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1人での旅立ち

改めて新章突入です。

書いてるうちに少し違った展開になってきました。

グロテスクな表現もありますので、苦手な人はご注意下さい。

「あ、あのっ」

「あれ? どうしたの。今日は遅番じゃなかったよね」

 仕事を終えて事務所を出ると、バイトの女の子が待っていた。配達の際に横に乗ってもらう事もある。

 今日はシフトが違うので、夕方には仕事が終わっているはずだった。


「今度の火曜日って、非番ですよね?」

「ん、ああ、そうだね」

 少しシフトを思い出しながら答える。シフト表自体は事務所に貼られているので、確認したければ誰でも見ることができた。

 わざわざそれを確認するということは、シフトを変わって欲しいという……。


「よ、良かったら、映画、でも、行きませんか!?」

「ふぇ!?」

 とぎれとぎれに赤面しながら告げられた。相手は一回りは下の可愛い感じの女の子だ。

 少し大人しい雰囲気があって、S.O.のベータテストに参加してるという事で、少し話す機会は増えていたが。


「え、えっと、仕事で困ってる事があるとか、S.O.の機器に不具合があるとか?」

「い、いえ、違いますよぉ。その、少し、一緒に、お出かけ、したいって……」

 消え入りそうな声で言ってくる。誰かの仕掛けじゃないだろうな!?

 辺りを見渡して確認してしまう。誰かが見ている気配はない。当たり前か。


「え、えーっと、俺、は、構わない、けど」

 彼女に釣られるように俺までしどろもどろになる。全くの不意打ちで、動揺しすぎだろ俺。

 社会人になって忙しさにかまけて、浮いた話もないままに過ごしてきた。そのツケが回って来たんだろうか。

 そもそも何で俺なんだ!?


「よ、良かったです。またメールで連絡しますねっ」

 彼女は一方的に言いおいて、走り去ってしまった。俺はしばらく呆然と彼女の走り去った方を見詰めていた。




 バルトニアの運営に関して一通り目算を立て、皆に指示を出していよいよ死霊術師を目指して旅立とうとしていた。

 あらからケイトには会っていないし、メッセージも来ていない。

 こちらから連絡を入れるべきなのか……でも、こちらが拒絶した状態なのにメッセージを送るのもなぁ。


「よし、現実の俺に任せよう」

 ゲームはゲーム、現実は現実だ。俺は割り切る事にした。




「それじゃ、行ってくるよ」

「アトリーさ、気をつけて」

「しかし、何処へ行くんじゃ?」

「まずは前に魔族に会った森からかな」

 死霊術はこの世界でも外法、邪法の類らしい。魔法の知識が豊富だったバルトニアでも、禁忌とされていた。

 となるとその知識がありそうなのは、魔族サイドじゃないかと考えていた。


「アトリー、ソナタはそんな無茶を!?」

「だから誰も連れて行かないんだよ。多少死ぬのは覚悟の上だからね。ルーファはアイテム扱いだから大丈夫だろうけど」

 何か言いたそうにしているリオンを目で制して、俺は背を向ける。


「ちょっと一人旅ってのもいいかなって思ってな」

 後ろ向きに手を振ると、俺はブリーエへと転移した。




 ブリーエから北へ向かった所にある農村。そこから更に北へと向かうと魔族が侵入した事で、野生の獣が山を降りてくる事になった森がある。

 今ではその魔族がいなくなり、平穏が戻っているはずだった。

 その時に道案内してくれた猟師のマタクに、山への入り方を聞いて一路山へと踏み込んでいく。

 あれからそれなりに激戦をくぐり抜けてきた。この辺りの獣なら余裕を持って相手できるはずだ。



「しかし、1人で移動は寂しいモンだな」

 木々を掻き分け傾斜を登る。ゲームのキャラは移動ではほとんど疲労しないが、さすがに山道では疲れも出てくる。

 黙々と歩くというのは思ったより疲労感が増す。

 たまにポタミナを見ながら気を紛らわせつつ、山深くへと進んでいく。



「ギシャーッ」

 そいつは妙に肌黒い亜人だった。ゲームでよく見るゴブリン的な姿だが、何かヤバそうな気配を発している。

 以前に熊女と会った地点より更に深くへと踏み込んでいた。

 明らかに攻撃的な異質の亜人。魔族のテリトリーに入ってきたようだ。



「ふむ、こんなもんか」

 思ったよりもあっさりとゴブリンもどきを倒せた。ある種のミュータント化が行われているようで、動きはかなり素早く力もそれなりにあるようだ。

 ただその動きに魔力が伴い、〈魔導技師〉の目があると動きが予測しやすかった。

 それからゴブリンもどきを何匹か屠りつつ先へと進むと、岩山のような場所に行き当たる。岩肌には手すりが付けられ、ゴブリンもどきが徘徊していた。



「これが砦だな」

 ポタミナでの魔族攻略スレッドで、初歩的な情報が載せられていた。

 ゴブリンもどきは、デモニックゴブリン。魔力を内に秘め、身体能力が飛躍的に強化されているとある。

 そしてそれらのD.ゴブが守っているのが、岩山のような砦。魔族の街道沿いに道を塞ぐように造られている。

 本当の意味での魔族のテリトリーは、その砦を抜けた先と言われていた。


「避けて回り込む……ってのも難しそうか」

 山の谷間にある岩山。回避しようとすると、ボルダリングのように岩肌を昇らないとダメそうだ。

 器用さをベースとする行動なら問題なさそうだが、やっぱり機敏さの領域だよな。


 砦はその名の通りゴブリンの駐屯地。個々の強さもさることながら、数で押してくるらしい。

 俺の剣術は一対一に特化してるので、集団戦は苦手としていた。

 リオンなら突っ込んでいって粉砕するんだろうなぁ。



「ま、置いてきた戦力を嘆いても仕方ない。俺は俺の力で突破するのみ」

 俺は覚悟を決めて、砦を目指して特攻を掛けた。

 こちらの接近に気づいたD.ゴブは奇声を発して中へと報告する。ただ俺が単身だと判断して、城門というか入り口を閉ざす事はなかった。

 見張りの2匹を何合かの打ち合いで倒し、入り口に入ってみると少し開けた場所では10匹ほどのD.ゴブが待っていた。


「さ、さすがにまずいか?」

 入り口に引き返そうかと振り返ると、そこには飛び降りているD.ゴブの姿が見えた。

 完全に囲まれている。

 そしてD.ゴブが一斉に襲い掛かってきた。魔力の流れから攻撃をいなす事はできるが、それはちゃんと見る事ができればの話。

 死角からの攻撃には対処できない。

 更には矢を射掛ける者もいて、3匹ほどを仕留める間に、俺は動けなくなっていた。



「ふむ、騒がしいと思ったら侵入者だったのね」

 体力が削られこのまま死ぬのかと思った時、俺にも分かる言葉が聞こえてきた。

 逃げることはおろか、顔を上げることもできない。そこに声の主がやってきた。


「ふん、人間風情がここのところの侵攻に奢ったのかしら。1人で来るなんてねぇ」

 野太い声のその人物は、俺の頭を踏みつける。

「アンタ達冒険者は殺しても復活するから、安心してるんじゃないかしら?」

 ゴリゴリと足をひねられ、地面へと押し付けられる。


「ふふ〜ん、ちょっと堕ちてみるといいんじゃないかしら、地獄へ」

 その言葉と共に、俺の身体は宙へと投げ出された。正確には転がっていた地面が消失し、支えるものがなくなっていた。

 重力に引かれるままに俺はひたすらに落下する。周囲は暗闇でただただ落下する感覚に俺は包まれていった。




 グシャッ。

 全身が潰れる感覚で落下は終わり、激痛が全身に及ぶ。完全に死んだ。

 しかし、その意識は直ぐに途切れることはなく、落下の衝撃で砕けた身体が元に戻ろうとする感触が伝わってくる。

 メリメリと砕けた骨が本来の位置に戻ろうとして、神経に触り新たな激痛を生む。


「ぐああぁぁあぁぁっ」

 絶叫をあげながらソレが過ぎ去るのを待つしかなかった。

 どれだけの時間が過ぎたのか。それとも一瞬にすぎなかったのか。

 時間感覚が麻痺する中、俺は手足が動かせるのを意識する。しかし、全身は気だるさに包まれ動く気力はなかなか起きない。

 デスペナ……だな。

 しかし、そこはホームに設定してあるバルトニアの村ではないし、オタリアでもない。

 妙に赤っぽい空間で、ざわざわという意味の掴めない声が辺りから聞こえる。


「くっ」

 痛みこそ消えたが違和感の残る腕を動かし、ポタミナを取り出す。状態を確認すると能力値にペナルティが掛かっていて、一度死んだ事を示していた。

 ただ現在地の欄が変な表示になっていて、読めなくなっている。

 地図アプリを起動してみても、何も表示されていなかった。


「いったいどうなって……」

「いつまで転がっている。さっさと並ばんかっ」

「おごっ」

 脇腹に痛みを感じ、身体がゴロゴロと転がる。蹴飛ばされたらしい。

 声の主の方へと頭を向けると、そこにいたのは鬼だった。額に角が生え、赤銅色の肌を持つ巨漢。虎縞の腰巻きこそなくてズボン姿だったが、手には金棒まで持っていた。

 そいつがのっしのっしと近づいてくる。俺は何とか四つん這いになって、起き上がろうとしたが、そこを更に蹴られた。


「あががががっ」

 細かなおうとつのある地面を転がされ、全身を痛みが襲う。気がついてみたら、防具の類がなくなっていて、粗末なボロ切れを纏うだけの姿になっていた。

 再びのっしのっしという足音が聞こえ、俺は慌てて立ち上がる。

 デスペナのダルい身体、朦朧とする意識。それでも立てた事で鬼の意識は俺から逸れたようだ。


 改めて周りを見渡すと、俺と同じようなボロ布姿の人の列ができていた。

 足を引きずるようにしながら前の人の背を追っている。まさに亡者の群れと言った感じだ。

 さっさと並べ。鬼の声に俺もそこへと合流する。

 靴も無く、細かく尖った石が転がる道を、思ったよりも早い速度で歩かされた。

 長く続く道に単純な行軍。時間の感覚は薄れ、足裏からくる痛みが俺を支配していく。

 これを脱するには目的地につくしかない。皆の歩みが早い理由はそれだったようだ。

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