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43話 幸せを呼ぶ鳥(その1)

 現在、双子は自宅があるアルテミスの王都から離れて、南の小さな島モナ島に来ていた。


 ここ最近は厄介な仕事が続いていたため、久しぶりに仕事を忘れて旅行を楽しむことにしたのだ。


 眩しい日差しと穏やかな風に心地良さそうにバルドルは南の島の商店通りを歩いていた。


「いやー、ここは静かでいいな」


 その隣には兄カインがいて、頷いた。


「まったくです。王都とは大違いですね」


 静かで爽やかな風が、二人の心を癒しを癒してくれていた。


 数時間ほど観光地を巡り、バルドルの機嫌もすっかり良くなっていた。


「なあ、フルーツパフェを食べに行こうぜ!」


「いいですね。この先に甘味のお店がありますので立ち寄りましょう」


「うーん、どこだ……。なあ、カイン。あれ」


 バルドルが指さす方向をカインが見ると赤髪の少女がおぼつかない足取りで歩いていた。


「ほう、貴方にしては見どころのある足を見つけるではありませんか」


「そうじゃねぇ! ふらついているだろう。ちょっと声かけてくる」


 バルドルは赤髪の少女のもとへ駆け出した。

 見ず知らずの人間にも優しすぎるバルドルにカインはふふっと笑った。


「相変わらずですね。おせっかいな人ですね」


 バルドルは赤髪の少女のそばに行って声をかけた。


「おい、大丈夫か」


「だい……じょ……」


 赤髪の少女は弱々しい声を発すると、そのまま意識を失った。


 バルドルはすかさず少女の体を支え、そのまま軽々と抱き上げた。


「あーぁ、こりゃまずいな」


 カインも少し遅れて赤髪の少女に近づき、手や額を触って容態を確認した。


「熱中症ですね。至急、日の当たらない場所に行きましょう」


「わかった」


 カインとバルドルは近くにあった開店前の、宿を兼ねたバーの二階にある大部屋に通してもらった。


 少女をベッドに寝かせるとバーの女店主によって少女の手当てが施された。


 しばらくすると、女店主が部屋から出てきて別室に待機していた双子に言った。


「あたしができる応急処置はしたわ。

 氷で脇や太ももの付け根などを冷やしているからじきに意識が戻るわよ」


「開店前なのに店に入れてくださった上、手当てまでしていただき、本当にありがとうございます」


 カインは恭しく感謝の言葉を伝えた。


「いいわよ、これくらい。それにこんな弱ってる女の子をほっとけないからね」


「店主さん、しばらくここの二階に泊まってもよろしいですか。

 私たちはまだ泊まるところを決めていなかったのでご厄介になりたいです」


「こんなバーの二階でいいなら泊まっていいわよ。寝心地はビミョーかもだけど、とびきり美味しいごはんは用意してあげるわよ」


 すると、部屋の外から男の子の声が聞こえてきた。


「おーい、母ちゃん。店の営業時間になるぞ。さっさと店に戻ってくれよ」


 女店主がドアを開けると、十代の少年が立っていた。


「あー、ごめん。ちょっと、お客さんの看病してたの。もう終わったから、すぐに戻るわね」


 少年は安堵のため息をこぼした。


「それならいいけどよ」


「こんにちは。僕、お名前は?」


 カインが少年に笑顔で挨拶すると、少年は気に入らなそうに舌打ちをした。


「ケッ、お前みたいな優男に名乗る名前なんてねぇーよ」


 少年は言い逃げをして、颯爽と一階へ戻ってしまった。


「私にあのような態度をするとはいい根性ですね……ん?」


 床に茶黒い鳥の羽が落ちていた。どうやら、少年のポケットから落ちたようだった。


 女店主は申し訳なさそうに謝罪した。


「すみません、うちの息子がお客さんに失礼な物言いをして」


「いいですよ。子どもはあれくらい威勢がいいほうが可愛いですよ。

 それとこちら、息子さんのポケットから落ちたものです。お渡しください」


「ああ、ありがとう。あとで息子には言い聞かせておくわね」


 女店主が立ち去ると一連のことを眺めていたバルドルは苦笑いを浮かべていた。


「さっきのガキ、生意気だったな」


「あの子ども、店主さんの息子でなければはっ倒してやるところですよ」


「同感だ」


☆ ☆


 数時間後、赤髪の少女は目を開けて、意識を取り戻した。


 バルドルとカインは心配そうに赤髪の少女に言った。


「目が覚めましたか」


「大丈夫か」


「……ここは」


 赤髪の少女は寝起きでいまいちの状況を呑み込めていない様子だったので、カインは端的に経緯を説明した。


「バーの宿です。倒れた貴女を我々がここまでお連れしました」


「……はあ」


 寝起きということもありまだ少女の頭がぼーっとしていた。


 カインは水の入ったグラスを少女に渡した。


「どうぞ、お水です」


「……ありがとうございます」


 カインから貰った水を口に付けると、冷たい水が喉を通り、ひどく美味しく感じた。


 少女は綺麗に水を飲み干して、カインたちに質問した。


「あなた方は、どなたですか」


「俺たちは旅行客のバルドルと」


「カインです。以後お見知りおきを」


 バルドルが無意識にハンディマンとは名乗らず、一般人のように振る舞ったのはでかしたと思った。

 なぜなら、彼女がまだ何者かも分からずにハンディマンと名乗れば厄介なことになりかねないからである。


「で、お前さんの名前は」


「アタシはルシィ・リーです」


 と名乗るとカインは率直に尋ねた。


「貴方は町中で何を探していたんですか」


「え……どうしてそんなことを」


 ルシィはなんでそれが分かるだと警戒意識が高まった。


 カインは優しい口調でその答えを明かした。


「ただ町中を歩いていたにしては貴女の足に疲労が溜まっています。熱中症になるまで何のために長時間歩き続えていたのではありませんか」


「(さすが、足探偵カイン。いつもながらの名推理だ)」


 バルドルは地味にカインの足に対する観察眼を心の中で称賛した。


 ルシィは見事にカインに言い当てられて驚きながらも恩人である二人には借りがあるので打ち明けた。


「アナタの言う通りです。アタシは兄を探していました」


「お兄さんですか」


 ルシィは軽く頷いた。


「ええ、アタシの家はマルバンにある田舎で貧しい家庭でいつも生活ギリギリの生活をしていたんです。兄とアタシで必死に生活費を稼いでいたんです。

 半年前、兄は探さないでくれと書かれた手紙を残して突然家へ帰ってこなくなりました。初めは誘拐されたとか体売ったとか色々憶測はたって騎士団にも相談しましたが進展はありませんでした。

 そしたら、先日指輪が入った封筒が届いたんです。それが数百万もする高額な指輪だったの」


 不可解なお話にカインとバルドルは何かあるなとすぐに勘づいた。


「それは何かありそうですね」


「半年帰らなかった理由。そして、兄を連れ戻したいという思いでここまで来ました」


「……出稼ぎでここで働いていると考えているのが妥当でしょうか。それにしても、よくここだとわかりましたね」


「その封筒の消印がこちらだったのでわかりました」


 彼女は自身の鞄からその封筒を取り出してカインたちに見せた。言われたとおり消印がモナ島になっていた。


「兄のためにモナ島まで来たのはさぞ大変でしたね」


「そうですね。仕事も休んでお金も切り崩して、ここまで来るのは時間がかかりましたね」


 バルドルはそんなルシィの力になりたいと思った。


「お兄さんの名前と特徴を教えてくれ」


「え」


 ルシィは思いもよらない言葉に驚いた。


 バルドルはルシィの兄に対する思いに少し心打たれてにこやかに言った。


「これも何かの縁だ。俺たちもお兄さん探してやるよ。なあ、カイン」


 プライベートまで仕事を受けるのはいかがなものかと思ったが、か弱い少女を見捨てるわけにもいかず、ため息を吐いた。


「そうですね。立ち入ったことを答えてくれたことですから、お助けしますよ」


 知らない土地で何の手掛かりもなく兄を探して心細く辛かったが、二人の言葉をとても温かく嬉しい申し出にルシィは感動に目に涙が出た。


「あ、ありがとうございます」


「泣くなよ。泣くのはお兄さんに会ったときにしとけ」


「は、はい……」 


 ルシィは涙をぬぐって心を落ち着かせると、早速双子のために作業にとりかかった。


「すいません。紙とペン貸してください」


 バルドルが紙とペンを渡すと、紙を机に載せてペンを握った。


「兄の名前はトミー・リー。私と一緒で赤髪。ほくろの位置は口の右下。目はたれ目で……」


 と紙につらつらとルシィなりに兄の特徴を似顔絵にして書きだした。


 カインとバルドルは彼女の描く絵を後ろから眺めていたが、少しずつ顔が引きつるようになった。


「あぁ……そうか」


 バルドルは口頭の説明だけで十分という感じであったが、カインははっきりルシィに伝えた。


「ルシィさん、この絵では探せないです」


 ルシィはどうしてとカインを睨みつけた。


「なんですか、下手って言いたいんですか!!」


「貴女の絵は似顔絵ではなく抽象的な絵すぎるんですよ」


「そ、そんな……」


 ルシィはショックだったのか肩の力が抜けて、悲しい表情を浮かべていた。


 それでもカインにしてははっきりと物申すことをしなかったのでバルドルは安堵した。


「(はい、下手すぎてお話になりませんって言わないだけマシだな)」


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