台風とツキノワグマのそう太(12)
その夜の夢にはそう太が出てきた。
そこはどこか広い草原の真ん中だった。見渡す限りの緑色の短い草は風にさらさらとそよぎ、空には四つの太陽がそれぞれぼんやりとした淡い光を放っていた。羊とヤギが並んで、私の前を横切っていった。その後ろを一輪車に乗った少女がふらふらとついていく。
そこは森の中じゃなかった。そこはどこか知らない、私の想像の中にしかない秘密の場所だった。
「君にもう会えないのは寂しいよ」
いつの間にか目の前にはツキノワグマが立っていた。
ほんの少し茶の混じった黒っぽい毛並みの、胸の辺りだけがちょうど三日月を横に寝せたように白くなっている。私は彼の名前を呼んだ。
「そう太。生きていたの?」
そう太はその大きな首を、ゆっくりと左右に振った。
彼に言わなきゃいけないことがあったはずなんだけど、夢の中の私にはどうしてもその言葉を思い出すことができなかった。
そう太の口がゆっくりと開いた。口の間からは短い牙が見え、その上下の牙と牙の間にはよだれが糸を引いている。
ひょっとして私を食べてしまう気かしら? そう感じた私は一瞬身構えるけど、もちろんそんなことはなかった。そう太は臆病で、優しい熊なのだ。
そう太の口は何か言っているようにいろんな形に動いていたけど、まるでパントマイムのように、その声が私の耳に届くことはなかった。
「なに? 何て言ったの?」
そう太は私の声を聞いたのか聞いていないのか、にっこりと笑うと、すぅっと薄くなって消えてしまった。
「そう太、待ってよそう太!」




