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Time:Eater  作者: タングステン
第二話 『Zn』
19/223

第06部

【2023年09月13日16時57分40秒】


 朝から湖晴関係で色々とあり、しかも学校でも良く分からない掲示板トークがあった訳だが、取り合えず放課後になった。そうだ。やっと放課後だ。今日はもう疲れた。さっさと寝たい。


 ちなみに今俺の隣にいる音穏は本来軽音部だが現在は足を捻挫している為、今日はこれから病院に行くらしく、帰宅部の俺と一緒に帰って来ている。


 適当に今朝あった事等を話しながら帰っていると、俺の家まで残り数10mくらいの地点で湖晴に会った。学校で音穏に聞いた話通り湖晴は買い物に行っていて、今はその帰りの様子で両手一杯に紙袋を抱えている。何が入っているのだろうか。


「あ、次元さん音穏さん。お帰りなさい。ちょうどでしたね」

「おう。湖晴、何買って来たんだ?」

「湖晴ちゃん。ただいまー、おかえりー」

「音穏さんもお帰りなさい」

「あれ?俺の台詞が宙に浮いている様な気がするのは気のせいか?気のせいだよな?」

「湖晴ちゃん、その紙袋何が入ってるのー?」

「えっと、これはですね・・・」

「何か、俺の扱い雑くないか!?」


 何故か俺の台詞が完全にスルーされている。どうした事だ。俺の気のせいで済むのなら全然一向に構わないが、これは完全に無視されていると言っても良いだろう。まさにシカトだ。上垣外次元、初めてのシカト(受け身形)。


「これはですね、色々と部品が入っているんですよ」

「部品?」

「はい。ロボット用の。私ロボットとか組み立てるのが趣味なんですよ。これがまた結構面白いんですよ」

「ほー。それまたマニアックな物を」


 なるほど。湖晴は可愛らしい見た目によらず意外とそう言う趣味の持ち主なのか。でもまあ白衣着てるし、似合っていると言えば似合っているだろう。研究所に住んでた、とか言っていたからその頃に何かのきっかけでその趣味が目覚めたのかもしれない。


 湖晴が持っている超小型加速器・時空転移装置のタイム・イーターは確か玉虫先生とか言う人が開発した、と湖晴が言っていた様な気がする。だが、小型でもタイム・イーターは素粒子加速器だ。管理とか調整も大変だろう。だから、ロボット等の機械類を作るのも得意なのかもしれない。俺は純粋に少しだけ湖晴を尊敬した。


「それで、どんなロボット作ってるの?」

「色々ありますよ?探査ロボット、射撃ロボット、爆撃ロボット・・・」

「待て待て待て!何作ってんだ湖晴は!てか、そんなの作れるのか!?」


 何なんだよ一体。『探査ロボット』『射撃ロボット』『爆撃ロボット』だと?明らかに軍事運用出来る様な範囲内の物じゃないか。湖晴の事を少しでも尊敬してしまった俺が馬鹿だった。


 やはり、湖晴は何だかんだ言っても危険だ。何故なら、罪悪感無しに趣味としてそんな物騒なロボット(兵器)を作ってしまうのだから。・・・・・本当に罪悪感無いのか?この場合、逆にあった方が良いのかもしれない。作っている物が作っている物だしな。


「ええ。時間さえあればもっと難しいのも作れます。でも、プログラムを1から組まないといけないので、結構面倒なんですよね」

「何か湖晴が段々分かんなくなって来たぞ・・・・・」


 どうしたものだろうか、このタイム・トラベラー天然少女は。前は研究所に住んでいたが今は住めないから一般人の家に居候していて、しかもそこでかなり物騒なロボットをプログラムの段階から作ろうとしている?まるで訳が分からん。非日常も良い所だ。居候なんてさせない方が良かったかもしれない、と俺は心の底から後悔した。


 俺がそんな悲痛な事を考えている時に、音穏が湖晴に禁句(多分)を言ってしまった。音穏に悪気は無いだろうが、それは完全に墓穴を掘っていた。


「何か凄いね、湖晴ちゃん。そうだ。そう言えば気になってたんだけど、湖晴ちゃんって学校どうしてるの?そんなロボットが作れるなんて、かなり頭良さそうだけど」

「・・・・・・・あ」

「・・・・・が、学校ですか?えーっと・・・」


 やはりこの話は湖晴にとっては答えにくい事らしい。今朝から思い当たっていた俺の推測は当たっていたらしい。


 音穏に止めさせるべきだろうかとか考えている内に、会話が始まってしまった。しかも、俺もその会話に何時の間にか参加してしまっていた。


「学校は・・・今は行ってませんが、私は17歳で、お2人と同学年にあたります」

「へー。そうなんだ。何処高校?」

「・・・・・英理親和学園です」

「え!?英理親和学園!?あの天才高校!?」


 音穏が過剰に驚いている。そんなに驚くかって言うくらい驚いている。


 しかし、『英理親和学園』って何処だ?俺は高校は『近所だから』と言う理由で選んだ為、そう言う高校名等にはかなり疎い。音穏はそれなりに選んだらしいので知っているのかもしれないが、俺は全く心当たりが無い。


「ん?何だ?そこ有名なのか?」

「有名も何も逆に知らないの!?偏差値が80もある上に、様々なクラブでも表彰されっぱなしの超人ばっかりの高校だよ!しかも、地域に限らず世界中でボランティア活動もされていると言われている、とにかく一言では言い足りないくらい凄過ぎる高校だよ!」


 偏差値80って何だよそれ。俺の原子大学付属高等学校は偏差値52。28も離れているんだぞ?天と地の差以上の差がある。太陽と地球の差くらいあるな、これは。


 しかも、クラブが強いとかボランティアがどうとか、もう完璧じゃないか。そんな高校が存在しても良いのだろうか。そりゃあ、存在しても良いから存在しているのだろうが。


 と言うか、湖晴はそんな環境に入っていたのか。何だ、全然禁句じゃないじゃないか。俺の杞憂だったか。それなら別に構わないのだが。これで余計な心配をする事無く会話に集中出来そうだしな。


「・・・・・それはすげーな。そんな高校もあるんだな」

「いえいえ。別に入ってみればそんな事は・・・・・」

「あれ?でも、今湖晴ちゃんは私達と同い年だよね?もしかして中退か何か?そうだったらごめん・・・」

「英理親和学園は日本で唯一飛び級制度が認められている中高一貫校なんです。私は中等部の頃からそこでしたので・・・」

「え?じゃ、じゃあ湖晴ちゃんってもしかして・・・」

「・・・・・はい。飛び級してました。14歳の時には既に高校3年生のクラスにいました」


 『飛び級制度』ってアニメとか漫画だけのもんだと思っていたが、実際にあるのか。全然知らなかった。


 しかも、湖晴がそうだったとは。どんだけ頭良いんだよ。14歳で高校3年生のクラスにいた、と言う事は3学年飛んでいたと言う訳か。これはヤバイな。何か、湖晴が格好良く見えて来た。


 それに、これなら今湖晴が学校に行っていないと言う事も納得出来る。ここからはあくまで俺の推測だが、湖晴は飛び級でその天才高校を卒業後、何かのきっかけで玉虫先生とやらの所に行き、タイム・トラベラーとなったのだろう。


 でも、1つだけ腑に落ちない事がある。何で湖晴はその玉虫先生からの指示を『使命』と言っていたんだ?新興宗教の1つだろうか。そうなると、玉虫先生は教祖か?・・・・・あまり想像出来ないな。


「神降臨!」

「いえいえ、別にそこまで凄い事でもないですよ。他にも飛び級している人は沢山いましたし」

「それでも充分凄い事だろそれは。俺じゃあそんな事絶対にできねえよ」

「それ以前に、次元は入学出来ないでしょ」

「・・・・・確かにそうだが・・・」


 俺が湖晴を純粋に褒めていたのに、音穏が余計な茶々を入れてくる。音穏の言った事は確かにその通りだが、俺が言ったのは『難関校に入学後、飛び級する程勉強する』と言う事を真似出来ないと言う事だけだ。決して、俺が入学するとかしないとかそう言う話ではないのだ。


「は、ははは・・・・・」


 何でだろう。今、湖晴が悲しそうに愛想笑いをしていた様な気がする。気のせいか?


 その数秒後、湖晴がその何か物悲しそうな表情を解除して、唐突に何かを思い出した様で大声を出した。


「あ!」

「ん?どうしたの湖晴ちゃん」

「珠洲さんにお夕飯の買い物頼まれてるんでした・・・・・」

「行って来い。珠洲を起こらせると怖いぞ?荷物は俺が持って行っておいてやるから」


 それにしても珠洲も珠洲で人使いが荒いな。今朝来たばかりの謎居候白衣少女にお使いを頼むなんて。もしかして、まだ珠洲は居候反対派なのだろうか。それもそうかもしれない。珠洲は基本的には友達以外の女子の事を毛嫌いする傾向にあるからな。この事は既に音穏との絡みで証明され・・・


 ドスッ!


 そんな時、俺の腹部に強烈な痛みが走った。横を見てみると、明らかに怒っている音穏がそこにいた。どうやら音穏が今の格闘技の犯人の様だ。


「そこは次元が行く所でしょ!」

「何故だ!?何故俺は腹にエルボー喰らった上に怒られているんだ!?」


 何故か音穏に物凄く怒られてしまった。しかも、強烈なエルボーのオマケ付きで。


「お2人共、別に大丈夫ですよ。私が頼まれた事ですし」

「そう?でも、次元はこう言う時にこき使っとかないと・・・」

「音穏。ちょっと待て。ついさっきも思っていた事だが、最近俺の扱いが雑くなってるぞ」

「そんな事無いよ。前からだよ」

「・・・・・」


 音穏って前からこんなに俺の扱いが雑かったか?もしかして、音穏の過去をタイム・イーターで過去改変した時に何か影響が出てしまったのではないだろうか。そうなのなら、他にも影響が出ていないか心配だ。


「いえ、大丈夫です。今からちょっと行って来ますので。次元さん、この紙袋を部屋に持って行っておいて頂けますか?」

「ああ。分かった」

「では!」


 そう言って、湖晴は大急ぎで走って買い物に行った。おそらく、駅前のスーパーとかその辺だろう。珠洲はいつもそこに行っているし、珠洲に頼まれたと言う事は場所も指定されている事だろう。珠洲はどちらかと言うと、味よりも栄養にうるさいからな。何故か昔から。


 湖晴を見送った後、捻挫で上手く歩けない音穏(杖を突けば大丈夫だが、突いていない)を家まで送り届け、俺は1人で家に帰った。もちろんの事だが珠洲はまだクラブ、湖晴は買い物で家には誰もいなかった。


 俺は自分の部屋に戻ったものの、ある事を決め忘れているのに気付いた。


「この紙袋、何処に置いたら良いんだ?」


 そう。今朝から色々とあったのですっかり忘れていたが、居候する事になった湖晴の部屋を決めるのを完全に忘れていたのだ。なので、湖晴から預かったロボットのパーツが大量に入っている紙袋を置いておく場所が分からない。どうしたものか。


 俺はしばらく考え込んだ後『取り合えず、珠洲と湖晴が帰ってきてからこの事を決めれば良い』と言う結論に達し、その紙袋は俺の部屋の隅に置いておく事にした。


 俺は通学用のバッグを適当に放り投げ、ベッドの上に寝転んだ。この行動にはちゃんと意味がある。単純に今日は疲れたのでもう寝たい、と思っていたのも理由の1つだが、本当の所は『今日起きた出来事を整理する』為に集中しようと考えているのだ。


 まず1つ目だ。今も考えていた事だが『湖晴の居候』の件だ。俺も珠洲も今朝はその場の流れと雰囲気で湖晴の居候を許してしまったが、本当にこれで良かったのだろうか。


 湖晴が俺の所に来た理由、それは決して他に当てが無かったなんて事ではないはずだ。もし、本当に別にあてが無くても、ロボットのパーツを買えるような金が有るなら何処かアパートでもホテルでも借りる事は出来るからだ。


 即ち、ここまでで導き出せる答えは1つしかない。湖晴は俺に『過去改変を続けさせるつもり』だ。確かに俺は湖晴には借りがある。俺のたった1人の幼馴染みの音穏の人生を救済する為の機会をくれたからな。


 だが、それはそれ、これはこれだ。俺は平凡主義者。何事も平凡・普通・平均的である事を理想とする人種なのだ。それなのに、タイム・トラベルはおろか過去改変だなんて非日常過ぎて手に負えない。全くもって俺の管轄外だ。


 でも、この事についてはこれ以上考えても答えが出る事は無いだろう。湖晴の居候は既に決定した事だ。それに、湖晴が困っているなら俺は嫌々でも結局手伝ってしまうだろう。


 俺は基本的に極力省エネで生活したいのだが、どうしても困っている人を見かけると助けたくなってしまう。別に漫画やアニメの主人公になりたい訳じゃない。俺の無意識の内に『気付いた時にはそうなっている』のだ。


 次に2つ目だ。俺が学校にいる時にスマホからログインした掲示板上に現れた『Phosphorus』についてだ。結局あいつは何だったのか。何を伝えたかったのか。全く分からないまま会話が終わってしまった。


 俺が適当に納得したふりをしたせいもあるとは思うが、それでも少し情報不足だ。取り合えず分かっている事は『俺と面識がある』『俺の名前を知っている』『その内出会う』『何かを知っている』『多分女もしくはオカマ』くらいか。


 ・・・・・やはり、情報不足だな。5つも情報があって充実してそうなものだが、それぞれが大雑把な情報の為、全く具体的ではない。これも考えるのは諦めよう。


 結局、湖晴の件も『Phosphorus』の件も特に進展がないまま思考する事を諦めた俺は、そのまま深い眠りに落ちた。


 数10分後。


「・・・・・さん。次元さん、起きて下さい」


 俺を呼ぶ声が微かに聞こえ、俺は目が覚めた。


 その声は買い物から帰って来たらしい湖晴だった。買って来た物は冷蔵庫に入れたのだろうか。


 それはともかく、何か俺に話がある様で俺を起こしに来た様だが、その起こし方が非常に不味い事になっていた。


「どう言う格好で起こそうとしてるんだ、湖晴は」

「・・・・・?何かおかしかったですか?そんな事よりも大事なお話が・・・」


 可愛らしく首を傾げられながら自身のしている事に全く恥じらいを感じる事無く、次々と話を進めようとしている湖晴だが、俺はそんな訳にはいかない。このままでは俺の理性が崩壊してしまう恐れがあるので、一応解説して精神状態を落ち着ける事にする。


 湖晴は俺の上に跨っている。これだけ聞けばまだなんともないが、問題はこの次からだ。俺は仰向けで寝ていて、湖晴はコスプレ(白衣)ミニスカ。どうだろう、お分かり頂けただろうか。俺が今置かれている状況の卑猥さが。


「次元さん、どうしたんですか。取り合えず私の話を・・・」

「どうするもこうするも。まず湖晴、俺の上からどいてくれ」

「・・・・・重かったですか?」

「いやそうじゃなくて。ほら、話を聞くにも寝ながらじゃなくて座って聞いた方が良いだろ?」

「それもそうですね。分かりました」


 俺はなるべく言葉の表現をオブラートに包んで、湖晴を説得する事に成功した。湖晴は俺の上に跨っている状態を解除し、俺のベッドに座った。俺も体を起こしその隣に腰掛けた。


「で?話って何だ?」

「はい。実は・・・・・」


 今から湖晴がしようとしている話は大体予測出来ていたが、俺は聞き直した。そして、湖晴は言う。次の改変作業の為に。


「お買い物の最中にタイム・イーターからの通知がありました。次の過去改変対象者です」


 こうして、再び俺と湖晴の過去改変物語は始まる。

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