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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十八章 代官(予定)ユージ、スターダムをのし上がる 1』

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第十八章 エピローグ

ちょっと短めです

「ふっふーん、ふんふーん。ユージ兄、楽しみだね!」


「ご機嫌だなあアリス。そうだね、俺も楽しみだ。うん? コタローもかな?」


 アリスは細い木の枝をブンブンと振り回し、鼻歌を歌いながら歩いていた。

 アリスにつられたのか、横にいるコタローは小刻みにステップを踏んでご機嫌な様子である。たまにありえない空中機動を見せているが、もはやユージはスルーである。慣れとは恐ろしいものだ。


 プルミエの街からホウジョウ村開拓地まで続く道の途上。

 ユージとアリス、コタローは、ひさしぶりに二人と一匹で森を歩いていた。

 ケビンは商売のためにプルミエの街に残っている。

 街で用事を済ませたユージたちは、ホウジョウ村開拓地への帰路の途中であった。


 ユージ、アリス、コタロー。

 二人と一匹の行動だが、かつてと違って危険は少ない。

 なにしろユージもアリスも現役の5級冒険者なのだ。

 アリスにいたっては、5級に合格して以降、さらにエルフたちから魔法を教わっている。

 冒険者になれないコタローの級は不明だが、模擬戦ではユージを圧倒している。


 二人と一匹の戦闘力に問題はなく、コタローの索敵能力も折り紙付き。

 さらに街とホウジョウ村の間には宿場予定地があって、もう野営の必要もない。

 宿場予定地には『血塗れゲガス』が居着いており、その先はもうコタロー配下のオオカミたちの縄張りだ。


 ユージがこの世界に来てから6年目。

 人里へと続く道は、ずいぶん安全なものになったらしい。

 ユージたちにとっては。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ほう、提案通り許可制になるのか! そいつはいい!」


 パシン、と手のひらに拳を打ち付けるゲガス。

 目はキラキラと輝いている。陽の光を浴びて、その禿頭はギラギラと。


「でも細かなところはこれから詰めるそうです。実際は……徴税ついでに秋に来た時に説明して、冬はどっちにしろアレだから……来年からですかね」


「かまわねえとも! その頃にはこのあばらやじゃなくて宿も建ってるだろうからな! うん? だとすると調整したほうがいいか? 大部屋だと不意打ちしづれえな」


 ホウジョウ村に入るには許可が必要となり、許可証は村の入り口のほかにこの宿場予定地でチェックする。

 証の形も運用方法も、許可がなかった者をどうするかもまだ決まっていないが、ゲガスは先のことに思いを馳せていた。物騒な男である。二つ名が『血塗れ』なだけある。


「ええー? ゲガスおじちゃんならシュバシュバッ! って簡単じゃないの? アリスに教えてるみたいに!」


「はは、アリスちゃん。それじゃ()っちゃうだろ? ここで殺らねえで、捕らえてじっくり話をするのが大事なのよ」


「ふーん、そっか! じゃあしょうがないね!」


 物騒な少女である。

 治安がよくないこの世界において、怪しい人間は殺られてもしょうがないようだ。

 そもそもプルミエの街からホウジョウ村開拓地までは一本道で、この宿場予定地のほかに何もない。

 本来この道を通るのは、関係者か住人、住人の家族や親戚ぐらいしかいないはずなのだ。

 あとは可能性として考えられるのは飛び込みの商人ぐらいである。

 この世界の飛び込み営業は命がけらしい。文字通り。


「その、細かいところが決まったらお知らせしますから。はやまらないでくださいね?」


「大丈夫だってユージさん! コイツらにいらねえ罪を負わせるわけにはいかねえからな!」


「それとその、方法は不明なんですけど、夏にバスチアン様とシャルルくんがお忍びで来るみたいなんです。ハルさんが連れてくると思うんですけど……間違えて襲ったりしないでくださいね?」


「それでアリスちゃんがご機嫌だったのか! ああ、安心してくれユージさん。二人の顔は知ってるしな」


 ドンと厚い胸板を叩くゲガス。

 ケビンに引き継いだが、元々エルフと人を繋ぐ役目についていたのはゲガスである。

 ハルとは旧知の仲であり、王都でアリスの祖父・バスチアン侯爵と兄のシャルルにも会っている。

 お忍びで来たとしても、ゲガスたちが襲うことはないだろう。たぶん。


「しっかし、許可制か……ユージさん、アリスちゃん。悪いがホウジョウ村で鍛える回数が減るかもしれねえ。コイツらにいろいろ教え込まないとよ」


 ぐいっと親指を向けて7人の男たちを指さすゲガス。

 ユージにからんだ木こりと猿は冒険者。

 森で暮らすようになってからもモンスターや獣相手に戦っていた。

 だが残る5人は犯罪奴隷であり、モンスターの集落討伐に駆り出されたのが最後だ。


「え? でもゲガスさん、どうするんです? その、5人は武器は持っちゃいけませんもんね? 俺、最近いろいろ勉強してるんです」


 そもそも犯罪奴隷には武器を持たせてはいけない。

 役務につく際に必要であれば仕方がないが、管理は気をつけるように、というのがこの国のルールであった。

 ユージは文官となるために、決まりごとの勉強もはじめていたようだ。


「まあな。だがよ、武器がなくても戦う方法はあるんだぜ?」


「えっと……格闘技とか? あ、そういえばケビンさんにタックルしてましたね」


「ああ、あれは思い出したくねえけどな。ユージさん、そもそも俺は商人だ。武器を持って入れない場所で襲われることもある。それなりに鍛えてるのよ」


「はあ、そんなものですか。商人って大変ですね!」


 ゲガス、ちょっとおかしいようだ。

 商人は徒手空拳で戦えるのが当たり前らしい。

 納得して頷くユージを、コタローが前脚で叩いていた。ゆーじ、そんなわけないじゃない、つっこむのよ、とばかりに。冷静な女である。ボスなので。犬だけど。


「うっし! ホウジョウ村には娘夫婦の大事な生産拠点があるからな! 安心しろユージさん、きっちり守ってやるよ!」


 ゲガスがユージの肩をバシッと叩く。

 ユージは、ハハハとただ愛想笑いを返すのみであった。



 ユージがこの世界に来てから6年目の春。

 犬ぞりと船以外の移動手段を封じていた雪は溶け、街と開拓地は徒歩や馬、荷車で移動できるようになった。

 恒例となったワイバーンはエルフとアリスの魔法であっさり撃退している。

 あっけなく倒したため、せっかく設置が認められたバリスタを使わなかったほど。


 文官となることを決めたユージは領主夫妻や代官に挨拶をして、ちょっとずつ勉強をはじめている。

 入村に領主の許可が必要になるホウジョウ村開拓地は、さらに安全になることだろう。

 ホウジョウ村開拓地は、順調に発展していきそうだ。


 一方で。

 ユージが元いた世界ではじまった騒動は、おさまることなく徐々に拡大していくのだった。

 本人は不在のままに。



ちょっと短めですが、エピローグなので……

次話、明日18時投稿予定です。

次章はちょっと特殊な章になりますので、今回は閑話なしで明日から本編!

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