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転生したら、異世界召喚被害に遭った  作者: 天原 重音
本編

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13/18

何時かまた会おう ~ルシア視点~

間が開いてしまいすみません。

ルシア視点による、本編の最後です。

 ククリが空間転移魔法で姿を消すと同時に、ルシアの視界の隅で赤の魔王は素早く動いて彼女を追った。白の魔王が動かないのは、ククリが放った攻撃魔法によるダメージが溜まっているからだろう。

 どの程度のダメージが蓄積されているか分からない。だが、移動するのなら今の内だろう。

 ルシアはマルタと共にミレーユの腕を掴む。すると、視界が切り替わり、何処か知らない草原に座り込んでいた。

「可能な範囲で逃げるわ。もう何回か移動する。マルタ」

「分かりました。周囲から見えないようにします」

 マルタが光学迷彩代わりの幻術を周囲に展開した。マルタによる術の確認が終わると、ミレーユの言葉通りに視界が再び何度も切り替わった。ミレーユの魔力が尽きるまで続き、何処か分からない岩場に辿り着いた。魔力が尽きるなり、ミレーユはその場に寝転がった。同時に、マルタが展開していた幻術も解除される。

「ここまで来れば、一安心か?」

「どうでしょうね。ミレーユ。食事を準備しますので、それまで休んでいて下さい」

 ルシアは周囲の警戒に立ち、マルタは食事休憩の準備を始める。

「分かったわ。そろそろ、マルタもこれくらい出来るようにしてよ」

「……善処します」

「やる気ないのね」

 ミレーユの苦情を受けて、マルタは目を逸らした。目を逸らした理由として、マルタは無言で食事の準備を進める。誤魔化しなのは一目で分かったが、食事休憩は必要なので、ミレーユから文句は出ない。

 沈黙が下り、作業音だけが響く。

 その間に、ルシアは周囲を警戒しながら先の戦闘を振り返る。

 ……やはり、ククリはまた強くなったのだな。

 正直に言うと、ルシア達三人では白の魔王にダメージを与える事は出来なかった。だが、ククリはそれを成した。

 これはルシアの推測の域を出ない仮の話だ。ククリがなりふり構わずに戦ったのならば、白の魔王に『勝てた』のだろう。けれど、その意味は白の魔王を『殺す』事を示す。

 今後を考えて『魔王を斃してはならない』と言う条件を考えると、流石に厳しい。

 どうすれば良かったのかと、そこに思考が回ったところでマルタより『食事が出来た』と知らせを受ける。テーブルに向かうと、四人分の食器が並んでいた。人数が違うとミレーユが指摘した。するとマルタは『しまった!』と言わんばかりの顔をした。

 どうやら、うっかり何時も通りに準備をしてしまったらしい。

 だが、三人の体が揃って補給を欲していたのか、全て皆の胃袋に収まった。半年振りとなる、三人での食事となった。

「んで、これからどうするのよ?」

 お茶を飲んで一息ついた頃に、ミレーユがそう切り出した。

 ミレーユはたまに空気を読まないでズバッとものを言う。その良し悪しは状況による。今回は良い方向だった。

「予定通りに調べに行く。それ以外に無いだろう?」

「そう、ですね」

「必ず教えるって言っちゃったし。そうするしかないって事ね」

 予定は存在する。だが、急に一人抜けた事で心の整理が追い付いていない。

「ごちゃごちゃ考えるから悩むのよ! さっさと行かないと、魔王達が追いかけて来そうだし」

「道案内の約束を取りつけたが、現状では頼らない方が良さそうだな」

「あのめんどくせぇ、げふん、困った方々が来るのは確かに嫌ですね」

 咳払いを混ぜて、マルタは言い直した。ルシアとミレーユは胡乱な視線を送るも、何時もの事なので一瞬だけだ。

「……分厚い皮ね」

「……本当だな」

 ルシアとミレーユは顔を見合わせてから、揃ってお茶を飲む。

「ええと、場所は大陸最高峰の山頂の上でしたっけ?」

「そこの壊れた神殿だったか?」

「そうだった筈よ」

「で、では片付け次第向かいましょう」

 何故急ぐのかと、ルシアはマルタに尋ねたくなった。けれども、早々にここから離れた方が良い事には同意するので、口にはしなかった。それはミレーユも同じ思いだったらしく、ちらりと視線を向けたら頭を振られた。まるで、口にするなと言っているようだった。ククリのように小さく首を縦に振ってルシアは同意した。

 十分な休憩が取れた事を確認し合ってから三人で片付けを行い、地図を手に方角を確認してから、空中移動用のバイクをそれぞれの宝物庫から取り出して乗る。

 空を高速で行くその道中、ルシアは『とある事』を思い出した。

 ククリをこの世界に召喚した連中の事だ。怒涛の展開ですっかり忘れ去っていた。ルシアですら忘れていたのだから、この二人もきっと覚えていないだろう。調べものが終わったら、二人に提案して報告に向かおう。ルシアが『覚えていたら』になるが。

 空を休み無く飛び続けて、日が大分落ちた頃。漸く目的地に到着した。標高の高い場所柄と日が落ちているせいで気温も低い為、三人揃って外気温調整用の魔法具を取り出し、身に着け発動させる。

 辿り着いた山頂の神殿は、聞いていた通りに瓦礫の山と化していた。

 空きスペースにテントを張って一泊し、翌朝、食事を終えてから三人で手分けして瓦礫の山から『霊力に関するもの』を探す。

 二日掛けて瓦礫の撤去作業を行っていた最中、ミレーユが奇妙な石碑を発掘した。石碑正面の瓦礫を全て撤去すると、その全貌が判った。

「何? これ……」

「物語の一幕を描いたものにしては、意味が解らんな」

「この角が生えている人物は、魔族でしょうか?」

 二メートル四方の石碑に描かれているのは、杖を持った女が祈りを捧げている姿と、側頭部から一対の角を生やした男が炎と思しきもので焼かれている状況だ。マルタの言う通り、角を生やした男の正体は魔族で合っているだろう。そうなると、杖を持った女が聖女となる。

 戦っている最中を描いたものなのかと、三人で顔を見合わせる。じっくりと眺めて、ルシアはとある事に気づいた。

「杖のところだけ、浮き彫りになっているのか」

「これ『絵』よね? 彫刻じゃないわよね?」

「変わっていますね」

 マルタが手を伸ばして、杖の中腹部分を指でなぞる。すると、石碑そのものが淡く光った。三人揃って無言になる。

「……マルタもう一度触ってみろ」

「え!?」

「検証だから大丈夫よ。マルタの次に私も触るわ」

 さぁ、とミレーユがマルタの背中を押して、再度触らせる。先程と同じように石碑は光った。だが、ミレーユが触っても同じ現象は起きない。ルシアが触っても同じ結果だった。何の違いが在るんだと、三人で顔を見合わせて考え込み、ミレーユが小さく声を上げた。

「すっかり忘れていたけど、マルタの籠手にククリの霊力が残っているじゃない」

「ああ、囮役をさせた時の霊力が残っているのか」

「そ、そう言えばそうでしたね。殆ど残っていませんけど」

 ルシアとミレーユは納得顔になった。だが、マルタは目を泳がせている。不審に思い、『もしかして』の疑問が浮かぶ。

「もしや、触れるだけで残っている霊力を消費するのか?」

「そ、そうみたいです」

 マルタの肯定で目を泳がせていた、光る理由だけは判明した。

 聖結晶から成る神性魔力でも同じ現象が起きるか試したが、三人の魔力を合わせた総量の八割を使ってもほんのりと光るだけだった。霊力を使うしかなさそうだ。

 一度の消費で霊力がどの程度減るのか、マルタを質問攻めにして話し合い、変化が起きるまで再び石碑に触れさせた。

 始めこそ淡く光っていた石碑だったが、一分程度の時間が過ぎると強く光り始め、振動し始めて少しだけ奥へと動いた。

「ごめんなさい。ここまで、です」 

 だが、マルタの謝罪通りに残っていた霊力は尽きてしまった。再びマルタが触っても、変化は起きない。

「気にするな。無理矢理動かせば良いだけの事だ」

「そうね。奥に何か在るんだったら、動かせるでしょ」

 ルシアとミレーユは励ましの言葉をマルタに掛けてから、同時に愛剣を鞘から抜いた。二人が何をするのか、悟ったマルタが慌てて止める。

「待ちなさい。石碑を壊すつもりですか?」

「駄目なの?」

「一番手っ取り早いぞ」

「壊すのは駄目です!」

「「ええ~」」

「えーじゃない、ブーイングも飛ばすんじゃない!」

 不満の声の次に、ブーイングを飛ばし始めた二人を一喝して黙らせたマルタは苛立ちから、拳をすぐ傍に在った――石碑に叩き付けてしまった。

「「「あ」」」

 気づいた時には既に手遅れだった。たった一撃で、石碑は木端微塵になった。それも、マルタの拳による一撃で。

「「「……」」」

 破片が地面に砂埃を巻き上げ、音を立てて散らばり、沈黙が下りた。マルタは引き攣った笑顔になる。残りの二人は半眼になってマルタを見つめる。

「流石、趣味と実益を兼ねてボクシングを嗜む女ね」

「うむ。一撃だったな。流石重拳闘士」

「……これの修理費は請求されませんよね?」

 暫しオロオロしたマルタからそんな言葉が飛び出した。

「こんな時に小市民のような事を言うな。こんなところの所有権を主張する奴がいるとでも思うのか?」

「一面瓦礫の山と化した場所の所有権を主張するんなら、瓦礫の撤去作業程度はするでしょ。そんでもって、観光地にして良い商売場所にするわよ」

「確かに、高い入場料金を取れば良い金儲けの場に――」

「待ちなさいっ。神聖な場所を何と心得ているのですか!」

「じゃぁ、バチカン市国のあの建物は何なのよ?」

「そうだな。免罪符を大量に売り捌いた金で造られた聖堂だぞ」

「……………………そ、それは」

 何も反論出来ず、マルタは肩を落とした。

 そんなやり取りをしていた間に砂埃は収まり、石碑の代わりに何処かへ続く暗い通路が出現した。三人で一度顔を見合わせ頷き合う。

 何処へ繋がっているか不明だが、やっと現れた変化を前に『進まない』と言う選択肢は無い。ミレーユが光属性の魔法で光源を作り出して宙に浮かべると、白く照らされた石積みの通路が出現した。

「おおっ!? ここにいたか!」

 そこで、数日振りに聞く、聞きたくない声が響いた。三人で顔を見合わせ、対応の押し付け合いに負けたマルタが代表して対応する。

「んんっ、金の魔王と白雷、今になって何の用ですか?」

「……対応の押し付け合いをする程に嫌われているとは思わんかったぞ。確認で来ただけだ」

 マルタは咳払いしてから作り笑顔で対応し、金の魔王は何とも言えない微妙な顔で用件を告げた。

「そうか」「じゃぁ、用は済んだわね」

 ルシアはミレーユと頷き合って一言言った。 マルタも同じ事を言った。

「「か・え・れ!」」「帰りなさい」

「まだ確認が終わっておらんわっ!」

 金の魔王から、キレ散らかす芸人のような反応が返って来た。その背後にいる白雷は額に手を当てて嘆息している。

「何か情報は得たか?」

「まだだ。たった今、通路を発見した。これから進むところだ」

 ルシアが白雷の質問に答えると、金の魔王が満足げに頷いた。

「丁度良い時に来れたな」

「帰れ!」「帰りなさい」

 ミレーユとマルタの帰れコールを受けても、金の魔王は屈しない。逆に愉快そうに笑うだけだ。

「酷い嫌われようだな」

「顔と言葉が噛み合っていないぞ。この通路の扉は霊力に反応した。貴様らが入れるかどうか、正直に言って怪しいぞ」

「ふむ。ならば試すか」

「「「「おい!?」」」」

 ルシアから齎された情報を聞くなり、金の魔王は通路に足を踏み入れた。彼を除く全員がギョッとするも、何も起きなかった。

「問題は無い。行けそうだ――あたっ!?」

 通路の奥へ数メートル進み、金の魔王は満足げに頷いて通路内を観察していた。だが、早歩きで追い付いた白雷が、観察を中断させるように金の魔王の後頭部に拳を振り下ろした。一発で終わらず、追加で三度も白雷の拳が唸った。

「捻りを加えればもう少し――」

「マルタ。一体、何の批評をしているの?」

「――ハッ、いえ批評ではありません。ささ、奥へ進みましょう。丁度良い盾代わりの肉壁が有りますし」

 マルタの言葉に被せるようにミレーユが突っ込みを入れた。すると、マルタは慌てて取り繕い走った。そして、金の魔王を奥へ押しやる。白雷はマルタに道を譲った為、逃れる事に成功した。

「待て。誰が盾代わりの肉壁だ!?」

「独りで奥へ進むからそう言われるんだぞ」

 金の魔王の叫びも空しく、彼を先頭にこのまま進む事になった。



「……長いな」

 白雷の呟き通りに、通路は思っていた以上に長かった。代わりにトラップと言った類も無い。

 ルシアの感覚としては、勾配の緩い螺旋状の坂道を下っている――この例えが近い。

 金の魔王、ミレーユ、ルシア、マルタ、白雷の順に縦一列に並び、無言のまま歩き続ける。

「また在りましたね」「何の抽象画なのよ?」「これは、生贄の儀式か?」

 石積みの通路は代わり映えしないが、代わりに奇妙な絵が壁に描かれている箇所が出現する。

 ただ、その絵が奇妙と称されるのは、常に『何かを捧げている』様子の絵だったからだ。捧げているものは、全てバラバラで統一性が無い。人間を始めとした生き物だった絵も在れば、剣に宝石や本などの物品が描かれているものも在った。

 今回見つけたのは、手足の無い子供を捧げている絵だった。ルシアは生贄の儀式かと思ったが、周辺に子供のものと思しき『欠損した手足』が転がっていた。生贄の儀式では無いのなら、何の儀式を行っているのか?

「おっ! やっと終わりが見えて来たぞ」

 先頭を歩く金の魔王が突然声を上げ、歩くペースを速めた。先頭を追う形で、全員早歩きで追う。

「普通の扉?」

 長い通路の行き止まりに存在したのは、石造りの普通の扉だった。金の魔王が触れても無反応だ。試しにルシアが手で押すと、見た目通りの重さが在るのでそれなりに重かったが、何の仕掛けも無く簡単に動いた。全員で一度顔を見合わせから、金の魔王が扉を押し開けて先へ進む。

 内部は暗かった。ミレーユが光球の高度を上げる――よりも先に乳白色の明かりが灯った。

 全員で周囲を警戒するが、数分経過しても、何も起きない。ミレーユが光球を消すも、明かりはそのままだ。全員で室内を改めて見回す。

「あの、アレは、何だと思いますか?」

 室内には何も安置されていなかった。これまでの通路で見かけた壁画と似た抽象絵が壁一面に隙間なく描かれている。そして、マルタの震える声に誘われて、彼女が指で指し示した方を見る。その先の床を見ると、室内の中央付近の床に魔法陣と思しき幾何学模様と、この世界に存在しない文字らしき紋様が刻まれていた。

 全員で中央にまで近づいて紋様を確認する。

「この世界の文字は使われていない、わね」

「確かにそのようだな。俺が知る、どの古代文字にも該当しないぞ」

 ミレーユが文字を確認すると、金の魔王が肯定する。

「見た目の割に博識ですね」

「『見た目の割に』は余計だ!」

 マルタの感心しているようで、とてつもなく失礼な発言に、流石に金の魔王でもキレた。

 キレた金の魔王を見て狼狽えたマルタは、うっかり魔法陣を片足で踏んだ。

「「「「あ」」」」「え?」

 その瞬間、魔法陣を中心に眩い光が室内を駆け巡った。

『あー……。誰だぁ? こんなところにまで来たのはよぉ』

 光が収まり、視界が正常に戻るなり室内に響いた、音源不明の声音は青年を思わせる若い男のもの。口調は悪いの一言に尽きる。声の主は見当たらない。魔法陣が光り輝いているだけだ。

「男? 聖女の足跡を辿って来たのに、何で男が出て来んの?」

「確かに謎だな」

 ミレーユの疑問通りなので、白雷も肯定する。

『あぁ? 今、聖女っつったか?』

「その通りだ。厳密には『霊力に関する情報』を求めて、聖女の足跡を辿り、ここに来た」

『へぇ、そうだったのか』

 ルシアがここに来た理由を教えると、魔法陣に変化が訪れた。

 淡い光が魔法陣の中心に立ち昇り、人型を形成した。声と同じくローブ格好の中性的な容姿の青年の姿だ。ただし、体の向こう側が透けて見える事から、霊体の可能性が高い。

「面妖だな」

『悪ぃな。こう言う形でしか残れなかったんだよ。赤毛の魔族と半分ぐらい、差し違える形になってな』

 白雷がぽつりと感想を漏らせば、ぼやくような反応が返って来た。

「赤毛の魔族。もしや、ラーヴの事か?」

『あー、そんな名だったな』

 金の魔王が『もしや』と思って、青年に尋ねると名を覚えていたのか肯定された。

『そんな大昔の事よりも、ここに来るまでの事を教えろ』

 青年はそう言ってこちらを見て、にやりと笑う。

『魔族と人族が一緒に来たんだ。何か大事が起きたんだろ?』

 何と返答すれば良いのか迷うも、魔族の二名は『場所を教えたから辿り着いたかの確認で来た』と言って、詳細な回答を拒んだ。

「どうする?」

「私が話そう。マルタは何を思っても口を挟むな」

「えぇ? 何でそうなるんですか?」

「さっきの失言を思い出せ。こちらが意見を求めるまで口を開くな。――ミレーユ」

「解っているわ。監視は任せなさい」

「解せません」

 マルタは悄然と肩を落とし、そんな彼女の肩を掴んだミレーユは、声は届くも、手を出すには微妙に距離があるところへ連れて行く。

「今更だが、私の名はルシアだ。そちらの名を教えて貰えるか?」

『俺の名? 話の腰を折る事になりかねねぇから、あとで教える』

 奇妙な言い訳で、ルシアが青年に名を問うも断られた。だが、話は進めなければならない。ルシアは青年に理由を尋ねる事を止めた。

 自ら説明を買って出たルシアは、何処から説明すれば良いのか悩むも、半年前に起きた『霊力を持って生まれた王女の誘拐』を発端とする、『とある国で行われた聖女召喚の儀式』から全てを話した。

 魔族絡みの情報に関しては、金の魔王にその都度尋ねて補足を入れる。

『へぇ、そんな事が起きたのか』

 途中で、床に腰を下ろして胡坐をかいた青年は、ルシアの説明を聞くと一頻り感心した。

『しっかし、『異世界から』の召喚術式がまだ残っていたのか。一番の驚きはそこだな』

「? 半年前に使われた召喚術式は『聖女召喚術式』では無く、『異世界召喚術式』なのか?」

『厳密には『霊力保持者を無差別に召喚する』術式だ』

「「「「「なっ!?」」」」」

 青年の言葉を聞き全員で絶句する。だが、絶句するにはまだ早かった。

『俺も、この術式で『霊力を持っていた妹と一緒に他の世界から呼び出された』内の一人だ』

「そんな大昔から、異世界召喚術式が存在したのか」

「いや待って。それよりも、内の一人って事は他にも霊力を持った奴を召喚したの?」

 金の魔王が感心するが、ミレーユは気になった事を尋ねている。無差別に召喚する術式ならば、ククリだけが召喚されたのは、一種の奇跡としか言いようが無い。

『そうだな。巻き込み含みで、三十人近くはいたな。俺らを呼び出したあいつらは、終わったら帰れるって言っていたけど』

「あんた以外生き残っていないのね?」

『そう言うこった。んで、俺の名はユーリイだ』

「確かに、この世界の名では無いな」

 ユーリイと名乗った青年が、名乗りを拒み『話の腰を折りかねない』と言った理由は、こちらの混乱を懸念してだった。だが、ここで疑問が沸く。

「いや待て。最後に生き残ったのが貴様ならば、聖女の話は作り話か?」

『そうだ。聖者よりも、聖女の方が士気が上がりやすいってな。霊力を持っていた妹と俺を混同していたのかもしれないが、俺は代償と引き換えに得たからそれは無いか。ま、体格を誤魔化す程度のローブしか着ていなかったが、魔族は騙せたな』

 残念な現実が齎された。同時にルシアは『そう言えば』と思い出す。確かに、青の魔王はククリとマルタの区別が付いていなかった。

「聖女の真実とは、非常に残念なものだったのですね」

『確かにそうだな。――それで、お前達は俺と世間話をしに来た訳じゃない、よな? 今更になるが、何しに来たんだっけ? お前ら』

「話が散々脱線したが、霊力に関する情報を求めている。主に、後天的に霊力を得る方法と手放す方法についてだ」

『却下だ』

 忘れ去られた用件を、ルシアが改めて口にする。しかし、ユーリイは即座に却下した。ユーリイが即座に却下する理由には、心当たりは存在する。けれども、ルシアは確認の為に理由を問う。

「理由は?」

『人に教えて良いもんじゃない』

「代償を必要とするからか?」

『その通りだ。……って、知ってるのか』

「ここにはいないが、霊力を保有している仲間が『粒子状に成った霊力は代償を捧げた証』と言っていた」

『それ知ってるんだったら、解除方法も知ってるだろ。何故、俺に聞く?』

 ユーリイから問い返しを受けて、ルシアはミレーユとマルタを見た。ルシア達の状況を教えるには、躊躇いを覚える程度に込み入っている。それに、ここには魔族二名もいる。

 ルシアから視線を受けた二人は、一瞬だけ顔を見合わせてから揃って頷いた。喋って良い『許可』だと、受け取ったルシアはユーリイに、ククリを含む自分達が置かれている状況について簡単に話した。転生の旅の過程で、ククリだけが霊力を得た事についても話す。

『成程。そうだったのか。……どの道、本人がいない上にそんな過程で霊力を得たんじゃ、解除は無理だな。それに得る方法を広める訳には行かない』

「そんな過程? 貴様はどのようにして霊力を得たのだ?」

 奇妙な引っ掛かりを覚えて、ルシアは質問を重ねる。

『後天的に霊力を得るには代償が必要となる。んで、霊力を得る際に『解除方法も一緒に自分で決める』んだ』

「待て、それでは」

 ユーリイが明かした霊力を得る手順を聞き、ルシアは思わず声を挟んだ。その手順では、知らない間に霊力を得てしまっていたククリはどうなるのか。

『気づいたか。自分で解除法を決めていないのなら、解除法を定めた奴しか知らない事になる』

「解除法を決めた奴を捕まえて、吐かせるしかないのか」

『そう言う事だ。ただ、俺も伝わっていた方法を試しただけだから、探せば他にも解除法があるかも知れない。見つかる可能性は低いだろうが、……悪いなこれくらいしか知らない』

「いや、解除方法が存在する事だけでもマシだ。感謝する」

 得たい情報の片方しか明かされなかったが、ルシアはユーリイに礼を言った。

『片方しか教えられなくて悪いな。得る方法は広めたくないんだ』

「代償以外に理由が在るのなら教えて欲しいな」

『……実を言うと。俺が使った方法ってのは、成功するか怪しかったんだ』

「怪しかった?」

 ルシアはユーリイの言葉の一部で、気になった個所を聞き返した。

 成功するか怪しい方法でユーリイは霊力を得た。その方法をルシア達が試して、失敗する可能性も出て来る、と言う事になるのか。

『そうだ。審判者とかって言う、良く分からない変な奴らが残した方法なんだ。しかも方法が、口伝でしか残っていなかったんだ。その内容も儀式っぽい感じだった。ここに来るまでの壁画は見たよな? あんな感じの神に奉げる儀式って感じでやるんだ』

 ユーリイの口から予想外の単語が飛び出し、ルシアは思わず息を呑んだ。

 審判者。

 それは、ルシア達が永い転生の旅をする事になった元凶を指す。この世界でククリと再会する事で知り得た情報になるが、一年と経たない内に再びその名を聞く事になった。

 何となく、ルシアはミレーユとマルタに視線を移した。二人揃って驚きの余り、動きを止めていた。嫌悪感を隠す為か、マルタの顔が強張っている。

『どうした?』

「いや、一年経たずにその名を再び聞く日が来るとは思わなかっただけだ」

 ユーリイの問い掛けに素っ気無く答えたルシアだが、審判者と自分達の関係について話していなかった事に気づき、追加で説明する。

 すると、間の悪さに気づいたユーリイが渋面を作った。

『間が悪かったな』

「いや、こればかりはどうしようもない」

「そうね。寧ろ、こんなところにまで関わっている連中がおかしいのよ」

「そうです。私達の旅の始まりは、もっと凄かったですよ」

 三人で『ユーリイは悪くない』と言えば、彼の表情が少し和らいだ。

 霊力には審判者も関わっている。これが分かっただけでも、少しの進歩だ。ルシア達はこの少しの進歩を重ね続けて今に至っている。故に、この少しだけでは落ち込むような柔な神経は持ち合わせていない。

 三人で軽く話し合い、『審判者が情報を持っている。探し出して情報を吐かせよう』で意見が一致した。

 そこで口を挟んでも問題無しと判断したのか、これまで黙って様子を見守っていた金の魔王が口を開いた。

「俺から一つ質問をしても良いか?」

『魔族が何を聞きたいんだよ』

「簡単な事だ。こやつらはどうでも良さげだがな。後天的に霊力を得るには、何かしらの代償を必要とする。では、この代償は何でも良いのか?」

 金の魔王の問い掛けを聞いて、ルシアは『己が問わねばならない質問だった』と気づいた。どれだけ浮かれていたのかと、三人で少し反省する。

『一応基準は在る』

「存在したのか」

『ああ。よく聞く悪魔との取引みたいな感じだけどな。――汝が心から追い求めしもの、あるいは、最も大切なものを捧げよ。捧げられた重みで、黄金の霧は雫に、その形を変えるだろう。口伝の言い伝えはこんな感じだ』

「捧げられた重み?」

「それは捧げる回数を重ねろ、と言う事か?」

 ユーリイの回答を聞きいて、金の魔王は怪訝そうな顔をしたが、ルシアには心当たりがあった。ククリから齎された情報と照らし合わせて、ルシアは言葉を選んでユーリイに問い返す。

『それは俺にも分からない。俺の場合は、凄腕の医者でも匙を投げる状態の妹が『俺だけでも生きて帰れ。ただ死ぬよりも俺が帰れる手助けになりたい』って、言い出して儀式をする事になった』

 ユーリイの言葉が事実ならば、彼は実の妹の命を代償として霊力を得た事になる。

 対して、ククリはどうだったのか。ルシアは思考を回した。

 ククリの代償は、再会するまでの毎回の状況を考えれば判る。恐らく、『血の繋がった両親兄弟姉妹(家族)との縁』で合っている。転生する度に代償として『事前に奪われていた』のなら、毎回あの状況になってしまうのも納得出来る。

『ここにいない奴については知らないが、代償は重かったみたいだな』

「その通りだ。体験したくもない程に、想像を絶する重みだ」

 ルシアは暈した物言いで、ユーリイの言葉を肯定した。ククリを取り巻く状況は『一度たりとも体験したくない』ものばかりだ。

 だが同時に、思う――いや、理解する。

 ルシア達十人の中で、霊力を得られる代償と成り得るものを持っていたのは、ククリだけだった。

 瞑目して、ルシアは遠い昔の記憶を探った。転生の旅が始まる前の家族はどんな人だったか。覚えているのは、祖母がミレーユの祖母と双子の姉妹だった事のみで、顔は覚えていない。積み重なった記憶に埋もれて思い出せないのか、あるいは、本当に忘れてしまったのか。

 思い出せないのに、もどかしいと思わない。悲しみも無い。それはある意味当然だ。ルシアには思い出す機会(必要)が無かったからだ。

 薄情だと、ルシアは思った。だがククリからすれば、この薄情すら贅沢と感じるだろう。

 聞き忘れが無いように、ユーリイが持つ霊力に関する情報の提示を求めたが、全て既知の情報だった。それでも、ルシアはユーリイに礼を言った。

「情報の提供、感謝する」

『こっちも、あんまり教えられなくて悪いな』

「いや、情報が手に入っただけでもありがたい。例え既知の情報だったとしても、真偽判定が出来る」

 これまで、霊力に関する情報を入手出来た機会は少なかった。ルシアの言う通り、情報の真偽を確かめる機会すらも無かった。

 ユーリイから齎された情報と、既知の情報を照らし合わせた結果、保有している情報が『全て正しい』事が判明しただけでも大きい。

『お前らはこれからどうするんだ?』

「そこの魔族は知らんが、我々女子三人は大事な用事が残っている」

 視界の隅でマルタが口を開こうとして、機を察したミレーユが素早く動いてマルタの口を塞ぐ。

 ルシアの言う大事な用事は、ククリをこの世界に召喚した国へ行き、事の顛末を教えて召喚に関するものを破棄させる事だ。

「我々の方も特にやる事は無いな。ここにも確認で来ただけだし」

 金の魔王の言う通り、そちらの二名は確認で来ただけだ。

『そうか。んじゃ、そっちの女三人に餞別でも渡すか』

 双方の今後を聞いたユーリイは、とある一点を指差した。餞別と指示した方向が噛み合わず、ミレーユが口を挟んだ。

「餞別? この何もない部屋に何が在るのよ?」

 ユーリイが指差した先は壁画の一つだが、篝火の絵の下に丸い石が描かれている。

『大したもんじゃねぇ。あの壁の向こうに、霊力を溜め込んだ宝珠を幾つか残している。持って行け』

「そんな大事そうなものを、あたし達が受け取っても良いの?」

『霊力絡みで色々と動いてんだったら、何時か必要になる筈だ。審判者なんつぅ、訳の分からねぇ奴らを追うんだ。持ってて損はねぇぞ』

「……そう、ありがとう」

 ミレーユが確認を取ると、ユーリイは見覚えのある顔で持って行けと言った。その顔は、ククリが『何となく』と言っていた時と似ていた。霊力を得た事で得る直感と判断したミレーユは、礼を言ってから指示された壁に近づいた。ミレーユが篝火の下の丸い石の絵に触れる。すると、石の絵だけが横にスライドして消えるような形で、奥に仕舞われていたものが露わになる。

「宝珠って、これの事?」

 仕舞われていたものを手にしたミレーユが振り返り、ユーリイに確認を取る。ミレーユが手にしているのは布袋だ。ユーリイが肯定すると、ミレーユはこちらに戻って来た。ルシアは、マルタと一緒に布袋の中身を見る。中にはゴルフボール並みの大きさの二種類の鉱石が十数個入っていた。

 片方の見た目は水晶の中に金の針金状の鉱石が入った、所謂『ルチルクォーツ』に似ているが、一つを手に取り影を作ると仄かに光っていた。

 もう片方は銀色の色違いで似ている鉱石だが、こちらは影を作っても光らない。

『宝珠の名前は知らないが、金色の方に霊力が込められている。銀の方は使い切って空になった奴だ』

「希少そうな品ですが、私達が受け取っても良いのですか?」

 これまで霊力に関する情報が少なかったのと同じく、霊力に関する物品も少なかった。その事を思い出してか、マルタがいかに餞別とは言え『受け取って良いのか』と確認を取った。ユーリイは片手をひらひらとさせて回答する。

『構わない。今の俺じゃぁ、使い道の無い宝珠だ。それにそいつはこの世界で得た宝珠だ。掘り尽くされてもう産出しないらしいけどな」

「この世界で産出? それって、魔族が滅ぼした大陸産って事?」

『多分そうだな。あいつらも『失われた大陸の霊珠』って言っていたし』

 ミレーユが鉱石の出所を確認すれば、即座に肯定された。それは、ユーリイが召喚された時点で、大陸の一つが消えている事を示す。一体どれほどの、激しい戦いを繰り広げたのか。ルシアは気になった。

 ルシア同様に気になったのか、今まで黙っていた白雷が過去の戦闘についてユーリイに質問し始めた。他の面々も気にしていたのか、皆耳を傾けている。粗方聞いたところでお開きとなった。

 随分と長居していたが、そろそろ去る頃合いだ。

「我々はそろそろ去るが、貴様は何時までその状態でいられるのだ?」

『ん~、そろそろ維持の術が切れる頃だが、もう少し先だ。俺の墓はこの真下だから気にするな』

 ユーリイの言葉を信じるのなら、魔法陣の真下で彼は眠っている事になる。

「あれ? 入り口は閉じた方が良いですか? 壊してしまったんですけど」

『適当な瓦礫を使って埋めてくれ。ここを作った奴らは霊力を崇めていた連中だったが、そっちの話を聞く分に、多分だが、全滅しているみたいだしな』

「そうですか。分かりました」

 サラッと、ここを作った連中の存在が明かされるも、皆聞き流した。ユーリイの言い方がぞんざいだったから、かもしれない。

 情報の提供について改めて礼を言い、ユーリイに見送られて、五人で来た道を戻った。


 ※※※※※※


 突然やって来た、三人の人間の女性と二名の魔族の、珍しい組み合わせの一行が去った。

 扉の向こうに消えるまで、ユーリイは無言で見送ると、その場に寝転がった。

 霊体の体になって永い時間を過ごし、宝珠を預けても良い連中が来る事を待った。

『しかし、奇妙な(えにし)だな。霊玉と同じ名の女が霊力を得るとはなぁ』

 零れる言葉は感心。宝珠の名は知らないとユーリイは言ったが、アレは嘘だ。

 渡した宝珠の正しい名は『ククリ霊玉』と言う。複数人の霊力を一括りに束ねているように見える事から、この名が付いた。

『んん~、……あっ、もう時間か』

 寝転がった状態で伸びをして、ふと指先を見ると消えていた。

『やっと逝けるのか。永かったな』

 ここにユーリイを縛り付けていた術が消える。狂気的な連中の手により、地縛霊のようにここに居座る羽目に成ったが、何故ここにいるのか聞かれなくて助かった。

 思い出す事は無い。最後の家族だった妹の顔も記憶の彼方に消えて、最早、覚えていない。

 ユーリイが目を閉じた数秒後に、蛍火を残して静かに消えた。

 

 ※※※※※※


 一行は入り口に戻り次第、ユーリイの要望通りに瓦礫で埋める。

 聖女の振りをして戦い抜いた聖者に哀悼を示すように、皆で無言で埋まった入り口を見る。

「……やる事はやった。貴様らはこれからどうする気だ?」

 金の魔王に問われるも、ルシアの中でやる事は決まっていた。問われて顔を見合わせたミレーユとマルタには悪いが、付き合って貰うつもりだ。

「やる事は在るぞ。ククリを召喚した国に出向き、召喚の魔法陣を破壊する。関連情報も全て破棄させる。事情を話せば同意するだろう」

「あー、あいつは何も言わなかったけど、確かにそれはやった方が良いわね」

「ゴタゴタですっかり忘れていましたが、ついでに全て終わった報告もした方が良いでしょう」

 ルシアがやる事を口にすれば、二人は反対せずに同意した。マルタは堂々と『忘れていた』と口にしたが、ルシアも忘れていたので何も言わない。ミレーユも同じく忘れていたのか何も言わずにスルーした。

「あぁ、あの国か。送ってやろうか?」

「魔王が顔を出すと騒動の火種になりかねないが、こちらの要求を通すのならば、いた方が良いな」

 金の魔王の申し出を受けて、再びこの五名であの国(名前は忘れた)へ――事の始まりとなったあの国へ向かう事になった。

 


 やはりと言うべきか。金の魔王の術(多分転移術)を使い、王城内に到着したら大騒動になった。確かに、魔族を連れて敷地外から入るのは難しい。下手をすれば、兵が出て来て、迎え撃つ行動を取られるだろう。

 だからと言って、いきなり謁見の間と思しきところ――恐らく前回ここに来て、去った場所だから選んだのかもしれない――に移動する事は無い。

 使者来訪中では無かった事だけが、せめてもの救いだ。

 大慌てでやって来た国王の青年にルシアが、あのあとの事の顛末を説明して落ち着かせた。ククリがいない事を知り、一瞬だけ王の表情が曇った。ルシアが説明を終えると、金の魔王は黒の魔王に状況説明をしに行くと言い出して、白雷を連れて去った。

「宝珠はお前達で使え。我々が持っていても、宝の持ち腐れだ。お前達三人なら、有効利用出来るだろう」

 去り際に金の魔王はそう言い残した。白雷も同意見なのか、無言で頷いていた。

 魔族二名が去ると、謁見の間の空気が一気に弛緩した。たかが魔族二体が去っただけでとは言い難い。あの二名は魔王と側近だ。出会う機会は先ず無い。あの言動で忘れがちだが、本当は出会ったならば死を覚悟する程の相手だ。それを忘れて好き勝手していた、ルシア達がおかしいのだ。

 ルシアは改めて入手した『聖女誕生の顛末』を説明し、ククリをこの世界に呼び寄せた召喚術一式全ての破棄を要求した。

 当然、王には渋い顔をされたが、遠い過去に起きた事を繰り返す訳には行かない。何より、無差別に呼び寄せる点を考えると、ククリのようになるとは限らない。そこまで説明してから納得させると、ルシア達三人の目の前で破棄させた。勿論、紙媒体類は焼却処分、それ以外は木端微塵に破壊処分した。

 やる事を終えて、三人は城から去った。



 適当な街で宿を取り、宝珠を三人で分け合う。改めて数を数えたら、金色が四つ、銀色が十二個だった。

「金色はあたしが二つで良いのね?」

「この面子で魔法を最も得意とするのはミレーユです。魔法を霊力で強化する機会は多いでしょう」

「そうだな。私の場合は聖結晶を利用した方が効率が良い。無論、マルタもだ」

「……反論したいのに、何も、言えない」

 話し合って宝珠を分配する。マルタに関しては完全な自業自得だ。これはルシアにも言える。



 ルシアは魔法の才がパーティーメンバーで最も低い。補助魔法に分類されるものならば、辛うじて使える。それ以上の難易度を誇る魔法を行使するには、ククリがルシア用に作った、特注の武具が必要になる。

 魔法の才が余りにも低いと判明した遠い昔。開き直ったルシアはひたすら剣の腕を磨いた。ただ、修行のやり方が生温かったのか。ルシアよりも遅くに武芸の腕を磨き始めたククリに追い抜かれている。流石に不死性を利用した修行は、ルシアもやった事が無いし、やろうとも思わなかった。それを修行として課した御仁には会えないが、ククリから修行の内容を聞くに『色々とぶっ飛んでいる、人間を止めた存在』である事は確かだ。

 ククリの場合は、何かと難癖を付けて認めて貰えなかった事で、自己評価が恐ろしく低くなり常に上を目指すようになった。傲慢さが無いのは良いが、人によっては嫌味にも聞こえてしまうのが欠点だ。

 褒めるべき人間(両親)が褒めない。認めるべき人間(家族)が認めない。何をやっても、誰もが讃える結果を出しても、難癖を付けられ続けると、ククリのように、消えない心の傷痕として残ってしまうのだろうか。



 宝珠の分配を終え、今後の行動予定を話し合う。

 それは『何時までこの世界にいるか』について話し合うも同然になる。毎回『どうしようか?』と皆で顔を見合わせてしまい、話し合いはほぼ進まない。今回に限っては、早々に決まり、翌朝から行動を開始する事になった。 



 やり残しを片付け、準備を終えた数日後。

 三人は数日前に霊力に関する情報を求めて訪れた山頂の神殿へ、再び足を運んだ。理由は在る。転生の術を行使しているところを、第三者に見られたくないからだ。人気の無いところならば、人里離れた深い森の中でも良いが、どんなタイミングで魔物と遭遇するか分からない。対して、標高の高いここならば邪魔は入らない。周囲に魔物の陰すらない事は確認済みだ。

 三人でお揃いのロザリオ型魔法具を手にする。宝珠を含む全ての荷物は宝物庫に仕舞った。

 無言で互いを見る。交わす言葉は無い。既に色々と語り尽くした。

「また何処かの世界で会いましょう」

「ええ。必ず、会いましょう」

「そうだな。何時かまた、何処かの世界で会おう」

 三者三様に、笑顔で別れの言葉を口にして、揃って手にしていたロザリオを起動させた。

 

 

 そして、眩い光に包まれて、三人は姿を消した。

 ここで出会えなかった六人の仲間(男衆)と、先に旅立ってしまったククリに再び会う為に、三人はこの世界から旅立った。



 Fin

ここまでお読み頂きありがとうございます。

これにて、本編完結です。長くなりましたが、区切って話数を増やさない方が良いだろうと思い、そのまま投稿しました。


次回。やっと書き上がった、前日譚です。

内容的には、菊理が召喚される前にどんな事をしていたか、召喚された経緯に、女子三人と合流するまでになります。

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