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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第九話 ユージ、エルフの長老たちに謎バリアについて相談する

6/25『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら ①〈下〉』発売記念の複数回更新!

本日23日分、一話目です。


「ユージさん、昨日よりまたちょっと穴が広がってます。ここですね」


「ってことはたぶん門の修復か……」


「ほんとじゃ、壊したはずの門が直っておる……何をバカなと思っておったが……」


「へへー、すごいでしょお祖父ちゃん!」


 ユージがこの世界に来てから6年目の夏。

 まだ涼しい朝、ユージの家の庭にはすでに人影があった。

 アリスの兄で魔眼を持つシャルル、ユージ。

 お忍びで開拓地にやってきたアリスとシャルルの祖父で貴族のバスチアン、そしてアリス。

 コタローはアリスの横で、誇らしげに胸を張っている。そうよ、わたしとゆーじのいえはすごいの、と言わんばかりに。


「ううむ、質感も本物じゃ。つまりこれが魔素からできたと……ふうむ」


 謎バリアの魔素が減る理由を探るため、昨日ユージが壊したのは家の正面の門であった。

 門以外でも例えば車庫、鏡、ガラス、内壁……さまざまな箇所が直ることをユージは確認している。

 穴が空く進行速度を見るに、これもどうやら魔素によるものだったようだ。


「物理にしろ魔法にしろ攻撃を防いだ時。何かを修復した時。みんなの予想通りか……あとは電気とかガスとか水道、ネットを使ってる時だけど、こっちはいまのところ変化が見えない。関係ないのか、それとも本当にちょっとずつなのか」


 ユージは実験結果を書いた紙を見つめてブツブツ言っている。危ない男である。違う。真剣に考え事をする時、人は自然と独り言が出るものだ。決して危なくはない。隣に座った人に不審な目で見られても、決して危なくはないのだ。


「今日は一時間ずつ、電気とガスと水道を大量に使ってみる、か」


 タイムスケジュールを取り出したユージが独りごちる。

 アリスもシャルルもバスチアンも、ユージの声は聞こえたようだが特に返事はしない。

 いつものことなので。

 バスチアンもシャルルも、ユージの扱いがわかっているようだ。


「みんな、ちょっと待っててね。とりあえず蛇口を全開にしてくるから」


「はーい! ユージ兄、アリスも手伝う?」


「あ、そうだね、お願いしようかな。バスチアンさん、シャルルくん、ちょっと待っててください。コタローもね!」


 そう言ってアリスを連れて家の中に戻るユージ。

 バスチアンとシャルルは所在なさげであった。

 もう、まわりがみえないんだから、いつものことだけど、と首を振るコタローも。



「お待たせしました。あれ? コタローは?」


「ユージさん、その、向こうから遠吠えが聞こえて、コタローが走っていきました」


「そっか、俺たちは家の中にいたから聞こえなかったのか。誰か来たのかな?」


「ユージ殿、ケビン殿が戻ってきたか……あるいは、ハル殿ではないかのう? 二人とも昨日戻ってこなかったのじゃ、そろそろ戻ってきたのではないか?」


「きっとそうだよユージ兄! あっちから聞こえたってことは、ハルさんかなあ」


 遠吠えが聞こえたとシャルルが差した方角は、ホウジョウ村の西。

 水路がある方向だと見て取って、アリスはエルフのハルが帰ってきたのだと予想していた。


「とりあえずここはあと一時間弱待ちだし……よし、見に行ってみようか!」


「はーい! ほらシャルル兄、行こ!」


「アリス、お祖父ちゃんとも手を繋いでくれんかのう」


「じゃあお祖父ちゃんはこっちね!」


 右手をシャルルと、左手をバスチアンと繋いで。

 ご機嫌なアリスを連れて、ユージはホウジョウ村の出入り口に向かうのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「おーい、ユージさん!」


「ハルさん! それにみなさんも!」


「うふふ、ユージさん。来ちゃった」


「来ちゃったって、また……それ、いつも言わなきゃいけないんですか? イザベルさん?」


『仕方ないのじゃユージ殿。テッサの教えじゃからな』


『来ちゃった、で片目をつぶるのじゃろ? どれ、儂も』


 ホウジョウ村の外、水路の脇に立っていたのは、アリスの予想通りエルフのハルだった。

 ハルだけではない。

 リーゼの祖母で稀人のテッサの嫁だったイザベル、ほかに長老会に参加していた二人のエルフの姿もあった。ウインク付きで。誰得である。


「みなさん、わざわざありがとうございます! あ、でも村には知らない人も……」


「む? まあ長居しなければ大丈夫じゃろ。水路の時も問題はなかったしのう」


「は、はあ……」


 集まったエルフたちに、バスチアンとシャルルは目を丸くしている。

 ハルと交流があったとはいえ、二人が会ったエルフはあくまでハル一人。

 合計4人のエルフが並ぶ姿など、王都でも見たことがない。

 というか通常は見られるわけがないのだ。

 二人が驚くのも当然である。


「ああっ、そうだ! あのねシャルル兄、お祖父ちゃん! リーゼちゃんのお祖母ちゃんはね、アリスのご先祖さまと友達だったんだって!」


 ニコニコと笑うアリスの言葉に、バスチアンとシャルルが固まる。


「ま、まさか、その、こちらの方は……」


「お祖父さま、落ち着いてください。ほら、エルフの方々は長命ですから、必ずしもそんなことは……」


「そう、こちらがアリスちゃんのお兄さんで、こちらがお祖父ちゃん。ふふ、赤い髪は一緒なのね。アリスちゃんほど似てないけど、面影はあるわ。……初めまして、私はイザベル。アリスちゃんの血族なら、テッサの嫁の『風神姫』って言った方が通じるかもしれないわね」


 イザベルの挨拶にビクリと体を震わせるバスチアンとシャルル。

 と、二人が跪いて畏まる。


「あれ? どうしたんですか二人とも?」


『人間とは難儀なものじゃのう。儂らは気にしておらんのに』


『ユージ殿、イザベルはテッサの嫁。ほれ、テッサはこの国の初代王の父親で、嫁や子供は貴族となったのじゃろう?』


 バスチアンとシャルルの態度を不思議がるユージに解説したのは、二人の長老だった。

 エルフの言葉を使ったためバスチアンとシャルルにはその言葉を理解できないが、ユージにはわかる。


『あ、そういえば。その……どうしましょうか?』


『アリスちゃんの血族ということは、『炎神姫』の子孫じゃろ?』


『ならば儂らも知った仲。よけいに畏まることはないわい』


「『わかりました』バスチアンさん、シャルルくん、そんな畏まらなくっていいって」


「そうよ、二人とも。ねーアリスちゃん!」


「ねー!」


 ねー、ではない。

 少女ぶった仕草をしているが、イザベルは長命種のエルフにおいても長老なのだ。

 見た目は30前後だが、実年齢を考えたら「ねー」などとアリスと通じ合う歳ではない。

 まあほかの長老もそんなことは言わなかったが。


「ありがとうございます『風神姫』さま。建国時の活躍はいまもなお語られております」


「あの、よかったらボクにも魔法を教えてください!」


「シャルル兄、あとでアリスと一緒に教えてもらおうね!」


「ええ、いいわよ。ユージさんと話した後でよければ、だけどね」


 これを機に、と勢い込むシャルル、当たり前のように話すアリス。

 温度差こそあれ、どうやら二人は魔法を教えてもらうことになったようだ。

 本題を片付けたら、ではあるが。


『ほらほら長老たち! ユージさんと話すのが先だよ!」


「ハルさん、ありがとうございます。じゃあみなさん、ウチに案内します!」


 このままではいつまで経ってもまとまらない。

 ユージは大声を出して、開拓地にエルフたちを招くのだった。

 ユージ、進歩である。

 あるいはユージなりに謎バリアの穴に危機感を抱いていたのかもしれないが。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



『なるほどのう』


『うむ、ハルには聞いておったが……イザベル?』


『あら、だってさすがに話すわけにはいかなかったでしょ? そもそもコレは別モノよ』


『あの……みなさん?』


『ユージ殿、人払いを頼む。エルフの言葉はわからないであろうが、念のためな。ハルも離れておれ』


『あ、はい、わかりました。ちょっと待ってくださいね』


 なんだろうと首をひねりながらもエルフの長老の言葉に従って、家の前の広場にいたアリス、シャルル、バスチアン、ハルにどこかで時間を潰すようお願いするユージ。素直か。

 四人は気を悪くするでもなく、では今度こそ儂がアリスに魔法を教えよう! などと騒がしく去っていった。

 バスチアン、昨日お湯を沸かす際にアリスに振られたことを気にしていたようだ。爺バカである。


『えっと、これでOKですかね? うん? コタロー?』


『うむ、いいじゃろう。ユージ殿、これから話すことはエルフの里最大の秘密じゃ』


『え? その、いいんですか?』


『ええ、今回の話と関係あるかもしれないもの。だからハルの話を聞いて、私たちが来たのよ』


『ユージ殿。エルフの里に来る際、あるいは里を見た際におかしいとは思わなかったか?』


『え? えっと、船で潜るってすごいなあと思いましたけど……そういうことじゃなくて?』


『うむ、まあ当たらずといえども遠からずじゃな。ユージ殿、エルフの里は盆地じゃったろう? なぜ船で行かねばならぬ?』


『その、山が険しいんじゃないですか? 滝があった山も、あの先はけっこう急っぽかったですから』


『ふふ、ユージさんはまっすぐね。ユージさん、里から周囲を見たでしょ? どうだった?』


『えっと、山に囲まれていて……あの、さっきからなんでしょうか?』


『うむ、もったいぶるのはここまでにしようかのう』


『ユージ殿。エルフの里は、山に囲まれた盆地にある。それは確かじゃ。じゃが、里に入るのは船で潜って水路を通る方法のみ。おかしいとは思わぬか?』


『え?』


『山に囲まれている。でも、ぜんぶがぜんぶ険しい山じゃないもの。低い山も見えたでしょう?』


『あ、そういえば……』


『じゃが、里に入る方法は一つだけなのじゃ』


『うむ。儂ら長老が、エ(・)ル(・)フ(・)の(・)里(・)に(・)結(・)界(・)を(・)張(・)っ(・)て(・)お(・)る(・)か(・)ら(・)な(・)』


『……はい?』


『里に暮らすほとんどのエルフも知らない、エルフの里最大の秘密。山にそって、害(・)意(・)あ(・)る(・)存(・)在(・)の(・)侵(・)入(・)を(・)防(・)ぐ(・)結(・)界(・)が(・)あ(・)る(・)の(・)』


次話、本日23日18時投稿予定です!


都会では早売りというヤツがあるんでしょうか。

二巻目ですけど『①〈下〉』ですのでご注意ください!

店舗特典は活動報告かオーバーラップ文庫さまの公式ページをご覧ください!

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