今後の方針
「アトリー、戻っておったか……何をしておる?」
突然背後から話しかけられて、宝珠を取り落としそうになり、あたふたしてしまった。
脳裏の声と同じ、それでいて少しアクセントなどに違いもある姫様。
「いや、何でもないよ」
「ふむ? まあよいか。こちら、ブリーエから来てくれた大工達の棟梁殿だ」
「英雄殿、会えて光栄です」
40ほどの日焼けして、がっちりした男だ。
「英雄は止めて下さい、大した事はしてないんで」
「いやいや、貴方が町中でゴーレムを撃破して、大臣共を捕らえてから、ブリーエは大きく良い方に変わった。兵役を解かれた民は地元に帰れて、オタリアとの流通も回復。不足しがちだった物も、どんどんと集まってますよ」
「それらは国王やイザベラさんの力ですよ」
「きっかけを作ったのは貴方だ。少なくともブリーエの街では皆そう思ってますよ」
棟梁はにかっと白い歯を見せて笑う。
その様子からは、先のブリーエ城占拠の雰囲気は感じない。被害が城だけに留まったので、知らない人も多いのか。
「とりあえず戸別の家を50は難しいんで、大人数で泊まれる宿舎を幾つか建てる予定です」
「その辺の判断は任せます。まだ材木なんかも少ないんで、できる範囲でお願いします」
「何、足りない分はブリーエから運ばせますよ。国王からも便宜を図るように聞いてます」
「すいません、助かります」
そう言いつつも、ブリーエに借りを作り過ぎるのも良くないなと考えてしまう。
まだ産業の目処も立たない状況、正常な交易を構築するのにどれだけかかるか。
棟梁と別れて、ルフィア姫と共に食堂へと向かう。村を拡張する工事がほぼ終わり、宿舎も建つ目処がついた。
ミュータント化した人々は、戦闘などの極端な消費がなければ、バルインヌの大気に漏れている魔力で活動を維持できる。
後はそれを生産に向ければ、収益につながってくるはずたが。
「ブリーエに捕らえておる虜囚はどうしたのじゃ?」
「彼らは魔力に余剰がないので、暴れる事ができない状況です。ただバルインヌに連れてくると、大気から魔力を補給できてしまうんで、ミュータント化の回路遮断を行ってから、連行してこようかと」
「ふむ、それならば……」
ミュータントを調べて、回路の具合からどう遮断するかを考えなければならない。
そう思っていたのだが、ルフィア姫の中にはゲーニッツの知識が継承されていた。
サラサラとミュータントに施された刺青の呪紋を書き出すと、一点を指差す。
「ここに赤を差し入れると、強化への魔力が流れぬようになっておる」
「その一点で!?」
「ゲーニッツの奴は魔導技師の技術は己のモノと思っておったからのう。他人に止められる事は考えず、自分の言うことを聞かぬ時にすぐに止められる仕組みを何重にも施しておった」
ゲーニッツは部下を道具としか見ていなかった。使い捨てるだけなら、爆弾だけでも十分な気がしたが、無力化する方法も組み込んでいたらしい。
「それだけなら直ぐに施せるな」
ブリーエにはかなり借りを作っている。早めに囚人を引き取れるなら、それに越したことはないか。
「それじゃあ、ひとっ飛びして施術してきます」
「うぬ? 今からかや?」
「ええ、今の村に人手はいくつあっても足りないくらいですから」
「それなら僕も行くよ。連行するのに人がいるでしょ」
「ああそうか、助かるよリオン」
俺とリオンはブリーエへと転移を行う。
囚人達に面会すると、思った以上に大人しくなっていた。どうやらゲーニッツから、魔力が枯渇するとどうなるかを詳しく教えられていたらしい。
下手に暴れて魔力が枯渇すれば、身体の組織が崩壊して、跡形もなく崩れ去る。
それもまたゲーニッツの支配を強化する一端だったのだろう。
おかげで強化を無効化する施術もすんなりと受け入られた。力を失う事より、魔力枯渇で崩れ去る恐怖が勝っていた。
「これでお前たちの身体が崩れ去る危険はかなり減った。しかし、バルインヌでなければ大気からの魔力は補給できない。大人しくついてきてもらうぞ」
「ああ、分かってる。アンタ達にはミュータント化しても敵わなかったんだ。今更歯向かうなんてしねぇ」
30人の護送に、リオンと2人だけでは不安だろうと、ブリーエから10人ほどの兵士がつけられた。
護送中に逃げ出したら、ブリーエ国内に不穏分子を残すことにもなるので、当然の処置だったのかもしれない。
「しかし、貯金が全然ないな」
「使う一方だからね」
兵士の見張りもいることで、リオンと会話する余裕もできていた。
「リオンが見つけてくれた鉱山。あれが使えるといいな」
「そうか、そんなのもあったね」
見つけた本人が忘れていた。あれから色々とあったからなぁ。
バルインヌに入って最初に攻略した魔導炉。その近くに鉱石が取れる場所があった。
土木1号のようなゴーレムが配されていた事を考えると、それなりに産出が見込まれていたのかもしれない。
「土木1号は整地も終わって手が空くから、改めて調査してくれるか?」
「ああ、いいよ。どうせならコイツらも、そこに回せばいいんじゃないかな」
リオンは囚人を見ながら言った。強制労働は刑罰の基本か。
それに力関係は逆転したというものの、他の村人との接触は何らかの軋轢を生むかもしれない。
「魔導炉のゴーレム補給室がそのまま宿泊地として使えるか」
ゴーレム自体は『黄昏の傭兵団』と共に解体して運びだしてある。
残った充電用の台座部分は、そのままベッドになりそうだった。
方針が決まったので、ブリーエの兵士達に行き先の変更を告げる。この人達は、ブリーエ城奪還の時もついてくれた兵達で、俺達の事を信頼してくれていた。
「それならば、我々が監視役として残りましょう」
「いや、それは流石に」
「いえいえ、英雄殿の助けになるなら、喜んで手を貸しますよ」
「その英雄は止めて下さい。俺はアトリーで、こっちはリオン。そう呼んでくれないと雇いませんよ」
「わかりました、えい……アトリー殿」
こっちとしては助かるが、またブリーエに貸しを積み上げることになるか。
ちゃんとイザベラや国王と相談しないとな。
魔導炉に到着すると、建物内を確認して住めそうなのを確かめると、後は兵士達に任せて俺達は村へと戻る。
ルフィア姫達が食堂に集まっていたので、そこに参加して事の次第を報告した。
「なるほどのぅ、鉱山かや。ここからもさほど離れておらぬし、よいやもしれぬな」
「土木1号をそこに回すことになりますが、大丈夫ですか?」
「うむ、あらかたの作業は終えておるし、村人達も頑張ってくれておる。兵士達の食事は必要になるが……」
「そこはあたしが用意するだよ」
シナリが立候補してくれる。
「後は鉱山の開発に関してだけど」
「僕が〈探鉱〉スキルで指揮するよ」
「では私もフォローに回ります」
そちらはアリスが補佐してくれる事になった。
「村の方はグラフさんを中心に農業を進めてもらって、カミュ達に裁縫面を担当してもらう……でいいな?」
グラフはコルボの父親で、元々は農業に従事していた人だ。今ではミュータント化した人達のまとめ役になってもらっている。
「わらわは棟梁達と、村の開発計画を進めておくのじゃ」
「はい、助かります」
「して、ソナタはどうするのじゃ?」
「俺はかねてよりの予定通り。ルフィアを助けに行きます」
「それなら僕も付き合うよ」
「いや、リオンは鉱山の開発を頼む。ブリーエに借りっぱなしの状況を何とかしないといけないからな」
「そんなっ、アトリーだけ強くなろうとしてるんだろ」
「強くってのとは違う方向なんだけどな。それにリオンはアリスから武術を習ってるんだろ」
「それはそうだけど」
「兄様は誰と何処に行くんですか?」
「俺は1人で山登りさ。まあルフィアは当然連れて行くけど」
「わらわを!?」
「いや、ルフィアの方だよ……って、いい加減、ややこしいな。こっちは改めて名前を付けようか」
俺は懐から宝珠を取り出した。
「そうだな……これからはルーファにしよう」
「あんまり変わりませんね」
「変えすぎると更にややこしくなるからな。とにかく俺はルーファとちょっと旅する事にするよ」
「そんな、アトリーさ。どっか行くだか?」
「なに、旅と言っても転移で直ぐに戻ってこれるし、ポタミナで連絡もできるからな」
「そうだか……」
「ルーファも揃って、皆で幸せになるのが俺の目標だからさ。皆もそれぞれ目標立てて、それに向かって俺にして欲しいことがあれば、どんどん言ってくれ」
「ただし叶えるとは言っていない」
「そこで茶化すなよ、リオン」
「まあ分かったよ。僕もしばらくはアリスに教えて欲しい事もあるし、鉱山も楽しそうだしね」
「そういわれると、私も付き合うしかないですね」
「あたしも鉱山で頑張る人に料理作るだよ」
「あと一人、ここにおらぬものがおるが?」
「うっ……け、ケイトはケイトでやる事があるって言ってたし」
「ならば良いか。それではこれからはこの方針でいくとするかの。皆、よろしくたのむのじゃ」
なんかようやくバルインヌでの騒動が終わった感。
2章の終わりはここに変更します。




