第二十一話 素人脚本家の話。
私は部外者だった話。
数年単位で昔のこと。
大学時代に殺意先輩経由で、知り合った某氏。
徳本甲斐太郎とでもしようか。
殺意先輩は、柵井竹彦とでも呼ぼう。
一応、身バレしない範囲でと言うから、いつも以上にフェイクが入るお話だ。
サークルメンバーではなかったが、よく出入りはしていたし、柵井先輩のこともありそれなりに親しくはあった。
まぁ、赤木先輩に引きずられて心霊スポットに行く程度には押しの弱い性格だったけど。
でも、先輩連中の中では、そういうことに対する防御?を気をつけるヒトだった。
外見的には、一応髪は定期的に染めているようだが、伸ばしっ放しの蓬髪で、好きな俳優だったか誰かのリスペクトで黒い革ジャンとサングラスがトレードマークでやせ気味の男性だった。
当時の私の体重の約二分の一、控えめに言っても三分の二ぐらいと言えばどれだけやせ気味だったか分かるだろう。
いくら太めの私でも、赤木先輩(筋肉ありあり)とどっこい程度だ。
身長185オーバーで米俵と変わらない徳本先輩がどれだけか、まぁ、察して欲しい。
徳本先輩は、卒業後。
地元東京で縁故就職して、その傍らで小さな劇団をしていた。
まぁ、小さい方なのかな。
団員二十人少々。時々いたりいなかったりでもう少しいたり。
それらから、いくらか集めて公園準備して、それで公演したら全員に百円を返せる程度にはそれなりの劇団だった。
一番、不評だった公演でもとんとんか柵井先輩が少し余計に出してとんとんだったらしいから。
特徴と言えば、先輩以外の男性団員が割りと筋肉か脂肪かを投げといて、重量級だったことと女性もそれなりにがっちり系が多いぐらいで、華奢な女性が欲しい時で人数足りない時は徳本先輩が出るぐらいのそういう劇団だ。
で、数年前。
徳本先輩が書き下ろす形で、一本のシナリオがロールアップした。
現代もので割りとドロドロの昼ドラもの。
事情を知らなければ、明治辺りの舞台設定を現代に変えたのかな程度。
それこそ、「ロミオとジュリエット」を現代モノにした「ウェストサイドストーリー」。
よくある華族モノを現代ものにしたというような。
乙女ゲームなんかで、庶民なヒロインではなく、看板キャラの本来の婚約者に焦点を当てたようなそういうちょっとホラー要素のある作品だった。
この辺りは、ちょっとややこしい事情があって場末の劇団でも学園物が出来たのだ。
いつもの劇場よりも少し大きな、と言っても、いつものが150人なら200人少々ぐらいのそういう劇場での公演だった。
で、十日間十六公演だったかな、まぁ、それぐらいで千秋楽を迎える日の最終リハ。
前日に壊れた吊り物の修理に先輩が上がった時のこと。
公演や別件で他の団員が上がっているブドウ棚、ライトやホリゾントなんかを吊り下げる舞台上部の通路から、柵井先輩は落ちた。
右足だかを折った、ぐらいならまだいい。
小規模劇場の関係でそこまで通路から舞台まで高くないし、それぐらいだろう。
聞く話としては、高校とかの体育館のキャットウォークぐらいだ、遊びで飛び降りるということをしていたバスケ部がいるぐらいだからまだ良かった。
いや、良くないが、それだけなら、不運だね、ぐらいで済む。
どこかにぶつけたのかどうしたものか、右目の上を切った。
この公演の時は、役者に女性陣が多かったこともあるし、舞台監督が別にいたから大人しく病院に行ったと聞く。
ちなみに、原因はブドウ棚のすのこの一部が外れたせいらしいが、比較的軽い先輩が乗った程度で外れるのはおかしい。
加えて、子どもであっても、一枚二枚外れた程度では、落下防止も込めて落ちないのだ。
また、直前に重量級が乗ってはいるが、レストランで食中毒と小火を気にする程度には、その手の安全は劇場の評判に関わる。
地元の某劇場の場合、簡単な検査は一日一回。
オーバーホールにあたるものをその公演が終わったらやるのが、通例らしい。
それでも、起こるときは起こるらしいが。
私に連絡が入ったのは、怪我をしてから数日後。
公演自体は、知っていたけど北陸と東京だ。
行けるはずもない。
柵井先輩からだった。
「で、怪我しただけなら、電話までしませんよね。
軽い調子でメールか、月単位後についでで話しますよね。」
「あー、う-」
「判断材料。
書き下ろしの話しをして欲しい。」
ざっくり言うと。
家格は下だが、美形の茶町をお嬢様・多美谷姫子が婿養子の形で婚約者にした。
んで、そこへ学園に転入してきた友人の喜八の幼馴染で庶民の柚子に茶町が一目ぼれして……。
多美谷嬢も怪我をして離れて行き……みたいなないようだった。
メリバな話らしいが、まぁ、在るといえば、あるだろう。
ありきたりもありきたりと言うか、テンプレ悪役令嬢物と今なら言うだろう。
んで、めぐり合わせもめぐり合わせなんだろうが。
この相談が来る少し前に、私は四谷怪談関係の実録検証本を読んでいた。
「…………柵井先輩、徳本先輩に確認してもらえます。」
「お、おう。」
「四谷稲荷にお詣りしましたか?」
「は?」
「私読んだの、実録検証系なんで確約しませんが、ちょいちょい、面影あるんですよねぇ。
これで全く無意識ならお祓いですし、意識的にモチーフしておまいりしてないなら今からでも土下座しろ、ですかね。」
「十五分まってくれ。」
とりあえず、十五分どころか一時間電話繋いだまま待ってたけれど、その日は連絡がなかった。
翌日、電話しても出なかった徳本先輩。
詳しくは聞く気もなかったが、完結に言うなら、切った目付近が何の冗談かと思うぐらいに腫れた。
そのせいでか、骨折のせいなのか、熱を出してへばってたところに柵井先輩が来たらしいのだが、本人覚えてない。
柵井先輩のあれこれ、物理方面で言うなら、顎を掴んでレトルトおかゆ+生薬入りの栄養ドリンクを流し込んだなどで、意識を取り戻した後に聞いたらそう言ったっぽい。
で、お岩さん関係のお参り+お祓いや上位からのとりなしを願ったりしたらしい。
詳しくは数年たった今でも教えてくれないけれど。
と言うか、柵井先輩、最低でも格のそこそこある神社の息子とかじゃないのかな、うちの大学全然そっち方面じゃないのに。
直接関係無いけれど、知り合い(と書いてほごしゃと読んで欲しい)に、社無しのこのめがいる関係上、F稲荷系統じゃなくても、稲荷に親しいせいか。
はたまた、数年前のやらかしのせいか、稲荷関係とは気配と言うか『色』がわかる。
ノリで言うなら、イチャイチャしてるカップルのいる部屋に行くとピンク色っぽい程度ではあるが。
そういう意味でいうと、四谷稲荷は、稲荷としては色が違う。
例えば、稲荷様が濃淡別にして、『青』系統だとすると『青緑』と言うか。
味で言うと、『甘い』お稲荷様に、『しょっぱい』味が混ざっていると言うか。
そうであっても、人間がそうと認識してしまっているせいか、稲荷と名がついてもイヤにシステマティックな部分があると思う。
徳本先輩曰く、お話自体はドロドロ昼ドラテンプレにテンプレのミステリを重ねたものであるということと。
名前に関しては、適当な『演劇登場人物事典(仮)』から引っ張ったのとヒロインは某七日間サバイバルゲームから取ったらしい。
引っ張られたのか、必然と言う名の偶然なのか、その辺りはどうでもいいけれど。
国語の便覧に載る程度には一般教養のそれだ、四谷怪談というのは。
ある程度の条件が当てはまり、その上でおまいりをするという回避をしなければ無条件に手を出す。
そういう部分があると思う。
と言うよりも、小説なんかでもしも、四谷怪談に触れなくても、忠臣蔵に触れれば必然、四谷怪談にもかする。
だからこそ、こういう事故があるんじゃないかと思うのだ。
ちなみに、オカルト畑をメインにするプロ作家が、忠臣蔵関係の執筆で少しだけお岩さんに触れ、九死に一生レベルの大病にかかったそうだ。
一応、回復はしてそのことを十年後にとある漫画先生がコミカライズしている。
それこそ、四谷怪談で言う、お岩さんの旦那に少し触れた程度のそれで噛み付かれてるのだ。
だから、システマティックな以上、触らぬかきちんと代理詣りでもお参りの上で書いて欲しいと思うのだ。
ちなみに、これをアップする前に、柵井先輩に代理詣り(外法寄り)でお参りした上でアップしているのは明言しておく。
天神さまと違って負の信仰を強く向けられてるお岩さんが優しいとでも思うのかね?




