言い訳は、「夜空の星を見たかったから」
胸の中に積もった今日は
あまりに重すぎた
窓の外では
誰かの部屋の灯りが
ひとつ
またひとつと消えていく
まるで世界が
静かにログアウトしていくみたいに
取り残された僕だけが
暗い天井に浮かぶ
名前のない不安を眺めている
明日になれば
ちゃんと笑えるかもしれない
でもその「かもしれない」が
今夜はやけに遠かった
だから鍵を回した
自転車を押して
眠った住宅街へ出る
誰にも会わないために
誰かに見つけてほしいみたいな顔で
ペダルを踏む
一回
もう一回
心臓の代わりに
音を上げてくれ
不安とか
悩みとか
言葉にした途端
安っぽくなりそうな苛立ちとか
そういうもの全部を
後ろの荷台に積んだまま
走っている気がしている
光
影
光
影
街灯の下を通るたび
影が伸びて縮んでまた消える
進んでいるのか
同じ場所を回っているだけなのか
わからないまま
それでもタイヤだけは
確かに前へ転がって見えるから
おそらく進んでいた
宛てもない
反抗心に
言い訳を充てるのなら
「夜空の星を見たかったから」と
応えておこう
なぜだろう
それだけで少し安心する
誰も僕を知らない
僕も誰も知らない
それなのに
孤独だけが
妙に親しい顔をして隣を走っている
信号が赤になる
止まった瞬間
胸の奥から
見ないふりをしていた無いもの強請りたちが
一斉にこちらを向く
そうは言ったても
未来はまだ曖昧で
夢は輪郭ばかりで
自信なんて
最初から持ち合わせていない
それでも
諦めるには少し早くて
期待するには少し疲れている
そんな年齢の真ん中で
僕は
上手くいく呼吸を今探している
青になった信号が
続けろとでも言うみたいに光った
だからまた走る
夜を切り裂いて
誰の地図にも載らない道を
誰の正解にも属さない速度で
走る
走る
走る
宛てもない
反抗心に
言い訳を充てるのなら
「夜空の星を見たかったから」と
これぐらいで
済ませておこう
やがて街の輪郭が薄くなり
空だけが広がった場所で
ふと顔を上げた
そこには
消えそうなくらい小さな星が
ひとつだけ浮かんでいた
何億年も前の光なのに
今の僕を照らしている
それが少し可笑しくて
たくさん泣きたくなる
嗚呼
世界は案外
優しくなんてないけれど
完全に見捨ててもいないんだな
そう思う




