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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第八話 ユージ、相談しながら謎バリアについて調べる


 ホウジョウ村開拓地、ユージの家の門の前。

 小さな広場の切り株のイスに、何人もの人が座っていた。


 中心はホウジョウ村の村長で開拓団長、この村担当の文官となることを決めたユージ。

 アリスとその兄・シャルルは並んで腰掛けて、今日も手を繋いでいる。

 その横にはアリスとシャルルの祖父で、お忍びで開拓地に来ている貴族、バスチアン・ドゥ・ゴルティエ侯爵。

 ユージの隣にはケビンが座っていた。

 ユージの足下には、わたしもききたいの、とばかりにコタローも。


「シャルルくん、今日もいろいろ手伝ってもらうことになると思う。よろしくね!」


「はい、ユージさん。なんでも言ってください。ユージさんはボクとアリスとドニの恩人ですから」


 アリスと同じ赤い髪を持つシャルル、ユージの頼みを聞くつもりのようだ。なんでも。

 王都の上級学校に通うシャルルは、いまは夏期休暇中。

 夏休みを利用して、バスチアンとともにお忍びでこのホウジョウ村開拓地に来ていた。


「ユージさん、ハルさんがいないようですが、何か言ってましたか?」


「あ、はい。ちょっとボクじゃわからないから、エルフの里に行って長老に聞いてくるって。誰か連れてくるかもしれないって言ってました」


「そうですか」


 王都を拠点にしている1級冒険者でエルフのハルは、昨日、エルフの里へと向かっていった。

 早ければ今日、戻ってくる予定になっている。


 『魔素が見える』魔眼を持つシャルルがユージの家や家にあるもの、敷地を見た結果、ユージの家を囲う謎バリアに穴が空いていることがわかった。

 しかもその謎バリアは、電気・ガス・水道のライフラインやネット、『壊れた箇所が直る』というユージの家の謎機能の大元かもしれない。

 過去には穴がなかったことから、今後、なんらかの理由で穴が広がってもおかしくない。


 ユージは原因を探るためにシャルルやバスチアン、ケビン、ハルに協力を依頼したのだった。

 ひとまずハルは自分ではわからないと、エルフの里にいる長老に話を聞きに行ったようだ。


「ユージ殿、儂は先に頼まれたことを片付けてこよう。アリスはどうする? お祖父ちゃんが魔法を教えてやろうかの?」


「うーんと、アリスはシャルル兄と一緒にいる!」


「そうか……」


「バスチアンさん、すみません。よろしくお願いします」


 ここに来たのはお忍びであり、アリスとシャルルの祖父でただの平民として扱ってほしい。

 王都に住んでいるアリスの祖父と、アリスの従兄。それがホウジョウ村に来たバスチアンとシャルルの設定である。

 そう宣言しているバスチアンのことを、ユージやケビンは『バスチアンさん』と呼ぶようになっていた。

 ほかの開拓民からも、バスチアンはさん付けで呼ばれていた。

 いまのところ開拓民には貴族だとバレていないようだ。あるいは知らぬ振りをしているのか。


「はあ、では一人寂しく行こうかのう……アリス、いいのじゃな? アリスが見たことない魔法じゃぞ?」


「うん、あとで教えてね、お祖父ちゃん!」


 ちょっと粘ったものの、変わらずアリスに振られるバスチアン。

 がっくりと肩を落として広場から離れていく。

 夜が明けてから、ユージは家の電気・ガス・水道を使っていない。

 ホウジョウ村の水源はエルフたちが造った水路があるため、ユージの家の資源を使わなくても不都合はなかった。

 ただ一点を除いて。


「うーん、今後どうしようかなあ。薪でやるのも大変だし……」


「お風呂は気持ちいいもんねえ。ユージ兄、お祖父ちゃんがいなくなったら、アリスがやろうか?」


 バスチアンが向かったのはホウジョウ村の共同浴場。

 水源は水路の水になったが、お湯はいまだにユージ宅から供給していたのだ。

 火魔法を得意とする『炎熱卿』バスチアン、お風呂の水を温めに行ったらしい。

 魔法のムダ遣いである。

 アリスもシャルルも火魔法を得意としているが、細かなコントロールはまだまだバスチアンほどではないらしい。

 破壊力はすでにアリスが上なのだが。


「そうだなあ、できるようになったらね!」


「ユージさん、毎日じゃなくていいと思いますよ。そうすればアリスちゃんに頼まなくても問題ありませんし、薪の消費も抑えられますから」


「そっか、そうですよね」


 ユージ、いまだに毎日風呂に入るという現代日本人の風習から離れられないらしい。

 そもそも毎日湯船に浸かるというスタイルは、元の世界でも日本以外は珍しいものなのだ。

 とうぜん、電気もガスも水道もないこの世界では、それこそ王侯貴族レベルの贅沢である。


「ユージさん、私はちょっと宿場予定地まで走ってきます。お義父さんに話をして街に行かせて、王都から来るはずの研究者を連れてきてもらいますね。私はすぐ帰ってきますから」


「わかりました。そういえばハルさんが陸路で行かせたって言ってましたっけ」


「はい。ハルさんに確かめましたが、そろそろ着いていてもおかしくない頃です。近いうちにホウジョウ村に連れてこられるでしょう」


「了解です。じゃあそれはそれとして……いろいろ試してみますか! シャルルくん、よろしくね!」


「はい、ユージさん」


 そう言って立ち上がるユージ。

 こちらの世界のブレーンへの相談の時間は終わった。

 ひとまずこれからは謎バリアの魔素が減って穴が空いた原因を探る時間である。

 掲示板住人にもらったタイムスケジュール通り。




「ユージさん、昨日から今朝までで変化はありません。見分けられないほど小さくだったらあるかもしれませんけど……」


「ありがとうシャルルくん。ちょうど時間だから、ここで一枚撮影してっと」


 ユージの家の庭に移動したシャルル、アリス、コタロー、ユージ。

 さっそく魔眼で見てもらったところ、ひとまず穴の大きさに変化はないらしい。

 昨夜、ユージはいつも通りにライフラインもネットも使い、お風呂にも入ったが、目に見える変化はなかったようだ。

 設置していたカメラのシャッターを切って、ユージは手元のメモに書き込む。


「よし、じゃあまずは攻撃を防いだ時にどうなのか確かめてみよう」


「ユージ兄、アリス、バーンってやる?」


「あ、アリスはやらなくていいよ。まずは俺が攻撃してみて、バスチアンさんが戻ってきたら魔法攻撃をお願いするから」


「ええーっ!?」


 ぷくっと頬を膨らませて不満げなアリス。

 ユージ、妥当な判断である。

 もし攻撃を防いだ分、謎バリアの魔素が減るのであればアリスの魔法は強力すぎる。

 魔法少女の一撃は、もはやワイバーンすら堕とすので。


「二人とも、ちょっと待っててね」


 そう言い残して敷地の外に出たユージは、手に短槍を持っていた。


「よし。何回やっても同じ威力になるように、全力で」


 ブツブツと掲示板住人からの指示を呟くユージ。

 同じ条件で実験を繰り返す可能性があることから、攻撃の威力は同じほうがいい。

 同じように手加減するのは難しいため、ユージは全力で攻撃することにしたようだ。


 腰だめに短槍を構えるユージ。

 ふんっ、と力を込めて槍を突く。

 敷地の境界にある謎バリアに穂先があたり、ガッと音が鳴る。


 ユージ、意外とさまになっていた。

 元冒険者たちと訓練を繰り返してきたユージは、いまや5級の冒険者なので。


「やっぱり弾かれた、か。シャルルくん、どうだろう?」


「はい、ちょっと待ってくださいね。……ユージさん。ちょっと、ほんのちょっとだけ穴が広がってます」


「マジかよ……」


 短槍を手にしたまま家の敷地に入るユージ。

 穴と同じ位置に貼った紙に近づき、シャルルにペンを渡す。


「シャルルくん、このペンでいまの穴のフチをなぞってほしいんだ」


「わかりました。いまは……こうなってます」


「あ、ほんとちょっとだけなんだ。でもそっか、攻撃を防ぐと魔素が減る……」


 シャルルによって描かれた線。

 広がった分は、1mmもない。

 太めのペンならほぼ同じ場所をなぞることになる程度の広がりである。


「じゃあこれも撮影して、メーターの数字をメモして、あとはさっき撮ってから一時間経ったらまた撮影して……ちょっと待ちか」


「ユージ兄?」


「ああ、なんでもないよアリス。しばらくすることはないから、シャルルくんとお話ししててね」


「はーい!」


「もうちょっと待って、次はバスチアンさんの魔法。終わったらまた待ち時間で、次は門を壊して今日はおしまい。時間かかるなあ……」


 ポツリとぼやくユージ。

 謎バリアの魔素を左右しそうな実験は一時間に一回しか行わないらしい。

 時間経過による消費も考えて、できるだけ条件を揃えたかったようだ。

 ユージではなく、掲示板の住人が。



 ユージがこの世界に来てから6年目。

 これまでの生活の基盤となっていたユージの家、ライフライン、ネット、謎バリア。

 その危機に際して、元の世界の人々とこちらの世界の人々に協力してもらいながら、ユージは地道な実験を繰り返すのだった。

 魔素の減少の原因を探るために。

 あるいは。

 いずれこの世界で、身ひとつで生きていかなければならない現実を知るために。



次話、明日12時投稿予定です!

発売日直前、23日は12時と18時の2回投稿!

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