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8-13話 出発の時


 制作者曰く、その剣は妄想に取りつかれた失敗作であると断言した。

 切れ味という意味で言えば恐ろしい程に鋭く、理論上だけで言えばありとあらゆる物を切断する可能性を秘めた(つるぎ)

 斬るという行動で考えるならこれ以上の究極はないだろう。 

 そう言えるほどまでに特化した理想の一。


 ではどうしてそれが失敗作であるかと言えば……その存在はまさしく机上の空論でしかないからだ。

 その刀身は鋭くて長く、そして刃は恐ろしいほどに薄い。

 物質を切断するという行動に特化したが為のその薄刃は肉どころか鉄の隙間すらも縫う。

 では欠点は何かと言えば、とても簡単な話と面倒な話の二つ、究極を目指したが為に犠牲となったどうしようもない欠陥が二つもあった。


 一つは簡単な事で、薄すぎる事。

 余りに薄い為剣と剣がぶつかるだけで折れ、砕ける。

 この剣はガラスよりは多少マシだろうという程度の耐久力しか持ち合わせていなかった。


 理論上、理想の斬撃を放てば相手を一方的に切断する事は可能だろう。

 逆に言えば理想の角度と速度の斬撃以外なら自壊してしまう。

 また、上手くいった場合であってもその脆さ故に簡単に欠けてしまう。

 石が当たる、木が当たる、それ以外でも風ですら欠ける可能性がある。

 理想を突き詰めた結果自壊し欠けるという最悪の欠点が生まれ、正しく机上の空論でしか成り立たない存在となり果てていた。


 もう一つの面倒な欠点もまた致命的と呼んで余りあるものである。

 金属を透き通りそうな程薄くし、その上で自重に負けず全力で振っても折れない強度を維持したのは正しく素晴らしい技術である。

 故にその剣は、ロングソードに匹敵する刀身ながら恐ろしく軽い。

 あまりに軽すぎて剣を持った気がしない。

 木刀と比べてなお軽く、それこそ綿より少し重い位。

 だからこそ、普通に使えば誰もがまともに触れないのだ。


 そんな欠陥品でどうしようもない武器だが……それでもその剣はその欠点を理解した上で正しく求められて作られた。

 特別な才能を持つ素人の為に、新しい風を持ってきてくれた友人の為に。




 プランは友人がわざわざ作ってくれた剣を握り、その刀身を見つめる。

 長い両刃の刀身は細く、また薄い。

 吸い込まれそうな銀色をしており剣としては歪で、それでいて美しい。

 マキアが事前にこれを本当に使えるのか、折らずに物を斬れるのかと相当不安がっていた為プランも多少は心配していたが、握った感じ全然問題なさそうである。

 というよりも、思った以上にしっくりきている。

 握った手を捻り重さを確かめる。

 手首は全く傷まず、思う様に剣は動いてくれた。


 一応予備として短く軽いショートソードも用意してもらったが、おそらくこれがあれば十分だろう。


「んー。良い感じだけど……それでまきちー。私は何を斬れば良いの?」

 本当に使えるのかしっかりテストをすると言うマキアにトレーニングルーム内でプランはそう尋ねた。

 その言葉に合わせてマキアとサリスは幾つもの木製ダミー人形を運び、プランの前に均等に置いていった。

 ただし、その全てがフルプレートメイルを身に纏った状態で。


「とりあえず予備も含めて十本用意したわ。だからその十本が折れてしまう前に一体倒してみて」

 マキアは自分でも無茶であると思いながらそう言葉にする。

 普通のロングソードですら鎧を断ち切るのは難しいのにそれよりも何倍も脆い剣でなんて無茶ぶり以外の何でもない。

 だがそれでも、それ位出来ないのならこの剣はこのまま廃棄にした方が良かった。

 すぐ折れる剣など職人としてあまり認めたくなく、それを友人に使わせるのを心苦しいと思うのもまたマキアとしての心からの本音だった。


「あい。んじゃ……鎧壊せば良いんだよね?」

「うん。剣を折らない様にね。そうね……五、いえ、壊した時六本以上残っていたらトーナメントに持って行って良いよ」

「はーい。んじゃ鎧チャレンジするから早く早く」

 プランはわくわくといった様子でサリスとマキアが外に出るのをせかす。

 まるで子供の様なプランにマキアは溜息を、サリスは笑顔を見せ手を振りながらトレーニングルームを退出した。


「……心配だ。剣が折れて怪我しないかな……あれ人に対しては恐ろしく有用だから折れただけでも危ないんだよね……」

 そんな暗殺等悪い事に使われる可能性もある様な技術であるからこそ、マキアは封印したいという気持ちも持っていた。

 とは言え、軽くて長い剣なんて他に方法が思いつかなかったのも事実である。


「あん? 何だマキア。お前プランが出来るって信じてないのか?」

 サリスの言葉にマキアは苦笑いを浮かべた。

「どっちかと言うと私は私の作ったあの剣を信じていないの。あんな脆い物を武器だなんて認めたくない位に」

「そうかい。だが……あいつはそんな事欠片も思っちゃいないぞ」

 そう言ってサリスはトレーニングルーム内のプランを指差した。


 その様子は自信に溢れ、それでいて剣を信じ切っている。

 そんな目をしていた。




 プランは今まで全力を出せた事がなかった。

 それは手を抜いていたとかそういう話ではなく、出したくても出せなかったと言った方が正しい。

 非力と言う訳で決してないのだが、剣を振り慣れていないプランの肉体が優れた技術の足枷になり全力を出せずにいたのは紛れもない事実であった。


 技術だけは、プランは一流の剣士を鼻で笑える程の才能を生まれながら身に付けている。

 だが、それは所詮才能で、そしてただの技術でしかない。

 どれだけ天才でどれだけ凄くても、肉体や能力に依存しない訳ではなかった。


 エーデルワイスがいた時は魔法による身体強化や重量軽減という手段も使えたが、それでもまだ足りない。

 エーデルワイスがいた古き未来の時ですら、剣を振る筋肉がまるで足りないプランでは自らの極地である理想の剣を再現出来た試しがなかった。


 だからこそ、それは奇跡だった。


 本来なら絶対にあり得ない、重さを無視出来る剣がプランの手に渡るという事実。

 自ら築いてきた絆、盾サークルで作られた詳しいプランの肉体データの資料を見て、未熟な鍛冶師であるマキアが捨てられた技術とアウターの知識に手術用メスの技術を織り交ぜて作った一振りの剣。

 未完成で、未熟で、欠陥品で。

 だが、そんな事プランには関係ない。

 その程度の事、才能の前には誤差でしかない。


 本来のプランなら、その域に到達するまで最低でもあと数年はかかったであろう筋力が足りるという環境に、今この瞬間一足飛びで追いついた。

 だからこそ……それは正しく奇跡であり、剣技の最奥、極致に一歩踏み込むほどとなっていた。




 銀の曲線が乱れ咲き、鎧から鈴の音の様な音が鳴り響く。

 その動作は誰でも見えるほどゆっくりの様にも見え、同時に目で捉えられぬ程早くも見える。

 実体がどこにあるのかまるでわからない。

 その美しく無駄のない動作はまるで踊っている様にも見え、その姿は剣を振るという言葉よりも神に踊りを捧げている様な有様だった。


 そして目を奪われ誰一人時間を知覚出来ない剣舞の時間は終わりを遂げ……プランはくるっと後ろを振り向きマキア、サリス、エージュの顔を見る。

 その目の前でプランはゆっくり……剣を鞘にしまっていく。


 楽器の様な金属音を流しながら剣は鞘に飲まれ、そしてチャキッっと仕舞い切る音と同時に、その場に置かれた十体のダミー人形全ての鎧がバラバラになり地面に落ちた。


 たった一体で良かった。

 一体分の鎧を断ち切ればそれで十分とマキアは考えていた。

 だが、プランは十体全てのダミー人形を軽く斬って見せた。

 しかも、全てのダミー人形に一切傷を付けずに。


「ありがとまきちー。十本、貰って行くね」

 そう言ってプランは微笑んだ。


 まだ怖いし悲しい気持ちする。

 だけど、飲み込んで笑える位にはなっていた。


「……使った後は必ずメンテナンス。欠けていたら絶対使わない。それとは別に予備でショートソードは必ず持っておく事。約束出来る?」

「もちろん。作った人の、まきちーの言う事だもん。絶対そうする」

「そしてもう一つ。これだけ聞いてくれたらその十本はあげるわ」

「別に買うのに。んでその一つって」

「その剣に名前を付けてあげて。貴女だけの剣に」

 そう言って微笑むマキアにプランは嬉しそうにはにかんだ。


 プランのネーミングセンスを知っているサリスとエージュはマキアの選択が大きな失敗であると気付き顔を顰めた。




 やるべき事が決まっている時の時間はあっという間であり、やりたい事の十分の一も成し遂げる事が出来なかった。

 剣は手に入ったがまだ体は鍛え足りていないし、この剣を振る練習も全然足りていない。

 ティロスにも会ってトーナメントに呼んでくれたお礼を言い、出来たら事前に戦闘訓練を受けておきたかったプランだが会う事すら出来なかった。


 期間内の実戦訓練相手は主にソラだったが、その彼女とすら碌に決着は付けられていない。

 圧倒的に耐久力のあるソラに対して技術で速度特化のプランでは千日手に近い上に、ソラは鎧で、プランは重たい剣の所為でスタミナを万全に生かせず、大体十分位でお互いがダウンする。

 だから鎧を着た本気ソラとは一度も決着が付けられていない。


 そんなぐだぐだで成長出来たかわからない数日はあっという間に過ぎ――出発の日となってしまった。


 少々の食料と冒険者用セット一式。

 十本の特注剣に三本のショートソードとその手入れ道具。

 それだけを馬車の中に詰め、プランは見送りに来た人達の方を向いた。


 サリス、エージュ、テオ、ミグ、ヴェインハット、クコ、ソラ、イヴ、マキア、ジュール。

 忙しくて来れず事前に連絡をいれた人も含め、我ながら随分良縁に恵まれたなとプランは誇らし気な気持ちとなった。


「大丈夫? 無理はしちゃ駄目よ? 貴女は冒険者以前に女の子なんだからね? 顔は気を付けるのよ?」

 ジュールはいつもの様にくねくねしながらおねぇ言葉を話す。

 そんなジュールにプランは微笑み頷いた。

「ちゃんと女子力も忘れず鍛えるのよ? 剣の才能? 確かに凄いかもしれないけどそんな物貴方の魅力の前では大した事ないんだからね」

「あはは。そう言ってくれるのは店長だけですよ。……うん。本当に……」

 幼児体形童顔という絶望的なハンディキャップを背負ったプランはそう言葉にして苦笑いを浮かべた。


「……だからだよな。俺みたいにチャラい奴らは回りに寄りつかない代わりにプランの方に行く奴って大体ガチだもんな」

 恋人にしてという声の百倍は嫁に来てくれと言われたプランはサリスの言葉に喜んで良いのか悲しめば良いのかわからず困惑した顔を浮かべた。


「付いて行きたい。けど……」

 基本的にミグは感情をあまり表に出さない。

 だが、今のミグは誰が見てもわかるほど寂しそうで泣きそうな顔をしていた。

「うん。ミグちゃんこっち来てくれる?」

 ミグはプランの言葉に従いとことことプランの前に歩く。

 そんなミグをプランは強く抱きしめた。

「大丈夫。ミグちゃんは一人じゃないから」

「でも……私は……」

「すぐ帰ってくるから」

「……学園辞めて付いて――」

「駄目」

「……しゅーん」

 ミグは落ち込んだ様子ではあるものの、納得したのかプランから離れた。

「サリス。悪いけどミグちゃんよろしく」

「あん? 俺か? 俺より相性良い奴いくらでもいるだろ?」

「ううん。サリスが一番良い」

 例えミグが化物であっても、同じ化物みたいな自分でも平気だったサリスなら大丈夫だろう。

 そうプランは考え、サリスにミグを託した。

「……そうかい。じゃ、しばらくはミグ俺と一緒な」

 その言葉にミグは目を細め、無表情でこくりと頷いた。

「なあミグ。それは嫌だからそんな変な顔してるのか? それとも嬉しいのか?」

「ないしょ」

 その答えにサリスは先行きの不安さを覚え後頭部を掻き空を見た。




「それじゃ、行ってくるね」

 出発の時が来て、プランはそう言葉にしてから馬車に乗り込んだ。

「優勝出来るとは思ってないがな……それでも……ま、お前の凄さ。皆に見せて来い」

 サリスは微笑みながらそう言葉を投げかける。

「どうかご自愛を」

 短く言いたい事だけを伝え、エージュは頭を下げた。


「ま、頑張って来い。俺はどの位プランが凄いかしらん。だが、きっと凄いんだろう。帰ってきたら土産話頼むよ」

 テオはそう言葉を伝え他の人の邪魔をしない様一歩下がった。

「俺からは特にない。強いて言えば、前に伝えた通りの事があれば手紙でも何でも飛ばしてこい」

 そうヴェインハットは言葉を告げる。


「私は知ってたよ。プランが凄い事。たぶんもっともっと凄いって知っている。だから……ああでもやっぱり行ってほしくない」

 うるうると涙目でミグがそう言葉にする。

 そんなミグの頭を肩に乗ったノワールがてしてしと叩く。

 それは慰めているのか叱っているのか、良くわからないが面白い光景ではあった。


 その辺りで、プランを独り乗せた馬車は走り出した。

 プランは後ろを向き、手を大きく振る。

「いってきまーす!」

 大勢の人の声援に応える様、それだけ叫びプランは皆が見えなくなるまで手を振り続けた。




「ああ……。間に合わなかった様ですね」

 プランが去ったその丁度に、今回の発起人であるティロスが姿を見せ苦笑いを浮かべた。

「先生か。伝言でもあったのか?」

 サリスがそう尋ねるとティロスはそっと懐から青白い結晶体によるネックレスを取り出した。

「いえね、お願いした手前報酬がお金だけというのも味気ないと考えまして。それでプランさん良くクリア教の教会に行っていらっしゃる様でしたのでクリア教のタリスマンを用意したのですが……まあ手紙と共に郵送しましょうかね」

「ありゃ。失礼だが意外と気配りが出来るんだな。もっとこう……厳しくてあんまり生徒と接点持たない様な先生に思ってたぜ」

「いえいえ。年寄りが嫌われない様にという処世術ですよ。それに、プランさんには今回ので期待していますからね。少しでも戦う事に怯えずにいて頂けたら……」

「あ、それならもう治ったぞ」

 その言葉に、ティロスは眉をぴくりと動かした。

「ほぅ。そうなのですか?」

 その言葉にサリスはカラカラと笑いながら答えた。

「ああ! あのトーナメントに出るなら生半可じゃ駄目かと思ってな。まあ死にかけたりで大変だったしまだ何か抱えているみたいだが……それでも剣を平然と振れる程度にはなったぜ」

 その言葉を聞き、ティロスの顔に笑みが張り付いた。


「そうですか。それは良かった。では……私も準備をしないといけないのでこれで」

 そう言葉にし、ティロスは足早にその場を立ち去っていった。


「……何だがあの先生、殺気漏れてなかったかしら?」

 ジュールがそう呟くがその声に同意する人はおらず、ジュールはあれ? と首を傾げた。

 

ありがとうございました。


少々更新が遅れるかもしれません。

その時は申し訳ありませんがゆっくりお待ちください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんぼでも待ちますよ(≧▽≦) もちろん続きは気になりますが、区切りも丁度良いところですしね。 リアルを優先してください m(__)m
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