好物のためなら私は鬼になる!
久しぶりの魚介類(笑)
「いいですか、筒井さん。頭以外には絶対に当ててはだめですよ!特にお腹は言語道断ですからね!!」
『わかってるよ!今日のきよ、おっかねー』
それくらい、力が入ってしまう目標なのだ。
上司をせっついて、回収用の船と補給母艦も出してもらった。
解体部隊、調理部隊も、今か今かと手ぐすねを引いているだろう。
なんせ、今日の目標はサケだ!
しかも、お腹に卵を抱えているサケだ!
それが研究者を悩ませている原因ではあるらしい。
宇宙魚介類が地球に来る目的が、産卵ではないかという仮説がある。
しかし、それに否を唱えるのが生物学者たちだった。
地球の魚介類と類似性を多く持つ宇宙魚介類が、産卵のためにすべての種類が地球に来るのは考えられないと。
ただ、私が勝手に思っているだけだが、産卵も十分にありえる。
一つの星で、寒いところもあれば、暑いところもあり、万年雪もあれば、深海もある。
つまり、産卵に適した環境は種類ごとに違い、一つの星ですむなら移り住もうってなってもおかしくはない。
それに、地球に来る宇宙サケは、どの種類も産卵期の特徴が出ている。
今日の目標であるベニザケは特にわかりやすい。
雄は赤く染まり、口が飛び出る。
さて、考えても答えのでないものは置いといて、サケに集中しよう。
「まずは、一匹ずつ。分断しましょう」
宇宙サケは雌雄一匹ずつ、番で出現するが、時間が経つと雄の方がいなくなることがある。
北欧のSEAFOODが研究所からの依頼で、捕獲をせずに行動を観察したところ、二十分くらいして雄が宇宙に戻っていった。
雌は大きな河に沿って、上空を泳いでいたが、しばらくすると宇宙に戻った。
この行動からも、産卵説が有力視されている。
残念ながら、宇宙サケの稚魚はいまだ目撃されていない。
寄り添って泳ぐサケに、筒井さんが接近する。
すると、雄が威嚇行動を始めた。
筒井さんの機体と並び、体を震わせる。
『やっべ…』
筒井さんが慌てて急旋回する。
地球産のサケで言うなら、あの行動は自分の方が大きいぞと誇示し、ライバルである他の雄を追い払うためのものだ。
地球外生命体だからなのか、それとも生息域の違いかはわからないが、宇宙サケがやると音響兵器のような現象が起こる。
私は聞いたことないけど、体験した砲手は音の衝撃を感じた、鱗が擦れる不気味な音が大音量でするとか言っていた。
しかし、それはサケの側面にしか起きないことから、方向性を持つ音を発しているらしい。
そこら辺は専門ではないので、説明されても理解できなかった。
一応、捕獲用戦闘機自体、最先端の技術で作られており、軽量化された強化ガラスの天蓋はそうそう割れない。
誰かが、ゾウが踏んでも割れないって言っていたが、真偽は知らない。
その天蓋がビリビリと震え、割れるのではという恐怖とともに、鼓膜が痛くなるので、すぐに音の範囲から出なければ操縦が危うくなる。
三半規管がやられて、方向感覚がなくなるからだ。
「筒井さん大丈夫ですか?雪間さん、4時の方向から目標αに接近してください」
『ラジャー』
『やばかったー。こちらはなんとか立て直せた』
「噛みつきや体当たりに注意してください。筒井さんは一番銛の準備を!」
雪間さんが雄の注意を引いている間に、雌に一番銛を打ち込む作戦だ。
『くっ…』
しかし、操縦技術が上手い雪間さんでも手こずっていた。
「工藤隊長、土井さん、雪間さんのフォローアップをお願いします」
『ラジャー』
筒井さんの準備が完了しているのを確認して、次の指示を出そうとしたときだった。
「筒井さん…」
「待て。筒井、銛の角度を2度上げろ」
上司が割り込んできた。
『2度もですか?』
訝しみながらも、筒井さんは上司の指示に従う。
上司は、目標βと筒井さんの位置を確認し、何かのタイミングを計っているようだった。
「一番銛、発射!」
『発射っ!』
上司の得体の知れないプレッシャーからか、普段なら復唱しない発射を口にする筒井さん。
一番銛が発射されたとたん、目標βが大きく身をくねらせた。
まるで、自ら銛に当たりに行くように、銛は目標βの頭へと命中した。
「…凄い」
『マジかよ…』
私も筒井さんも、まさかの出来事に驚く。
「しっかりと、目標の動きを予測しろ。サケは跳ねるからな」
だからといって、跳ねる方向まで予測するのは難しいどころの話ではない。
暴れる雌のサケをなんとか押さえ、甲板の二機が網で捕獲して解体部隊が待機している回収船へと運んでいく。
いつもはチェーンを使用しているのだが、卵を傷めないように網に変更した。
ただし、網の場合は動きが制限される範囲が広くなってしまうので、とても操縦技術が問われる。
「二人が戻ったら、残りの目標αを捕獲お願いします」
雄の方は、卵を抱える雌よりか気持ち楽に捕獲できるだろう。
だが、身を傷つけることは、私が許さない!
日本人の朝ご飯の定番を守るためでもあるのだ。
出動の釣果は大成功と言えるだろう。
回収船が基地に帰港した知らせを受け、早速解体工場へと向かった。
「私のイクラちゃんは!!」
私が放った第一声に、解体部隊の人たちの手が止まった。
そして起こる大爆笑。
それはアニメのキャラクターだと、誰かに突っ込まれた。
「お前のではないが、イクラちゃんは機械の中だ」
どうやら、船の中で卵の取り出しを終えていたようで、すでに機械に投入されていた。
宇宙サケの卵、宇宙イクラはピンポン球サイズなので、そのままでは非常に食べづらい。
それを地球産のイクラと同じサイズにする機械があるのだ。
現在、宇宙魚介類の食品加工に使われる機械のほとんどが、日本国メーカーのものだ。
日本国の技術は素晴らしく、そして寿司ネタにかける情熱がハンパない。
お寿司のためなら、どんな機械でも作ってしまうほど。
そのおかげで、我々庶民は昔と変わらず、お寿司を食べることができるのだから、開発者には感謝の気持ちでいっぱいだ。
「三十分くらいで終わると思うが、すぐには食べられないぞ?」
「なんで!?」
「なんでって、醤油漬けにしないと食べられないだろうが」
そうだった!
食べられないわけではないが、イクラの旨味を引き出すなら醤油漬けが一番だ。
「まぁ、食べられるのは明日だな」
「そんなぁ……イクラのために頑張ったのに!」
「神坂には言っておいてやるよ。高嶺が恨めしそうにしてたって」
豪快に笑いながら去っていく解体部隊の隊長さん。
せめて、楽しみにしているって伝えてくれませんかね!!
翌日、調理部隊の隊長である神坂さんに呼び止められた。
「高嶺さん。いい具合に漬かったよ、イクラ」
「本当ですか!」
「あぁ。イクラはシロサケの方が美味しいけど、昨日のベニザケのもいい味になった」
日本国ではシロサケの魚卵がイクラとして親しまれていたが、輸入物のイクラはピンクサーモンの魚卵が多かったらしい。
今では、どの種類であろうと地球産のイクラは高価で、庶民には手が出せない。
「今日のお昼に出すけど、何かリクエストはある?」
イクラといえばイクラ丼しか思い浮かばない。
しかし、昨日は親魚のサケも捕れているのだ!
つまり、あれしかない!
「サーモンとイクラの親子丼で!!」
今日は出動もなかったし、日本国は平和です。
いくらをお腹いっぱい食べてみたい(>_<)