第十八章 エピローグ
ちょっと短めです
「ふっふーん、ふんふーん。ユージ兄、楽しみだね!」
「ご機嫌だなあアリス。そうだね、俺も楽しみだ。うん? コタローもかな?」
アリスは細い木の枝をブンブンと振り回し、鼻歌を歌いながら歩いていた。
アリスにつられたのか、横にいるコタローは小刻みにステップを踏んでご機嫌な様子である。たまにありえない空中機動を見せているが、もはやユージはスルーである。慣れとは恐ろしいものだ。
プルミエの街からホウジョウ村開拓地まで続く道の途上。
ユージとアリス、コタローは、ひさしぶりに二人と一匹で森を歩いていた。
ケビンは商売のためにプルミエの街に残っている。
街で用事を済ませたユージたちは、ホウジョウ村開拓地への帰路の途中であった。
ユージ、アリス、コタロー。
二人と一匹の行動だが、かつてと違って危険は少ない。
なにしろユージもアリスも現役の5級冒険者なのだ。
アリスにいたっては、5級に合格して以降、さらにエルフたちから魔法を教わっている。
冒険者になれないコタローの級は不明だが、模擬戦ではユージを圧倒している。
二人と一匹の戦闘力に問題はなく、コタローの索敵能力も折り紙付き。
さらに街とホウジョウ村の間には宿場予定地があって、もう野営の必要もない。
宿場予定地には『血塗れゲガス』が居着いており、その先はもうコタロー配下のオオカミたちの縄張りだ。
ユージがこの世界に来てから6年目。
人里へと続く道は、ずいぶん安全なものになったらしい。
ユージたちにとっては。
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「ほう、提案通り許可制になるのか! そいつはいい!」
パシン、と手のひらに拳を打ち付けるゲガス。
目はキラキラと輝いている。陽の光を浴びて、その禿頭はギラギラと。
「でも細かなところはこれから詰めるそうです。実際は……徴税ついでに秋に来た時に説明して、冬はどっちにしろアレだから……来年からですかね」
「かまわねえとも! その頃にはこのあばらやじゃなくて宿も建ってるだろうからな! うん? だとすると調整したほうがいいか? 大部屋だと不意打ちしづれえな」
ホウジョウ村に入るには許可が必要となり、許可証は村の入り口のほかにこの宿場予定地でチェックする。
証の形も運用方法も、許可がなかった者をどうするかもまだ決まっていないが、ゲガスは先のことに思いを馳せていた。物騒な男である。二つ名が『血塗れ』なだけある。
「ええー? ゲガスおじちゃんならシュバシュバッ! って簡単じゃないの? アリスに教えてるみたいに!」
「はは、アリスちゃん。それじゃ殺っちゃうだろ? ここで殺らねえで、捕らえてじっくり話をするのが大事なのよ」
「ふーん、そっか! じゃあしょうがないね!」
物騒な少女である。
治安がよくないこの世界において、怪しい人間は殺られてもしょうがないようだ。
そもそもプルミエの街からホウジョウ村開拓地までは一本道で、この宿場予定地のほかに何もない。
本来この道を通るのは、関係者か住人、住人の家族や親戚ぐらいしかいないはずなのだ。
あとは可能性として考えられるのは飛び込みの商人ぐらいである。
この世界の飛び込み営業は命がけらしい。文字通り。
「その、細かいところが決まったらお知らせしますから。はやまらないでくださいね?」
「大丈夫だってユージさん! コイツらにいらねえ罪を負わせるわけにはいかねえからな!」
「それとその、方法は不明なんですけど、夏にバスチアン様とシャルルくんがお忍びで来るみたいなんです。ハルさんが連れてくると思うんですけど……間違えて襲ったりしないでくださいね?」
「それでアリスちゃんがご機嫌だったのか! ああ、安心してくれユージさん。二人の顔は知ってるしな」
ドンと厚い胸板を叩くゲガス。
ケビンに引き継いだが、元々エルフと人を繋ぐ役目についていたのはゲガスである。
ハルとは旧知の仲であり、王都でアリスの祖父・バスチアン侯爵と兄のシャルルにも会っている。
お忍びで来たとしても、ゲガスたちが襲うことはないだろう。たぶん。
「しっかし、許可制か……ユージさん、アリスちゃん。悪いがホウジョウ村で鍛える回数が減るかもしれねえ。コイツらにいろいろ教え込まないとよ」
ぐいっと親指を向けて7人の男たちを指さすゲガス。
ユージにからんだ木こりと猿は冒険者。
森で暮らすようになってからもモンスターや獣相手に戦っていた。
だが残る5人は犯罪奴隷であり、モンスターの集落討伐に駆り出されたのが最後だ。
「え? でもゲガスさん、どうするんです? その、5人は武器は持っちゃいけませんもんね? 俺、最近いろいろ勉強してるんです」
そもそも犯罪奴隷には武器を持たせてはいけない。
役務につく際に必要であれば仕方がないが、管理は気をつけるように、というのがこの国のルールであった。
ユージは文官となるために、決まりごとの勉強もはじめていたようだ。
「まあな。だがよ、武器がなくても戦う方法はあるんだぜ?」
「えっと……格闘技とか? あ、そういえばケビンさんにタックルしてましたね」
「ああ、あれは思い出したくねえけどな。ユージさん、そもそも俺は商人だ。武器を持って入れない場所で襲われることもある。それなりに鍛えてるのよ」
「はあ、そんなものですか。商人って大変ですね!」
ゲガス、ちょっとおかしいようだ。
商人は徒手空拳で戦えるのが当たり前らしい。
納得して頷くユージを、コタローが前脚で叩いていた。ゆーじ、そんなわけないじゃない、つっこむのよ、とばかりに。冷静な女である。ボスなので。犬だけど。
「うっし! ホウジョウ村には娘夫婦の大事な生産拠点があるからな! 安心しろユージさん、きっちり守ってやるよ!」
ゲガスがユージの肩をバシッと叩く。
ユージは、ハハハとただ愛想笑いを返すのみであった。
ユージがこの世界に来てから6年目の春。
犬ぞりと船以外の移動手段を封じていた雪は溶け、街と開拓地は徒歩や馬、荷車で移動できるようになった。
恒例となったワイバーンはエルフとアリスの魔法であっさり撃退している。
あっけなく倒したため、せっかく設置が認められたバリスタを使わなかったほど。
文官となることを決めたユージは領主夫妻や代官に挨拶をして、ちょっとずつ勉強をはじめている。
入村に領主の許可が必要になるホウジョウ村開拓地は、さらに安全になることだろう。
ホウジョウ村開拓地は、順調に発展していきそうだ。
一方で。
ユージが元いた世界ではじまった騒動は、おさまることなく徐々に拡大していくのだった。
本人は不在のままに。
ちょっと短めですが、エピローグなので……
次話、明日18時投稿予定です。
次章はちょっと特殊な章になりますので、今回は閑話なしで明日から本編!





