閑話17-25 テスト開催のキャンプオフ当日part2
副題の「17-25」は、この閑話が第十七章 終了後の頃、という意味です。
ご注意ください。
テスト開催のキャンプオフ会場には、各地から着々と人が集まってきていた。
ある者は電車で。アーバンパークラインというよくわからない名前の路線の最寄駅から徒歩で。
ある者は3つのロータリーという難問をホワイトボードに従いクリアして、送迎バスで。
またある者は車で身内に送られて、自分で運転して、あるいは仲間と連れ立って。
広大な駐車場が用意されている分、今回は車での来場もそこそこ多いようだ。
中には札幌ナンバーという正気を疑うような地名も見える。何しろここは千葉なのだ。北海道からフェリーに乗り、はるばるキャンプオフに来たのだろう。
ユージの物語がドキュメント番組としてアメリカで公開される。
すでにオープンになっているが、NPOはマスコミの参加を認めなかったようだ。
カメラを構えたメディアの姿は駐車場にも見られない。
まあこのキャンプオフに来たところでたいした話は聞けないのだが。
秋の日の午後。
キャンプ場では、すでにBBQがはじまっていた。
スタートの挨拶は特になく、なし崩しで。
いつものことである。
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「失礼します!」
「あれ? どうしたの文也くん?」
「休憩中だって聞いたので……よかったらこれどうぞ」
「わざわざ持ってきてくれたんだ! ありがとー」
はじまっているのはBBQだけではない。
午前を準備に当て、出店してきたお店も昼からオープンしていた。
まだキャンプ参加者が集まりきっていないため来店者は少ない。
スタッフは交代で休憩を取っていたようだ。
掲示板住人たちと店員にそそのかされ、洋服組Aはバンガローで休憩する女性に焼肉やら野菜やらを差し入れに来たようだ。
ちなみにバンガローの様子は窓から覗かれている。
いかがわしいことになったらマズいので。
決して悪意の覗きではなく、公序良俗を乱さないための見張りである。そう、見張りである。
「おいしい! やっぱり炭火で焼くと違うわねー。あ、よかったら座って文也くん」
「あ、はい」
「BBQもひさしぶりだなー。ひなこも連れてくればよかったかな?」
「ダメです!」
娘を連れてくれば良かったかな、という女の言葉を勢いよく否定する洋服組A。
妥当な判断である。
ここに幼女を連れてくるのは危険なので。
なにしろ今回も『YESロリータNOタッチ』と名乗るコテハンが参加している。
「そ、そう。じゃあ今度、三人でここに来てBBQしようか」
「え?」
「うん、いいねそれ! ひなこはアスレチックも喜んでくれそうだし! 冬になる前に……どうかな文也くん?」
「え、えっと、加奈子さんがいいなら」
「じゃあ決まりね! 文也くん、シフトはもう出てるの? さっそく日付を決めちゃいましょ!」
「あ、はい」
洋服組A、しっかり主導権を握られているようだ。
まあ順調、であるらしい。
窓から覗き込んだ男たちは、ギリギリと歯を食いしばっていた。
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「こんにちは。客足はいかがですか?」
「イマイチだねえ。恵美ちゃん、この人は?」
「あ、クールなニートさんって、このキャンプオフを仕切ってる人です」
「ああ、キミが! うーん、みんな興味はあるみたいなんだけどねー」
「衣料品はオープンスペースですが、美容院はバンガローの中ですからね。その分ハードルが高いのかもしれません。これはなかなか採算が取れなさそうな……」
「オープンスペースかあ。よし!」
「どうしたんですか?」
「恵美ちゃん、クールなニートさん、だっけ? 誰か一人、タダでいいから切らせてくれる人を連れてきてくれないかな?」
「それぐらいはかまいませんが……何をするんでしょう?」
「バンガローの中に入るにはハードルが高いんだから、外で切っちゃおうかと思ってね!」
「え?」
「おーい、みんな! 外でデモやるよ! シートとイスを準備して! 男たちは鏡を持ってくるように!」
「あの、そんなことできるんですか?」
「うん? まあたまーにイベントに呼ばれた時とかね! そうだなあ、せっかくだから無言バージョンでやろうか」
「では、それを了承する男を連れてきます。できるだけ髪が伸びてるヤツで」
「ああ、OK出してくれる人なら別にどんな感じの人でもいいよー」
クールなニートの投げかけにひらひらと手を振るチャラいおじさま。
軽い。軽いが、自信の表れである。
「身内で髪が伸びてたヤツは……ああ、アイツがいいか」
「誰かいたっけ?」
「ちょうどいいヤツがいる。検証スレの動画担当。ずいぶん髪がもっさりしていたし、アイツなら映像も撮れるだろう?」
「え? でも切ってもらうから本人は座ってるんじゃ……」
「ユージみたいに三脚で撮らせればいい。無言で切ってるところをモニターに流せば、多少は人が来るだろう」
「そっか、まあ映像のかっこよさとか関係ないもんね。いいんじゃない?」
「ああ。衣料品は経費を考えても次回は出店料を取れそうな売れ行きだが、美容院はいまのところ苦しそうだからな」
「うーん、仕事休みの平日にあわせればそんなに人が来なくても大丈夫そうなんだけどね」
「それもわかるが、金銭的なメリットがなければ継続的に参加はできないだろう。売上次第では土日という選択肢もあり得るかもしれない」
「さすがに今のままじゃ土日はキツイでしょうね」
「そういうことだ。お、いたな」
クールなニートと恵美は生け贄を見つけたようだ。
のんびりBBQの様子を撮影している、検証スレの動画担当を。
いまはフリーで外に出る仕事を受けているクセに、髪の毛は伸びっぱなしでもっさりである。
映る側の髪型や服装は気にするのに、自分のことは気にしないようだ。
カメラマンにありがちなことに。
そして。
意外におもしろがって引き受けた検証スレの動画担当による人身御供で、美容院スペースにもポツポツと人が訪れるのだった。
事前シートに記入するオーダーから支払いまで、すべて無言で行われたデモンストレーションは、話さなくていいなら俺でもイケるという気にさせたらしい。
しかも検証スレの動画担当のもさい髪型は、ずいぶんすっきりして似合っていた。
自信家のチャラいおじさまは、実際に腕も良かったようだ。
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「は、はあ? 北海道から?」
「知らなかったのか? 試される大地の民1と2だろ? ってかよ」
「うん、なんか……二人の世界なんですけど……」
「喜茂別から興部まで迎えに行って、興部から苫小牧。んでフェリーで一日。二日がかりか? そりゃなあ」
「それが事前に会ってたらしいぜ?」
「氏ねリア充!」
バーベキューグリルを囲み、各所ではそれなりに話が弾んでいるようだ。
なにしろ共通の話題はあり、コミュニケーション能力は似たようなものなので。
そのBBQスペースは各所に設けられていた。
なにしろ参加者は100名を超え、200名近いのだ。
しかもBBQに参加している人数だけで、である。
これに事務方や待避所組、これからやってくる人を加えたら、今日の参加者は200名を超えることだろう。
これまで三回行われたキャンプオフを遥かに超える人数である。
「これが! これこそが究極の焼肉のタレ! 地元名物・やま○のタレだ!」
「地元名物って……集合したのはお前の地元だけど、ここは違うだろ?」
「こまけえこたあいいんだよ! 確かにこのタレうめえから!」
「地元名物の焼肉のタレ……宮のた○みたいなもんか?」
「あ、あれも美味いよね。こっちも美味いけど」
「トニー、いつの間に着替えてきたんだ?」
「さっきね! ついでにシャワーも浴びてきた!」
「さっぱりしすぎだろ……」
昼過ぎまでアスレチックを楽しんでいたグループは、肉につけるタレの話題で盛り上がっていた。
大型バス乗り場への案内で活躍していたコテハン・湖の街らしい、インフラ屋、名無しのトニーなどの姿も見える。
コミュ力高めの集団である。
一方で。
キャンプオフ恒例の2グループは、今回のテストキャンプオフでも同じことをしているようだ。
ドングリ博士率いるゲテモノ班、物知りなニート率いるセラピー班である。
いや別に率いていない。
なんとなく周りに人が集まってるだけだ。
今回も、ドングリ博士はゲテモノ食を提供していた。
コテハンの由来となったドングリの粉を使った料理の他に、今回提供しているのは蚕の蛹である。
エルフの里に養蚕技術があると聞いて、これは外せないと触発されたのかもしれない。いらない発想である。
日本じゃ佃煮が基本だけど、中国とか東南アジアじゃ揚げる料理もあるんだよね、などと言いながら調理している。
ドングリ博士はわざわざカセットコンロを用意してきたようだ。蚕の蛹を揚げるために。末期である。
怖いもの見たさで集まった住人たちは、俺はムリだー、意外にイケる、揚げたヤツうまい! などと盛り上がっていた。
実際、見た目さえクリアできれば味は悪くないのだ。栄養価も抜群である。見た目さえクリアできれば。
もう一つの恒例、物知りなニートによる謎BBQは平和であった。
網の上にフライパンが並ぶ。
空になったフライパンに、ボウルから液体が落とされる。
低い位置から、高い位置から。
今回は手順が決まっていないようだ。
じっくりと焼いて、うっすら焦げ目がついたらひっくり返す。
両面焼けたら後ろのテーブルにセットされた皿へ。
焼き担当の他に、今回は生地を混ぜる担当と仕上げ担当がついているようだ。
ますます流れ作業である。
そして無言である。
今回は薄く焼き上げることを狙うチーム、厚手を狙うチームもあるらしい。
第一回はバームクーヘン、第二回はベタにマシュマロ、第三回はクレープ。
今回物知りなニートが作っているのはパンケーキであるようだ。オシャレか。
炭火を眺めて火力を読み取り、プツプツと空気の泡を見つめる。
集まった男たちは無言であった。
謎のセラピーである。
焼き上がり、ホイップクリームやメイプルシロップ、フルーツ、アイスなどを乗せて仕上げられたパンケーキは、焼肉に飽きてきた参加者に提供されていた。
何しろ今回はバンガローに冷蔵庫が存在するのだ。クリームやアイスを保存できるために選ばれたメニューであるらしい。
ともあれ、肉や野菜、魚介類のBBQに飽きてきた参加者からは好評なようだ。
キャンプ場の正面奥に設置されていた3台の大型モニター。
クールなニートの仕切りで準備されたそれには3つの映像が映っていた。
一つのモニターにはユージが映っている。
何度かアリスやコタローが遊びに来たようだが、いまはユージだけであった。
もう一つのモニターは、キャンプオフの映像。
検証スレの動画担当が撮影している生中継である。
動画担当本人が髪を切られる映像を映したのもこのモニターだ。
ユージは自分の部屋のパソコンで、このモニターに流されている映像を見てニコニコしていたようだ。
最後のモニター。
ここには、キャンプオフのために立てられたスレが映っていた。
参加できなかった掲示板住人たちは、映像を眺めながらここに書き込んでいるようだ。
ちなみにマスコミ対策として、今回の映像とスレは鍵付きであった。
手間だがしゃあない、とはある掲示板住人のセリフである。
そして『@待避所』の書き込みが多い。
来てみた、連れてこられたもののやっぱりムリだと判断した参加者は、バンガローの中にいる。
待避はしているが、立派な参加者でもあるのだ。
「あ、ここにいた! 郡司さん、かみ……クールなニートさん!」
「華さん。本当にいらっしゃったんですね」
「ええ! 弟がいた世界のことを知ってる人たちと聞いたので。それに……私も掲示板をぜんぶ見たんですよ?」
「そうでしたか」
モニターの近くにいたクールなニートに駆け寄る一人の女性。
スーツではないが、明らかにOL風の格好。場違いである。
まあ今回は衣料品店と靴屋、美容院が出店していたため、小洒落た人たちも多くウロついていたのだが。
そもそもクールなニートの横に立つ郡司は相変わらずスーツにリュックである。
それでも、クールなニートの周辺にいた参加者がざわつく。
女がコテハンで呼んだので余計に。
誰だアレ、郡司さんの関係者じゃね、いやいやクールなニートの恋人的なアレとか、などと。
「それにしても、想像以上の人数です!」
「ええ、過去はここまでの規模ではなかったんですがね。ほかの稀人の消息がわかったため、よけい興味を惹いたというのがあるかもしれません。もちろんドキュメント番組が公開されるという情報が流れたというのもあるでしょうが」
「そっか、弟の」
クールなニートと女性の会話を聞いていたのだろう。
稀人、弟という言葉に、周囲にいた参加者がバッと顔を上げる。
「稀人の消息!? お、おとうと!?」
「ま、まま、まさか、テッサのお姉さん!?」
「おい、テッサって言ってもわからないかもしれないだろ。……名前、明かされてねえ!」
顔だけではなく、腰を上げて女性を囲んでいた。
普段は見せない行動力とアクションの速さである。
「えっと、はい、そうです。この前、弟のお嫁さんと話して、弟だって確信しました」
「マジか!」
「あの、お姉さん、弟さんは何か変わったことしてませんでしたか!? どうやって異世界に行ったんですか!」
「ど、どこから! どこから行ったんですか!」
大混乱である。
テスト開催のキャンプオフはユージ家跡地に泊まるわけではない。
もちろん集まっている面々も、この場で異世界に行ける可能性があると思っているわけではない。
それでも。
ユージの他に、異世界に行った人物の存在。
その血縁者の登場に色めき立っていた。
「落ち着けおまえら。OKが出れば掲示板に情報を流すから」
参加者の勢いに引き気味だった女に代わって、男たちをなだめるクールなニート。
いつもの掲示板のように現実でも。
「あの、私はいいですよ。弟はもういないですけど……弟のこと、いろんな人が知ってくれるのは嬉しいですから」
「よおおおおおし!」
「マイク、マイク出せ!」
「あの、お姉さん、よかったらこのパソコン使ってください! みんな知りたいと思うんで!」
カオスである。
テッサは異世界で亡くなった。
この世界では、自分も母も近所の人も弟の友人も、行方不明の弟の思い出はどんどん薄れていく。
それがちょっと寂しかったのかもしれない。
女は、弟の情報を明かすことにしたようだ。
「落ち着け。華さん、後で話してもらってもいいですか? 土理威夢くんが異世界に行く前にどんなことをしていたか、いなくなったのはどの辺だと考えられるか、そのあたりが聞きたいことだと思います」
「ええ。それで弟のことを知ってもらえるなら」
「いよっしゃあ!」
「きたきたきた、キャンプオフに参加した甲斐があった!」
「おい、タイプ速いヤツいないか? 掲示板にも流してやろうぜ!」
さらにカオスが広がる。
ちなみにクールなニートはこう言っているが、郡司、クールなニート、ユージ、アメリカ組などのメンバーはすでにその情報を聞いている。
世界を渡る方法を研究するために。
テッサの姉の登場とスピーチ、質疑応答という予定外のイベントがありつつ、テスト開催のキャンプオフは続いていくのだった。
テッサの姉・華の登場に盛り上がりすぎて、本来クールなニートが発表するはずだった情報が後まわしになって。





