竜王の牙
ついに竜王は勇者によって討たれた。
戦いを終えてこの地を去った勇者は、最後にこう言い残したという。
もし新たな脅威がこの国を襲ったら、この竜王の牙をすべて大地に撒きなさい。
竜王の力を宿す竜牙兵がいくつも生まれ、あなたたちを守ってくれるでしょう。
◇◆◇◆◇
かつて自分が救った国が、新たに押し寄せたモンスターの軍勢によって攻め滅ぼされた。
風の噂でそのことを耳にした勇者は、胸を痛めると同時に心底驚いた。驚いた理由はもちろん、自分が残してきた竜王の牙と、それにまつわる竜牙兵のことを覚えていたからである。
竜牙兵とは竜の牙から生まれる骸骨の姿をした兵士のこと。左右の手に剣と盾を持ち、熟練の戦士と互角の働きが出来ると言われている。
そして竜王の牙から生まれる特殊な竜牙兵は、その実力も並の竜牙兵を遥かに凌駕する。
その力をもってしても、モンスターの軍勢を防ぐことは出来なかったのかと戦慄し、勇者は再び剣を取ることを決意した。もう実戦から退いてかなり経っていたが、彼にとってそんなことは関係なかった。
ひょっとしたら生き残りがいるかもしれない。かの地を訪れて出来得る限りのことをしなくては。
その一心で、勇者はふたたび戦場の人となったのである。
勇者が新たに旅立って十日ほどが経った頃。
滅びた国の国境だった場所を通り過ぎ、勇者は想定と違う目の前の状況を訝しんだ。
もはや中年となった今の自分は全盛期には程遠いゆえ、つらい戦いになることを覚悟していたのだが、国にはびこるモンスターたちは過去に見慣れた相手ばかりで、大して苦戦もしない。
竜王の力を宿す竜牙兵なら、それこそ守るどころか逆にこれらのモンスターたちを殲滅できるはずだが……。
やがて壊滅した首都に辿り着いた勇者。
休息するために入った、ある建物の内部にて、勇者は壁を見て絶句する。
【国宝:竜王の牙】と書かれたパネルと共に、いくつもの美しい牙がガラスケースに納められ展示されていたのだ。
かつて博物館と呼ばれていたその建物から出てきた勇者は、脱力と共に瓦礫の上に座り込み、ため息をついた。




