スリハモ14 車椅子のアイドル
【立ち上がるその時まで — ミナミの意志を尊重して】
保健室を出たナツキとアオイは歩きながら話し合っていた。
ナツキ:「すぐにミナミちゃんに教えてあげようよ。足は悪くないって」
アオイ:「ううん、それじゃダメだよ。あくまでも今のまま、アイドルを目指させるんだよ」
ナツキ:「でも、どうして?」
アオイ:「ミナミちゃんが立ち上がるのは、自分が立ち上がりたいって思った時じゃなきゃ意味がないよ」
ナツキは少し考え込み、やがて頷いた。
その夜、二人はミナミの元へ向かった。
ナツキ:「ミナミちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
アオイ:「車椅子のままでも、アイドルになりたい?」
ミナミは一瞬戸惑った後、静かに答えた。
ミナミ:「うん、なりたい。今はまだ怖いけど、夢は変わらない」
ナツキとアオイは目を輝かせて頷いた。
ナツキ:「私たちも一緒に考えていくからね!」
アオイ:「どんな形でも、輝けるアイドルになろう!」
ミナミの心に新たな決意が芽生えた瞬間だった。
【涙の汗と、笑顔の未来 — 新たな一歩は共に】
「車椅子でも、アイドルになりたい」
ミナミのその一言から、すべてが始まった。
ナツキとアオイは、すぐに振り付けや発声練習のメニューを考え、翌日から3人での特訓が始まった。
最初は、簡単な手の振りや上半身だけの動きを取り入れた振付だった。
だが、アイドルのステージは見た目以上にハードだ。
アオイ:「息、続いてる?」
ミナミ:「…うん、大丈夫……」
そう言いながらも、額には汗が滲み、背筋は震えていた。
ナツキはミナミの肩にそっとタオルを当てながら言った。
ナツキ:「無理しなくていいよ。今日のぶんはここまでにしよ?」
ミナミ:「……でも、あの歌を聴いて、変わりたいって思ったから。もう逃げたくないの」
その言葉に、ナツキもアオイも胸が熱くなった。
歌の練習も簡単じゃなかった。
長く声を出すことに慣れておらず、呼吸のタイミングが難しい。
それでも、ミナミはくじけなかった。
アオイ:「大丈夫、私たちも最初は声出なくて苦労したよ。一緒にやろう」
ある日、ダンス練習の合間にミナミがぽつりとこぼす。
ミナミ:「本当に……私、アイドルになれるかな」
その時、ナツキが力強く言った。
ナツキ:「ううん、“なれる”じゃなくて、“なるんだよ”。一緒に、絶対に」
そうして1週間、2週間、1ヶ月。
できなかった振りがひとつ、またひとつとミナミの体に馴染んでいく。
呼吸も安定し、声にも芯が宿ってきた。
そして何より、ミナミの表情が明るくなっていた。
スタジオの鏡越しに3人が並び、最後のポーズで声をそろえる。
ナツキ・アオイ・ミナミ:「ヒカリノカケラ、届けますっ!」
3人の汗は、ただの努力の証ではない。
それは、希望へと向かう光のしずくだった。
楽曲タイトル:「このステージで光るから」
【1番】
誰かと違うその歩幅を
ずっと隠していた日々も
見上げた空に願ったんだ
「私だって、夢を見たい」
胸の奥の小さな炎
2人の声で灯された
手を取ってくれたその瞬間
運命が変わった気がした
【サビ】
このステージで光るから
涙も不安も越えていける
車椅子だって、私は私
夢を諦めないって決めたの
信じてくれたあなたと
今ここに立てた奇跡を
歌にして、笑顔にして
輝けるよ、きっと――私も
【2番】
何度も心が折れかけた
足りないものを数えてた
だけど隣にいたあの子は
私の「できる」を信じた
涙の数だけ強くなる
背中押すリズムに乗せて
伝えたいんだ、この想いを
同じ夢を持つあなたへ
【サビ】
このステージで歌うから
違ってたって、構わない
「できないこと」じゃなくて
「できること」で前を向くの
夢はきっと逃げないよ
諦めなければ届くから
一緒にね、踏み出そうよ
光る未来へ、私たちと――
終わりのセリフ(ライブ演出風)
ミナミ:「ここが私の夢の場所! ありがとう…私、今、笑ってる!」
ナツキ:「ひとりじゃなかったから、ここまで来れたんだよね」
アオイ:「私たち、ヒカリノカケラ。今日も誰かの心を照らせますように!」
【立ち上がる日 — このステージで光るから】
ミナミ、ナツキ、アオイの3人が並ぶセンターステージ。
観客たちは息を飲み、ライトはゆっくりと3人を包み込む。
ミナミの車椅子は、ライトの下に静かに止まっていた。
最初のフレーズをナツキが、続いてアオイが、そしてミナミが――
3人の声が重なるたびに、ステージの空気はあたたかく、確かな「光」に変わっていった。
やがてラストのサビが近づいてきた。
照明が一段と強まり、観客の拍手も次第に高まる。
その中で、誰にも気づかれないくらい静かに、ゆっくりと――
ミナミの手が、肘掛けから離れた。
ナツキは横目でそれを見た。だが、何も言わない。
アオイも気づいていた。けれど、ただ優しく笑っている。
ミナミは、歌いながら…ほんのわずかに、けれど確かに、自分の足で立ち上がっていた。
ぐらつきながらも、まるでそれが「当たり前」だったかのように。
歌い終わりの最後の一節――
「輝けるよ、きっと――私も」
その声は、誰よりもまっすぐで、誰よりも堂々としていた。
客席から、最初の歓声が上がる。
やがてそれは大きな拍手と、感動のざわめきとなり、銀河中に響いた。
ミナミは涙を浮かべながら、ふっと笑った。
その姿は、もう“かつてのミナミ”ではなかった。
それは、夢を追いかけ、夢を掴んだ「本物のアイドル」の姿だった。
【光、つながる先へ】
ミナミが歌い終えた瞬間、ナツキとアオイがそっと駆け寄った。
ミナミの手をとり、何も言わず、ただ優しく抱きしめた。
3人の肩が重なり、しばらくの間、誰一人として言葉を発さなかった。
観客席からは大きな拍手が鳴り止まなかった。
誰もが感動し、誰もがその奇跡を忘れたくないと思った。
ゆっくりと、ステージの幕が降りていく。
照明が落ち、最後に3人の影が寄り添う姿だけが浮かび上がった。
舞台袖。
スポットライトの届かない場所で、ツムギがぽつりと呟いた。
ツムギ:「ツムギも……カイリ姉とハル姉と、ゆにっとしたいーっ!」
すぐそばで見ていたカイリとハルネが顔を見合わせ、思わず吹き出す。
ハルネ:「また急なこと言い出したね〜」
カイリ:「でも……いいかもね。うちらにしかできないユニット、考えてみようか」
感動の舞台のその先に、新たな物語の光が灯っていた。
それは次なる夢への、小さくてまっすぐな一歩。
続く




