後編
レイアスは王の間にいた。父である国王に呼ばれたのだ。先日のパーティーでの婚約破棄と新しい婚約者の発表、彼に無断でしかも突発的に行ったことへの言及だろう。
予想通り、説明を求められた。
「と、言うわけで隣国の四大貴族、リリシア家の令嬢、サリア・リリシアとの婚約を」
王座に座った現国王、レイクルは重い口を開いた。
「私の顔に泥を塗ったな?」
レイアスが眉を寄せる。
「どういう意味ですか、父上」
「お前がどうしてもあの娘を娶りたいと言うから私はターロル家の当主に頭を下げたのだ。本来なら王族に迎えるには位が低い家柄、あちらも身の程をわきまえて、何度も断ってきた。そこをなんとかと粘ったのはレイアス、お前だろう」
「! お待ちください、父上。それ故に婚約を解消しました。サリアこそが真に、王族に相応しい女性なのです」
「ターロル家の娘とは半年も持たなかっただろう。信用ならんな。もう良い、下がれ」
「ち、父上、彼女を認めて頂きたい。本当に心の底から愛しているのです」
「……わかった、次の食事会で顔を合わせよう」
「あ、ありがとうございます」
「その前に、ターロル家から決闘の申し込みが来ている。王子殿下と一戦交えたいという。当主は立腹だ。理由は……わかるな?」
「し、しかし、位の低い貴族など」
「無視するのは簡単だが……お前は王族の面子を潰す気か?」
国王の冷たい目にぶるりと体が震えた。
「お前の得意な剣術での決闘をお望みだ。闘技場で明後日の十二時」
「剣術……?」
レイアスは少し考えてにやりと笑った。
「俺に剣技で勝とうと言うのか? リースフィ」
◯
決闘の日はあっという間にやってきた。
闘技場にて。数千人の国民の前で私とレイアスは向かい合っていた。
お祭り騒ぎである。
「リースフィ、私によく剣での勝負を仕掛けようと思ったな?」
その絶対の自信を示す笑み。リースフィは殺気のこもった目を向けた。
審判が少し離れたところで手を上げる。
「それでは……両者、礼」
向かい合って頭を下げる。そして、
「始め!」
「リースフィ、私の剣の腕を知って」
私は駆け出した。この場で話をするつもりはない。
「なっ」
決闘は始まった。何を呑気にしているのか。
「はああっ!」
間合いに踏み込み、下から上へ斜めに剣を振る。
「ぐぐっ、卑怯な」
自分の剣で受け止めたレイアス。
「不意打ちとはやる」
私はバックステップを踏んで、腕の力を抜く。
「うおっ!?」
予想通り、剣に体重を乗せていたレイアスの体か前のめりになった。
「はっ」
気合い一発。レイアスの剣を思いっきり弾き飛ばした。キンと音がして、回転しながら宙を舞い、遠くの地面に突き刺さる。
そして、
「覚悟ぉぉっ!」
私は地面を蹴って突きを繰り出した。
「う、うああっ」
間抜けな格好で横に避けられるが、すかさず剣を横へ振る。レイアスの銀髪が一部、かすった。ひらひらと地面に落下する。それを見て青ざめるレイアス。
「ま……待ってくれ。殺す気か? リースフィ。丸腰の相手に」
「命乞いをする間に剣を拾いに行けたでしょうに」
私はそう言って、
「や、やめ」
剣の腹でレイアスの頬を思いっきりぶっ叩いてやった。
「ぶへぁっ」
声を上げて横へ吹っ飛んだ。もちろん、怪我はさせていない。頬が腫れ上がっている程度だ。
「勝者、リ、リースフィ嬢」
観客が沸いた。ターロル家直伝の必殺技を出すまでもなかったか。
私は深呼吸をしてから、レイアスへ歩み寄った。
「レイアス王子殿下、手合わせありがとうございました。良ければお手を」
私はそう言って、顔も近づける。
「雑魚剣技でイキらないでくれませんか、浮気野郎? 女性に勝てないなど、ありえませんね」
私は鼻で笑って、
「審判の方、手を貸してあげて下さい。私では助け起こせませんので」
そう言って、闘技場からを出た。慌てた様子でレイアスの元へ走るサリアとすれ違う。
「覚悟、しといた方が良いですよ」
私の囁きにサリアはびくりと肩を揺らし、そのまま駆けて行った。
後日、何があったのか知らないがサリアとの婚約は解消となったらしい。そして、レイアスの王位継承権が剥奪されるかもしれないという噂がちらほら。
彼には幼い妹がいるので、その王女がこの国の未来を担うのかもしれない。
何はともあれ、スッキリした。大事な人はこれから、私が自分で見つけるのだ。