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Time:Eater  作者: タングステン
第一話 『Ne』
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第07部

【2023年09月11日19時38分43秒】


~野依音穏視点~


 私はとても幸せだった。


 お父さん・お母さん・妹・そして私を含めた四人の、捜せば世界中の何処にでもある様な普通の家庭だったけど、私はそれで充分に幸せだった。お父さんとお母さんは同じ研究所で研究員として働いていたから二人とも仲は良かったけど、私と妹との時間が他の家庭よりも少なかったかもしれない。でも、私も妹も友達が多い方だったので、両親の帰りが遅い日でも特別寂しいと言う事は無かった。


 私のそんな当たり前の、普通の幸せを『奴』は奪い去った。正確にはそんな話を聞いた訳だけど。


 話は八年前に遡る。月曜日のある朝の事だった。その日私は両親と喧嘩をした。些細な事が原因の親子喧嘩だった。ただし、私の一方的な。なんとなくお父さんの言った事が気に障って、なんとなくお母さんの行動が気に食わなくて、私は妹の手を引いて家出をした。学校の事もあったので夕方くらいには戻ってきて二人に謝ろうと思っていたが、私のその願いは両親に届く事は無かった。


 夕方。朝も昼もろくに食べていなかったので、空腹のあまりまだ幼かった妹が突然泣き出してしまった。なので、仕方無く予定より少し早いが私達2人は家に帰って来た。両親が仕事から帰ってくるまでにはまだ時間があったので、取り合えずカップ麺とかそんな物を食べた。


 それから数時間が経った。月曜日はいつも六時過ぎには帰って来るが、現在時刻は既に七時。私の中で何かがおかしいと感じ始めた。当時は私もまだ小学三年生だったので携帯電話は与えられていなかったし、ましてや両親の携帯の電話番号など知る筈も無かった。退屈になった妹がリモコンのボタンを押し、テレビの電源を入れた時、私達はその現場を目撃してしまった。


 臨時のニュース番組である研究所の爆破事故の現場を放送していたのだ。その研究所は私の両親の職場で、何度か見学にも行った事があったから見間違い様もなかった。そして、負傷者や死傷者の名前が流れて来た。私はお父さんとお母さんが無事である事を願った。しかし、テレビ画面の下の方の死傷者の欄に二人の名前があった。


 そして、私の幸せだった日々は終焉を向かえた。


 それからは悲惨だった。親族は引き取り手の無い私達二人を押し付け合った。元々お父さんとお母さんは親族の人達に好かれていなかった、と言う事も関係していたかも知れないけど、いくら何でもこれは酷かった、と今でも思う。結局、その時の会議に別件で欠席していたお父さんのお父さん、つまり私のおじいちゃんが私達を引き取ってくれる事になった。おじいちゃんは私達二人を笑顔で歓迎してくれていた。


 引き取り手がようやく決まったものの、学校は更に悲惨だった。引越しする事になるので友達は全員失ったし、新しく通い始めた学校では全く馴染めなかった。両親を失った悲しみで軽く鬱病に成り掛けていた私をクラスメイトは虐めの対象にした。妹はどうだったかは知らないけど、少なくとも私はそうだった。


 私はよく学校を休んでいた。三日に一回くらいは体調を崩していたからだ。でも、私の家の二つ隣に住んでいた、愛想が無く無口な男の子が毎日私の分のプリントを届けに来てくれていた。勿論話した事は無かったし、話せる気力も無かったのでその男の子に名前を聞く事は出来なかったけど、ある日、学級名簿を見れば普通に載っていると言う事を思い出した。彼の名前は上垣外次元と言うらしい。私も大概だったが、かなり珍しい名前だと思った。


 彼もどうやら私と同じ様に友達がいないらしい。と言うか基本的にいつも寝ていた。学校にいる時間の八割は寝ていた様にも思える。彼は先生から何か私の事を聞いていた様だった。他のクラスメイトと比べて態度が違ったからそんな事を思った。転校からおよそ五ヶ月、友達は未だに〇人。でも、そんな事がどうでも良くなってしまうくらい、私は彼の事が気になっていた。


 十月にあった運動会は欠席した。十一月の発表会も欠席する予定だった。でも、二週間くらい前クラス委員の女子から、


「野依さん。再来週の発表会の劇、野依さんも含めないといけないからちゃんと練習してよ」


と言われた。こっちとしては別に休みたくて休んでいた訳ではなかったのでその言葉がかなり心に来た。勿論悪い意味で。ただの嫌味にしか聞こえなかった。


結局、私がほとんど練習に参加する事がなく本番までいよいよ1週間となってしまった。


そんなある日の放課後、私はクラスメイトの男女合計十人程に呼び出された。用件は大体予想できたけど、今思えば小学三年生にしてはかなり陰湿なやり方だったと思う。彼らは普段の態度と、発表会前なのに休みがちな私の態度が気に食わなかったのだろう。


 彼らの内の一人が私が髪に結んでいたリボンを取って窓から投げ捨てた。あのリボンはお母さんから貰った最後の誕生日プレゼントで、所謂形見と言う物だった。


 もう我慢の限界だった。私は今まで押し殺してきた感情を爆発させてしまい、リボンを投げ捨てた男子に殴りかかった。当然だ。親の形見を簡単に捨てられてしまったのだから。でも、相手は十人と少し。勝てる訳も無い。彼らは私の悪口を言っては、暴行を加えた。この時、おそらく私は全身痣だらけだっただろう。


 そんな時に彼が現れた。彼はあの無愛想で無口な男の子の上垣外君だった。彼はどうやら事の一部始終を見ていたらしく、私と同じ様に彼らに殴り掛かった。彼はそれはまるで戦隊物のヒーローの様だった。でも、やはり男の子でも人数差には勝てない。私は蹴られ続ける彼の後ろで声を掛ける事も出来ずにただ呆然としているしか無かった。


 数分後、たまたま通りかかった先生がこの現場を見つけ、私達2人は取り合えずは助かった。そして、私は彼に対して初めて声を『掛けた』。いや、『掛ける事が出来た』の方が正しいかもしれない。


「……あ、ありがとう……助けてくれて……」


 小さい声な声だったかもしれないけどには聞こえたらしく、彼は、


「別に……助けられてないし……」


といつも通り無愛想に言った。私はこの時彼、上垣外君がいれば両親の死の悲しみを乗り越える事が出来る様な気がした。


 保健室で怪我の手当てをして貰った後、教室ではなく中庭に行こうとしていた彼に何処に行く気なのかを尋ねると彼は、


「リボン、捜しに行くだろ?」


と言ってくれたので二人で捜す事にした。とっても嬉しかったけど、どれだけ探しても結局リボンは見つからなかった。


 それから八年。私と次元は同じ小学校・中学校を卒業し、今は普通の幼馴染として一緒に高校に通っている。私はあの事件以来、心を少しずつ元の形に戻して行き友達も増えて行ったけど、次元は相変わらずいつも寝ているせいか私以外の知り合いはほとんどいなかった。


 ちなみに今私がつけているリボンは私の十歳の誕生日の時に次元がプレゼントしてくれた物だ。


 次元と仲良くなった私はようやく両親の死の悲しみを乗り越える事が出来たんだと思う。この八年間、私はとっても楽しくて幸せだった。


でも今から約一ヶ月前、そんな幸せは再び崩れ落ちた。


「お前はあの事件の真相を知らない」


 午後六時頃、クラブの帰り道にフードを深く被っている謎の人にそんな事を言われた。女性の声だったけど、明らかに不審者だったので大声を出そうかと思っていると、その人は続けて話し始めた。


「良いのか? お前の両親が死んだ八年前の研究所爆破事件が、事故として扱われている事が」

「!?」


 その人は予想外の変な事を言ってきた。八年前の研究所爆破『事故』が『事件』? どう言う事?


「伝えたい事は伝えた。後はお前が自分でどうするかを決めれば良い」

「ど、どう言う事!? 八年前の事故が事件だなんて! いきなり何を言ってるの!? それに、どうすれば良いのかなんて分かる筈ないじゃない!」

「あの事件は事故などではないと言う事だ。裏である人物が糸を引いている」

「ある人物……?」


 私はやや感情的になってしまっていたけど、台詞を聞いた事で『真実』を知りたいと思ってしまった。


「教えて。『真実』を」

「分かった。あの事件の裏で糸を引いている、その人物の名前は『玉虫哲』だ。後はそいつに聞け……」


 そう言い残した次の瞬間辺りが眩い閃光に包まれ、その数秒後元に戻ったと思ったらその人の姿は無かった。


 私はそれから急いで家に帰った。そしてインターネットでありとあらゆる情報を調べつくした。しかし、有力な情報は得られなかった。


 次の日、私は両親の形見の一つである『研究レポート』の様な物を物置から発見し、それに目を通すと最後のページに謎のURLが書かれていたので、パソコンでそこのサイトにアクセスするととんでもない事がそこには書かれてあった。


 『原子市第二研究所爆破計画』。


 原子市第二研究所と言うのは私の両親が勤めていた研究所の事だ。私は目を疑ったが、そのサイトで更に調べて行くと、事の真相が見えて来た。


 それから2週間、私は『玉虫哲』と言う人物に直接会って両親の仇を取らなければ気が済まなくなっていた。両親の研究レポートに書かれていた、簡単な構造の水素爆弾を全部で三十六個作った。お金の事など全く気にならなかった。


 そして、私は今日九月十一日までに全部で八ヶ所の研究所を尋ねては強引に情報を聞き出し、帰り際に爆破させて証拠を隠滅して行った。こうする事で他の研究所も怯えて情報を漏らすと思ったけど、今の所有力な情報は少ししか手に入っていない


 今私は原子市全体のほとんどを見下ろす事の出来る丘の頂上にいる。ここは次元とよく遊びに来た思いで深い場所でもあるけど、この際仕方の無い事だ。


 この市に残る研究所・科学機関はあと一つ、『原子大学加速器研究所』だ。そこに奴、『玉虫哲』は絶対にいる。


水素爆弾はまだ三個残っている。最悪、私が道連れにされたとしても仇を討つには充分な数だろう。


 そろそろ、私にとって長い長い戦いの最後の決戦に行こうと思う。


「音穏!」


 そんな時、私にとって一番聞きたかった声が聞こえた。

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