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2.私の生活1(pixel"i"プライスサービス開始当初)

大体、文庫本のサイズで50~60Pほどの文量になると思います。

一週間で3000~4000文字前後で毎週金曜日に随時更新する予定となります。

しばし、お付き合いいただければ幸いです。

 pixel"i"プライス発表から二週間が経過し、マッスル社の株価は予想を超える急騰を見せた。


 マッスル社の株価は当初、期待派と保守派が拮抗しあうものと市場関係者から思われたがサービス発表当初から史上最高値更新し続け、経済アナリストや機関投資家からは軒並み好評を得た結果となっていた。


 市場の期待は高まり、その革新性は経済界に大きな波を呼んだ。店頭では、安価に商品を手に入れようとする消費者の熱気で警備員が配置されるほどの混雑ぶり。メディアはこの現象をスマートフォンの登場以来の社会変革と位置づけ、その様子を連日報道し、社会の注目を集めた。

 

 既存のユーザーが自分の感情をコントロールしながら適正価格で製品を購入する新たな消費スタイルを確立しはじめと言える。


 過去からの熱狂的なファンや富裕層にとってみれば最先端技術を手に入れることに価値を見出し、上限値一杯の高価価格帯であっても購入を続ける姿勢を見せた。

 彼らからしてみれば、時間をかけてまで製品を安価に手に入れる理由は多くないのだ。


 対照的に経済的に余裕がない層や、インフルエンサーなどは製品をより手頃な価格で手に入れるための情報交換が盛んに行われ、SNSやブログ、動画共有サイトを通じての攻略法の話題が活発になっているのがここ最近のもっぱらの状況である。


 既にマッスル社製のイヤフォンを持っていたユーザーはオンライン上でも、やはり各々が思う『適正価格』で販売された形となる。

 pixel"i"プライスの導入は、消費者の心理と経済状況によって大きく異なる反応を引き出し、社会全体に多様な動きを生み出しているのだった。


 マッスル社の最新端末を最安値で手に入れる攻略法を紹介する情報商材やマッスルチャレンジなる安価で製品を手に入れようとする動画等が特に人気を博し、その歓迎ムードは依然として続いていた。


 この期間に最大の衝撃を与えた出来事は、わずか100円で最新端末のフルスペックモデルを手に入れた人物が現れたことである。その驚きのニュースが伝わるや否や、数日後には、なんと無料でマッスル社の新製品を入手した者が登場したのだ。


 メディアは「ついに100円で!」と記事を書き、はやし立て、その後、「来たぞ!無料でマッスル製品を手に入れた者現る!?」といった見出しで、この話題を大々的に取り上げ、社会的な興奮をさらに煽る結果となった。


 動画共有サイトで話題となった、無料で端末を手に入れた人物へのインタビューは、彼の個性的なキャラクターまでもが注目を集めた。以下はそのインタビューの一部である。


 「世界的にですもんね。マッスル製品を買うんだったらさ~、持ってる自分のお金をあてにしたらだめじゃない?自己防衛?投資?今までの経済の考え方なんてあてにしちゃだめよ。もう乗るしかないですよね。このビックウェーブにね。」


 モヒカンにタンクトップという彼のユニークなファッションスタイルは、インタビュー映像とともにネット上でミーム化し、彼の発言と共に大きな話題となった。


 しかし、多くの人々にとって、購入が現実的であると感じさせるよう絶妙に調整された価格が即座に表示されるのである。

 これは例えば一つ、分割払いという手段を用い、心理的にも購入意欲をそそる魅力的な価格で提示される。

 さらに、サポートを受けるために事前に登録した現在所有するマッスル製品の下取り価格の差し引きも表示されるため、多くの人々はそれが購入可能な価格だと判断しやすくなるといった具合だ。


 このような販売戦略が、消費者の感情を見事なまでに揺さぶり、購入に至る背景にあるのだ。

 

 市場はマッスル社の製品で溢れかえり、その独占状態に業を煮やした競合他社は、マッスル社に対抗するための新たな戦略を模索し始めていた。彼らは類似のサービスやより革新的な機能を持つ製品の開発に着手し、市場における自社のプレゼンスを高めるための準備を着々と進めていた。


 マッスル社の市場独占を恐れた各国政府は商標権や特許を全て認めることはなかったのも背景にある。


 いずれせよ、一方で、マッスル社の製品はその人気の高さから市場で常に品薄状態が続き、その結果、販売台数はもちろんのこと、売上げも過去最高の利益を更新するという輝かしい成績を残している。


 商業的成功は、マッスル社のブランドイメージを一層高め、消費者の間での地位を不動のものとした言っても過言ではない。


 連日の情報に溢れる中で、私は割安で入手可能なマッスル製品についての情報はある程度把握していた。しかし、その製品が本当に必要なのか、そして積極的に求めるべき理由をまだ見つけることはできなかった。


 加えて、他社も近い将来に類似の販売戦略を展開するとの噂を耳にし、マッスル製品に固執する理由も発表当初よりは薄れていった。


 「人生でこういった瞬間に遭遇できるのは稀だ。これはこれで一種の楽しみだな」

 

 と、自分自身に言い聞かせるようにしながら、出社前のニュースで流れるマッスル製品の売れ行きを見ていた。しかしながら、これほどまでに刺激的で興味深い話題に接するのは久しぶりだ、などと感想を抱いていた。


 そんな朝のひとときを味わいながら、近所の小売店でお気に入りのマンデリンコーヒーの豆を挽き、コーヒーを淹れ、それをマグカップに注いだ。

 それと合わせて、手早く作ったレタス、チーズ、ベーコンを挟んだサンドウィッチと共に朝食を済ませた。

 そうして準備を整えた後、私は新しい一日へと踏み出すため、家を後にした。


 技術の進歩と市場の動向が織り成す物語に、小さながらも自分が加わっていくのだと感じながら。

 

 街中を歩くとやはりと言ってもいいくらい、地元とはいえあちこちでマッスル製品手にし、スマートフォンを操作する人々、話題のイヤフォンで音楽を楽しむ者たちが目につく。これらはもはや日常の一コマとなったかのようだ。


 電車の駅へと足を進める中でも、電車内でもその景色がしばらく変わる様子がないよう思えた。


 電車から降り立ち、オフィス街を抜けながら、私の目に飛び込んできたのはマッスル社のオフィシャルショップ、通称マッスルショップの長蛇の列だ。


 開店前の店先に、安価な商品を求めて転売目的の者、熱狂的なファン、魅力的なサービスに惹かれた消費者、そしてまるで浮浪者のような出で立ちの人々まで、様々な人が集まっている。それぞれの目的は違えど、彼らは皆、マッスル社の製品に何らかの価値を見出し、ここに集結しているのだ。


 この様子はサービスの開始直後から徐々にその数を増やし、交差点の信号を3,4個超えた先まで途切れることない人だかりが見えていた。


 「ああ、ニュースで見るのとは違って、実際に目の当たりにすると感慨深いものがあるな」


 などと、私は思わず感想を漏らさずにはいられなかった。そして、その場の雰囲気に少しだけ浸りつつ、今日のミーティングの内容や、仕事の進行計画に頭を切り替えた。まもなく職場に到着し、一日の業務を開始する準備を考えながら向かったのだ。


 一変した風景は、マッスル社の製品がいかに私たちの日常に溶け込み始めてるかを映し出しているなと思った。それは単なる一過性のブームではなく、社会に新たな動きを生み出し、我々の生活様式に変化をもたらす兆しであると認識しはじめていた。

 

 慌ただしくも興味深い現代の流れを肌で感じつつ、私の一日が始まるのだった。


 そして、改めてオフィスの窓から街を見下ろすと、やはりマッスルショップの列はなおも長く、新たな顧客が次々と加わっていく。それは、私たちの消費行動、コミュニケーションの仕方、そして時間の使い方にまで影響を及ぼしているのではないかっとふと考えてしまう。


 「それは考え過ぎか…」


 そう、つぶやき、一瞬戻った考えを仕事へと元に戻した。


 いずれにせよ、マッスル製品を巡る今日までの騒動は、まさに時代の象徴と言えるだろう。

挿絵(By みてみん)

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