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アスモデウスは告白したい  作者: enforcer
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個人情報

 バンドメンバーと、高品姉妹の歓談は、明日野の予想外にスムーズである。

 反面、冷や冷やさせられるのは、歓談の題材が、専ら、明日野少年の事に、焦点を置かれて居るからだろう。


 「へぇ………高校生なのに、お酒をねぇ?」

 「そうだぁ……この前ね部屋の前を通ったんですよ、そしたら……酒瓶が部屋の前に、何本と転がってるんですよね……ねぇ? 明日野君?」

 

 フムフムといった具合のルシフェルに、理沙はと言えば、ペラペラと明日野の個人情報を投げ渡してしまう。


 「…………なんのことか、わかりますん…………」そんな、受け取り辛い明日野の返事に、旧き友は、面白げに笑った。


  グレーのピッタリとしたシャツに身を包み、腰から下は、真っ赤な革のパンツと、意外にも、派手な服装のルシフェルだが、真っ黒な髪と、白色に近い素肌は、それは、実に服に合っている。


 人間嫌いと噂されるルシフェルではあるが、強ち間違いではない。 

 事実、ファンとの触れ合いなど、バンドにとっては皆無といえ、そもそも、今回のコンサート自体、佐田から頼まれたからである。 

 とは言え、同輩を気にするだけの度量を持ち合わせる彼からすれば、アスモデスウを預かって貰っている少女に、多生の縁と、実に大らかである。 


 とは言え、最もらしい理由を省けば、彼、ルシフェルが、人見知りなだけ、という点だろう。


 理沙の口撃に、明日野は、沈黙を護るのだが、その顔は、咲良に嫌われないかどうかで、青かった。

 だが、当の咲良はというと、眉が若干ハの字になって困っている以外は、特段変化は見られず、少年を安堵させる。

   

 「ホントは良くないよねぇ?」「まぁ、ホント……わね?」

 

 咲良の大らかさはともかくと、明日野の顔色の七変化に、パティンとパイモンは、実に面白げに、わざと、缶ビールを呷ってみせる。

 若干同輩の行為に苛つきながらも、少年は壁に凭れていた。

 

 「…………おっす」と、そんな声を少年に掛けたのは、頭が燃えている人、もとい、ベリアルである。

 「…………よっす」明日野もまた、気軽に返すが、そんな少年に、手渡されたコップの中身は、巧妙にジュースに見せかけた、カクテルだった。

 

 「おいおいおい………ベリアル君?」

 「………出所………ホントはみんな祝ってんですよね……でもほら、大将からは、高校生におおっぴらに、色々すんなって、いわれてまして…………」

   

 見た目の派手さにも関わらず、ベリアルは、実に静かであった。

 仲間の配慮は痛み入る少年なのだが、どうしても、気掛かりが一つだけ在る。

 思わず、ベリアルの頭の髪を弄る少年なのだが、手触りは、ただの髪の毛である。

 僅かに光っていようがいまいが、あくまでも、髪の毛は髪の毛であった。

 だが、いい加減、男に髪を弄られる趣味は、ベリアルには無い。


 「なんすか? 俺………そっちの気、無いすよ?」

 

 そう言うベリアルの肩を、ガッキと腕で押さえる明日野。

 バンドファンが見れば、暴動が起きそうな行為でも、二人は、古い馴染みであり、それ故に、ベリアルの冗談に、明日野は、渡されたコップを傾けていた。

   

 「案ずるな………俺様には咲良だけだ…………」

 そつ云う明日野のコップに、ベリアルは、自分のコップを軽く当てた。

 

 勝手に酒盛りを始まる明日野に、理沙は、僅かだが、フンと嘆息を漏らす。 

 憧れのルシフェルにしても、話してみれば、蠅野と同じく、実に人当たりが良く、好印象ですらある。

 

 とは言え、それは、当たり前の話しであろう。


 かつては、【光齎す者】や【明けの明朝】というあざなを持つ彼だが、後顧の悪行など、人間が勝手に彼等に擦り付けたモノが殆どであり、実際に悪魔が人間に及ぼした被害は、実の所、天使の方が、遥かに多い。

  

 だが、如何なる経緯が在ろうとも、勝てば官軍、負ければ賊軍と、勝利者はやりたい放題である。

 

 天使が勝った時点で、悪魔はそもそも、堕天使でしかない筈にも関わらず、【悪い魔の者】という意味の、酷い名前を付けられていた。

     

 負けた者への迫害は著しく、何もかも、悪い全ては、彼等のせいと、位置付けられる。

 人間の罪の大半どころか、全ては自己責任にも関わらず、時折悪魔のせいだとされても、彼等は怒らない。

 短い間しか生きられない、そんな儚い命に、一々目くじらたてるほど、悪魔達は短気でも、小さくもなかった。

 

 話しを進める内に、理沙は、何かを思い付いたように、ポンと手を鳴らす。

 

 「あの………サインって頂けます?」恐る恐るな理沙の声に、問われたルシフェルは、ポカンと、大悪魔には似合わぬ顔を見せるが、「……あぁ…勿論」と、返事を返す。

 

 我ながら、素晴らしい考えだと、理沙はハシャぐが、生憎と、サインを貰う様なモノが何一つ無い事に気付いた。


 衣服はどうかと思うが、流石に無理がある。

 

 掌か、手の甲はと思い付くが、それでは手が洗えない。

 

 持ち物全てを漁るが特にめぼしいモノは無く、流石に、無理やりにでも明日野のシャツを脱がせ、それに、憧れのバンドのサインを頂くというのも、なんか違うと、理沙は悩んだ。


 無難にハンカチはどうかとも、考えるが、此処はやはり、周りへの自慢としても、色紙に欲しいと言うところだろう。


 座っていたパイプ椅子から立ち上がる理沙だが、ぐっと、胸の前で拳を握った。


 「あの……色紙買ってきます!」云うより早く、猛ダッシュを開始する少女に、部屋に居た面々が呆気に取られるが、ベリアルの髪の毛が、何かを思い付いたようにうねった。

 

 「アス…………明日野……君。 ついて行ってあげた方が、良いんじゃないかな?」


 そんな、唐突なベリアルの提案に、ルシフェル筆頭に、他のメンバー迄もが、各々手をポンと叩いた。

 

 「あー、うん………私からも、お願い……ね?」咲良までが、そんな事を云うものだからか、明日野は、咲良だけに、敬礼を見せ、理沙を追った。

 

 ぽつねんと残された咲良だが、周りの大悪魔は、やはりと言うべきか、咲良を囲みながらも、悪魔的な笑みを見せる。

 

 「ところでさ…………明日野って、どんな学生生活?」

 

 口火を切ったのは、ルシフェルである。

 個人情報という、大切かつ、重要なものの開示を、咲良へと迫るが、聞かれた当の本人はと言えば「うーん、明日野君は……」と、ペラペラとアスモデウスの私生活をあっさりと語り始めていた。


 自身の個人情報の機器にもかかわらず、当の本人はと云えば、頭のアホ毛が、いつもとは違う方へと向いていた。

 通常、明日野の頭の悪魔探査針デビルコンパスは、常に咲良を向いているが、その本人から、【妹をお願い】と、頼まれれば、嫌とも言えず、仕方なしに、明日野は、絶賛理沙を追跡中である。


 コンサート会場は、街の中に在る為に、文具店を探すには差ほどめんどくさいとは思わない。

 色紙を人数分、四枚買ったは良いが、理沙は、別の意味で心を弾ませていた。

 近所に奇妙な隣人達が越してきて以来、変な事が立て続けに起こる。

    

 今までの人生観など、あっさりと消し飛び、すっかり生活は上向いている。

 

 「ありやとやしたー」と、雑な店員の挨拶はともかくと、店から出た理沙は、思わず息を飲む。


 高い身長の少年だが、壁にもたれて、肌は若干浅黒く、長めの髪の毛。

 そんな彼は、静かに、理沙を待っていてくれた。

 

 「ついて来て……くれたんだ?」

 

 どこか恐る恐るな理沙の問い掛けに、壁に凭れていた明日野は、スッと背中を壁から放すと、理沙の頭にポンと手を置く。

 また子供扱いかと、若干理沙の頬が膨らむが、ソレを見て、明日野は、薄く笑う。

   

 「一々そんなもの買わずとも……あれ等は俺様の友達だぞ? お前が欲しいと云うなら、いつでもサインぐらい貰って来てやるのにな………」


 実に尊大な態度の明日野だが、夕闇背中に背負う彼に、理沙はポカンと成る。

   

 「さ、行こうか? 人を待たせるのは趣味ではない……」そういって、理沙をエスコートしようとする明日野に、少女は「……あ…うん」と、満更でもないのか、いつもとは違い、素直に少年の後に続いた。

 

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