第62話 スタジオみかん
「そうだ! 美香さん、あおい庭園の組合員にならない?」
わさびが声をかけると、美香はきょとんとして問い返した。
「組合員って、この庭園の年パスがもらえるってことですか?」
「違う違う。ここは坂本造園が運営してる会員制の出店施設なんだ。運営は会社がやるけど、組合員になると、この場所で自由に出店できる仕組み。
ただね、立ち上げたばかりで、実際に出店してくれる人がまだいないの。組合員は商店街の人たちなんだけど、みんな既に自分の店を持ってるからね。
いまは、このカフェで商店街の商品や飲食を委託販売している状態かな。
まぁ、『やろう』って気持ちだけで先に始めちゃったからね。しかも、本来の管理責任者は途中で雲隠れしちゃったし……。」
「……管理責任者が雲隠れですか……」
美香は元銀行員だ。こうしたマイナス要素に敏感に反応したようだ。そして、それをわさびは察した。
「あ、違うの。別に何か悪い話ってわけじゃなくて。そう、長期出張になっちゃったから。ちょっと愚痴がこぼれちゃったみたい。気にしないでね。」
わさびは慌てて取り繕った。
「ヨウさん……えっと、責任者の人は本当に急な仕事で不在にしているだけなんです。」
気まずい雰囲気に、ユミが間を取り持つ。
美香は視線を落とし、しばらく黙り込んだ。
資金、責任の所在、契約関係。頭の中で、元銀行員らしいチェック項目が一気に並ぶ。
けれど、それをすべて無視してもいいと思える条件が、ここには一つだけあった。
「えっと、このカフェに未来様は来ることがありますか?」
美香は、頭の中で何かを計算し終えたように、ふっと視線を上げた。
「未来君? けっこう来るよね、ユミちゃん。」
「はい。と言っても、お客さんというよりは、お店やイベントのお手伝いに来てくれます。」
「……決めました。組合員になります。ここに、スタジオを作らせていただきます。」
あれやこれやと思案していた美香であったが、未来の話を聞いた途端に即決し、スタジオ設立が決まった。
後に、アリスが命名する「スタジオみかん」の誕生であった。




