Episode 59「三つの光」
セラは再び泉へ向き直った。
白銀のローブを纏ったまま、ゆっくりと目を閉じる。
「白銀のローブを纏いし時、黄金色に輝く水面の上で願いしその想いは、叶う」
静かな森に、セラの声が響いた。
「光と闇が重なりし時、言霊にて綴られし願いが、時を超えて世界に縫い付けられる。それは誰がための祈りなのか」
セラは一度、息を整える。
「セディル・リズマールに揺るがぬ力を与えたまえ」
誰も動かない。
ただ、漆黒の泉を見つめている。
だが――
やはり、何も起こらなかった。
セディルの顔が怒りに歪む。
「なぜだ……」
セラは黙っていた。
「なぜ何も起こらん!」
怒声が森に響く。
セディルはセラの肩からローブを掴んだ。
「これも伝承通りに作らせた!泉もある!何が足りない!」
セラはセディルを睨む。
「……やっぱり、伝承なんてなかったのよ!願いを叶える泉なんて、最初からなかったとしか思えない!」
「何?」
セディルはしばらくセラを睨んでいたが、やがてリトを見る。
「……なら、こいつはもう必要ないな」
セラの顔色が変わる。
「やめて!」
セディルはセラの腕を掴んだまま、兵士へ命じる。
「殺せ」
グラフが兵士たちを振りほどこうと暴れるが、数人に押さえつけられて動けない。
「リト!おい!やめろ!!」
オソノも兵士の腕から逃れようと必死にもがく。
「いい加減にしな!その子は関係ないよ!!」
兵士がリトを地面へ押さえつけた。
「クソ!離せ!!」
リトが身体をよじるが、押さえ込まれて動けない。
別の兵士が剣を抜き、リトへ近づいていく。
「やめて!やめて!やめて!!お願い……!」
セラは泣き叫びながら、掴まれた腕を必死に振りほどこうとする。
兵士がリトの前で剣を振り上げた。
その時だった。
漆黒の泉の上を、小さな光が一つ横切った。
セラが目を見開く。
「え……光?」
少し離れた場所に、もう一つ。
そして、もう一つ。
三つの淡い光が、水辺に浮かんでいる。
オソノもその光に気づいた。
セディルが泉へ顔を向ける。
静まり返った森の中で、三つの光だけが淡く揺れていた。




