弱点
一枚の葉っぱによって返り血を浴びることが出来なかった戦士!
くるぶしまで川に浸かれなかった英雄!
財宝が貼りつかずに柔らかい胸をさらしている赤竜!
人間どもの間に伝わる伝承を聞くたび、思うのだ。
なぜ弱点をいつまでもそのままにしておくのか、と。
俺も人間どもと戦うようになってずいぶん経つ。
ということは、俺のデータが奴らの中に蓄積されているということだ。
俺の弱点は頭の両側から生えている二本の角。
この角は人間にとっての魔法の杖のようなもので、もし一本折られてしまったら魔法が一切使えなくなってしまう。
もし二本とも折られてしまったら、魔力がコントロールできなくなって俺は暴走する魔力に体が引きちぎられてしまうのだ。
ある時期から、明らかに人間どもが俺の角を狙うようになってきた。きっと魔力の流れを見て、角の機能に気づいたのだろう。
そこで俺はしばらく引きこもり、角を鍛えることにしたのさ。
その甲斐あって、俺の角はそんじょそこらの剣や魔法で折られないくらいの強度を得た!
今日は久しぶりに人間どもの世界に降りるつもりだ。
何十年ぶりだろうな。殺戮の宴を始めるぞ!
ああ。
やっぱり楽しいナア。
人間どもをいたぶり殺すのは!
……などと楽しんでいるところに限って邪魔が入る。
好事魔多し、とは人間もうまいことを言ったものだ。
まあ魔ってのは悪魔の俺のことかもしれんがな!
……おっといかんいかん。戦いに集中せねば。
やって来たのは一人の魔女。お前も魔のつく者か。
そら見ろ。予想通り、俺の弱点めがけて攻撃を仕掛けてきた。
女が魔法で生み出した風の刃が、見事に俺の角に命中する。
ふん、素晴らしいコントロールだ。だがな!
「馬鹿め! 弱点をいつまでも放置しておくと思うか?」
嘲笑と共に俺は両手に魔力を集め、赤黒い光の渦を生み出す。
さあさあ恐怖しろ。
人間……特に女の泣き叫ぶ声こそが、俺にとって最高のスパイスなのだ!
「じゃあ丸ごと吹き飛ばすわ」
「えっ?」
泣いても叫んでもいない女が魔力によって生み出した青白い光の玉は、俺のものより遥かに大きい。
「周囲の地形まで変えてしまうからあまり使いたくなかったの……塵すら残らないかもしれないけど、悪く思わないでね」
「えっ? えっ? えっ?」
悪魔が引きこもって弱点を鍛えていた間に、人間たちの魔法は大いなる発展を遂げていたのである。
短所を補うよりも、長所を伸ばすべきだというのが今回の教訓であろう。
もっとも、もはやその教訓を活かすことは出来ないが。




