異世界労基
こんにちは
おれは雇われのハンター、ギルドに来た。
なんのため?任務のためだ。
「こんにちは、パーワハラ・スメントさん」
おれは話しかける。
「やあデキソコナイトさんじゃないですか」
スメントさんが答える。
そしておれらは話す。最近の出来事について。
「そういえばスメントさん、セクノハラさんはどこですか」
おれは尋ねる。なぜならおれはセクノハラさんが好きだ。
実は任務のために来た。というのはウソだ。
セクノハラさんはどこにでもいるエルフだ。受付をするエルフはこの世界では珍しくはない。
でもおれはセクノハラさんと話すことが楽しい。でもほかのエルフではそう思わない。
すなわちおれはセクノハラさんが好きだ。
「セクノハラさんは辞めたよ」
スメントさんは涼しい顔で答える。その涼しさが右手に持った小型扇風機の影響なのか分からない。
「なんだってえ」
とりあえず驚いてみせる。
白いツヤツヤの髪の毛、青色の瞳、薄い唇
セクノハラさんの容姿を思い浮かべた。
「これが走馬灯ってやつかッ」
と声に出ちゃった。
「声に出てるよヤルキナイトくん」
「いや、おれデキソコナイトですよ」
「嗚呼、あだ名で呼んじゃった、めんごめんご」
詳しく聞くと、どうやらおれはヤルキナイトと揶揄されているらしい。
「詳しく聞かなきゃ良かった」
おれは少し悲しくなった。
「んでセクノハラさんはどこに?」
スメントさんいわく、セクノハラさんはギルドの近くにある労働基準監督署に行ったらしい。
「え、なんでそれをスメントさんが知っているんですか」
「嗚呼、だってスメントさんが労災申請書を記入してくれませんかって頼んできたので、あのアバズレ、じゃなくて彼女が労働基準監督署に行ったことは丸わかりだよ」
早口でスメントさんは告げた。
つばが同時に飛んだ。
ゴブリンの耳クソの匂いがした。
「で、なんで労災申請しているのに辞めたんですか」
おれはその部分が気になった。
「嗚呼、申請されたから、なんか危なそうじゃないか、それで解雇した」
小型扇風機をナイフに持ち替えてスメントさんはゲヘヘと笑う。
「うわあ、たしかに危ないですね(いろんな意味で)」
おれの背後で扉が閉まる音がした。
今ギルドにいるのはおれとスメントさんと、あとは誰だっけ?
「ツカエナイトくん」
「あ、ヤルキナイトです」
「うむ、ヤルキナイトくん」
スメントさんはおれがデキソコナイトであるかどうかはどうでも良くなったらしく、もはやヤルキナイトが本名になった。
「ヤルキナイトくんはセクノハラさんと仲が良いんだよね」
研ぎ澄まされたナイフがスメントさんの手の中で転がる。
右から左、左から右と。
おれはそのナイフさばきに見とれていた。
「セクノハラさんからなにか聞いてないかい」
ごくりとつばを飲む。おれのつばはスメントさんよりも臭くはない。
「セクノハラさんから?まさかなにも聞いてませんよ」
「なにも?」
「なにも」
「本当に?」
「なにも!」
素早い動きで喉元に突きつけられたナイフはドラゴンのこめかみくらい硬かった。
「スメントさんの脱いだパンツを頭に被せられそうになったことなんてセクノハラさんから聞いてませんからね」
「なら良いんだが…」
スメントは安心したのかナイフを股間にしまう。
「もしもヤルキナイトくんがセクノハラさんから聞いた話で、わたしがセクノハラさんの耳垢を常習的に食べていたことを聞かされていたなら生かしてはおけないぞ」
「ええ、それはもちろん聞いてません。仮に聞いたとしてもギルドポリスに連絡するだけですね」
「まあそうだろうな」
閉まられたドアの前には屈強な男たちの影がちらついている。
「あのー、そろそろ帰っても?」
「なんだ、任務やりにきたんじゃないのか」
「あー、任務貰ったらの話です」
セクノハラさんに会いに来ただけなので墓穴を掘ってしまった。
そのとき、ピカッとギルドのドアが爆発した。
「ぎょえー」
ドアの前にいた男たちはぶっ飛ばされた。
「なんだなんだ、なにがおきたんだあー」
スメントが股間からナイフを落として血を流している。
「大丈夫ですか」
さっと駆け寄りスメントの股間をまさぐるとおれは蹴飛ばされた。
「あ痛あ」
たんこぶをさすっていると、声がする。
「許さないわよ」
「そ、その声は」
セクノハラさんがクマだらけの顔で仁王立ちしていた。
「よくも、よくも精神的ストレス強度大を与えてくれたわね?」
スメントの数々の悪事が暴かれようとしているとおれは思って少しへらへら笑ってみた。
「このくそやろー」
おれは殴られた。
「ぎやあ」
セクノハラさんが怒り心頭だ。
「このヤクタタナイトめ、きみが任務もやらないくせに居座って仕事の邪魔ばかりしたせいで、解雇されたじゃないかー!」
「なんだってえ」
セクノハラさんが労基署に行っていたのは、精神に支障をきたしたからである。
そしてその原因はおれだったなんて。
「わあごめんね」
「許すわけあるまいよー」
爆弾をたくさん持っているセクノハラさんが手当たり次第に投げまくる。
スメントさんは血を流しすぎたのがぐったりしたまま動かない。
「うおー」
焦土と化したギルドはそのあと、更地になった。
そこでセクノハラさんとスメント、そしておれになにがあったかなんてもう誰も知る由もない。
パワハラ指導というなのパワハラ




