……そりゃ……」

 そう言いかけ、クコは言葉を止めた。

 それは口に出せないからではなく、それを今の今まで忘れていたからだ。


「うん。どうして冒険者になろうとしたの?」

 そう言われて、忙しくて、冒険者になる為に忘れていた自分の『原風景』を思い出したクコは――悲しそうに笑った。

「言わねぇ。てめぇだけには絶対に言わねぇ」

「そか。そりゃ残念。……ここまでかな。話を聞いてくれてありがとね。良かったらまた話を聞いて」

「すっげぇ疲れるからしばらくお前と話したくないんだけど」

「ちぇー。じゃ、またしばらくしたらお話しよ。ミグちゃん。行こ」

 そう言葉にすると、二人はそのまま窓から外に出て行った。


「……普通に階段から降りろよ」

 一人残されたクコはそう呟き、苦笑いを浮かべた。




 クコの覚えている肉親は祖母一人だけである。

 正しくは両親の事も薄らと覚えているが……それは本当に薄らとで、しかも覚えているのは捨てられた記憶のみの為肉親であるという気持ちは全くない。

 父親に捨てられた後、酷く泣いた記憶がある。

 母親はそんなクコを慰めていたが、一週間ほどすれば息子よりも旦那の方を選び母親もまたクコを捨てた。

 幼いクコは二度も家族に捨てられた

 残されたのは、共に捨てられた祖母だけだった。

 その為クコの幼少は決して恵まれたものではなく、幸薄い記憶しか残されていない。

 それでも、決して不幸なものではなかった。

 祖母は捨てた両親などとは比べ物にならないほど、いや捨てた両親を含めて三人分の愛情をクコに注ぎ可愛がったからだ。

 ただし、あまりにクコの事を大切に思い可愛がり過ぎて、祖母はただでさえ少ない寿命をクコに捧げてしまった。


 年寄りと子供二人という少ない収入のほとんどは、クコの衣食住へと消えていた。

『おばあちゃんはもう歳だからあまり食べられないのよ』

 そう言って微笑んでいた。

 そしてクコの衣食住以外の全てを限界まで切り詰め、十年としない内に祖母はそのまま倒れ起き上がれなくなった。

 そこでようやく、クコは祖母が相当無理をしていたのだと理解した。


 クコは後悔した。

 祖母の言葉を疑う知能があれば、嘘を見抜けていれば。

 その後悔により、クコは貧しい身であっても学ぶ事を疎かにだけはしないようになっていた。

 覚える事を怠けようと考えたら、何故かわからないが涙が出て来る。

 だからこそ、冒険者学園でもクコはどの授業も真面目に受け、それゆえに身内では真面目だと馬鹿にされていた。


 寝たきりとなった祖母は、まるでクコに迷惑を掛けまいとするように僅か数日で息を引き取った。

 そんな祖母の遺品の中には、貧しい生活ではありえないような金額がクコの為に残されていた。

『我慢させてごめんね。これで好きな物でも買って頂戴』

 そう、よれよれの字で書き残されていた。

 それが少ない食料を食べる事すら放棄して可愛い孫の為に溜めた、祖母の命の代価だった。


 そんな祖母のたった一つの()()()

 最後の()()の為に冒険者になったにもかかわらず、クコはその言葉を今まで忘れていた。

 才能がない中あらゆる手段を使って必死に冒険者として成り上がろうと努力し、自分の手札を増やしコネを増やす事に命を賭けていた事が原因ではあるが、それでも、思い出した時は少しだけ後悔し……そして思い出させてくれたプランをまた一つ嫉妬し嫌う理由となった。



『貴方はとても良い子で、何でも出来る自慢の孫よ。だけどね、私は貴方を一人にしちゃうのがとても心配。だからね、一つお願いがあるの。良いかしら?』

『うん。……ずっとかわいがってくれたおばあちゃんの願いだもん。何でも聞くよ。……一緒に死んでって言っても喜んで付いて行くよ』

『そんな事されたらおばあちゃん悲しむだけよ。私のお願いはね、出来るだけ人に親切にして欲しいの』

『うん。わかった。人に親切にする。でもどうして?』

『人と人ってのは巡り合うのが運命だからよ。そんな素敵な運命で巡り合った人皆に親切にしていけば、きっと貴方は一人じゃなくなるわ。だって他人じゃなくて、出会う人皆が友達になるんですもの。それに、もしかしたら新しい家族が出来るかもしれないわね。だからね、見ず知らずの人にでも親切にして、困ってる人がいたら手を差し伸べて、そして誰とでも仲良くなれて……寂しさを感じず暮らせるよう、そうおばあちゃんは貴方に生きて欲しいの』

『……うん。わかった。約束する。……じゃあ、僕は冒険者になる! 冒険するんじゃなくて。色々な事が出来るようになって、それで困ってる人を助けて暮らすの!』

『――素敵な夢ね。うん。貴方は私の孫で、何でも出来るとても良い子だもの。きっとなれるわ。皆から好かれる冒険者に……』

 結局それが、祖母の遺言となった。


 その瞬間に、何でも出来る素敵な孫という魔法は解けた。

 現実は何でも出来る子などではなく体格に恵まれず身体能力が低く不器用で学もない、何一つ出来ない出来損ないでしかなかった。


 それでも、クコは立派な冒険者になる事を諦めず、何年も努力をし続けた。

 祖母の事を忘れ、冒険者になる目的すらも忘れ、それでも何かにとりつかれたように冒険者を目指し続け、クコはこの学園に入学した。


「おばあちゃんとの約束を思い出させてくれたのは嬉しいけど……くっそ腹立つ」

 思い出させてくれたプランが、他の何でもなく『幼きクコとおばあちゃん二人にとって理想の冒険者』そのものだった事からクコはそう言葉にした。

 幼稚な自分が考えた幼稚な存在。

 その幼稚さも含めて、プランは正しくそのままだった。

「ああ腹立つ。あんなんになれるわけないだろ……」

 そう言いながらもクコの顔に諦めはなく、その目は嫉妬だけではなくやる気に満ち溢れていた。


ありがとうございました。

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