第03部
【2023年09月23日11時16分27秒】
「お、おお・・・・・」
音穏の指示を受けた栄長によってゆっくりと開け放たれた試着室の中から出て来たのは、いつもの白衣姿ではない、年頃の女の子らしいお洒落な服装をした湖晴だった。
白衣を着ている時でも充分に映える外見ではあったが、音穏と栄長による服のチョイスも良かったのか、その容姿が更に美しく見えた気がした。
今の湖晴の外見の細かい感想の前に、一言だけ俺は呟いた。
「綺麗だ・・・・・」
「そ、そうですか・・・・・?」
「良かったね!湖晴ちゃん!」
「は、はい。少し、恥ずかしいですけど・・・・・」
普段着ない服を着たからなのか、音穏に褒められたからなのか、湖晴は少しだけ頬を赤らめて恥ずかしがった。俺の隣にいる音穏と栄長も、そんな湖晴の姿を見て微笑んでいた。
さて、ここからは俺の個人的な感想になるが、今の湖晴の服装を一箇所ずつ評価して行きたいと思う。
まず始めに、髪型だろうか。本来、湖晴は青色の長髪で特に髪飾りをしたりして、お洒落をしていない。だが、今は違った。その長い髪を何箇所か紐で括っている。ポニーテールとかツインテールとかとは異なり、その言葉通りの意味で髪の何箇所かを括っているのだ。うん、これはこれでありだな。
更に頭の上に、何と言う名前なのかは知らないがさり気無く帽子が乗せられている。以前、テレビを見ていた時にこんな感じの帽子を被っているモデルか誰かがいた気がする。
いや、帽子とは言っても、野球帽とかシルクハットとかあの様な系統の物では無いと言う事はお分かり頂けているだろう。大きくもなく小さくもなく。まあ、その帽子の本来の概要は女の子のお洒落用なのだと思うので、全く機能性は無さそうだが。
次に服装だな。どうしても普段着ている白衣を思い出してしまうが、それは置いておこう。今の湖晴は様々な文字や柄が付いているシャツを中に着て、その上に音穏とは異なるイメージの上着を1枚羽織っている。この上着はそんなに分厚い物ではなく、むしろ薄手の軽そうな上着の事を指す。
しかも、着方のせいなのか服の組み合わせがそう見せているのか、湖晴の持つその豊満な胸が普段より更に強調されている。先週見た水着姿の時にも思っていたが、こう見ると改めて湖晴の胸が大きいと言う事が良く分かる。うーん、今朝ここに来る前に家の前で湖晴の胸を揉みまくっていた音穏や栄長が羨ましい。まあ、そんな事したら普通に捕まるので、勿論しないが。
全体的に、普段の湖晴の白衣姿とは大きく異なり、ややロックな印象を受けるが、今の湖晴の恥らう姿とその格好のギャップが逆に上手く作用している様に思える。
最後に、スカートか。おそらく、服をチョイスした音穏と栄長がスカートが好きなだけなのかもしれないが、今湖晴が履いているスカートもかなり短い。普段の湖晴も『白衣(中にシャツ)+ミニスカ』と言う格好だったが、その時と同じくらいに短い気がする。もしかすると、俺は太股フェチに目覚めてしまったのかもしれないな。
だが、そんな事は恥じない。目の前にある美しい物を見続ける。それが、人物だろうが人物ではなかろうが関係無い。美しいから、好きだから。ただそれだけの理由で見続けるのだ。何を恥じる事があるだろうか。
「似合っているんじゃないか・・・・・?」
「あ、ありがとうございます」
俺が素直に一言、目の前でただひたすら恥らう湖晴を褒めた。すると、湖晴は更に顔を赤く染めて、その後、俯いてしまった。
湖晴がお洒落をした姿、と言う物はかなり目新しい物ではある。だがしかし、それ以上に湖晴がこんなにも恥じる事が出来るとは思ってもいなかった。今まで俺は、湖晴は一部の感情が欠落していると思っていたのだが、実際にはそうではなかった。湖晴も1人の女の子なのだ。
俺はただ、その事に気付けた事に喜びを感じると共に、少しだけ驚いていた。
俺が湖晴の姿を見ていると、隣にいる音穏に肘で突かれた。俺が音穏の方を向くと、そのまま音穏に話し掛けられる。
「ほらほら~。そんなに見つめちゃって~」
「い、いや、そんな事は・・・・・」
「あら、次元君~?素直になった方が良いよ~?湖晴ちゃんの事が可愛いと思うなら、正直に『可愛い』って言えば良いんだよ~?」
「は・・・・・は!?」
突然、栄長にそんな風に言われ、思わず俺は動揺してしてしまった。と言うか、急にそんな事言われても、本人の前で言える訳ないじゃないか!そう言う事は心の声だから、恥ずかしがる事無く言えるんだよ!
取り合えず、この局面を打開しなければ!
「じゃ、じゃあ、3人共会計を済ませて来たらどうだ?俺は先に店の外で待ってるから!」
「あ、次元・・・・・逃げた」
「やっぱり次元君はヘタレだったか」
「次元さん・・・・・」
俺は自身の台詞を言い終わると同時に、3人の元から走り去った。本音を言う事を強要される事程恥ずかしい事は無いのだ。言いたい時が出来たら自分で言うさ。それくらい。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
さて、湖晴の服や音穏と栄長の買い物の会計も済んだのでようやく帰る事が出来る。俺達は先程の服屋から出、帰宅前に少し早いが適当に昼飯を食いに行く為に、ショッピングモール内を歩いていた。
湖晴は上も下も帽子も買っていたので、相当なお値段になっており、俺や音穏が少しくらいなら金を貸すと言ったのだが、湖晴はそれを拒んだ。と言うか、そもそも金を借りる必要は無かったみたいだった。
湖晴の財布が会計の時に一瞬開いた時にその中をこっそり見てみたらかなりの枚数のお札が入っているのが確認出来たし。両親がいないはずなのに、どうやってあんなに持っているんだか。その前にそんなに大金を持ち歩いていたら色々と危ないだろ。
まあ、そんな感じな事を考えつつ、俺は隣に立つ音穏にこそこそと話し掛けた。ここで俺がこそこそと話しているのは、その会話の内容を後ろにいるはずの湖晴にあまり聞かれたくないからだ。
「いやー、それにしても中々良かったなー」
「それは私達じゃなくて湖晴ちゃんに言うべきでしょ?」
「そうかもしれんが・・・・・本人には直接は言い難いものなんだよ」
「もう、仕方ないなー。でも、家に帰ったら1回くらいは褒めてあげてね?」
「努力します」
女の子の服にはあまり詳しくない俺だが、それでも音穏と栄長の服のチョイスは完璧だったと思う。湖晴の元々の容姿の良い所を全て引き出せていたし。
ちなみに湖晴は先程試着していた服をそのまま着て帰る事になった。それを選んだ音穏と栄長達自身もかなり気に入っていたみたいだしな。
それに、それ以外にも湖晴は音穏と栄長に選んで貰い、色々と新たな服を購入していた。音穏と栄長も自分達の服等を買えたみたいで皆満足している様子だった。
・・・・・余談になるが、ここまで俺は平静を装って状況説明をしている。だがしかし、無論、荷物持ちをしているのだ。せっかく男が女の子3人と一緒に1人だけこんな所まで来ているのだから、これくらいはしないとな。
時刻も正午に近付き、徐々に俺達以外の客が増えて来たショッピングモール。そんな中、俺は背後にいるはずの湖晴に話し掛ける為に後ろを向いた。
しかし・・・・・、
「あれ?湖晴は?」
「湖晴ちゃん?あ、本当だ。何処行っちゃったんだろ」
そこには湖晴の姿は無かった。恥ずかしくて何処かに行ってしまったのだろうか。それともトイレだろうか?だが、そうなら一言言って行くはずだしな。
そこで俺は、先程からずっとスマートフォンを眺めながら歩いている栄長に湖晴の行方を聞いてみた。
「栄長。湖晴が何処に行ったか分かるか?」
「え?いや、私さっきからメールしたから分からないけど、多分トイレじゃない?」
「そうか・・・・・」
栄長のメールの相手はおそらく蒲生だろうが、ここではあえて聞かないでおく。
さて、どうしたものか。湖晴の性格からして、何も言わずに俺達の元を離れる事はないはず。人混みと言う人混みもまだ出来ていない為、人に埋もれてはぐれた訳でもないだろう。つまり・・・・・、
「・・・・・音穏と栄長はちょっとここで待っててくれ」
「?次元何処か行くの?」
「俺もトイレ行って来る」
「あ、そう」
「湖晴が帰って来たら連絡してくれ」
「了解~」
俺は3人から預かっていた大量の買い物袋を近くにあったベンチに適当に下ろし、その後走り始めた。
一応、念の為に言っておくが、俺は別に急にトイレに行きたくなった訳ではない。突然行方を眩ましてしまった湖晴を探しに行く為に、2人にあんな台詞を言ってこうして走り始めたのだ。
さっきの店を出てからここまで約5分。その間、音穏達によってお洒落をさせられた湖晴は、かなり周囲の視線を集めていた。主に男性から。だから、もしかすると・・・・・もしかするかもしれない。
何かあったら、これは俺の責任だな。俺が無駄に恥ずかしがったが為に、湖晴の隣から離れたから、湖晴は行方が分からなくなったのだ。
別に、栄長の言う通り、ただ単純にトイレに行っただけなら何も問題は無い。だが、そうではなかったらどうする?湖晴が普段首から提げているタイム・イーターは、着替えの際に音穏達によって取られてしまった。そして、ついさっきも俺が持っていた買い物袋の中に入っていた。
更に、湖晴は今白衣を着ていない。つまり、いつも白衣のポケットの中に入っているらしい様々な薬品や凶器を使用して、迫り来る不審者を撃退する事も出来ない。勿論、今さっき述べた通りタイム・イーターも無いので時間停止も出来ない。
つまり、湖晴は今、完全無防備な17歳の女の子なのだ。
俺はショッピングモール内を駆け周り、湖晴を探した。そして、先程の店の近くにあるアクセサリーショップを見掛けた、その時だった。
「おい、ねーちゃん。少しワシらと遊ばんかぁ?」
「ねーちゃん1人かぁ?だったら、別にええよなぁ?」
「え、えっと・・・・・」
そこで俺は、何処からどう見ても不良の数人に絡まれている湖晴を発見した。おそらく、歩いている最中にそこにあるアクセサリーショップのショーケースの中身が気になり、それを見ていると俺達とはぐれてしまった、と言った所だろうか。やはり、普段と色々と違うので湖晴の行動が少し変になっている。
だが、ちょっと待て。今はそんな事はどうでも良い。湖晴が俺達からはぐれた原因なんてどうでも良いんだ。それよりも大事な事が俺の目の前にあるだろ。
俺はその不良共数人に絡まれて、ややオドオドしてしまっている湖晴を助ける為にその現場へと歩いていった。策は無かった。
「それにしても、ねーちゃん。ええ体しとるやんけ」
「少しでええから、俺達と来てくれや。何も変な事はせえへんから」
そんな台詞と同時に不良の1人が湖晴の手首を掴もうと手を伸ばした。いや、もしかすると湖晴の体に触れようとしていたのかもしれない。その光景を見た瞬間、俺の中で何かがブチ切れた。
「おい。『俺の彼女』に触ろうとしてるんじゃねえぞ。クズが!」
俺はその不良の腕を強引に逆方向に曲げつつ、そんな台詞を言った。