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アスモデウスは告白したい  作者: enforcer
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困った友人

 最近の理沙は、少しは明日野を良いなと思えたし、事実、どれだけ年上なのかは知らないが、ぱっと見はその辺の格好いい長身の男の子にしか見えない。

 

 で在れば、例え姉の事が好きで在ろうと、恋愛の練習相手としては、実に恰好の素材だろう。

 

 しかし、そんな風にウキウキとしながら帰宅を果たした理沙は、思わず見たモノに、目を見張ってしまった。

 偶々、ドアがそのまま開いてしまっていたからであろう。

 

 「……お…おい…理沙……誤解するなよ?」


 そう言うのは、非常に困った顔をしながらの明日野。

 そして、彼の横では、手で必死に涙を拭いながらも、グスグスと泣き声を我慢してるらしい軽部理恵。

 事情を知らぬ者が見れば、痴情のもつれ、ともとれるだろうか。


 焦る少年、無く少女。


 それを目撃してしまった理沙はと言うと、気まずく成ってしまったのか、

 スッと、自室へと戻ろうとした理沙だが、肩を掴まれる事で、理沙の動きは止まってしまった。


 「…………おい、頼むから、話を聞いてくれ」


 そんな、明日野の言葉に、理沙はというと、思わず少年の手を払う。


 「誤解!? 誤解も何も無いでしょ!? お姉ちゃんが好きとか言っといてさ………それで何!? 軽部さんに何したの!?」


 若さ故か、理沙は己の中にも、明日野に裏切られてしまったという思いからか、言葉は辛辣である。

 

 思い付くままに、言葉を放った理沙だが、今度は、真剣な顔で明日野は理沙の肩を掴んだ。

 「おい、良いから落ち着いて話を聞いてくれ…………」

 少年は、誠心誠意、可能な限り穏やかかつ、真剣な声を理沙に向けていた。


 図らずとも、理沙にしても明日野は、一応好ましい男の子である。

 それ故にか、思わず、彼の真剣な面持ちに惹かれ、首を縦に振っていた。

 グズる軽部も、明日野に張り付いて居れば、一応は落ち着いてくれるらしい。

 若干、そんなチビに、理沙はイラッと来つつも、顰めっ面で明日野の言い訳を、聞いてくれていた。

 かくして、キューピットの矢が齎した今回の事情を、何とか説明し終えた明日野。

 

 「ふぅん………で、その変なアイテムのせいで、軽部さん……そんな風なの?」


 そう言うと、理沙は、明日野の隣にくっ付く軽部を見た。

 いつもなら、明日野にしそうな視線で、軽部は理沙を見る。 

 

 敢えて、その視線を形容するのなら、恋人同士の間に、唐突に現れた部外者もしくは、浮気相手に向けるソレである。

 

 うぅむと、明日野と理沙は同時に唸った。

 

 それが、軽部は面白くないのか、更に力を込めて明日野の腕を抱く。

 骨が軋み、筋肉が悲鳴をあげるものの、明日野は眉間に皺を寄せ、軽部の力強い抱擁に耐えていた。

 とにかくとばかりに、明日野はすっくと立ち上がり、それにつられて、くっ付いている軽部も、持ち上がった。

 

 「ええい!? このままでは埒が開かん! 理沙! 幸いにも、咲良が帰って来るまでは、まだ時間が在るはずだ! 俺は少し出掛けてくるぞ!」

 

 そんな、少年の声に、くっ付いたままの軽部は、「お? デート?」と、僅かに呟いていた。

 

 乗り掛かった船とばかりに、理沙も立ち上がり、少年の肩をポンと叩いた。

 「…………で、どこ行くの? 大悪魔様?」

 前にも見たが、今や理沙も少年を在る程度は信頼しつつ、普段の一般的な世界とはかけ離れたモノを見せてくれる少年に些かの期待を抱いてもいた。


 「決まっているだろう……あの、忌まわしい矢を作った、張本人に会いに行くのだ!」

 

 そう言いながら、軽部がくっ付いたまま、明日野は足を踏み出し、理沙もまた、少し軽部を邪魔だと見つつも、少年の後に続いた。

 

 蠅野が渡してくれた、現代の利器は、実に便利である。

 

 未だに、メールが何なのかは知らない明日野だが、どうにかこうにか、電話をする事は出来る様に成っていた。

 

 無論、徒歩でも構わないのだが、それは、危険この上ない。

 

 何故かと言えば、いい加減頭に来た明日野が、力任せに軽部を引っ剥がそうと試みた結果、まるで離れない。

 

 つまり、徒歩で移動しようものなら、誰彼構わずに、熱愛カップルだと言いふらされかねないのだ。

 

 呼び出したタクシーでは、後部座席に一行は陣取る。

 

 明日野を中心に、左右を理沙と軽部が固めて居るからか、在る意味、運転手の下級悪魔は、【うは、ハーレム!? 流石はアスモデウスっす!】と、勝手に想っていた。


 だが、往々にして、事実と真実は異なる。

  

 やけに楽しげな運転手に、明日野は僅かに目を向ける。

 

 「時に…………運転手よ…………」

 「はい、なんすか?」

 

 そう言う運転手の顔の横には、難しい顔の明日野が、頭を密着せんばかりに寄せた。

 

 「良いか? 此処で起こった事、お前が見たこと……全ては幻だ………貴様の見た幻想であり、それは、俺達が降りたら、お前は全てを忘れるんだ……良いな?」

 

 もはや、力を抑える気は無いのか、明日野の声は、若干の本気が垣間見え、尚且つ、高額紙幣で、何枚かが、運転手の胸ポケットに押し込まれる。

 

 「…………了解でーす…………」

 

 そう言うと、タクシーの表示は、【回送】へと変わった。


 運転手への懇願おねがいを済ませた明日野は、どっかりと腰掛け、腕を組んだ。

 相も変わらず、明日野に抱きついてくる軽部を、この際理沙と少年は無視していた。

 何故かと言えば、軽部の口からは、砂糖でも吐きそうな程に、甘い甘い将来に付いて、長々と語られていたからだ。

   

 【でね………子供は何人かなぁ…………そう、家は小高い丘に立てて………】


 「てかさ、結局、私達って、何処へ向かってるの?」

 「うん? あぁ、なに…………ベルフェゴールという、暇人ひまじん倶楽部クラブ代表とも言える人物の所だよ」


 【それでね…………毎日大ちゃんはね…………私のことをベッドで……】

 

 「…………ふぅん、でさ、どうしたの? 理恵ちゃんは? なんか、おかしいんだけど?」

 「気にするでない…………すべては矢が原因なのだが………しかし、確かに、少しうるさいな…………」

   

 【でもなぁ…………今時ってさ、夫婦共働きって言うでしょ?……それ……】


 軽部の妄想を音楽(BGM)代わりにしながらも、タクシーは、確実に明日野の目的地へと向かって、わざとらしく、ゆっくりと走っていった。

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