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転生したら、異世界召喚被害に遭った  作者: 天原 重音
前日譚 ~半年前について~

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婚約破棄から始動する国家転覆計画

 煌びやかな夜会の会場の中央で、待ち望んだ宣言が行われた。

「ゼノヴィア・ウィシャート! 貴様との婚約、今ここで破棄する!」

 会場にいる貴族は『王家派』と呼ばれるもの達。近衛騎士に属するものは、この王家派に属するもので構成されている。王家派以外は近衛騎士に成れないように排除された経緯が有るので、こちらに寝返った一人(トップ)を除いて、会場内の近衛騎士も自然と敵になる。

 今日の会場には王太子以外に、レンフィールド国王夫妻と王女、其々の愛人が参加しているが、誰も嗜めも、止めもしない。

 簡素な夜会用ドレスを着た、ゼノヴィア(菊理)事、自分は大仰にため息を吐いてから発言者であり、婚約者だった三十路の王太子を目を眇めて見た。睨まれたと思った王太子は一瞬肩をビクつかせたが、すぐに『小娘に気迫負けしてなるか』と小憎たらしそうな顔を作った。

 ちなみに、自分が目を眇めたのは視界の隅で共犯者の一部が報告に走った事を確認する為であって、睨んではいない。向こうがそう勘違いしただけである。

 時間稼ぎに相手の怒りを煽る為にわざわざ頬に手を当てて再度嘆息を零す。

「全く、立太子されているからお(つむ)にものがキチンと詰まっていると、勘違いした私が間違っていましたわ」

「なっ!?」

「三日前、私と婚約を破棄する事は、周辺国との休戦協定もなくなるとお話ししましたのに、もうお忘れになったのですね」

 三日前の部分を強調して肩を竦めれば、周囲から失笑が漏れる。王太子は顔を真っ赤にして周囲を睨み付ける。失笑を零していた貴族達はそれで黙った。

 情けない貴族達を眺めていると念話による通信報告が入る。

『ゼノヴィア。包囲は完了した』

『随分と手際が良いですね。その手際の良さがどうして、私抜きで発揮されなかったのですか?』

 応答を返さずに、ここ一年間の癖で嫌味を言ってしまう。全くもって、嫌な癖が付いてしまったものだ。

『二十秒後に突入する』

 念話の相手は自分が吐いた嫌味をスルーし、端的に用件だけを告げた。

 二十秒後、この国の全てが終わり、新しく始まるのか。

 王太子は両脇に侍らせている男爵令嬢と子爵令嬢に宥められ、幾分落ち着きを取り戻していた。

 息を吸う。これが、この男に最後に告げる言葉だ。

「理由なき婚約破棄ですが、そちらの責任でなくなる分には構いません」

「小娘風情が調子に乗るな!」

 王太子が絶叫した直後、会場の扉が蹴り開けられ、抜剣した自国の騎士が雪崩のように入って来た。それも大人数で。

「何だ!? 何事だ!?」  

 息子が始めた茶番劇を観劇のように眺めていた国王が腰を浮かせて叫ぶ。突然の事態に会場内の貴族は戸惑い、我先にと脱出を試みるが、脱出先の扉から次々に騎士が来るので逃げ場はない。そもそも包囲は完了しているので逃げ場が有る筈もない。自分は身の安全確保の為に展開した障壁内に退避する。

 僅かな時間で、阿鼻叫喚の状況に陥るが、会場にいた貴族は次々に拘束され、会場内にいた近衛騎士は剣を抜く間もなく取り押さえられて行く事で、徐々に静かになって行く。令嬢や夫人は泣いているけど気にしない。

 王家一同も、触るな近付くなと喚き立てるが拘束されて行く。

 会場にいた全員の拘束が終わった頃、今回の作戦実行指揮を務めていた元帥が会場にやって来た。

「ダスティン公爵! これはどう言う事だ!」

 国王が声を上げるが、元帥は冷めた視線を送るだけ。自分は障壁を解除して、その隣に歩み寄る。

「どうもこうも、見た通りです」

「さ、宰相!?」

 元帥の代わりに王の問いに答えたのは、その背後で近衛騎士団長を従えた宰相のヒューストン侯爵だ。

 意外な人物が元帥の隣にいた事で、国王の顔から血の気が引いて行く。

 王の様子を見て、満足そうに深く頷いた宰相は笑顔で言い放った。

「レンフィールド王国において、汚職と腐敗政治しか出来ない貴方達王家は不要」

「なっ……」

「現時刻を以て、王家と王家派の貴族は排除させて頂きます」

 絶句する王に宰相は宣言した。

 それを聞いた拘束された貴族達が悲鳴を上げる。

 王家派の貴族はその殆どが伯爵以下。それも『男爵位を金で買って貴族に成り上がったもの達の子孫』だ。

 それ以外の『功績を以て成り上がったもの達の子孫』と、侯爵以上爵位を持つ家は全て王家を見限っている。

 命乞いの声が上がるが、宰相と元帥は全て無視している。全て切り捨てる覚悟で、今夜、事に踏み切ったのだ。今更命乞い程度でそれが揺らぐ筈がない。

「どうせ命を散らすのなら、一張羅のまま散らさせた方が良いだろう? みすぼらしい格好を理由に化けて出て来られても迷惑だしな」

 会議でこんな事を言ったのは誰だったか。宰相か財務大臣のカーンズ公爵辺りが言いそうだ。

 回想している間に、拘束された貴族が全員連行されて行く。連行先は王城前の広場。そこで、拘束された貴族は今夜中に処刑される。ギロチンが無い為、斬首用の処刑斧を使うので、暴れると苦しみながら死ぬ事になる。

 国王夫妻と王太子と王女は地下牢行き。王家の処刑は明日の昼に行われ、王家の愛人を務めていた面々は男女関係なく、今夜中に火刑に処される。

 これらの事に自分は関わらない。

 暴れて騎士達に殴られる貴族を眺め、会場に背を向けて歩き出す。

 背後から自分を呼ぶ声が上がるが無視。声から察するに、王太子だろう。一方的に婚約破棄をして置きながら、婚約者だった自分に縋り付こうとは。どこまで馬鹿なのか。声が不意に途切れた。余りにも騒ぐから誰かが気絶させたのだろうか。どうでも良いけど。

 そもそも、自分と王太子との婚約を決めたのは宰相。王命と言う体裁を取って決められた婚約でもある。

 それを理由なく破棄する馬鹿。三十路の癖に頭に何を詰まっているのやら。いや、何も詰まっていないから、公務を熟すだけの王太子妃の座が空席のままだったのだろう。そこに、当時十二歳(十三歳の誕生日を迎える前だった)の自分を『褒美』だの、『国の為』だの言って押し込める辺り、碌な大人がいない。

 やっぱり、速攻で出て行くのが正解かな?

 城内の自室に向かう途中の廊下、何時もなら一人ぐらいは見かける、侍女や侍従、女官や文官、警羅兵と遭遇しない。ここは一階の廊下で現在夜。下働き層のものならまだ分かるが、貴族階級でなければ就職出来ないもの達までも見かけない。

 城内で働いていた貴族階級全員が王家派に属していなければこうはならない。

 そこまで考えたところで、遠方から悲鳴と喝采が聞こえて来た。

 悲鳴の種類を考えるに、処刑が始まったのだろう。

「やっと、終わるのね」

 廊下の窓からでは見えないが、窓から夜空を見上げ、感慨深くなりポツリと呟いた。

 腐敗と汚職に満ちた国に終焉が訪れる。

 宰相を始めとした『改革派』の貴族が計画し、長年虐げられて来た民が望んだ一つの終焉。


 でもね。

 婚約破棄から始動する国家転覆計画。

 一体どこのラノベのタイトルだよと、言いたくなるような状況はどうにかならないものか。

 発案者は自分だけど、採用責任者は宰相。

「王家派だけが呼ばれる夜会で婚約破棄してくれたら最高ですね。ついでに全員拘束出来たら楽ですね」

 と、言ったのがそもそもの間違いだったか。過ぎた事なのでどうにもならないけど。


 外から時折聞こえる喜びに水を差す気はないが、階段を上りながら『けれど』と思ってしまう。

 けれど、本当の意味での苦難はこれからだろう。

 幾ら貴族が画策したとは言え、王位継承権を持たないもの達が国家転覆と言う形で王家を一つ潰した。

 他国は警戒するだろうし、これからの付き合いを考えると、いかに休戦協定を結んでいても何時攻め込んで来るか分からない。

 改革派はそこまで考えてはいる。でも、最後の一手に『無関係な』自分を捻じ込み、身内から生贄を差し出さないような連中に、良い未来は待っているのか。

 自分は無関係だけど、国の現状を知っているから『事後承諾』で協力していただけ。その協力も王太子との婚約が終わるまでの期間。そして、その期間は先程終わりを告げた。

 本音を言うのなら、事前に話しを持ち掛けて貰いたかった。拒むだろうけど。

 階段を上り、廊下を歩く。無人の城内が荒んでいるように見える。外からは処刑される貴族の悲鳴と、貴族を罵る平民の声が未だに聞こえて来る。処刑対象の貴族の人数が多いから、もう暫く掛かるだろう。

 廊下を歩き、自室に辿り着く。

 部屋に入って鍵を閉め、ドレスの格好のままベッドにダイブ。ベッドでゴロゴロするのは実に一ヶ月振りだ。一ヶ月前、王家派の貴族が雇った暗殺者が寝込みを襲って来たので、ベッドで眠れなくなった。強制的に婚約させられる以前――恐らく徴兵されて、前線で戦っていた頃に癖になった――から、『剣を抱えていなければ眠れなくなっていた』のが不幸中の幸いとなった。でも、これも王家が原因でこうなったから、暗殺者の返り討ちはある意味因果応報(?)と言えよう。

 暫しベッドでゴロゴロし、これまでを思い返そうとして――止める。

 精神衛生的に思い出すのは良くない。そして、大人に対してイライラが止まらなくなるので止めよう。

 空腹を訴える音が鳴り響く。起き上がって道具入れから保存食を取り出して食べる。乾パンや干し肉ではない。調味料に漬け込んだ肉を燻製にしたものだ。

 ベッドの上で行儀悪く何切れか食べる。

 毒の入っていない食事が美味しい。

 王城で出て来た食事には、常に何かしらの薬物が混入されていた。持って来た態度の悪い女官の口に無理矢理捻じ込んで毒見させて、泣かせて自供させるのが日課だった。その為、城内での食事は常に宰相と一緒だった。女官の自供で薬物混入者が芋づる式で逮捕された。これも日課だったわね。そのあと自分で作って食べるのも。

 この一年間を少しでも思い返すと憂鬱になる。

 保存食を食べ終え、再び寝転がり、目を閉じる。少しそのままでいると眠気がやって来た。

「ドレスと化粧……」

 寝落ちする直前で、着替えと化粧落としをしていない事を思い出す。眠気を堪えてドレスを脱いで寝巻に着替え、化粧を落とす。シャワーは明日でいいや。

 部屋の灯りを落として、そのまま就寝した。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

前日譚開始です。

このまま終わりまで連投しますので、最後までお付き合いいただけると幸いです。



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