プロットアーマー
「やれやれ。このキャラの良さが分からないなんて、やっぱり素人は駄目だな」
作者の男は口元に歪んだ笑みを浮かべながら、下手くそな字を流し見た。
男のそばには彼あてのファンレターがどっさり積まれている。目を通していたのはその中の一枚だ。
「最近、ファンレターの内容がだんだん過激になってきてるんだよな……。あのキャラは存在が不快だとか、あのシーンで死なないなんておかしいとか」
読み終わったファンレターをその山に戻すと、やれやれと肩をすくめんばかりの表情を浮かべる。
「まったくこれだから読者は。俺は作者なんだぞ。つまり作品の世界の神ということだ」
くっくっ……と我慢できなかったように笑い声を漏らし。
「俺のお気に入りなんだぞ。殺すわけないだろ! どんなピンチだって死神の手をすり抜けるのさ! ……まあ代わりに死んでもらったキャラはいるが、しかたない。たしかに死人が出ないと不自然なほどのシーンだったし、仲間との死別は物語のスパイスとして有効だからな」
男は一人のキャラクターの設定が書かれた紙を手でつまみあげる。しばらくじっと見つめたものの、やがてもう片方の手でピンとはじいた。もはや用済みだ。
「大して人気もなかったし、ちょうど良い退場シーンだ。最後に活躍の機会があったことを感謝してほしいくらいだぜ」
そう悦に入っていたその時、玄関のドアがコンコンとノックされる。原稿を取りに来た編集者かと思ったが、今日は締め切りにはほど遠い。
「誰だろう。こんな時間に。……はいはい、今開けますよ」
しつこく鳴らされるノックに辟易しながらも、作者の男は椅子から立ち上がって玄関へと向かった。
鍵を開け、ドアを開けると。
そこに立っていたのは、目深にフードを被った見るからに怪しげな人物だった。
「な、なんだお前は!?」
慌てる男の前で、フードの人物は懐からあるものを取り出す。
「……!? ま、待て! 話せば分か……ぐげっ!!」
勢いよく突進してきたフードの人物と一瞬交差した作者の男は、悲鳴をあげながらひっくり返った。
胸に鋭利な刃物が突き刺さっている。明らかに即死であった。
「お前がいけないんだ……あの子を殺すなんて! これはその報いなんだよ!」
フードの殺人者はそう吐き捨てると、足早にその場を立ち去った。
作者の生み出したキャラクターはプロットアーマーによって守られていたが、作者自身はプロットアーマーに守られていなかったのだ。
いや、もしかしたら作者の死そのものが、何者かの書いたプロット通りの展開だったのかもしれない……。




