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Time:Eater  作者: タングステン
第一話 『Ne』
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第09部

【2015年05月07日17時08分25秒】


「……さん! 次元さん!」


 何か遠くの方で聞き覚えのある声が聞こえて来た。そして、俺は頭痛に耐えながら軋む体を起こした。


「……ん……ここは……?」

「次元さん! 良かった……。やっと目覚めましたか」


 そこにいたのは湖晴だった。それはそうとして、ここは何処だ……? 周りを見渡す限り丘の頂上の様だが……?


 そんな事を考えていた俺は次第に意識が回復して行き、ようやく自身の置かれた状況を思い出した。


「そうだ! ここは過去、過去の世界なのか!?」

「はい。そうなのですが……、次元さんはタイム・イーターの時空転移の際に発生する重力に耐えられなくなった様で、ついさっきまで気絶されていました……」

「何!? 俺はどのくらい気絶していたんだ!? 事件まであと何分ある!?」

「……事件までおよそ十分です」

「!?」


 俺とした事が、ただでさえ時間が無いのに二十分も気絶してしまうなんて!

 ここはあの丘の頂上だから……いや、違う。ここはついさっきまで俺達がいた丘ではない。明らかに狭い。と言うか、何処か別の公園の様にも見える。


「音穏さんのご両親の勤めていたとされる研究所まで、歩いておよそ5分の公園です。今から、走って行けば3分くらいで着くとは思いますが、肝心の資料を探す時間が……」

「クソッ! どうすれば!」


 考える時間も惜しいがその限られた時間で計画を立てなければ何も始まらないため、俺は、


「湖晴! 取り合えず研究所まで走るぞ! 計画は走りながら考えれば良い!」


 と湖晴に言い、二人で研究所まで走る事にした。


 俺はここの地形を全く知らないが、湖晴が持つタイム・イーターのグーグル・マップらしき機能のお陰で迷う事無く研究所に行く事が出来そうだった。


 ちなみに、湖晴曰く、そのタイム・イーターのグーグル・マップらしき機能は『タイム・マップ』と言うらしく、どの時間軸でも正しく時間的・空間的に現在地座標と目的地座標を表示する事の出来る物らしい。詳しい事はそれ以外は特に聞いていない。時間も無かったしな。


 俺と湖晴がその公園から出て右に曲がった時、見覚えのある人物がそこを歩いていた。その人物は八年前の音穏だった。その近くにいる女の子は音穏の妹だろう。音穏が小学生の頃転校して来た時に髪に付けていたリボンが、俺が彼女を彼女と判別する決め手となった。


 今は一刻でも早く研究所に行くべきなのだが、俺は無意識に走るスピードを少しだけ、緩めてその少女に話しかけていた。止まる事も無く。ただ、通りすがりの1人の人間として。


「野依音穏! 俺は……俺は絶対にお前を救ってやる! だから、お前もこれから何が起きても絶望するんじゃねえぞ!」


 ロリ音穏とその妹は不思議そうにこっちを見ていたが、そんな事は特に大きな問題ではない。でも、小学三年生に対しては少し乱暴な口調かも知れないと思ったが、そんな事を気にしている場合では無かったし、時間も無かった。


 それに、少し前で一緒に走っていた湖晴から俺は注意を受けた。


「次元さん! 何やってるんですか! もし、タイムパラドックスが起きたらどうするつもりなんですか!」

「へっ! 別に良いだろ? 今のは独り言みたいなもんだ。このくらいでタイムパラドックスなんて起きないだろ?」

「それもそうかもしれませんが、念のためあの様な行動は……。それに、だったら何でそんな事を……」

「俺の気持ちの問題だよ! これで、俺も嘘偽り無く音穏を救う事に全力を注げる!」


 そう。これは俺の気持ち、メンタルの問題だ。だから俺は今、自身に渇を入れるつもりで大声で叫んだ。


 それに、久々に大声を出したせいなのか脳内の神経が刺激され、普段は全く使われていない俺の脳がフル活用されていた。そして、俺は今の状況を打破する方法を考え出した。


 研究所まで、あと1,2分の所の事だった。


「湖晴! 資料を見つける方法を考えたぞ!」

「本当ですか!? その方法とは!?」


 走っているからか、俺も湖晴も無意識に語尾に『!』が付いてしまっていた。


「その方法は……俺が音穏の両親に直接聞き出す事だ!」


 研究所前。事件まであと六分。


「おい! ちょ、離せっておい! こら! こっちは急いでるんだよ!」


 案の定、上手くは行かなかった。入り口のインターホンの様な所で、


「野依夫妻の知り合いの者なのですが、お2人に合わせて頂けませんかね?」


と聞いただけなのだが、その直後、警備員らしき人物が2人何処からか出てきて、ご覧の有様という訳だ。


 湖晴が言うには、高校生に限らず部外者は基本的にはこう言う施設には入れさせて貰えないらしい。先に言っておいて欲しかった。迂闊にも程度ってもんがある。一体どうすれば良いんだ。


「まあ、考えは良かったんですけど、その方法がアレでしたね」

「言うな! 言うんじゃない! 俺が死んでしまう」

「じゃあ、別の方法でやってみますか」

「え?」


 湖晴はそんな事を言って研究所の裏口まで俺を連れて行った。その時にさっきの警備員2人に『さっさと帰れ! ガキが!』みたいな目で見られていたが、どうでも良いと言う事にしておく。


「ここら辺で良いですかね」

「? 今から何を……」


 俺が言葉を最後まで発する前に、突如ありえない現象が発生していた。


「何……だと?」


 時間が止まっていた。さっきまでは換気口から薄っすらと煙が出ていたが、今は静止画の様に固まっていた。他にもさっき警備員のポーズや空に浮かぶ雲など、俺達以外の全ての物の時間が止まっていた。


「どう言う事だ? 説明しろ」

「別に、時間を止めただけですけど?」

「『時間を止めただけですけど?』じゃねえよ! 最初からやれや! 何で俺達はさっきまで全力疾走してたんだよ!」

「いえ、長時間は出来ません。せいぜい私達の体感時間で五分程度だけです」

「え? そんだけなの!?」

「はい。それ以上時間を止めると、エネルギー不足で『現在』に戻れなくなります。ちなみに、時間が止まっているのはタイム・イーターから半径五メートル以上外からで設定しているので、あまり私から離れないで下さいね?あ、別にずっとくっ付いていても訴えたりはしないのでご安心を」

「あ、ああ。分かったよ」


 それもそうか。そんなとんでも能力でも、限度があるし、時間制限が無いなら最初から使ってるもんな。どんだけ馬鹿な奴でもな。……俺は違う、はず。


 そう言えば、今の湖晴の物の言い回しが少し引っかかった。タイム・イーターの時間停止の許容範囲が五メートルなのは別に構わないが、何故わざわざ『あ、別にずっとくっ付いていても訴えたりはしないのでご安心を』とか言うんだ? 俺ってそこまで変態じゃないぞ? 俺は健全な男子高校生であり、平凡主義者だ。特に気にする必要も無いか。


「で? 時間を止めてどうするつもりなんだ?」

「それはもう不法侵入しかないでしょう? では早速……」

「入れないから止むを得ないか……って今度は何をしてる!?」


 物騒な事を言った湖晴はタイム・イーターの先端部分を研究所の裏口の扉に向けたかと思ったら次の瞬間、一般的に言うレーザーの様な物が発射されその扉はみるみるうちに溶けていった。


「あ、あの照沼さん? な、何をやってるんでしょうか?」

「? 見ての通り、不法侵入の準備ですけど?」

「いやいやいや! そうじゃなくて! 何で扉溶かしてんの!? てか、タイム・イーターって便利だな! 『多彩な機能でこのお値段!』ってか、おい!」

「いや、別にテレフォンショッピングでなくても一般販売はしてませんけど」


 時空転移、時空間座標特定、時間停止、レーザー(?)。あのフリスビーみたいな金属の塊にそんな機能が? 幾らなんでも話が上手過ぎるだろ。


 エネルギー源は電気だって言っていたが、どのくらい電気が必要なのだろうか。と言うか、時空転移って電気の力だけで出来るもんか? ここ(過去)に来る前に湖晴が何か説明してた様な気もする。


「この機能は特定の物質の温度上昇の時間を早めて融解させただけですよ? 他にも色々機能はありますけど、取り合えず今は資料を探す事が先決です!」

「それもそうだが……」


 俺は心の中のモヤモヤ感を拭えないまま、融解した扉を潜った。これで俺も晴れて不法侵入の共犯者か……。上垣外次元『初めての不法侵入』ってか? お使いならまだしも笑えねえよ。


 タイム・イーターの時間停止機能発動からすでに一分くらいは経過してしまったかもしれない。資料の位置は多分湖晴は分かってるんだと思うが、どうしても気が急いでしまう。


 さっきから言っている様に、時間停止にも時間制限がある為俺と湖晴は走りながら移動する事にした。今日は何だかずっと走っている様な気がする。


 俺は研究所の中の廊下を走ると言うのは初めての筈だが、何だかとても懐かしい様な気分になった。薄暗くて、物音一つ立たない空間。長時間そこにいたら気が狂ってしまいそうだった。


 ガタンッ!


 俺達は既に幾つ通ったかも分からない研究室の横を走っていた。その時、その内の一つの部屋でしない筈の物音がした。


「!?」


 俺は走るのを止め、立ち止まった。


「次元さん? どうされました?」


 そんな俺に気付いた湖晴も走るのを止め、俺の方に歩いてきた。


「いや、何でも無い。多分気のせいだろう」

「そうですか? では、先を急ぎましょう。時間停止は後二分です。目的の資料はこの上の階の三階にあるそうです」


 そして、俺達は再び目的地を目指した。しかし、さっきの物音は何だったんだろうか。でも、俺達以外は時間は止まっているはずだからありえないはずだ。だったら……?


 勿論エレベーターも止まっている為、階段で二階から三階へ上がる。非常階段があって良かった。そして、ようやく目的の部屋に着いた。


「やっと、着いたか……」

「そうですね。でも、資料を探すには時間停止の残り時間が無さ過ぎます。どうされますか?」


 どうされるも何も俺は最初から決めていた。音穏の両親には絶対に話さなければならない事がある。信じて貰えないかもしれない。疑われるかもしれない。だが、そんな事を気にしている時間は無い。失敗は許されない。チャンスは一度きりだ。


「湖晴」

「はい?」

「予定よりも、過去を変えても良いか?」

「と、言いますと?」

「『俺と音穏が今の様に仲良くはならない』程度にな」

「どの様にしたらそんな……?」

「俺が今から話す内容の副産物(おまけ)程度に思って貰えれば良い」

「……でも、次元さんはそれで良いんですか?」

「俺はあいつが……音穏が救われれば何でも良い」

「分かりました。じゃあ、細かい修正は私がしておきますので、次元さんは心置きなく過去改変しちゃって下さい!」

「おう!」


 そして、タイム・イーターの時間停止機能がストップし時間の流れが戻った。時間停止中は電気は流れていなかったので、研究所中は薄暗かったがようやく明るくなった。


 しかも、放送で研究所中に警報音とアナウンスが鳴り響いた。おそらくさっき湖晴が問答無用に扉をぶっ壊したからだろう。俺が湖晴を見ると湖晴は『テヘッ☆』と聞こえて来そうな表情とポーズをしていた。全く困った奴だ。


 事件発生まで約五分。俺はその研究室の扉の前に立っていた。俺は大きく深呼吸をして、勢い良くその扉を開け放った。


「野依夫妻はいるかーーーーーーーー!!!!」

『……は?』

「……じ、次元……さん?」


 研究室にはいきなりの来訪者に驚く30歳代前半くらいの男性と女性が1人ずついた。おそらく音穏の両親だろう。ここは研究室……と言うよりは休憩室に近い場所だったのだろうか。難しそうな本はあっても、実験道具が1つも無い。


 すると夫妻の男の方、おそらく音穏の父親が俺に向かって言った。


「だ、誰だね! 君は! ここは関係者以外立ち入り禁……」

「俺は上垣外次元! 未来から来た! 信じてもらえなくても良い、とにかく今は時間が無い! 話を聞いてくれ!」


 十歳以上も年上の人に向かって話す口調では無かったが、そんな事を気にしている場合では無い。


「何だって? 未来から……? 君は何を言ってるんだ……? 一体」


 案の上、信じて貰えていない。俺も同じ状況なら信じられないだろうし、事実俺も最初は湖晴を疑った。しかし、ここは計画の範囲内だ。


「野依音穏知ってるよな? アンタらの娘のはずだ。未来で俺はあいつの幼馴染だ。と言ってもこの時間軸ではまだ出会ってもいないんだがな」

「!」


 実の娘の名前を出された事に驚いたのか、野依夫妻は驚いた表情をした。だが、俺はこの二人に告げなければならない。


「さっきも言った通り、時間が無いんだ。簡潔に言う。アンタら二人は五分後、この研究所の爆破事件に巻き込まれて死ぬ。そして、その死が原因であいつ……音穏は過ちを犯してしまう」

「何だって!? どうしてそんな事に……」

「上垣外君……だったかしら? 詳しく聞かせて貰えないかしら」


 驚き続ける旦那とは違い、冷静に話を聞いてくれる奥さんで助かった。


 俺は二人に未来、俺にとっては過去の出来事を全て話した。二人が何故死ななくてはならなかったのか、何故音穏が暗くなってしまったのか、どうやって俺と音穏が知り合ったのか、何故音穏が研究所を爆破して行ったのか、何故俺がこの時間軸に来たのか、事実と推測と『嘘』を交えて全て話した。俺にしてみれば随分と文章を簡潔に纏めて話す事が出来たと思う。これが『火事場の何とやら』か。


 二人はどうやらやっと表向きだけでも信じてくれたらしく、静かに俺の話を聞いてくれていたが流石に話す内容が膨大だったので、時間が掛かり過ぎた様だった。部屋には入らず、入り口で待っていた湖晴が『あと、一分です! 次元さん!』と口パクで言っていたのが分かった。急がなければ、俺と湖晴も爆発に巻き込まれてしまう。


「アンタらに最後に聞きたい事がある。アンタらが研究していたと言う水素の研究資料は何処だ?」

「水素の研究資料? 何の事ですか?」

「え? 水素について研究していたんじゃないのか?ほら、水素爆弾とかの」

「水素爆弾? いえ。水素を研究していた事もありましたが、普段は十八族の希ガス等の研究をしていましたが?」

「何?」


 どう言う事だ?これでは話がおかしいではないか。それじゃあ、音穏はどうやってあの水素爆弾を造った……?もしかすると俺達が過去で動いた事で、既に過去改変が起こった?


 その直後、大きな爆発音と振動が俺達を襲った。


「次元さん!」

「ッ! 分かってる! じゃあ本当に水素爆弾の研究はしてないんだな?」

「はい。そうですが……」

「分かった。アンタ等二人の死は回避する事は許されない。だが、未来の音穏はこの俺に任せて欲しい。何があっても、絶対俺が守る!」


 ……何か忘れている。何だ? ……そうだ!


「もう一つ最後に頼んで良いか?」

「はい」

「『音穏に連絡してやってくれ』」

「音穏に……?」

「どうせお別れ出来て無いだろ? それに音穏もアンタ等二人の声を聞けたら嬉しいだろ?」

「分かりました。待ってて下さい」


 そう言って、夫妻は携帯を取り出すと電話を掛け始めた。きっと自宅だろう。留守番電話サービスに登録しておけば、携帯を持っていない(筈の)ロリ音穏にメッセージを届ける事が出来る。そして、メッセージを伝え終わったらしい夫妻は再び俺のほうを向いた。


 暫くすると、電話を掛け終わったのか野依夫妻が俺の方に来た。


「ありがとう。上垣外次元君。最後に音穏達に話す事が出来た」

「分かりました。では、俺もそろそろ戻らなければいけないので。心配しないで下さい! 未来の音穏は俺が必ず守ります!」

「頼みましたよ。次元君……。音穏の事をこれからも大切にしてやって下さい」

「はい!」

 

 直後、大きな振動と爆発音がした。

 

 音穏の母親がそう言ったのを聞き取った後、俺と湖晴は大急ぎで研究所の外に出た。爆発で研究所が完全に崩壊したのはそれから約二分くらい後の事だった。


「これで、良かったのか……?」

「おそらくは」

「だが、資料は見付からなかった。俺達は結局何も出来なかったんじゃないか?」

「確かに、一つ気懸かりなのは資料が手に入らなかったと言う事ですね」

「って事はやっぱり未来は変わらないんじゃないか?」

「いえ、音穏さんが事件を起こした理由の一つに『両親の復讐』があったのはご存知ですよね?」

「ああ」

「でもそれって、音穏さんがご両親と喧嘩して仲直りする事が出来なかった事も含まれているのだと思います」

「じゃあ、俺があの二人に『音穏に連絡してやってくれ』って言ったから……」

「その通りです。あくまで推測ですが、仲直りは出来たのだと思います」

「そうか……それなら良かっ……」


 あれ? 体が倒れるような感覚がする。今日は久し振りに頭も体も使ったから、そのせいか。今は時間が有る限り寝ていたいな……。いつもそうだけど。


 そして、俺を心配して呼び掛けて来る湖晴の声も聞き届ける事無く、時空転移の時よりも深い深い闇に呑まれて行った。

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